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顧客リスト№48 『バニーガールのイースターダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌

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「ぴょーん! とうとう私の出番だぴょーん!」

新緑と色とりどりのお花が咲き乱れる中、高ーくジャンピングするのはバニーガールのイスタ姫様。相変わらず元気一杯なご様子。

それに続き、仲間のバニーガールたちや眷属の兎たちもぴょんぴょんぴょーんと。更に、それに加えて―。


「ぴょーん!」


と、ウサ耳と専用バニースーツを身につけた社長が、宝箱ごとジャンピング。そしてそして―。

「「「ぴょぴょぴょーん!!!」」」

他のミミック達も、一斉に跳ね遊ぶ。暖かな陽気は、こんなにも皆を開放的にしてくれるのだ。


…え? 我が社のミミック達はこれが平常運転? バレちゃいましたか。








さて。唐突だが…以前訪問したとあるダンジョンを覚えているだろうか。バニーガールの『お月見ダンジョン』という場所を。

月が綺麗で、涼やかな夜が訪れる季節に開くそのダンジョンは、来訪者に所謂『宝探し』をさせ、揃えたものに幸運の加護を与えるという仕組みであった。


そしてここ、『イースターダンジョン』も、同じ仕組みのダンジョンなのである。






太陽が明るく、うららかな昼が訪れる季節。そんな時分に開放されるのがイースターダンジョン。

因みにお月見ダンジョンとは別の場所で開かれているのだが…基本的な造りは同じ。広いダンジョン土地内に、草原あり岩場あり池あり、竹林あり。

その何処かに隠してあるお宝達を全種見つけ、集めることができればこれまた別種の幸運の加護を付与して貰えるのである。




ただし、お月見ダンジョンとは違う点が幾つもある。まず、建っている建物。

お月見ダンジョンのほうは和風という木造の家屋だったが、ここは違う。卵である。

…うん。卵。外観は完全にカラフルな巨大卵。因みに今私達がいる本殿は、転がった卵や立っている卵が合わさった的な形をしている。




そして、バニーガール達の服装。実はこれも、前回とはかなり違っている。


そもそもバニーガールとは、人間よりの姿をした、兎の獣亜人。長くぴょこんと生えたウサ耳、モフンと小さく揺れるウサ尻尾、そして手足首それぞれの先がウサ毛に包まれた魔物。

そして彼女達が着ている伝統服が、あの『バニースーツ』のモデルになったとか。人間達が着ている、ちょっとエッチな、あれ。


ご存知、足は薄いストッキング。身体は胸をある程度隠せるレオタードの上だけのような、上胸の露出と下の食い込みが激しいうえに身体のラインがぴっちり出る特製服。そして基本的に黒とか白とかが多い。



但し、魔物のバニーガール達が着ているのは違う。お月見ダンジョンの時の彼女達の服は和柄が描かれており、帯や浴衣の袖を身につけた和風バニーと言うべき見た目であった。


そして―。このイースターダンジョン時の彼女達の服は更に違う。その身体のレオタードとかボンテージ部分。そこがで包まれているのだ。



ぶっちゃけ言うと、以前よりも兎っぽいっちゃ兎っぽい。いやまあ、ちょっとエッチなのには変わりないのだけど。

因みに中には、チューブトップとパンツ(両方ともふわふわの兎毛付き)姿のバニーガールの子も。もうそれはバニースーツではないのでは…?




そして、当然のように社長達もそのふわふわバニースーツを着ている。ウサ耳をつけて。


勿論私も。以前のように着ている。 え、ウサ耳をつけていないじゃないかって?

だって前もそうだったけど…。角のある私がウサ耳着けると属性過多になっちゃうから…。ふわふわデーモンガールで勘弁を…。








「ぴょーん! じゃ、お団子&お餅作りと、卵の配置を頑張っちゃおぴょーん!」

「「「ぴょーん!」」」

イスタ姫様に率いられ、みんなぴょんぴょんと臼杵の元や、各所へ準備に戻っていく。やっぱり揃って跳ねている。



そうそう、説明しそびれていた。お月見ダンジョンの時はとある宝物のレプリカを各所に配置したが…今回配置するのは『卵』である。


とはいっても、本物ではない。作り物。カラフルなペイントをされ、赤とか黄色とか緑とか、花模様とか波模様とか、ウサギ模様とかが描かれている。変に扱っても割れないからご安心を。



因みにお団子とお餅は季節に合わせ調整され、お月見ダンジョンから引き続き。三色団子とかチョコ団子とか桜餅とか、とても美味しそう。

変わっているのだと、卵型お団子とかも。中身に黄身を模したカスタード入りな。お腹空いてきちゃった。








…………へ? さっきから気になっていたけど、イスタ『姫様』というのが変? 見た感じお転婆っ子ではあるけど、姫様って言うには相応しくない?


