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閑話⑫

アストの奇妙な一日:グリモワルス女子会⑭

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「色々思うところはありますが……まずお聞きしましょうか。何故ですか? 今日はついて来ないでくださいね、と釘を刺しておいたはずですが」


「違うの…! 私もアストのプライベートの邪魔をする気は無かったの! でも、ちょっと事情が変わって……」


「さっきも仰ってましたね、『事情がある』と。オルエさんを伴って現れたその理由、聞かせて頂いても?」


「それは……その……ちょっとここじゃ話せなくて……。えっとね……。でも、信じて欲しいの! 私、本当は来る気なかったの!」


手組み足組みで蔑む私に、床から必死に弁明してくる社長。しかしあんまり響いていないと理解したのだろう、言い訳を半ば諦めたかのように指をいじいじさせ始めた。


「怒ってるわよね……。ごめんなさい……」


「……もはや怒りを通り越して、呆れが支配しています。頑張って社長を隠していたのに当人の手によって暴露されるの、市場でのネヴィリー、実家での私の家族に続いてこれで三度目ですもの。いい加減に慣れます。いい加減に……はぁ……」


思わず深いため息をついてしまう。そして脳裏に浮かぶのは、つい先程までのごたごた。


「大体、オルエさんのせいで怒るタイミング失いましたし、友人のエッチな姿見せられてこっちだって感情の置きどころを見失いましたし……!」


「うん……それは……そうよね……」


「正直、また自棄状態なんです。自暴自棄の域なんです! 許されるならこのまま社長を連れ帰って始末書を何千枚かは書かせたいぐらいです。本当に!」


あぁ、駄目! こう話していると、怒りが再燃して来て……! 社長とオルエさんの登場で混乱しどこかに追いやられていた怒りがメラメラと……! 


「えーと…あっすん? ほら、ミミンさん…だっけ? は、あっすんの上司っしょ? そんなに詰めちゃうのは……」


「なんかアタシのししょーの方が悪そうだし~……?」


その剣幕にネルサベーゼが割って入ってきてくれるが、私はそれを手で制す。今は仲裁なんて無用である!




「この場に侵入してきた理由が話せないと言うのならば、他のことを話して頂きましょうか。 宜しいですね?」


「はい……なんなりと……」


しゅんと殊勝な態度をとる社長。じゃあまずは……――!


「いつから居たんですか? 私、こうなるのを警戒して昨日今日と社長がいないか目を光らせていたのですけど。つい先ほどここに来た、という訳ではありませんよね?」


「ぅっ……! そ、それは……――」


「まさかそれも言えない、とかはあり得ませんよね?」


「ぁぅ……。え、えっと……それは……その……」


「ね?」


「……はい……ごめんなさい……」


観念したらしい。箱の中に身体をかなり仕舞い込み、社長は訥々と――。


「あのね……実はね……凄く言いにくいんだけど……」


  
 ―――にゅぽんっ♡



「女子会最初からずぅっとよぉ♡ ベーゼちゃんが甘ぁいモノに顔を蕩けさせていたのも、ネルサちゃんがアレなビデオを再生していたのも、ルーファエルデちゃんがギンギンに滾っていたのも、メマリアちゃんがアストちゃんを食べんばかりにぐいぐいキてたのも、ぜぇんぶ見ていたわ♡」


「なっ……!?」


オルエさんが社長の後ろから出て来て自白を……! やっぱりというかなんというか―――ん? オルエさん、何かごそごそと箱の中から取り出して……?


「なんなら、昨日のアストちゃんのお家からだったり♡ うふふ♡ アストちゃん、こぉんな可愛いショーツ履いちゃって♡」


「ちょっ!? バカッ!!」



「…………は?  ――――はあっ!?!?!?」









オルエさんが手にしているのは……私のランジェリー!? しかもそれ、会社じゃなく実家に置いてあるヤツ!!?


