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閑話⑫
アストの奇妙な一日:グリモワルス女子会⑫
しおりを挟む…………………………―――――うん……えっと……。大丈夫……。いや大丈夫じゃ全く無いんだけど……床を見つめるこの姿勢から全く動けなくなっているんだけど……。
……何故か、頭も体も冷静で……。自分のやったこと…やってしまったことを理解できていて……。うん、多分『我に返った』という感じで……。そしてこの先少しでも思考を動かした瞬間、全身が烈火の如く熱くなりそうで…………。
だからもう何も考えたくないし、正直このまま気を失いたいぐらいなのだけど……――
「アスト……?」
「アーちゃん……?」
「あっすん……?」
「アスト……」
ルーファエルデ、ベーゼ、ネルサ、メマリアの呼び声がそうさせてくれなくて……。いや、うん……。わかっている……。例え気を失ったとしてももうどうにもならないということは。
けど、だからこそ……だからこそ、自分の失言が……やらかしが悔やんでも悔やみきれなくて……そう、本当に……―――――
―――――やっちゃったああああああああああッッッ!!!!!
あぁ、凄い……! 身体が一気に熱くなっているのがわかるのに、それと同時に氷の如く冷えていっているのもわかる……! 全身から滝のような汗が噴き出し、肌が蒼白となっていくのも……! 魂が抜け出ていってるのもわか……わかりたい……!! やっぱり気を失えない!!!
やってしまった……やらかしてしまった!!! 突如意味不明に出現した社長を探すのに手いっぱいで、集中し過ぎて、自らの失言に全く気付いてなかった! なんでラティッカさん達の仕事内容を話してしまうんだか!!! 私!!!
いやまだそれだけならなんとかなったかもしれないけど! その後の社長の謎機動に振り回されて、ルーファエルデ達がじわじわ推測を進ませていたのをスルーしていた! 適当に返事をしていたバチがあたった!!!
せめてその時に気づけていたらなんとか誤魔化しが聞いたかもしれないが……もうどうしようもない! 今更になって先程までの皆の話合いがまざまざと頭の中に……私なんてことを……!
加えて最悪なことに、先程までの話題が全て悪い方向に作用してしまった! ダンジョンの話、職人の話、私の師匠の話、魔法の宝箱の話!! その全てがクイズのヒントとなり、点と点を繋げる結果となってしまった!!! まさに懸念事項が的中してしまったのだ!!!
もう崖っぷちに追い込まれたどころではない、ほぼほぼ落下しているようなもの! いやまあ、社長を追いかけて崖っぷちで暴れ、自分から足を踏み外したという方が正しいんだろうけど!!
――って! そういえば肝心の社長は!!? ずっと机の下や床を見ているけど、一切現れない!! こうなったのは半ば社長のせいだというのに!!!
「えっと……アーちゃん? だいじょーぶ?」
……だから大丈夫じゃない、ベーゼ……!
「アスト、体調が悪いのであれば……」
……体調は悪いけど、そういう悪さじゃない、ルーファエルデ……!
「……もしかして、聞いちゃダメ系だった?」
……察してくれたのはさすねるだけど、ネルサ……!
「――話を変えましょうか?」
……もう遅いでしょう、メマリア……!
社長は捕まえられず見つからず、皆からは心配され、いたたまれない……! なのに一周回ってまた冷静になってしまった……! というより思考放棄気味というか……!
このまま無言で顔を伏せていてもどうにもならない。とりあえず……上げるしかない。赤いんだか青いんだかもはや自分でもわからない顔を。そしてなんとか釈明するしかない……!
微々たるものだが、秘密を隠し通せる可能性はまだある……かもしれない……! 現状、崖に足の爪先だけで引っかかって落ちるか落ちないかわたわたしているようなものだけど……それでも、上手くやれば戻れるかもしれない……!
なんとか毅然として、『良い予想だけどハズレ』とか言えば……! いやそれだとあからさま過ぎるから、一部正解だけど一部ハズレとかにすれば……! そういう答えにすれば……!
それが成功するかどうかはわからないけど……やってみるしかない! だってそれしか道はない! 崖っぷちから助かる方法は、それしかない! 秘密を……私の仕事先を隠すためには!!
