在りし日をこの手に

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明日を生き残る為に

空気は薄く、意志は受け継がれる。

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その日空からは水が落ちてきた、12時を過ぎたはずなのに空はまだ暗い…こんな日は気が滅入る。

「息がし辛いな、この世の中は」

 どんよりとした厚い雲を睨みつけ、誰かが呟いた。マスクを付け直し深く呼吸を正す。

 その誰かは人ではなかった。人なら息苦しい時、呼吸の邪魔をするマスクなんてつけないからだ。
 そのが手をかざすと、すかさず蔦の腰掛けが生えた。

「草原は刈り取られ、森はビルに変わった。酸素は薄くなり、気温は高まる。人間とは我々の害獣だとはよく言ったモノだ。」

 何かが腰をかけ、地球を眺めているとまたかがそのモノにひざまづいた。

、この最近孵化したての兄弟がすぐ枯れてしまいます。」

 現れた者は人生の全てを経験してきた様な老体であった。しかし、それでも腰掛けるモノに対しては深く深く頭を下げている。

「末端はどうでもいい、アイツらは生まれて朽ちるだけでも意味がある。いや、それが生きる意味なのだ。それよりゼウス、私の半身はどうした。まだ見つからないのか?」

 ゼウス、老体の名はゼウスだった。

「その事なのですが、なにぶん頭数が足りず手掛かりすら掴めないのです。」

 ゼウスは震えていた、母の望みに答えられないことで叱責を受けるのではないかと。しかし、母は違った。ゼウスをそっと抱きしめたのだ。

「構わん、見つける事は私の願いだ。我らプラントの種族の為ではない。」

「母…君」

 ゼウスは涙を堪えていた。この寛大さを全身で感じる為に。
 浸る刹那、ゼウスに嫌な感覚が全身に走る。

「やはり、奴らか…葉にも満たぬ先端どもでは生まれても生きながらえることができない。なんども、なんども、我が子たちが死ぬ…これでは悲しみが増すだけだ。」

 天を仰ぎ、哀しむ。この行為に種族の差はなかった。

「私のは全員目覚めたのだろう。の筆頭であるお前達が率いて人間を滅ぼし、私の半身を見つけるのだ。」

「失礼ですが母君、時期尚早かと。まだに連絡が取れておりませぬ。それにも協調性が足りません。今の状態だと一度で滅ぼすことは出来ません。」

 老体ゼウスは長々と反戦の主張をした、人は弱いが何度も復興の機会を与えるとその度に雑草の様に駆除するのが面倒になると。

 その言葉で母は冷静さを取り戻した。彼女も知っているのだ、その滅亡の失態が現在に繋がっていると。

「ならば人類には猶予を与えよう。我々が動くのは私が現世に慣れるまでにゼウス、アグニ、ノアで私の半身を手に入れるのだ。」

「了解致しました」

 老体が返事をすると同時に、その空間は太陽に覆われたかの様に白に包まれ、その後思い出したかのように轟音が鳴り響く。
 老体はそこにいなかった。

「いずれ…太古の、全てが平等に与えられた緑色の世界を…あの在りし日を、この手に・・・・・・・・・・

─その日、清潔で真っ白だった部屋は黒く染まっていた。別れを惜しむ声が聞こえる。

「コイツは、同期だった。同じ訓練をしていつも競い合うように飯を食っていた。死ぬなら同じ時だと思っていた。」

 木の箱に寄り添う様に跪く男がつぶやいた。今は、先の作戦で亡くなった者の葬儀が行われているのだ。

(先輩…)

 秘密裏の組織と言えど、仲間の死を弔わないはずは無い。そして、この死んだ男に庇われた神木蓮も同じく俯いていた。

「なぁあんたが神木蓮か?」

「はい、そうです。」

 蓮に話しかけたのは先程、棺の横で嘆いていた同期の男だった。

「アイツの最後はどうだった、立派だったか?」

「はい。倉木先輩は、状況を直ぐに把握してそして敵に一矢報いた後に…」

「そうか。後輩も庇って、一矢報いて…」

 男は悲しそうで、それでも何処か微笑んだ。蓮はその様子に謝ろうとした、しかしその瞬間に同期の男は胸元を掴んだのだ。

「お前が謝るな。アイツの死の意味が無くなる。俺たちはこうやって思いを託し、託されてきたんだ。お前はアイツの想いも持って人を救うんだ…」

 彼は涙を流していた。それは友を失った悲痛の意味だろう。

「はい…勿論です」

 俺に、もう一人分の生きる意味ができた。いや先輩が受け継いできたモノを含めると、もっと多くの人の為に生きなければならなくなったのだろう。
 いずれ俺がこの意志を人に渡すことも…
いや、まだ俺は預けてくれた人に報いていない。そんな事を考える意味はない。
 生きなければ、生きて人を救わなければ。  
 俺は拳を固く握っていた。
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