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顧客リスト№70 『レオナールのコンサートダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌④終

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ネルサ、急に何を言い出すと思ったら……レッスン参加!? なんで!?


「興味ありそ~だったし、アイドル体験的な★ どおどお?」


うっ…! た、確かに気にはなってたけれど…! 返答に迷ってしまっていると、彼女は間髪入れず。


「しゃちょ~はど~お?」

「面白そ~! お邪魔しま~す☆」


って社長、ストレッチ始めたし!? で、でも私達が参加したら邪魔に思われて……皆さん受け入れてくださってる!? い、良いの!?


「ならアタシ達も軽く参加しようかしら!」
「そうしましょうか。ふふっ♪」


waRosウォーソのお二人まで! え、じゃ、じゃあ……!


「決まり~ぃ♪ さぁさ、スーツじゃ動きにくいしお着替えしよしよ~★ あーしのレッスン服貸したげる★ やっぱ汗かく時は魔法服よりもそっちよね★ しゃちょ~の分は~」

「私はこのままで良いわ。あでも、折角だし魔法服被せて貰おうかしら!」

「お★ さすしゃちょ~ノッリノリ★ まっかせて、べぜたんにも認められるあーしの衣装魔法、見るがいい~♪」


皆に見送られ、ネルサに背を押され、社長やwaRosと共に更衣室へと連れてかれるぅ……! 緊張してるの私だけ…!? せ、せめて迷惑かけないようについていかないと!  








「――1、2、3、4・2、2、3、4・ステップクラップステップステップ・ターン~体幹注意ぃ~3、4、ストップ!」

「「「わっとっと……!」」」

「んふ、さっきより良くなってってるわぁ。その調子で練習ねぇ」


一区切りついたところで、トレーナーさんから寸評が。まずはちょっと失敗してしまった子達へ。次は上手くこなした子達へ順に。そして――。


「リアちゃんサラちゃん、ライブ直後だってのに気合ムンムンじゃあないの! 動きはモウマンタイ、バッチグーよ! けど、疲れたらすぐ休憩入ってねぇ?」


waRosを労わるように。更にグーサインを出したまま――。


「すんばらしいわネルサPちゃん♪ 隙あらばファンサ欠かさないわねぇ。パーペキよパーペキ♪」

「にっひっひ★ 頑張っちった♪」


ネルサのグーサインとぶつけ合う! うん、まさにさすねるだった! waRosや他アイドルに囲まれ踊る姿はまるでさっきのコンサートの続きかと見紛うほど!


おかげでつい見惚れちゃって、自分の動きが疎かになりそうだったもの! でも、堪えて頑張った! 私にはどんな寸評が……へ? トレーナーさん凄く真剣な表情で…? だ、駄目だった?


「…アストちゃん、本当にこういうの初めて? キレッキレよアータ! びっくりしちゃったわ! やだちょっとセクハラになっちゃうんだけど、腕とか脚とか触らせて貰えたりする?」

「えっ、あ、は、はい…!」

「あんら快諾ありがとね♡ じゃあ失礼して…おほほやっぱり! しなやかで太すぎず、それでいて力強さも秘めている理想的な筋肉! もしかして毎日特別なトレーニングしてたり??」

「あっすんは毎日のように色んなダンジョン行ってるもんね~★ すっごい過酷なトコもあるって聞いたし★」


トレーナーさんの鼻息の荒振りように目をぱちくりさせてると、ネルサが助け船を出してくれた。まあ魔法使っているとはいえ、確かにトレーニングにはなってるかも。幾つか行った場所を説明させて頂くと――。


「それはおったまげ! けれど納得できちゃうわぁ! ……でもここまで綺麗につくなんて、更に他のことしてそうよね…あいやだ私ったら!」


と、仰られても。あとは日頃のヨガだったり……あぁ、ふふっ。肝心なのを言ってなかった!


「社長主導のミミック訓練にたまに付き合っているから、ですかね!」


あの鍛錬は歴戦のミミック達でさえ悲鳴を上げる、効果は最高なトレーニング! そのおかげに違いない! ――と、それを聞いたトレーナーさんは何故か顔を深刻なものにして…!?