「なんで持ってきたのよ!! 置いてきなさいって言ったでしょう!?」


「いやん♡ そんな怖い顔しないでミミン♡」


「するに決まってるでしょうが!!? バカなの!? うん色バカだったわね!!」


「うふふ♡ そんなに褒めてくれるなんて、恥ずかしいわ♡」


「褒めてる訳ないで……――」


「因みにミミン♡ 怖い顔しているのは貴女だけじゃないわ♡」


「――……へ? …………あっ……」


察し、オルエさんに怒鳴っていた顔をギギギギ…とゆっくりこちらへ向ける社長。そして、声をひくつかせながら蒼白の表情に。


「あ、アスト……あなたの周囲の空気、歪んでいるわよ……?」


「……以前ネヴィリーを叱りつけた時みたいに、ですか?」


「う、うん…。……それ以上かも……」


「なら、そういうことです。これ以上言わせないでください」


「ひぃ……っ」


慄く社長。半ば涙目となり、オルエさんをキッと睨んだ。


「後で覚えてなさいよオルエぇ…!」


「覚えておくのは社長の方もです。社に戻ったら覚えておいてくださいね?」


「はぅ……はい……」


私の言葉に肩をビクつかせながら、誠意を見せるようにこちらへ向き直る社長。私はもう一度深く深く溜息をつき、見下す姿勢に。


「一応申し開きを聞きましょうか?」


「違うのよ…! 私はこの女子会の時間に合わせて来ようと思ったのだけど…! オルエがどうしてもあなたの部屋を見たいと言うから……! 隠れて忍び込んで……」


「何故断らなかったんですか?」


「っそれは…………私も…同調しちゃって……。で、でも食べ物とかは持ち込んだから、誰にも迷惑は……」


「計画的犯行。情状酌量の余地はありませんね」


「仰る通りで……」


どんどん小さくなってゆく社長。オルエさんはそんな社長を後ろから抱きかかえ、胸の下へと入れて良い子良い子となでなで。直後、『元はと言えばこいつが…!』とばかりにそのたゆんたゆんの胸へ触手ビンタが飛んでいた。同罪ですよ、社長。



しかし、はぁ……私の嫌な予感は正しかったのだ。アスタロト家を出立する前に、ビビッと身体に走ったあの感覚は。その通りに社長が潜んでいたのだもの。


……ただ、わかる訳ないでしょう! 隠密行動が得意な社長に加えて、幻惑魔法を操るオルエさんのデュオなんて、私が見抜けるわけない! 寧ろあの瞬間だけでもよく気づけたってぐらいである!!!


いや待って……! ということは……私が家族と歓談している際や、庭園を鼻歌交じりに散歩している時、ベッドの上で自堕落にもぞもぞしている瞬間や、何度もあった着替えシーンを見られていたかもしれないということ……! いや多分間違いなく見られている!


しかも私、寝る前に服が暑かったから脱ぎ捨て、ほぼ裸でクローゼットに入り薄着を探していたこともあったのだけど……!! わざわざオルエさんが私のランジェリーを持っているという事は、そこに潜んでいたとみて間違いなさそうだし……社長だけならいざ知らず、オルエさんにまで恥ずかしい所を……もう……! 


「だってこの間、ミミンだけでアスタロト家にイっちゃったんでしょう♡ ずるいわ♡ 私も交ぜて欲しかったのに♡」


「いや私は目的があってお邪魔したのよ! アンタが来たら色々メチャクチャにするでしょう!? 大体今日もこうなるとわかってたから連れて来たくなかったのよ!」


「あら独占欲♡」


「違うわよ!!!」


そしてそれだけに飽き足らずこの場を荒らしてきて、ショーツまで皆の前に晒されて……! このお二人は……!!!


「本当、メチャクチャです! お二人のせいで! 折角社長のことを皆に隠していたのに……全部台無しになってしまったじゃないですか!!!」


「あら♡ 隠す必要なんてないわぁ♡ お友達同士なんだもの♡ 全部を脱ぎ捨てて曝け出しちゃって♡ 肌と肌を擦り合わせる裸の付き合いを……♡」


「オルエさんっ!」


「はぁい♡」


「貴女も外に出て正座を! 社長はオルエさんがヘンなコトしないよう捕まえてください!」


「は~い♡」
「はい……」


にゅぷんっ♡と箱から出てきたオルエさんは、先程のドレス姿のまま社長の横の床に正座。社長はそんなオルエさんの腰に触手を巻きつけ捕獲を。


「全く……そんなに私を引っ掻き回して楽しいですか? 皆にまで被害を出して……」


「良いわぁ♡ アストちゃんのその冷ややかな瞳♡ もっと蔑んで♡ もっと見下して♡ お腹がきゅんきゅんしちゃう♡」


「……本当に本当にごめんなさいアスト…。 できることならコイツどっかに投げ捨ててきたいところなのだけど……」


「……なんで連れてきたんですか。いえ、何かしらの理由があるのはわかりましたけど……なんで……」


「許して頂戴…。アスト達に絡むのが目的とかだったら絶っっっ対連れてこなかったもの」


「2人共酷いわぁ♡ でも快♡感♡ ミミンに縛られてアストちゃんに睨まれるなんて至福かも♡ 攻めるのもイイけど責められるのも大好きだもの♡ あぁイッちゃいそう……♡」