あー…いや…うん…。まあ…うん…。 確かに…そうかもしれないのだけど…。 彼女、れっきとしたバニーガールのお姫様。なにせ、彼女の姉は…。





「ミミン社長、アストさん。 此度もわたくし達へのご助力、心よりの感謝を申し上げます」

と、私達へ深々と頭を下げてくださったのは、月の化身のような見目麗しさを誇る、バニーガールの女性。

彼女はカグヤ姫様。お月見ダンジョン時に、宝探しを完遂した者に幸運の加護を授けていた、あの御方である。


そう…イスタ姫様は、カグヤ姫様の妹君なのだ。 





落ち着いていて、涼やかな美しさを誇る月の如きカグヤ姫様。それに対するように、常に元気一杯で、快活な可愛らしさを誇る太陽の如きイスタ姫様。

そんな彼女達は、お月見ダンジョン時はカグヤ姫様、イースターダンジョン時はイスタ姫様というように、それぞれダンジョン主を交代しているのである。




なおこの間のお月見ダンジョンでは、イスタ姫様はダンジョン入口付近で客招きなど、色々動きまくっていたらしい。今回はイースターダンジョンのため、彼女は加護の授与役として本殿待機の予定。


その代わりに、カグヤ姫様が補助役としてお手伝い。…だからなのだろうけど…



「? どうされました? 私、何かおかしいでしょうか…?」


私の視線に、おずおずと首を傾げるカグヤ姫様。だって彼女、お月見ダンジョンの時は十二単を纏って静々とお姫様をしていた。

しかし今の彼女は…あのふわふわバニースーツだけを着ているのだ。イメージがすっごく違う。元が美人だから、問題なく似合ってはいるのだけど。


…あ、そういえばあの時も、十二単の下にバニースーツ着ていた。そしてその十二単はできれば着たくないとも言っていた…。


だけど、あの姿を知っている身からすると…なんていうのだろう。凄い露出度高いような…。…とんでもなく失礼だから、絶対に言うわけないけど。


因みに冒頭の皆でジャンプ、当然カグヤ姫様も元気に跳ねていた。ギャップが凄い。








「ぴょーん! 私からもお礼言わなきゃぴょん! ありがとっぴょん!」


そんな折、どこからともなくイスタ姫様の声が。直後、カグヤ姫様の真横にスタンとジャンプ着地をして現れた。

そんな彼女も、多少派手めの白毛バニースーツ。以前のカグヤ姫様のように厚着はしていない。


ただ、妙な物を手にしているのだが…?




「イスタ姫様、そのお持ちになっている…その、お団子?卵?が刺さった枝は何ですか? 輝いてますけど…」


恐る恐る聞いてみる。 彼女がくるくる弄っているのは、先が幾本にも細かく枝分かれした少し太めの枝。そしてその枝先には、何か丸いのが幾つもついている。

確かに、イースターバニーはそんな枝を持っている絵で描かれることがあるけど…。開花枝とかじゃない。


しかも私の魔眼『鑑識眼』で見ても、値段が出ないのだ。ただ、とんでもないレアものだとはわかるけど…。

だって、枝は金とか銀とかで出来てるし、ついている丸いのはキラキラ輝いているし、中には虹色のものもあるし…。



と、イスタ姫様、何も勿体ぶることなく、平然と答えた。


「これ? これが本物の『蓬莱の玉の枝』だぴょん!」



あぁ、これが例の…! …世界に一つしかないお宝なのに、イスタ姫様、バトンの如く振り回しているのだけど…良いのだろうか?