「ということは……。ごめんなさいねアストちゃん、私、ミミックに教えた経験無いからわからないのだけど……皆、あんな動き出来るものなのかしら???」


そしてチラリと見やった先は……今しがたの回答、ちょっと言葉が足りなかったかも。だってあれは――。


「わん、つー、さん、しー☆ すてっぷくらっぷすてっぷすてっぷ☆ た~~~~~~ん、じゃんっ☆」

「「「「「おおお~っ!!」」」」」


今しがたのダンスを、箱内側を上手く蹴り操りつつ行うことで、まるで勝手に軽快なタップを刻む宝箱の上で華麗に舞う少女を演出してみせている……それも心奪われているアイドル達へのファンサすらこなしてみせている彼女は。


最後に宝箱をコンと強く蹴りつけ、宝箱は角一点で高速回転、本人もまた空中へ飛び上がり丸まった形でくるくるくる。そして突然ずさぁっと動きを止めた宝箱へ垂直落下、すぽっと腰から入り足を投げ出し、ウインクと両手ハートポーズ、更には触手で背景に多重ハートすら描いてみせる社長は――。


「特別ですから。我が社のミミックならまだ出来る子もいるかもしれませんが、普通のミミックでは…」


…あんな曲芸みたいな動きは無理に違いない。トレーナーさんは合点がいったというように両膝を叩き、感動を湛えた拍手を。


「ミミン社長ちゃんには私から言えることなんてないわ。寧ろ師事させて欲しいぐらいよ! ブラボー!!」

「お褒めに預かり光栄で~す! アイドルな動きじゃなかったですけどね☆」

「いやそれより断然スゴいっしょ~★ もっと見たいもん♪」

「じゃあアンコールに応えて! でも折角だから二人でそれっぽく決めてみせましょうか、アスト!」

「へっっ!?!?」


急に呼ばれた!? 次には社長とバチッと目が合い――えっ、えっ、えっ!? そ、そんな!?


「みーみーっくっ! そーれっ!」


それ訓練の時の掛け声ですよね!? と突っ込む暇もなく突撃してきた社長は、その勢いで私の股下潜りを! それを追いかけ覗き込むと、既に私の尾をくるんと掴んで。もう、わかりましたよっと!


私はそのまま前屈のような姿勢で、お尻へ振り返りつつ尻尾をひょいっと振り上げる! すると社長は釣り上げられる形でふわりと宙を舞い、私の背中にぽすんっとポーズを決めて着地。こちらもそれに合わせ、片足立ちで腕を広げて台座に。


「ふぁいおふぁいお! ふぁいおー!」


その体勢を数秒も維持しない内に、社長は私の腕を転がり降りて床へと戻り、私の周りを飛び跳ねつつくるくる。姿勢を戻した私はこれまた追いかけるように、絡んでくる社長を躱すように、彼女と同じく1、2、3、4・2、2、3、4!


「あんら! これって…!」


そうです、これはさっきまでレッスンを受けていたステップクラップステップステップです! ということはこの先は――えいっ!


「おわおっ★ ナイスキック★」


ステップ最後で丁度爪先に乗ってきた社長を軽く蹴り上げ、空中に! そして両手を取り合い社交ダンスを踊るようにひとターン、そのまま片手だけ放してまるで大輪の花を描くように更にターン! そして~~~じゃんっ☆


「「「「「おおおおお~っ!!」」」」」


どうでしょう! 私は両腕を折り曲げ、自らの顔を大きく挟むように上下に。下にした腕だけ、横に突出させて。そして社長はその下の腕にぴったり乗っかって! 傍から見たら超絶バランスだけど、社長のおかげで凄く安定している!


そして互いの両手で、それぞれミミックの『M』マークとハートマークを象って! 顔を寄せ合い、鏡のように揃ってウインクを――――ふうっ!