「…………やっぱコイツ仕舞った方が良くない? 反省するどころかヤバさ増してるわ」


「そうしてください」


「あら淡泊♡ でも放置プレイもイケちゃ――あぁあんっ♡」


オルエさん再回収。全く…あの無敵さはシンプルに凄いとは思う。尊敬は全くできないけど。……しかしどうしよう。そのせいでまた論点を見失ってしまった。また引っ掻き回された。ううん、今度はどこから……――


「ね~! アーちゃん!」


「うん? どうしたのベーゼ?」


ふと手を挙げたのはベーゼ。……そういえばオルエさんはベーゼの魔法師匠だった。流石に雑な扱いをし過ぎたかも……?


「アタシ、まだ何が何だかよくわかってないんだけど~…とりあえず魔眼使ってみたの!」


へ? ベーゼの魔眼は『主催眼』。催事関係に於いて力を発揮する魔眼で、贈り物の贈り主等を見抜いたり、そのイベントで参加者の役割を見極めたりする能力なのだが……それを使ったというと――?



「なんかさ、アタシのししょーとアーちゃんのしゃちょー? 魔王様からお仕事頼まれてきてない?」









「えっ!? そうなの!?」


「うん、多分? でも詳しくはよくわかんないや。ただ、魔王様から何かお願いされてるっぽい、ってことぐらいしか。も~ちょっとはっきり見えてもいいと思うんだけど……」


社長達、催事の…このグリモワルス女子会の参加者と扱われたのだろう。ベーゼの魔眼の『参加者の役割の見極め』に引っかかったらしい! 魔眼が社長達の秘密を暴いた!


「そうなんですか社長!?」


「……やるわね。流石エスモデウス家のご令嬢…」


私の問いには答えてくれなかったが、ボソリと呟いた一言はYESを示してる! 成程、魔王様からの密命…! それならば侵入理由を隠すのも仕方ないかもしれない……!


「マジなん……!? え、じゃ、じゃあどういう目的で!? あーし達、試されてるとか!?」


怯え気味のネルサ。確かに…! その密命の内容によっては私達の処遇が大きく変わってしまう……!


「……あっ、ねえねえ、やばいんじゃ…!? アタシたち、秘密だった勇者一行の話とかダンジョンのお手伝いしてるミミックの話とかで盛り上がっちゃったよ…!?」


っ…! しまったそうだ……! ベーゼの言う通り…! 本来秘匿事項である情報を、グリモワルス女子会であることを言い訳にべらべらと話してしまった! いくらグリモワルス魔界大公爵一族の身と言えど、機密漏洩の罪に問われてしまうんじゃ――……!?


「あー……。心配しなくて良いわ。えっとね……」


「私達が来た理由は別にあるの♡ 因みにそれぐらいの秘密なら、ここの皆で共有する程度ならセーフ♡だと思うわ♡」


頬を掻きながら何か言おうとした社長に被さる形で、オルエさんがまたまた箱の中から顔を。しかし今度は自分からにゅっぽん♡と完全に出て来た。


「うふふ♡ このキツキツな入口で出たり入ったりずぽずぽするの、癖になっちゃうのよね♡ ハマっちゃう前にやめないと♡」


「えっ? ちょっオルエなにして……!?」


オルエさん、ひょいっと社長を持ち上げて……私の膝の上に戻してきた!? そして相変わらずたゆん♡むちん♡とかの音が見えそうな歩みで…ベーゼの元に!


「ベーゼちゃんのバックに失礼~♡」


そのままあれよあれよという間にベーゼをぬいぐるみのように後ろから抱っこし…席についた!!?


「ベーゼちゃん凄いわねぇ♡ 私、びっくりしちゃったわ♡ 私達の秘♡密♡見抜いてくるなんて♡」


「えへへぇ~…!」


「ご褒美に良い子良い子してあげる♡ うりうりうり~♡」


「きゃ~んっ♡ くすっぐたい、ししょ~!」


オルエさんを椅子にし、頭を撫でられ照れるベーゼ……。こう見ると、なんだか姉妹みたいな……? 流石のオルエさんもベーゼには手を出さない……のかな……?


