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顧客リスト№27 『ジャック・オ・ランタンのハロウィンダンジョン』

人間側 とある姉弟の仮装

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「「トリック・オア・トリート!」」

「ひゃー! 驚いたカボ! このマシュマロをあげるカボ!」

カボチャの家の一つを訪ねて、ジャック・オ・ランタンから綺麗に包装されたお菓子を貰う。わぁ!ゴーストみたいな顔が書いてある!可愛い! 

やっぱり食べるのちょっと勿体ない…あっ!弟が一口で食べちゃった!もー! 




私はとある村に住む女の子。今日は家族…お父さんとお母さん、それと弟と一緒にとあるダンジョンに来ているの。

え? ううん、別に冒険者とかじゃない。お母さん達は普通のお仕事だし、私も弟はそもそもまだ子供だし。あ、でも…子供なのに冒険者をしている強い子達もいるにはいるんだっけ?

まあ、それはおいといて…。多分、普通の子がなんでダンジョンにいるのかが気になっているんでしょ?

だいじょーぶ! ここのダンジョンは魔物出ないから! …ううん、魔物はたっくさんいる。それこそ、普通のダンジョンよりもいっぱい。 その普通のダンジョンを知らないんだけどね!

正しく言うなら、『襲ってくる狂暴な魔物』は一匹たりともいないってこと。だってここ、『ハロウィンダンジョン』なんだもの。




とある日の夜から期間限定で解放されるここ、ハロウィンダンジョン。冒険者ギルドが『安全』とお墨付きを出すぐらい安全。

入口の門代わりになっている、すっごい大きいかぼちゃランタンをくぐればあら不思議。中はほんのちょっと恐ろしくも、月明かりに負けないほどの温かく明るいカボチャな街並み。

おどろおどろしく、でも心躍る音楽をBGMに辺りを散策するだけでも楽しい。だって、周りには私達と同じように仮装した人達。そして仮装した魔物達があちらにもこちらにもいるんだから!



このダンジョンに入る条件は、仮装をすること。簡単なのでも、凝ったものでもいい。私は羽根と尻尾、角をつけた悪魔の恰好をしている。フォークみたいな槍も持っているの。

弟は白く大きいポンチョを着て、頭に手作りの紙製カボチャを被ってジャック・オ・ランタン。私もカボチャづくりを手伝ったんだけど、うまくできたと思ってる! 皆褒めてくれたし。

因みにお母さん達は紫とかのお化粧をして、ゾンビみたいな恰好している…んだけど、今は近くにいない。大人向けの苦めお菓子を食べに行ったり、知り合いに会いに行っているみたい。


子供だけでも心配いらない、ギルドが安全って言ってるんだもの。それに、周りにいる仮装している人達の中には冒険者が結構いるみたい。

普段来ているっぽい鎧をペイントしたり飾り付けたり、ちょっとセクシーな鎧を着たりしている人もいる。んー、本当の冒険者かわかんないかもだけど、魔物達も優しいから問題なし!

もし悪さする人がいても、ジャック・オ・ランタン達が大きいカボチャに詰めて追い出すみたいだから。



それにしても…本当、魔物が多い。仮装しているから、私達まで魔物になった気分になっちゃう。あと、魔物が別の魔物の仮装しているのも結構いるみたい。

ヴァンパイアの恰好をしているエルフがいれば、背中に羽をつけてドラゴンのワームの仮装をしているラミアがいる。

あっちのケンタウロスも羽をつけてるけど…口に嘴をつけてる。なんだろ。

「あれ、ヒポグリフだよ! 前に図鑑で見たもん!」

弟が自信満々に教えてくれた。へえー、そんな魔物もいるんだ。


ん? あっちにいるアラクネは赤い仮面をつけてる。そしてポーズを決めてる。

「正義の使者、スパイダーウーマン!」

って言ってる。






実は今日、私達にはあることが許されている。それは、『好きなだけお菓子を貰って食べていい』ということ。

いつも『ご飯前だから止めなさい』とか『食べ過ぎ』とか言われて没収されちゃって、お腹いっぱい食べられないお菓子を、今夜に限って好きなだけ食べていいの!

もう、夢みたい! お母さん達と一緒にいる時間も惜しく、待ち合わせ時間と場所だけ決めて走ってきちゃった。


早速貰ったマシュマロも美味しかったし、次はどこにトリック・オア・トリートしにいこうかなー。まだまだ、無限に食べられるし!