「ふふっ、よく目配せだけで理解してくれたわね!」

「本当ですよ! 急にやってくるんですから!」


歓声が止み一段落したところで、いつもの抱っこの形に。満面の笑みを浮かべる社長へちょっと頬を膨らまして返していると、ネルサが拍手しながら。


「最っ高のコンビネーション過ぎっしょ~★ もしかして似たダンスとか特訓にあったり?」


「いいえ、アストが察してくれたのよ!」
「察したというより、社長の誘導に引っ張られた形ですけどね」


宴席でちょっと踊ることはあるけれど、こんなダンスは一度もやったことはない。無論、ミミック訓練でも。だから要はこれ、完全に――。


「うっそん即興ってコト!? ね、ねね。ちょっとネルサPちゃん……!」


ん? トレーナーさんが興奮して、ネルサへ何か言いたげ? けれどネルサはそれを抑え、自分に任せてというような手振りを。そして私達へ、にっひっひ★と微笑んできた。


「あーし、あっすんとしゃちょ~がどこまで出来んのか知りたくなっちった★ どんどん行こ~う♪」


「あら! 受けて立とうじゃない!」
「はい! ネルサ、次は何を?」


「そんじゃねそんじゃね~★ ねくすとれっすんは~♪」









「――はひぃ……ふぅ……」


あれからも色々と体験させて貰い、すっかりヘトヘトな私はレッスン室の端で座って休憩を。こんなのを毎日やってるなんて、アイドルって凄……――。


「ぴとりっ★」

「ひゃあっ!? 冷たっ!? ね、ネルサ!」

「おっつ~あっすん★ はいど~ぞ★」


急に頬へ冷たいものが当たってきたと思ったら、ネルサが飲み物を持ってきてくれたみたい。有難いけど、もう! ふふ、身体に沁みる!


「あっすんとしゃちょ~マジなんでもできちゃうじゃん★ 歌も上手かったし♪」

「あはは…。毎日のようにカラオケとかしてるから、かな?」


隣に腰を下ろしながら褒めてくるネルサへ、照れつつもそう返す。まさか毎夜の飲み会やら特訓やら仕事やらがこうもレッスンの役に立つなんて思わなかった!


無論どれもプロたるアイドルの方々には及ぶべくもないだろうけど、ちょっとぐらいは良い姿を見せられたかもしれない。それに社長に至っては――。


「宝箱ダ~ンス♪」


未だ元気一杯に他の皆と踊り遊んでいるぐらいだもの。重ねた掌が真下を向くように腕を伸ばしたり、ぶりっ子のようなあざといポーズをとりながらのどこかセンシティブな腰振りダンスを。その様子を笑って眺めつつ、ネルサは私に聞いてきた。


「どだったあっすん? アイドルの表も裏も隅々まで見た感想は~?」

「ふふっ、凄かった! コンサート中でもレッスン中でも、皆真剣で、可愛くて、輝いていて! アイドル、ますます好きになっちゃった!」

「おほほう★ そこまで言ってくれるなんて、あーし……」

「それと、ネルサのこともね。どんな時もお手本になっていて、とっても格好良かったんだから!」

「ふぇっ…! そ、そりゃああーしはExecutive Producerだから★ 皆のEXP経験値にならないと……やー…ガーキー様から教わったギャグ、使う場所間違えたしぃ……」


今回はただ純粋に褒めただけだったのだけど…。ネルサは顔をぶんぶんと振りつつ頭を掻き身悶えを。そして照れ火照りを払うように、にひひっ★と。


「あっすんもこんだけハマってくれたことだし、今度は女子会メンバー皆をライブに招待しよっかな~★」

「良いかも! そうそう、さっき聞いたのだけれど、ベーゼともコンサートをやっていたのでしょう?」

「そそ★ べぜたんベーゼ超ノリノリでさ~★ 前なんかシンバルキック披露する時、テンション上がり過ぎちゃってシンバル天井まで吹き飛ばしちゃってさ★」


あれはもう伝説だわ~★ と思いだし唸るネルサ。二人はそれこそガーキー様のあの企画にも揃って出演してるぐらいだもの、元よりそちら側だろうけど……。


「けどさ、るふぁちんルーファエルデめまりんメマリアが未知数なんよね~★ あっすんみたいに楽しんでくれっかな?」


そう、やはり懸念事項はその二人。片や威風堂々たる騎士のようなルーファエルデと、時に冷徹さすら放つ次期魔王秘書なメマリア。堅物気味な彼女達がこの文化を受け入れてくれるかだけど…ふふっ。