あと……社長!! 社長がどこに隠れてるかも見極めてやる! そして後でお説教をする!! 誰と一緒にいるためにこんなに頑張ってると思ってるんだ、って!!!
それなのに、ああも弄んできて! もしまたさっきの場所に…私の正面の壁とかに鎮座していたら、流石に許せな……――!
「――い゛っ!?!?!?」
「あっすん!? ちょっ、今度はどうしたん!!?」
「何その顔……!? 何見てるのアーちゃん……!?」
「そのように目を見開いて……どちらを見ていらして?」
「正面の壁…………ではないわね?」
私の表情に、驚愕する皆……! いやけど…もっと驚愕しているのは私!!! ちょっ……は!?!? なんで!!?!!?
ふざけてる!!? ふざけてる!!! えっ、ふざけてるの!!!? ふざけていますよね!!!!? なに!? これどういうこと!!?
そりゃ目もこれでもかってぐらい見開くに決まってる! 意味が分からなくて驚愕するにきまってる! なんで……なんで……なんで!!!?
なんで社長…円卓のど真ん中に、ちょこんと鎮座しているの!!!!!?????
私達グリモワルスの五人が囲む、悪魔星があしらわれた円卓。その中央に何故かいる社長の宝箱……! それはまるで、私達が召喚を行ったかのようで――……
いやそんな感想言ってる場合じゃなくない!!? もはや社長、隠れることすらしてない!!! 威風堂々と机の上に乗っかってきているっておかしくない!?!?!?
もう怒るとかそんなのを通り越して、唖然とするしかないのだけど!!! こんなことをしたら当然の如く、私以外に存在がバレてしまって……――
「……そんでアーちゃん、どうなの~? ミミック派遣会社?とアーちゃん、関係あるの~?」
「ちょ、駄目だってべぜたん! ……でもぶっちゃけ…あーしも気になっちゃったり……。さっきの番組のあれ、やっぱあっすんで合ってたん?」
――……ん? ちょっと待って……ベーゼ? ネルサ?
「話を変えなさいな2人共。――とは言っても、もう頃合いじゃないかしらアスト? そろそろ隠し事を明かす時でなくて?」
「どのような事情があるのかはわかりませんが……私達は貴女の判断を大切に致しますわ。お気のままにしてくださいまし」
……――いやだから待って……メマリア! ルーファエルデ! 皆口々に私の顔色を窺ってくるけど……そうじゃなくて!!! なんで!!?
なんで誰も、机の上の宝箱に言及しないの!!? まるで最初からそこにあったかのように!!!
一体どういうこと!!? さっき社長が壁際で見つかった時は、確かに皆そういう風に勘違いした。けど、これはおかしいでしょう!!!
だって皆からしたら、『バエル様が買い求めた芸術品が、動いて机の上に乗って来ている』状況!!! どう考えても違和感しかない!!! なのに、誰も眉1つ動かしてない!!?
――ハッ!! ……もしかして…皆、社長のことを事前に知っていた、とか!? この間みたいに、私だけ騙されていたオチ!!? それならば納得できるけど――……。
「そういえばアーちゃんが外で何してるか、聞いたことないや! そっか、その会社に居たんだ~!」
「なるほ★ なら色々詳しいのもわかるし~! ……あ! ならべぜたんが最初に聞いたダンジョン産食材、やっぱあっすんが関わってたんちゃう?」
「ふふっ、そういうことかもしれないわね。けどその真相は…アスト本人に語って貰いたいところよね?」
「もう、メマリア! 貴女、先程と言っていることが違いますわ! 話を変えるのではなくて!?」
……どうやらそういう訳ではないらしい。 え、じゃあなんで……!? 私の頭がおかしくなった……!?
「ちょっと待って皆! これ、なんとも思わないの……!?」
皆の問いに答える答えない以前に、こっちから聞かなければ! 円卓のど真ん中にいる宝箱を指さしながら! こんなわざとらしい物、無視できるわけが――……
「? え? この宝箱、ずっとあったでしょ?」
「そじゃない? 最初からあったわ★」
「えぇ、あったわね」
「これが如何いたしましたの?」
えぇえええっ……!?!?!? なんで!? まるで花瓶か何か、ティーセットの一部かのような扱い!!? なんで!? どうして!? 流石におかしいって思うでしょう!? だって――!