「おねーちゃん、あそこは?」

と、弟がとあるカボチャの家を指さす。そこには結構な列が出来ていた。あれ? よく見るとそこ、口みたいなのがあって、ペロンと舌みたいなのを出してる。


気になったから、並んでみることに。前に並んでいたお姉さんに、ちょっと質問。

「ここは何が貰えるんですかー?」

「あら、可愛い仮装ね~! どうやらね、宝箱型のクッキーシュークリームが貰えるみたい」

宝箱の形のクッキーシュー…! なにそれ面白そ!




ワクワクしながら順番を待ち、ついに私達の番。迎えてくれたのは、魔女の仮装をした美人のお姉さん。

でもよく見ると、そのお姉さんには角や羽、尻尾が。私が今つけているものよりもずっと立派で、カッコいい。多分あれ、直で生えている。

本物の悪魔のお姉さんだ…。思わず見とれてしまう私を余所に、弟は元気に合言葉を口にした。

「トリック・オア・トリート!」

「わぁ! カッコいいジャック・オ・ランタン! そっちのお姉ちゃんは、素敵な悪魔だね!」

悪魔のお姉さんはにっこり笑い、褒めてくれる。そしてお菓子を渡してくれ―

「あ、あれ? さっきので丁度品切れしちゃったんだった…」

手をすからせ、照れくさそうに頬を掻く悪魔のお姉さん。まさか、もう無いの…!? 


「すみませーん、社長ー! 追加お願いしまーす!」

と、お姉さんは家の奥に呼びかける。すると…

「はーい、ちょっと待っててねー」

そんな返答が。やった、まだあるみたい。するとお姉さん、私達の目の高さまでしゃがんでウインクしてきた。

「お菓子が無いから…ね?」

どうやらトリック…悪戯をしてもいいってことみたい。でも、こんな綺麗なお姉さんに悪戯するのは気が引けちゃう。

だから、弟に任せることにした。こいつ、悪戯っ子だし。


「え、えーと…えーと…」

と、思ったら弟も迷ってる様子。突然悪戯して良いって言われて困っちゃった感じ。いつも怒られるのに。

「じゃあ私から悪戯させてね。私に悪戯しないと、お菓子あげなーい」

見かねたおねーさんが手を差し伸べてくれた。お許しが出たからこれで安心…かと思いきや、弟はまだ唸ってる。どうやら何の悪戯をしようか必死に頭を巡らせているみたい。


「アスト、追加もってきたわよー!」

そうこうしているうちに、奥から誰かが。カラフルな魔女の仮装をした、弟並みに小さい子…えっ!かぼちゃに乗って移動してるんだけど!?

「ありがとうございます、社長」

それを受け取るため、軽く立ち上がりくるりと後ろを向く悪魔のお姉さん。それと同時に、弟の目がキラリと光った…気がした。

その時、私はすっかり忘れていた。弟の悪戯レパートリーの一つ、それは…。

「えーい!」
バサッ!

スカート捲りだということを。



「きゃあっ!!?」

甲高い声をあげる悪魔のお姉さん。…そして、私達も、後ろに並んでいる人達も見てしまった。お姉さんの黒めなスカートの下には…。

「「かぼちゃパンツだ…!」」

お尻にジャック・オ・ランタンの顔が描かれたオレンジドロワーズが…!



顔を赤らめ、慌ててスカートを押さえる悪魔のお姉さんに代わり、カボチャに乗った女の子が私達の前に。クッキーシューを渡してくれた。

「履いててよかったでしょーアスト」

悪魔のお姉さんをケラケラと笑う女の子。呆然としていると、私達の後ろに並んでいたカップルがこそこそと話していた。

「あの小さい子って…もしかしてミミックなの…?」
「あぁ、しかも上位のだ…! しかし、良いモン見れたなぁ…! 痛てて!耳引っ張らないでくれ!」

ミミックって、宝箱に入っている魔物じゃないの? あ、でもクッキーシュー宝箱型だし…。

はっ! そんなこと思ってる場合じゃない! 弟を謝らせなきゃ…! と、ミミックの女の子が人差し指を口に当ててきた。

「しー。気にしなくていいのよ、お菓子が無かったんだから! 誘ったのアストだしね。ねー?」

「うぅ…そうですけどぉ…!」

「地味なの着てるから悪戯が過激にされるのよ。もっと派手なの着なさいな。そろそろ交代の時間だし、私に任せて着替えてきていいわよ」

「うー…! わかりましたよ、はっちゃけてやりますよ!」

多分何着てても、スカートだったら弟は捲ってたと思うけど…。吹っ切れた様子の悪魔のお姉さんに、私はそのことを言えなかった。





「「美味しーい!」」

クッキー生地の皮で象られた宝箱の蓋には、白い砂糖だけじゃなくジャムを固めたのがちょこんと乗っていて赤い宝石のよう。そして半開きの中身には甘いクリームがたっぷり。しかも金箔までかかっていて財宝みたい。

まさに絶品。あっという間に食べちゃった。でも…まだまだ物足りない!