「ルーファエルデの方は大丈夫じゃないかしら? だってほら、私のお尻叩きので笑っていたぐらいだもの!」

「うはっ★あっすんが自分から! にひひ★でもそうよね、あの番組でだいぶバカ笑いしてくれてたもんね♪」


直近のグリモワルス女子会での出来事を振り返る限り、彼女は全力で楽しんでくれそうである。残るメマリアは――。


「私の完全な憶測だけど…メマリアも割と嵌りそうな気がするの。この間お喋りした時に、その、小さくて可愛いのが好きなのが伝わって来たから。社長みたいな」


魔王様の本当の御姿には今は触れられないから濁したが、彼女にその気があるのは確実だと思う。それを聞いたネルサは見込み通りを喜ぶような弾んだ声で。


「お~! あっすんもそう思うなら間違いないじゃん★ じゃあじゃあ、ちっちゃい子アイドルだったら気に入ってくれるかも?」

「えぇ、きっと! あの子公私分けるタイプだしね。上手くいけば、普段は見られないメマリアの興奮ぶりが見れちゃうかも?」

「にひひ★それ気になる~! どんな感じが好みかリサーチしとかないと♪ 沼らせたろ~★」


暫し二人で談笑を。と、その切れ目となった時である。ネルサは空に向けふうと息を吐き、顔を正面に向けたままに。


「――ね。あっすん」

「ん? なぁにネルサ」

「えっとさ……。んーっと……ううん、くううっ!」


何か言いたいけれど、うまく言葉に出来ないのだろうか。もにょもにょして、伸ばした足をぱたぱたさせて悶えている。が、すぐに自らの首を両手でパチンと叩いて反省してみせて。


「や~ダメ! あーしとしたことがなぁ~。あっすん相手だとなんかモジモジしちゃう★ べぜたんには普通に言えたし、るふぁちんめまりんには問題なくできそうなのに~」

「? 何かあるなら聞くけれど?」

「ん★あんがとあっすん★やさしーね♪ うん、だからもうさ、全部まっすぐ言っちゃうわ★」


にひひ…★といつもの、けれど何処か緊張を感じ取れる笑みを見せ、こちらへ向き直る彼女。そして私の手をきゅっと取り――。



「ね、あっすん★ アイドルに興味ない?」









「……えっ。え、え、ええええええっ!!!!?」


そんなの、声を上げてしまうに決まってる!! 今更それが字面通りの意味じゃないのは私とてわかる!! だってその台詞、その台詞!!! それって、アイドルスカウトの決め台詞!!!


「じょ、冗談、よね……?」

「ううん★あーしは超絶本気!」


つい逃げようとする私の手をがっちりつかみ直し、ずずいっ★と顔を迫らせてくるネルサ…! と、攻めすぎとハッと気づいたのか慌てて手を離し、気恥ずかしそうに自らの頬の熱を冷まし出した。


「ごめ、全部まっすぐ話すって言ったばっかなんにね…! えっと…あっすん、笑わずに聞いてくれる?」


それでも赤さの消えない顔のまま、おずおずと聞いてくる彼女を拒否なんて。すぐに肯いて見せると、彼女はにひひ…★といじらしい微笑みで語り出した。


「あーしさ、前々からずっっっとやりたいことがあってさ。グリモワルス女子会のメンバーで、アイドルやりたかったんよ」

「私達と?」

「そ★ ほら、アイドルって皆キラキラしてんじゃん? そんな子達がユニットとかグループを組むと、色んな輝きがこれでもかって入り混じって、どんなスポットライトよりも綺麗でさ★」


ふふっ、それは確かに。私は先程のwaRosのコンサートが初であったけれど、それでもその気持ちはわかる。まるで虹色の万華鏡を見ているかのようだったもの!


「にひっ★あーしもそれ憧れなんよ★だから今日みたいに参加させて貰えるとめっちゃ嬉しくて! けれど、やっぱ完成されたユニットの邪魔になっちゃうかもって時あるし。それにその……やっぱ気ぃ使われちゃって★」


私が同意を示すと一層興奮したネルサだったが、そのまま少し寂しそうに頬を掻いてみせる。成程、彼女の悩みなのだろう。敬愛を向けられる、カリスマとしての。


「だから超我儘なんだけど、あーしも、あーし専用のアイドルユニット結成したくて! でもあーしはそんなずっとアイドルやってる訳じゃないから、他の子達と組んでも迷惑にしかならんし」


それに、やっぱそれでも遠慮されちゃうかもだし。と不安を吐露した彼女はそこで息を大きく。そして目を輝かせ、再度私の手をぎゅっと握ってきた!


