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明日を生き残る為に
後退するな、進化の為に。
しおりを挟む(さぁ、どうしたものか。煙幕で姿を隠せるのはいいが逆に相手の位置が掴めない。プラントは擬態のスペシャリストと言っても過言ではないからな。こちらはただ相手に見つからない様に漏れ出る情報を抑えねば)
阿波木は視界が完全に白の空間にいる。これは先ほどの逃走を計る際に撒いた煙幕が残留した空間だ。この状況は阿波木にとって幸運であり、また不幸でもある。敵に見つかる事は無いのだが味方も見つけられない。
(花子め適当な事言いやがって。何がこれ以上素晴らしい道具は無い、だ。これでは探知出来るプラントがいたら我々の方が追い詰められるじゃないか)
この男、怒ってはいるが冷静でもあった。
(ふむ、相手は沈黙。蔦が強力なタイプだから直感というか勘は鈍い様だ。枯らした筈の壁の蔦が元気に蠢いているのを見れば、人探しに躍起になってるのが見え見えだ)
煙は依然として濃いままだった。これが晴れるときは部隊の全滅を意味すると思い、時間が経つほど阿波木の額に汗が浮かぶ。
(居た)
その隊員は足を負傷していた。阿波木はその隊員を煙の外へ逃し、処置をした。
「副隊長…あと2人、俺の近くに居ました。意識を失ってます。」
「ああ、お前らの車には神木含めて5人乗ってたからソイツらで最後だな。」
「蓮は生きてたんですね。良かった」
「お前も無事でよかった。よく生きててくれたな。」
阿波木はまた煙に入る。さっきより視界がはっきりしている。そろそろ花子の守りも無くなるのだろう。しかし、ギリギリセーフと言ったところだろうか。阿波木は二人目を見つける事ができた。
「痛いよォー!誰かー前が見えないんだ~助けてくれぇー!」
一歩ずつ踏む出していると、その助けを呼ぶ声はどんどん大きく聞こえる。
(アイツ…!少しは静かに出来ないのか!)
急いで隊員へ近づく阿波木。隊員の叫びは弱まるのどころかより響き渡る様になった。
「おい静かにしろ!見つかったらどうするんだ?!静かに…は?」
俯く仲間の顔を覗くと、阿波木は思い知らされた。奴らの邪悪さを、賢しさを。
「あハっ♪みイつけたァ~」
「ッ!クソがぁ!」
隊員だと思ったのは魂の籠ってない人形に過ぎなかった。体には大穴が開き、口も唾液を溢れさせながら脱力している。目もプラントは餌に使ったのだ、自分を誘き寄せるために、大事な仲間を…
そう気付くには余りにも遅すぎた。阿波木の腹にもヤツの蔦が─
──
どこだ?阿波木副隊長は。煙たいし、不気味なくらい音が聞こえない。真夜中の方がマシだな…
(副隊長が見つからない…これじゃ俺の方が先に退場するかもしれないな。)
出来たのは気配を消して歩くことだけ。壁に手を付き、探り探り進む。静かだ…コツコツ聞こえるプラントの音しか聞こえない。
─ピピッ!耳元で大きな音がした。
『あ、あー。聞こえるかね神木くん。君、教えを乞うたはずなのに通話を着るとはどういう了見かね。私がシステムをハックして通話するのにどれだけの─』
(あ、たしかに電話切ってた。俺)
グチグチ言うのは、煙に入る前に阿波木副隊長と通話してた人だった。どうやら俺が通話を切ったことで怒ってるらしい。
『と、説教はもういいか。君突入したんだね?だったら返事は結構。私の言うことを水飲み鳥の様に素直を頷いて聞きなさい』
ふざけた調子とは異なりこの人は状況判断力が並じゃないみたいだ。もしかしてすごい人なのかも…?
『あれ?今君頷いた???うなずいたよねェ?誰も見てない通話中だってのに頷くってアハハ!』
撤回、この人は紫苑さんと同類の天才なんだ。
『んん!それで今君は突入したのはいいが目的地が分からない。そうだろう?だから対プラント戦で視界を失った時の対処法を教えてあげよう。』
やっと有益な話が始まる。
『能力を持つ君にはある事ができる。それはプラントの意思を読み取る事だ。恐らく君は先程から金属を叩くような音が聞こえてるはずだ。』
既に知っている。それは俺はそれを知らなかったから、先輩を殺してしまったから。
『それはね、普通の人間には聞こえない六感の様な物だと思ってもらって構わない。今は知覚した君がそれを応用することが大事だ。その音は植物が危険を伝えるために使う電気信号の音だ。そこには奴らの言語や行動が載せられている。今君がするべきなのは知覚した音を精巧に聞き取る事、要は集中だ。まだ奴らの言葉は理解できないだろうがその方向や動きは分かる筈だ。』
植物の電気信号…言葉まで分かるのか。あれでも、プラントってヒトの言葉話してなかった?