「おねーちゃん、もっとお菓子貰いに行こ!」

「うん!」


それから色んな家を周り、沢山お菓子をゲット。弟が頭に被っていたカボチャの帽子をお菓子入れにするほど。因みに悪戯も何回かされ、ほっぺたに幾つか絵を描かれた。

正直全部食べたいけれど、ちょっと我慢。 お母さん達にお裾分けしよ!






「「お母さん、お父さん! トリート・オア・トリート!」」

待ち合わせ場所であるカボチャの机へと。弟と二人で考えた言葉を、座っていたお母さん達の背にぶつける。

2人共揃って振り向いてくれたけど…そこにはもう一人、別の人が。

「オ。トリート、欲シイノカ?」

ちょっと変わった声なのは、スケルトンの仮装をした…ひっ!?!? 仮装じゃない…!!本物の骨…!本物のスケルトンだ…!

思わず後ずさりする私。弟に至ってはそんな私の背に隠れちゃった。するとそのスケルトンはカタカタと笑った。

「マア、ソリャア怖イヨナ!ホレ、オ菓子アゲルゾ」

頭蓋骨をパカッとあけ、中から個装されたクッキーを取り出すスケルトン。しっかり骨の形している。

それでもなお不信感を浮かべている私達に、お母さん達は笑いながら教えてくれた。

「この人は『ボン』さんよ。 前話したことあるでしょう?スケルトンになった親戚の話」


確かに、そんな人がいるって聞いたことがある…。でもその人が、コレ…!? よく見ると、カボチャのペイントとかで仮装しているけど…。

「普通にダンジョンに会いに行くのはちょっと怖いけど、こういう人魔合同のイベントの時は気兼ねなく会えるから嬉しいな」

お父さんもニッコニコ。悪い人じゃ…ないのかな…?



最初はちょっと怖かった骨の顔も、少し経ってしまえば案外見慣れてしまうもの。気づけば家族揃って、スケルトンのボンさんと一緒にお菓子を楽しんでいた。

と、そんな折だった。


「あ、ボンさーん! プキンさんが探してましたよ?」

どこかで聞いたことのある声に、振り向く。すると、そこにいたのは…。

「あ」
「あ」

声があっちゃった。だって、さっきの悪魔のお姉さんだったんだもん。


でも、先程の魔女衣装じゃなく、ピンクのナース服。ちょっとだけ描かれた血っぽい模様が、悪魔の羽や尻尾と合わさって意外とお洒落に見えちゃう。

そして、抱えているのは大きい救急箱…? 一体なんだろ…?

パカッ!

「がおー! お前も包帯巻きにしてやろうかー!」


「「ひゃあっ!?」」

突然蓋を開け出てきたのは、包帯でぐるぐる巻きの女の子。驚いちゃった…! あれ、この子…。

「オー、社長! 『マミー』ノコスプレカ?」

ボンさんが呼んだ通り、やっぱりあの時のミミックの女の子。その子はふふーんと笑った。

「マミーというより、包帯ぐるぐる女みたいな感じですけどね! アストに合わせたんです!」


他にもありますよ!といってパタンと蓋を閉じ箱の中に籠る社長さん。僅かな間ごそごそと揺れ…。

パカッ
「ポリス衣装に合わせて囚人服!」

再び現れた際には、黒と白の横縞服を着ていた。どうやって着替えたんだろ。そう驚いていると、またも箱の中にパタン、そしてパカリ。

「こっちは豹柄タイツの時用の、鹿角コス!」

瞬く間の早着替え。草食動物の様な角とタイツを着てる。更に更にとパタン、パカリ。

「じゃーん! スーツ姿!」

今度はシックなジャケット。小さいのに、見事に着こなしてる。バリバリ仕事できそう。

あれ?悪魔のお姉さん、なんか悶えてる。「全部可愛い…」って呟いてもいるんだけど。



「さ、まだまだハロウィンナイトは終わらないわよー! レッツゴーアスト!」

私達に手を振り、どこかへと去っていくミミックの社長さんと悪魔のお姉さんのコンビ。

あれ? ミミックの社長さん、箱からカボチャを取り出して…お姉さんの頭に被せた!? パンプキンヘッドナースだ…。
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