「だからさだからさ、あーしとタメで話せて、我儘聞いてくれて、それでいてバッチバチにアイドル出来る子達ってさ★ もうビタリあっすん達じゃん!!!」

「そう思ってくれているのは嬉しいけど、私達ってアイドル向きなの!?」

「そりゃ~もう★ あーしの目に狂いはないっしょ★」


うっ…! ネルサエグゼクティブプロデューサーの実績を鑑みれば、その言葉の信頼度は高すぎるぐらい。思わず黙らされていると、彼女は更に衝撃的な一言を。


「実はさ★もう魔王様に許可頂いてあるんよ★」

「はっ!?!?!?」

パパママ当代全大使経由でオッケー貰って、それも仮決めみたいなもんだけど★ 先代魔王様も口添えしてくださったみたい★」


い、い、いつの間に……! さすねるな行動力に慄いていると、彼女はちょっと小悪魔的な表情を浮かべて続けた。


「めまりんはそれを使って上手におねだりすればやってくれそうかなって★ るふぁちんは修行になるかもと言えばイケそうで★ べぜたんは言うまでもなく?」


まあ、確かに。やはりさすねる、人を動かす術を知っている。……あれ、私は? しかし彼女はその疑問を待っていたかのように、されど殊更に、はにかみながら。


「ぶっちゃけた話さ、あっすんが一番どうなんかな~って感じだったんよ。あーし達の中でいっちばんお嬢様してたじゃん★ それこそお堅めのコンサートしか連れてって貰ってなかったし?」


それも、確かに。事実昔の私はまさしく箱入り娘。さっきネルサに言った通り、家を抜け出したとしても行く先は図書館で勉強だったのだから。今となっては懐かしい思い出をネルサは噛みしめるようにしながら唸って……!


「なのに! マジで、なのに! 突然ガチで家飛び出して、しゃちょ~の秘書になって! ホントのホントに一気に垢抜けだして! そんなのもう――!」

「す、ストップ! ストップネルサ! それ女子会でも聞いたから!」

「あっ、そだったね★ でもあん時も、いつこのお願いしようか悩んでたんよ~! 結局言うタイミング逃しちったけどさ★」


あの時から既にスカウトをかけたかったとは……ん!? つまりまさか、もしかして今日のこれって!?


「じゃあ次の女子会か~って思ってたらさ、ここの皆が強い警備員欲しいって言っててさ、そんなんもう乗っかるしかなくない!? あっすんに仕事回せてアイドル布教できちゃう、マジ一石二鳥な機会なんて!!」


やっぱり!! 私にアイドル体験をさせるのが目的の一つだったんだ! その周到さについ舌を巻いてしまっていると、彼女は手をパンと合わせ全力で祈るように!


「ね! お願いあっすん! お仕事の合間で良いから! いっしょにアイドルカツドウしようよ~! 最強で無敵のアイドル、目指そうよぉ~っ!!!」


そ、そんな頼まれても…! ええと、嫌、って程じゃないけど! その……!


「アタシ達からも誘わせて! アストさんなら絶対人気アイドルになれるわ!」

「今日一日共に居させて貰って、幾度推したいと思ったことか。うふふっ♪」


わわわっ!? waRosのお二人からも!? 今までの会話聞かれて!? まああれだけ騒げば当たり前なんだろうけど!


「ネルサPがお墨付きを出した以上、不要でしょうが…私達からも、太鼓判を」

「ホントよぉ。私さっき、ネルサPちゃんの仕込み邪魔しそうになったもの!」


プロデューサーさんやトレーナーさんまで!? いやそれどころじゃない、レッスン室にいたアイドル皆さんが私を囲んで!! に、逃げ場が……!


「ビジュは満点でしょ。嫉妬しちゃうぐらい!」

「ダンスも歌も愛嬌も、即戦力にゃ!」

「なにより、見てみたいよね!」

「「「グリモワルス魔界大公爵のアイドルユニット!」」」


「でしょでしょ★ まだユニット名悩んでんよね~★ 可愛く『ぐりも★わるす』? 女子会メンバーだから『ReadyLady,G』とか? それとも折角の名前活かして『grimoireグリモワール』、格好良くモジって『grimo.Waltz』とか!」
 

盛り上がるネルサ達…! 私も嫌じゃない、嫌じゃないんだけど……すぐさま肯くことが出来ない…! なんというか、その、とても不安で!


だってそうでしょう! アイドルをやるなんて、秘書の仕事を選んだ時ぐらいに重要な決断! いくらネルサ達が一緒とはいえ……!


……そういえばあの時も、スカウトされたんだっけ。社長に。社長に引っ張って貰ったおかげで、私は楽しく過ごして――。


「けどさ★あっすん~? あーし、あっすんをあーし達のユニットだけで独占する気はないし★」

「…へ?」


不意の追憶から、ネルサの台詞で引き戻される。独占する気は無い、ってどういう意味で……?