「これを持ってないと、私が主だってわからない人多いんだっぴょん!」


あぁうん…。そういうことで……。











みんなのぺったらぺったらこという心地よい餅つき音をBGMに、そのまま暫し歓談。と、イスタ姫様、話の流れでこんなことを。


「そうそう! この間のお月見ダンジョンの時、お姉ちゃんを抱きしめようとしてミミン社長におしおき食らった人間いるっぴょん?」

「いましたねー。でも、結構な人数を臼でどーんしたから、どの方でしょう?」


社長は笑いながらそう返す。 確かにあの時、ほぼひっきりなしに社長が臼落下でやらかす来訪者達をゴスッと鎮めていた。その音、外まで聞こえて来てたし。



もうちょっと詳しく説明しよう。絶世の美女であるカグヤ姫様に見惚れ、求婚したりする人が後を絶たなかったのだ。中には無理やり手籠めにしようとする人も。

その対策として、社長がカグヤ姫様の護衛を買って出たのである。臼に入って屋根裏に潜み、カグヤ姫様に危機が迫ったら、上からドーンと押し潰すという感じで。

成果は上々。数多の不躾な人を全て沈黙させたのであった。めでたしめでたし―。



まあそんな顛末であったのだが、どうやらその中の誰かについてらしい。イスタ姫様は、それもそうっぴょん!と大爆笑。


「私が案内した人っぴょんけど、なんかどっかの偉い人?みたいなので、お供も連れてた人っぴょん!」

「んー? あぁ! 最後に変な言葉を残して帰っていた王様ですね!」


思い出したらしく、ポンと手を打つ社長。そういえばそんな人、いたらしい。


「そうっぴょん!そうっぴょん! その人っぴょん!」


大当たりと言うように軽く跳ねるイスタ姫様。そして彼女は、そのままカグヤ姫様の肩にぴょんと抱き着いた。


「お姉ちゃん、あの人間と文通してるっぴょん!」








「実はあの後もお手紙を幾度かいただきまして…。そこにしたためられていたうたが実に美しく、つい返し詩を…。それ以降、ちょこちょこと」


雅な動作で照れくさそうにするカグヤ姫様。美し可愛い。と、イスタ姫様が羨ましそうに。


「いいなー。私もお姉ちゃんみたいに楽しい友達欲しいっぴょん!」


彼女の性格ならば、人魔問わず友達出来そうである。百人じゃ下らないぐらい。 私がそんなことを思っていると、社長がちょっと気になる様子で口を開いた。


「ご友人となれるなら良いのですが…イスタ姫様が襲われる可能性もあるのではないですか? カグヤ姫様と同じぐらい美人ですし」




そう。実はイスタ姫様、本当にカグヤ姫様とおんなじぐらいの美女なのだ。…纏ってるお転婆オーラのせいで案外わかりにくいが。


「私ぴょん? 私はお姉ちゃんみたいにおしとやかじゃないから、そんなことされたことないぴょん!」

当人も理解しているらしく、ケラケラと。そして、元気一杯に付け加えた。


「でも変な輩は大体うさキックで吹っ飛ばしてるから、その中にはいたのかもしれないっぴょんね!」


そう言いつつ、イスタ姫様は長い足を活かし、華麗な後ろ回し蹴り。スパンッと空気が鳴った。

やっぱりお転婆姫。壁とか簡単に蹴破りそうである。 かいしんのいちげきとかもよく出そう。





が、その直後。イスタ姫様はふと思い出したように手にした玉の枝をくるんと回す。

「あ、でもでも…。この枝を狙われたことはあるっぴょんね」


見るからに貴重品だもの、それも当然かもしれない。ならば、と社長は手を挙げた。

「一応、護衛としてお近くに潜みましょうか?」


「お! じゃあお願いしていいぴょん?」
「そうですね、私からもお願いいたします。 玉の枝より、イスタを守ってくださると幸いです」


イスタ姫様、そしてカグヤ姫様に頼まれ社長は快諾。―と、そんな折…。







「イスタ姫様ー! カグヤ姫様ー! ご用意できましたよー!」

バニーガールの1人が、ぴょんぴょんとこちらに。それを見たイスタ姫様が…。


「勝負っぴょん! ミミン社長、アストさん!」


…何故か、宣戦布告してきた…!?





「この間聞いたぴょん! 2人の餅つき速度、凄く速かったって! なら、私とお姉ちゃんの餅つき速度に敵うかぴょーん?」


なるほど、そういうこと。お月見ダンジョンの時は言ってなかったけど、確かにバニーガールたち顔負けの餅つきコンビネーションを披露したのだ。


それを見込んだラスボス…もとい姫様2人に挑まれたのならば、断る理由はない。私達も用意された臼の元に準備し―。




「よーいスタートっぴょん!」

いざ、勝負!




「いくぴょんよ! お姉ちゃん!」
「えぇ!」

「ぴょんっ!」「はいっ!」「ぴょんっ!」「はいっ!」「ぴょんっ!」「はいっ!」「ぴょんっ!」「はいっ!」「ぴょんっ!」「はいっ!」「ぴょんっ!」「はいっ!」「ぴょんっ!」「はいっ!」


イスタ姫様が杵をつき、カグヤ姫様が餅を捏ねる。その速度、尋常ではない…! 負けていられない!


「行くわよアスト!」
「任せてください!」


こちらも社長が杵を持ち、私が臼の傍に控え―!

「それっ!」「よいしょっ!」「それっ!」「よいしょっ!」「それっ!」「よいしょっ!」「それっ!」「よいしょっ!」「それっ!」「よいしょっ!」「それっ!」「よいしょっ!」「それっ!」「よいしょっ!」


バニーガールや兎、ミミック達が応援する白熱の餅つきバトル。結果は―。








「むむむむむ…。引き分けっぴょんか…! 流石ぴょんね…!」

まさかの…引き分け。ただし…。


「実質、姫様チームの勝ちですよぉ…。疲れたぁ…」

ぐでりとなる社長。私も、疲労困憊。だというのに姫様2人、肩で息すらしてない。


「ふふん! 毎日うさぎ跳びしているから体力には自信あるっぴょん!」


胸を張るイスタ姫様。あぁ…なるほど…。毎日スクワットしているような感じなんだ…。うさぎって凄い。


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