あぁ、駄目だ。集中しなきゃ…聞き取るなんて訳分からないけど、今はするしかない…!
目を瞑り、聴覚を信頼する
─コツ…コツ…ココツ…ツ。
言われてみれば音が違う様な気がする。単に金属音と言ってもアルミと鉄で音が違う様に、響き方が…音の高さが違う?
─カツンッ!!!
今の音!1番高かった!ってあれ、違いが分かっても何を意味してるか分からないぞ?
─バキ!!
異様な音に思わず目を開けた。すると目の前には一際大きな蔦の柱ができていた。
「ちょっ!うおおお!!」
何事か分からず殴った、全力で。
『どうしたんだ?!そんな大声出したら見つかってしまうぞ!』
「…分かりました。一際高い音はアイツがすぐ近くまで来てるって事なんですね。」
『む、そこまで分かったのか。いやはや癒瘡木の言っていた飲み込みの速さは確からしいね』
「お褒めありがとうございます。ですけどまずいです。さっきから踏切みたいな危険な音が止まないんです」
…囲まれたのだろう。しかも幾重にも音はある。生きて出られるだろうか。
『65-02シールドハルバード』
「へ?」
イヤホン越しに聴きなれない単語が飛び出してきて、思わず聞き返してしまう。
『君の武器だ。帳簿を盗み見させてもらったよ。何で急に、なんて思うかい?それはね、その武器こそ今の君の状況を打破する物だからだよ』
「でも、俺使い方がイマイチ…ただのメリケンサックに見えたので」
イヤホン越しに大きなため息が聞こえる。
『使い方なら任せなさい。何せその武器を作った天才技術者とは私─葉子なんだからね!完璧にアシストするよ!』
「…あぁ、じゃあ葉子さん。相手の蔦に囲まれたって時はどうしますか?」
話しすぎたみたいだ。煙も薄くなり、その様子が見えた。俺の周囲には蔦があり、それは針のようになっており俺の方を向いていた。
『武器をよく見なさい、各指にボタンが付いてるだろう?その人差し指のトリガーを押すんだ。』
たしかにある…信じるしか無いな。
押すとまず隊服が変形した口元は覆われマスクのようになった。次は腕だ、付けていたメリケンサックはそのサイズから有り得ないはずの巨大化を見せ高圧洗浄機の先端の様な形に手を覆った。
『ソイツは薬剤散布機ハーケイス、トリガーを押すと花子印の薬品が出てくるぞ!』
なるほど…先輩達が使ってたやつか、なら効果は分かる。
やるしか無い…
「うぉおおお!」
トリガーを押し、散布を開始する。高圧で出される様で薬剤が外れる心配はなかった。
─カチッカチ!
薬剤が切れた呑気な音が響くと我に返った。そして、効果を実感した。さっきまで俺を囲ってた蔦は俺の周りで枯れていたのだ。
「すげぇな…花子薬」
『私の機械も褒めてもらいたいものだね。解除は小指のボタンだぞ。』
あ、間違えた。褒めなかったら機嫌が悪くなった。どうにかして話題を…
「ほんと助かりました。これってハルバードって名前でしたよね。斧、槍、槌の合わさった武器と同じ名前ですがもしかして他にも機能が?」
『…!君、分かるのか…?』
「?え、まぁ一応。」
『そうか!そうか!そうなんだよ!あれは私が武器開発を始めて5年目だったね。新たな武器を作るために過去の武器の研究をしてたら、偶然見つけてあ、これだなんて思って─』
不味った。この人武器オタクだ。また足止めくらわない様に話半分で聞いて、進もう…
イヤホンの音を無視して、スウ─と深呼吸をする。
俺はまた耳に集中した。
─カン…カン…カン!
左だ、その先の道で何か変わった音が聞こえる。静かに近づくと角から変わった音のする道を覗く。すると、先にヒトの気配がした。目を凝らすと阿波木副隊長だと言う事がわかった。
近づくことにした。勿論、静かにだ。
煙は薄くなりつつあったがまだ先は見づらい。その時だった。
─カンカン!!!
一際高い音がする。プラントが近くにいるのだ。
(一体どこに…)
すぐに分かった。それは[殺意]。副隊長を向いていて、今まさに攻撃しようとしてるところだった。
「まずい!葉子さん、防御はどうやって出来ますか?!」
『ん?あーシールドだね。それなら親指のスイッチだ』
─カチ!
全力で走りながら、迷わず押した。するとこれまたメリケンのサイズとは合わない盾が腕に付いた。
「間に合わな…」
蔦は俺より早かった。もう少しで副隊長を…
「死なせるものか!」
誰かの声が聞こえた。『出し惜しみは後悔の根源だ』と、確かにその通りだ。もう後悔はしたくない。
─ドン!!!