「だってさだってさ★あーしよりレベチで輝いてて、あっすんとエグちでベストマッチなコンビ相手がいるじゃ~ん!!」


っっ!!? まさか、まさかネルサ!? 思わず目を見開いてしまった私にキラッと笑顔を返し、彼女はその予想をなぞる様に、人垣の中にちょこんと潜む宝箱へ声をかけた!!



「ね★しゃちょ~っ! アイドルに興味な~い?」











「……いつ話に入ろうか悩んでいたのだけど、まさかそうくるとはねぇ」


私達の方へ進み出てくる社長。恐らく今の今まで気配を消していたのだろう、周りの皆はその存在に改めて気づき、失念を悔いる、あるいは寧ろ更に目を輝かせる等の驚きの表情を。しかしネルサだけは違って。


「にっひっひ★ だってしゃちょ~相手だとあーしの企みバレちゃうんだもん★ でしょ?」


見破れはできずとも、忘れてはいない――全て想定の内だと言うようにウインクを。それを受け社長は肩を竦めてみせた。


「まぁねぇ。だからアストだけに焦点絞ってたわけね。でも良いのよ、私までスカウトしなくて――」


「ううん★『まで』なんかじゃないし!!! あーし、しゃちょ~にも目ぇつけてたんだから★」


あーしよりも輝いてるっての、マジマジのマジだもん!! と社長の言葉を遮り、今度はネルサからググイッと進み寄って。それに珍しく気圧された社長がちょっと下がりかけたところの手を、彼女はガシリと握った。


「女子会中も、今日一日も、しゃちょ~とあっすんが互いが互いに引き立て合って、最っ高にデュオってたじゃん★ でしょでしょ?」


そして周囲へそう問うと、返って来たのは満場一致の賛同の声。それを後押しに、ネルサはにひひ★と。


「けど、社長さんじゃん? 正面からスカウトかけても無理だな~って★ だから先にあっすんを誘って、それからしゃちょ~って感じならワンチャンあるかなって★ ね、いいっしょ~? 二人でなら良いっしょ~!」


手の内を暴露しきり、社長と私へ交互に手を合わせねだるネルサ。目をギュッとつぶり、もはや神頼みなレベルで……ん?


「……そう、だからああして私を揺さぶって…。まだそこまでの考えあってじゃなさそうだけど……」


社長が、ボソッと何かを。祈るネルサはおろか、周囲の他の人にも聞こえないような声で。ただその呟きはマイナスなものではなく、何処か清々しさを感じるもので――。


「もち、お仕事の合間、暇だな~って時で良いからさ★ てかさ、ミミックアイドルっていないんよね★恥ずかしがり屋さん多くて★だから絶対バズるし★」


やはりそれに気づくことなく、ネルサはこれでもかとお願いし倒す。対して社長はとうとう、ふう、と息を吐き……!


「ふふっ。流石、レオナールの娘さんね。交渉が上手いこと。負けたわ☆」


「おおっ!? と、ゆーことは!!?」


大興奮するネルサ。それを軽く手で抑えつつ、社長は私の方をチラリ。


「アストはどう?」

「社長と一緒なら、はい!」


「いえ~~~いっっっ!!! よっしゃあっ★ やっふ~うっ★★★」


ネルサったら! そんな狂喜乱舞しなくても! ふふ、でもまず社長と一緒にアイドルをやれるのであれば怖いものは無い。出来る限り頑張って――わっ!? ネルサ、急に手を引っ張って!?


「あっすん、しゃちょ~抱っこして立って立って★ アイドルチェ~ンジ♪」

「へっ!? これって…!?」
「あら! アイドル衣装かしら!」

「しゃちょ~ピンポ~ン★ 二人用の衣装、実は作ってました~♪ あっすんのはスタイル綺麗に、しゃちょ~のはチャームポイントの宝箱を活かす感じで★」


可愛…! こ、こほんっ! 急に魔法服を、衣装を着せられるなんて! ネルサ、そんな周到に――。


「そんでねそんでね★曲もダンスも用意してあるんよ★ 二人を見た瞬間、ビビッて来ちってさ~♪ 流してみんね★」

「いやちょっと!? 端から計画していたとはいえ、準備良すぎない!?」


活き活き動くネルサを慌てて止めてしまう! けれど彼女はいつもの輝く笑顔で!