「これ、魔法の宝箱とかじゃないの!! ほら、魔法の宝箱はそこにあるでしょう!? というかこれ、さっき皆が見ていたバエル様のインテリア!! さっきの場所に無いでしょう!!?」
「……あれ? そういえば魔法の宝箱ここにあるや」
「ホントじゃん。あれ、じゃあこれ何なんだろ?」
「あら、バエル様のインテリアも消えているわね」
「本当ですわ。それがこれですの? はて、何故ここに?」
えぇええぇえええええっっっ!?!?!?!? なんでそんな……なんでそんな、把握はできたけど理解ができていないというような反応なの!? 皆揃いも揃って!!? なんでそんな『よくわからないけどまあ良いや』みたいな!!?
「「「「「それで……――」」」」
そして皆、平然と話を戻した!!? えっ、これやっぱり私がおかしいの!!? なんで!!? どういうこと!?!? いくら社長の力だとしても、何かおかしい!!
――いや、待った……。 そもそもこの宝箱、本当に社長……?
そういえば色々とおかしかった……。突然に現れて、掻き乱し出して……。挙句の果てにこうして机の上に乗っかって来て……。
そして皆はそれを理解できていないときた。間違いなくこの宝箱は社長のだけど……もしかして中身は違う……とか……? なにせ社長の姿は一回たりとも見ていないのだから……!
いやそれどころか、この宝箱自体が何か別な存在だという可能性がある……! そもそもこれは本当に宝箱なのだろうか……!?
わからない……何もわからない……! もしかしたら、なにか幻を見せられているのかもしれない……! それは否定していたはずだけど、ここまで来ると信憑性があ……――――!
―――パカッ!
「女子会中ごめんなさ~い! お邪魔しまーすっ!」
いややっぱり社長じゃんッっっっっ!!!!!
「「わああっ!!!?」」
「なっ……!?」
「ッ!?」
突如開いた宝箱を見て、そこからぱっかーんと出てきた社長を見て、声を揃えて椅子から転げ落ちんばかりに驚くベーゼ&ネルサ……! そこまでではないにしろ、扇子を取り落としそうになるメマリア……! えぇぇ……さっきまで意にすら介していなかったのに、なんで……!?
「何者ですの!?」
そしてルーファエルデに至っては立ち上がり、引き抜いた剣を社長に突きつけている! ううんそれだけじゃない。転げ落ちかけのベーゼネルサやメマリアの扇子を支えるように……私を含めた皆を守護するように、厳めしき騎士姿の召喚兵を一瞬で大量召喚し、構えさせている! いや本当、早い……! 私の召喚なんて目じゃないくらいの展開速度!!
加えて、社長を狙う数多の召喚刃も空中展開。まさしく円卓を囲む槍衾剣衾、まるで重厚なる檻が作り出されたかのよう……! 僅かにでも妙な動きを確認したら、刃も兵も一瞬で迫り、曲者を刺し穿ち切り刻むであろう……!!
「まあこうなるわよね~……」
しかしその曲者……もとい社長は肩を竦めるだけ。怯える様子は全く無し。……これ私、どうすれば……――
「何者かはわかりませんが、この場へ侵入を試みるとはなんたる不遜! ――いえ、私の、我がバエル家の不覚! 気づかぬ内にここまでの突破を許すなぞ……っ!」
ギリッと歯噛みをしたルーファエルデは、剣を構えたまま召使ベルに手を伸ばし――! ちょっ……!
「ちょっと待ってルーファエルデっ!!!」
「わぱっ!」
慌てて立ち上がり、半ばズッコケる形で社長を取り押さえる! 勢いあまって蓋をバタンと閉じちゃって、社長潰しちゃったけど……そのおかげか、ルーファエルデは一旦手を止めてくれた……!
「……? アストのお知り合いですの?」
「そうなのだけど……! 何故か勝手に来ちゃって……!」
「来ちゃいました☆」
パカリと蓋を少し開き、ピースで答える社長……! ルーファエルデは驚いた顔を。
「まあ……! しかしよくここまでいらっしゃいましたこと。ミミックとはいえ、我がバエル家の見張りを――……。……!」
ベルに向けていた手を目元に当てるルーファエルデ。これはもしかして……魔眼『戦眼』を発動してる!? って、剣を震わせながら後ずさりを!!?