「ほら♡ アストちゃんもミミンを撫で擦ってあげて♡ 悪戯しに来たわけじゃないんだから♡ 許してあげて♡」


「え……」


そう言われ、膝の上に目を戻す。すると社長、蓋の陰から覗くようにこちらを見て……シュンとした表情と許しを乞う瞳で……はぁ、もう……。


「わかりました。魔王様からの命であれば致し方ありません。許します、社長」


「ほんと!?」


「えぇ。本当ですとも。 ――まあ、ですが私の家に侵入した件に関しましては……」


「ふふふ♡ お仕置きは後でたぁっぷりシてあげて♡」


「ということです。そこは変わりませんので」


「そんなぁ…! 発案私じゃないのにぃ……」


「監督不行き届きとでも思っておいてください。逆にオルエさんへの処置は社長に一任しますから」


「やん♡ 今からカラダ疼いちゃう……♡」


「……ミミック派遣取り消しとかが一番効くかしら?」


「あぁん♡ それはダメぇ♡ そんな的確に弱いト♡コ♡突いてくるなんて♡ もうあの子達がいないと満足できないようにされちゃったからぁ♡♡♡」


「…………効いてるんですかあれ?」


「多分……」








結局オルエさんのペースに乗せられ、怒りもどこかに飛散。社長は私の膝に、オルエさんはベーゼを膝にの形で落ち着きを。と、そのベーゼが首を捻った。


「でも、ししょ~? 来てくれた理由ってなぁに? 魔眼でも良く見えなかったし……」


「モザイクがかかっていて当然よ♡ 魔王様からの懇願だもの♡ 私達へは阻害魔法がかけられているの♡ 魔眼でも簡単に破壊できない、魔王様の検閲修正が♡」


「へぇ~! 魔王様凄~い! そんなこともできるんだ! ……それで、理由ってなんなの~?」


「ふふふ♡ 端的に言えば『ここの娘達女子会参加者の力量を確かめて来い』というところかしら♡ あんなにおねだりされちゃうと断れなくて♡」 


「そうなんだ~!! ……あれでも、なんでししょーとしゃちょーが? 魔王様の部下じゃないでしょ?」


「えっと……あれじゃん? さっきの話聞いた感じ…オルエさんは勇者一行の1人と戦ったことがあって…? んで、ミミンさんはダンジョンにミミック派遣をしている会社の社長さんで……的な……?」


「まあネルサちゃん♡ ぷちゅっと的中よ♡ 大当たり♡ トークをしっかり覚えていてくれる子は点数高いわ♡ ど~お♡ 枕片手のお話に付き合ってくれないかしら♡」


「ッ……! え、遠慮しときます……っ!!」


「うふふ♡ そんなつれないこと言っちゃ嫌よ♡ それに前から貴女にも興味があったの♡ いぃっぱい露出してるから♡ メディアにね♡ さ♡ ベッドの上で…――♡」


「――コホンッ! オルエ様…今ネルサが口にした事実だけが密命を受けた訳柄ではございませんでしょう……?」


あ。社長が触手を飛ばすよりも先に、ルーファエルデの声が。どうやら復活したらしい。むっくりと起き上がり、先程までの痴態を吹き飛ばすようにもう一度咳払いをしてから話し出した。


「魔王様の魔法なくしても、わたくしの魔眼では御二方の実力を捉えきれなかったことに代わりありませんでしょう。それほどまでに実力の差がございましたわ……!」


戦い合うなんて先の先。全ての初動を防がれ抑えられ……わたくしの未熟ぶりを痛感いたしました! ルーファエルデはそう振り返り、改めてオルエさん達の方を見やった。


「これほどの実力者、魔王軍にもおりません! 我が一族の者の中にすら! もしや御二方……わたくし達にすら存在が秘匿された魔王様の懐刀なのではございませんこと!?」


「え~!! そうなのししょー!? でもそれなら納得かも!」

「確かに……! 凄かったし……! ……凄いし……」


ルーファエルデの予測に膝を打つベーゼとネルサ。中々に説得力がある説である。だが真実は少し違う。それを示すために、オルエさん達は揃って首を横に振った。


「惜しいわぁ♡ ほんのちょっとだけスポットがズレちゃってるかも♡ 懐刀なんてご立派なモノじゃないの♡」


「そうね。私たちは魔王様の友――」




「――御友人にして、かの『最強トリオ』の内の御二方。ふふっ、ご登場なされた際は正直肝が冷えましたわ」




……ん? あれ!? メマリア……なんでそれを知ってるの!!?




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