「にっひっひ~★ あ、そだそだ★空いてる日おせ~て♪レッスンしよ~♪ でもあっすんしゃちょ~なら速攻デビューできるし★」

「そういえば、ユニット名はどうなるのかしら?」

「お、さすしゃちょ~★ ユニット名はまだなんよ。二人で決めちゃう~?」

「良いわね! そうね……アスト、こんなんどうかしら! シンプルだけど、面白い感じで――」



ちょっ、社長も!? そんな、とんとん拍子で、え、え、え、え、え――――――。









―――――――え。



「そんじゃ皆★ ライブ、頑張ってこ~う★」

「「「おお~うっ!」」」

「うんうん★ はれ? あっすんだいじょ~ぶ? お披露目本番だよ~★」


「え、あ、うん…! いや本当にデビュー早くない!? 数か月ぐらいしか経ってないのだけど!?」


あの日から少し経った、コンサートダンジョンのとある舞台袖。沢山の観客のざわつきを聞きながらそうツッコんでしまった! でもやっぱりネルサはキラッと。


「にひひ★ そんだけあっすんとしゃちょ~がつよつよってこと★ ね、リアちんサラちん★」

「ホント! 手強いライバルになるわ!」

「逆に食べられちゃうかも、うふふっ♪」


それに同意してくれるのは、waRosのお二人…! なんとwaRos,feat.Nが私達のお披露目に付き添ってくれるのである! なんて運命的な……まあネルサの計らいなのだけど…! でも、お二人も志願してくださったというのだから驚きで!


だから、三人の顔に泥を塗らないように頑張らないと…! マズい…そう思えば思うほど心臓がバクバクって…! ひゃわっ!?


「にひ★あっすんリラ~ックス★ 気負い過ぎず、緊張し過ぎずにね★ ま、あっすんならがっちがちでもウケそうだけど★」

「あはは、かも! けど、アストさんなら…ううん、アストならイケるから!」

「それに、社長さん…いいえ、ミミンも一緒だしね。いつものコンビネーション、期待しているわ♪」


ぎゅっとハグしてくるネルサに、気合を入れてくれるリアさんとサラさん…ううん、リアとサラ! そして――!


「そうよアスト。二人でスターダム目指しましょ☆」


抱えている社長が、私の手に手を重ねて! うん、やってみせます、アイドル!!







「――レディ~スアンドジェントルメ~ン★ お待たせ~い★ あーしプロデュースの新人アイドル、ご紹か~い★」

「度肝抜かれなさいよ! 凄いんだから!」

「あらリア、緊張させちゃってどうするの♪」


場の熱気を最高潮に引き立たせ、三人はステージ中央を開ける。そこを一斉にスポットライトが照らし、下からせり上がるように……じゃないっ!!


「「「「「うわっっ!?!?」」」」」


観客席から一斉に上がる悲鳴! それも当然、突如天井から一つの宝箱が落ちてきたのだから! 驚愕の沈黙が場を一瞬満たす中、それはガタガタ、ガタガタと震え――!


「それっ!」


鮮やかな演出と共に蓋は開き、中から高く撃ちだされた人影こそ、私! 追ってくるライトに照らし出され空中で華麗に後転したみせ、着地と同時にカーテシーのような、されどパッと服を払うスタイリッシュな一礼を行ってみせる!


ふふっ、感嘆のどよめきが! 良かった成功して! でもまだこれから! 私は片手を斜め上に差し出し、もう片手で床の宝箱を軽く指し示す。すると、宝箱は再度ガタガタ震え、今度は宝箱自体が跳ね上がり、差し出した私の手の上に!


「いえーいっ☆」


そこからぴょこっと姿を現したのは……ふふっ、私のペア、ミミン! 皆の目を惹き付けた後は、私達がいつもやっているような抱っこ体勢となり~~!


「初めまして、ミミンで~す!」

「アストです! よろしくお願いします!」


自己紹介! そして、せーので息を合わせて――!



「私達、MミミンAアストですっ☆」



あの即興でもやった、コンビネーションポーズを! 二人の協力指文字でMとAを描いて! さあ、スタート! 轟く拍手を制するようにかかり出した音楽と共に♪


「さあ、ミミックをトラウマにしてあげるわ!」

「って、ちょっ!? 何言ってるんですか!?」

「冗談冗談☆ いくわよ~♪」

「もう! ――それでは聞いてください!」




「「『箱から飛び出た宝物』――!」」














「――大★大★大★大★ 大★成★こ~~うっっ!!! もう最ッッッ高★」

「全身ゾクゾクしちゃったわよ! アタシ、冗談抜きでトびかけたんだけど!」

「本当に歌詞飛ばしかけていたものね♪ えぇ、でも。M&A、最推しよ♪」


「物販も盛況のようです。というより、もう売り切れ続出と報告が」


「ふぅぅう……! 良かったぁ……上手くいったぁ……!」

「練習の甲斐あったわねぇ☆ 色々アドリブ付き合ってくれてありがとアスト!」


コンサートが終わり、全ての終わった控室。ネルサやリアやサラ、プロデューサーさんの感極まる声に包まれ、私は、なんというか……全身高揚と達成感に包まれた心地よい虚脱を。