「なっ……! こ、これは……! なんですのこの力……! ここまでの代物、見たことありませんわ!? 捉えきれません……可視化しきれませんわ!!? 何者ですの貴女様!!!? ――っぁ……!」
「「ルーファエルデ!?」」
「ルーちゃん!?」
「るふぁちん!?」
「っく……! いえ、お気になさらず……! あまりにもその御方の戦闘力が把握しきれず、魔眼が限界を迎えて軽い痛みが走っただけですの……!」
急にふらつくも、剣を床に立てなんとか堪えたルーファエルデ……! 嘘……まさかそこまで!? ステータスカンストどころじゃない!! ルーファエルデの戦眼をもってしても、社長の戦闘力は底知れないの!!?
「えっちょっ……! あーしも親睦眼を……! ――ふえっっ!?!?!?」
今度はネルサが魔眼を!? そして目を丸くして、なんだか顔を赤らめて!!?
「そのミミックの人とあっすん……! さっきのこれと一緒なんだけど!? このお仕置き部隊隊長&副隊長の、すっっっっっっごいラブラブ関係と!!?」
って、わわっ!!? しまっ――!!!!?
「……ほえ? つまり、どーいうこと? このミミックはルーちゃんでもびっくりするぐらい強くて、アーちゃん(仮)が抱っこしてるミミックとおんなじ関係、ってことは……」
「即ち、このミミックの方はアストの師匠。加えて、ミミック派遣会社に関係している……いえ、というよりも――」
―――カパッ!
「はーい! 私、ミミック派遣会社の社長をしております、ミミンと申しま~す! アストには私の秘書を務めて貰っていまして!!」
「ちょっと!!? 社長!!!?」
ベーゼメマリアの推測に、私の抑え込みを弾き再出現しながら答え合わせをする社長……! 最悪……! 爪先だけで崖に引っかかっていたところに、社長がどーんって勢いよくぶつかって来て落とされた気分!!
「本来グリモワルスの皆様方しか入れないこの会に不法侵入してしまい、申し訳ございません。ですが、少々事情がありまして――……」
「社長!!!」
皆に向けて深々と頭を下げだす社長を怒り気味に呼び止め、こちらを向かせる。すると…何故か社長自身も不本意という表情を浮かべて……?
「ごめんなさいね、アスト。……多分今の内から出ないと収拾がつかないから……」
「え? ……何を言ってるんです?」
「いやね。もう一人来てるの。私の箱の中に。要らないとは思ったし、ここに連れ込むのは危険だと主張したのだけど、どうしてもと言われて……」
箱の端をコツコツと突いて示す社長。……もう一人? 一体誰が……?
「アストなら薄々気づいているんじゃないかしら? あなただけは効果範囲外にして貰ってたから。……まあこうなるなら一緒くたにしたほうが良かったかもしれないけど……」
「あの……仰っていることがよく……?」
「違和感あったでしょ? 私、気づかれずに移動するのはお手の物だし、『始めからそこにあった』と確信を持たせるほどに場に溶け込むことぐらいは出来るけども……流石に全員の目の前に躍り出て、最初からあったと誤認させることなんて無理よ。あったかも?ぐらいならまだしもね」
「――ッ!」
その通り……! そこが変だと思っていたのだ。途中までは社長の所業だと信じることができたのだけど、この円卓に飛び乗ってからはあからさまに様子がおかしかった。まるで、私以外の皆が幻覚に囚われているような……ん!?
「え、じゃあ……!」
「そ! それができるヤツも一緒ってこと! 幻覚幻惑、認識改変すら可能なチャームを操る、アイツもね!」
そう言いながら社長、ベーゼの方も微かに見て……! まさかまさかまさか!!?
―――にゅぷんっ♡
「はぁい♡ 焦らされすぎちゃってもう我慢できないわぁ♡」
ひっ……! 本当に箱から出て来た!!? 何故か変な音を出しながら出てきた、もはや服を着てないレベルの露出度の、妖艶過ぎる彼女は!!!
「うふふ♡ お久しぶりねぇ、アストちゃん♡」
サキュバスクイーン、オルエさん!!!!?
応援ありがとうございます!
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