「にっひっひ★ この後打ち上げ用意してっからね~★ お仕事に響かないよう、存分に英気を養ってもろて★」


私の首へタオルをふわっとかけつつ、鼻をピンッと突いてくるネルサ。そうだ、今更だけど。


「本当に良いの、仕事の合間だけで? そんなにアイドル活動は出来ないと思うけれど……」


「もっちろん★ 楽しくアイドルやらなきゃ面白くないしね~★ それにほら、神出鬼没な感じがミミックぽいっしょ♪」


言われてみれば。ふふっ、ネルサにはやっぱり言いくるめられてしまう! と、彼女は両手を私に向け――。


「あっすん、もっかい聞いて良~い? アイドル、ど~お?」


「えぇ、最ッッッ高に楽しい!!」


それに答えつつ、ハイタッチでも応えて! うふふっ、もう何回唸ったかわからないほどにさすねるで――。


「一周回って最後にもっかいしゃちょ~と! うえ~いっ★」

「いえ~いっ☆ ――ところでネルサちゃん、打ち上げまでまだ時間あるでしょう? 行くなら今の内じゃない?」

「っ…★ たは~★ さすしゃちょ~、お見通しか~♪ てか良いん?」

「その方があなたらしいわ、ネルサエグゼクティブプロデューサー☆」


へ? ネルサとハイタッチしつつ、社長が何かを促して? そして当のネルサはにひひ★と笑い――。


「そんじゃ★ちょっと行ってくんね♪」


急に部屋を飛び出していった。一体何を?


「ハッ! もしかして!?」
「ふふ、ネルっさんらしいということは…♪」
「恐らくいつもの、ですね」


察したらしいwaRosとプロデューサーさん。ネルサらしい……あっ!


「こっそり見に行っちゃいましょうか☆」


箱へと手招きする社長! それは……見に行きたいに決まってる! その場の誰も反対することなく、社長の箱へと入り、ネルサを追いかけ――!






「いたいた…☆」


ダンジョンから少し出た、野外の一角。そこにいたのは、一人の女の子。コンサートに来てくれていた子だろうか、丁度帰ろうとしているようである。


けれど、その顔は何処か口惜しそう。そしてそれを打ち消そうと、綺麗な鼻歌を…あれ披露したての私達の曲…!を小さく奏でつつトボトボ歩いているのが窺える。


「欲しい物買えなかったみたいね」


物陰に隠れつつ様子を窺う私達へ、社長はそう説明を。と、そんな折である。女の子の元へ悪魔羽をパサリ★と鳴らし現れたるは――!


「にひっ★ まだいてくれて良かった~★」

「ふぇっ!?!? ね、ね、ネルサさま!?!? どうして……!?」


そう、ネルサエグゼクティブプロデューサー! 小動物の如く慄く女の子へ、彼女はゆったりと近づいていって。


「さっきのライブに来てくれてた子っしょ? 他のライブにもよく顔見せてくれてるし、握手もしたことあるよね★」

「ふぇぇっ…!? へ、は、はいぃ…! すみませんすみませんん…!」

「いっつもあんがとね~★ そんでさ、ちょっちい~い?」


屈託のない、にひひ笑みでそう切り出すネルサ。けれど女の子は身を竦めて――。


「ひぅっ…! わ、わたし…ノリ悪くて迷惑かけちゃってましたか…!? ご、ごめんなさ――」


「ね★ アイドルに興味ない?」


「いっ……へ? ふぇえええっっッ!?!?!?!?」




「あの時のアストばりに驚いてるわねぇ」

「ふふ、リアもあんな感じでしたわ」

「はぁっ!? なんでここでバラ……むぐっ…!」


サラに口を押さえられ納得いかないという顔をするリア。ふふっ、その辺りも今日の打ち上げで色々聞きたいところ!


――けれど、まずは。ふふふふっ! 新しいアイドルの誕生に祝福を!



貴女のデビューは、私達が…我が社のミミック達が見守りますとも!

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