俺の足はコンクリートに穴を開けた。これは自己強化による身体能力の向上をしたためだ。これは体のできてない俺には負荷が多い。癒疱木隊長にも止める様言われた、でも今は全力で間に合わせるために力を解放する!
一瞬で距離を詰めた俺は速度のまま蔦を弾き飛ばした。
「神木…?!」
「間に合って良かった。でも、不味いですよ。またアレです。」
「アレとはなんだ?」
「踏切みたいな、危険な音です。」
カンカンカンカン…!一際大きな音が鳴ると煙は晴れた、そして角を曲がってやつは姿を見せる。緑のドレスをきた、体長2メートルを超えるプラント。深々と帽子をかぶってる様に見える頭からは、確かに相手の核が見えた。
「さて神木。」
「はい副隊長。」
「倒すぞ、奴を。」
「了解!」
『逃げる事は不可能、なら進め!後退に進化は得られない!』
─ドン!
俺はまたあの加速を使う、副隊長は武器の用意をし出した。俺は核を狙うため、副隊長は敵の意識を俺に向けさせない為に。
「クソが!クソが!ニンゲン風情がヨ!よくも私の自慢の髪を破壊してくレタわね、絶対に楽に死ナセナイ!腹をサした男みたくお前らの死体デ人形弄びしてやるワ!」
今まで以上に高音が響く、これが殺意という奴だろう。音が高まるのと同時に地面のコンクリートが割れ、無数の蔦が出てきた。その一つに足を取られる。でも大丈夫だ。
─バン!
周囲の蔦が破裂音と共に散る。阿波木副隊長の援護だ。
第二小隊は珍しい部隊だった。隊のほとんどは癒瘡木隊長に倣い、肉弾戦を得意とする。しかし肉弾戦では本来相性の悪いはずのプラントを倒して結果を残していた。それは副隊長である阿波木のサポートが合っての事だった。
阿波木俊一はHRI銃撃手ランキング1位の男だ。
訓練の時に何度も見た、あの精度を。だから安心して進める。
「クソウゼェ!まずは後ろノヤツだ!」
─ボコン
阿波木の後ろでコンクリートが割れる音がする。標的を絞ってきたと言う事だろう。
「狙撃手なら近距離で戦えば楽だと思ったか?甘いんだよ。」
─ザシュ!
現れた大型の蔦を難なく切り伏せる阿波木。
「俺はこっちもメインだ」
「クソ!クソ!ここでオわるはずじゃないのに!オカあ様に、認められて!私モ!神の子に─」
奴が意識を変えた瞬間、俺は飛んでいた。高い頭の弱点を狙うため。
『あとは力に任して全力で叩け!』
「食らえ!人間の底力ァ!」
─ゴチュ!
生々しい感触と共に実感した、戦いが終わったことを。ヤツはまた奇妙な声を上げて、悶えてる。そのうち危険な音はしなくなった。何もアイツからは聞こえない、倒したからだろう。
「よくやった蓮。私も焦りすぎてたな、いつもの調子で対峙できてたら援軍は要らなかった。」
彼はとても悔しそうな顔をしていた。
「…副隊長、これで報われますかね。先輩は、俺を庇った倉石哲木という男は。」
「あぁ…アイツなら大丈夫だろう。あの調子なら天国でも元気にやってけるだろうし、お前の成長を見れて満足に逝ったよ。」
「…ですね。あの人はそう言う人でしたね。」
後悔は残る。けれど、この戦いで俺はまた成長したのだろう。1人を助けられなかった俺は、次に2人を救う。そうやってできることを増やすんだ。あ、でもマズい…眠気が─
──
目覚めると見たことのある天井、つまりは医務室に居た。
「報告不足に、上官の待機命令の無視。その上1人を死なせた。その責任は重いぞ。」
ベットの側に大男がいる。癒瘡木隊長だ…
「すみませんでした。」
「だが、我々は教育を怠った。慢心していた、そもそも部隊なのだから個人に罰則なんてものは無い。全て連帯責任だ。だから、気負うなよく生きててくれた。神木」
てっきりこっ酷く怒られるものだと思っていた。だから安心というか、何か不思議な気持ちだ。
「あり、がとう…ございます。」
生きてるだけで褒められたのは初めてだ。
「そうだ、仮入隊だったお前にも正式な辞令が下った。神木蓮、お前は第四小隊で戦え。」
「承知しました。」
─
第四小隊…一体どんなところだろう。言われた通りに小隊室の扉に来たのはいいけど、なんかボロボロじゃね?
「神木蓮です!失礼します!」
とりあえず入ってみることにした。中はもっと凄かった。書類の山?そして何かの残骸も残ってる。
「あぁ!よく来てくれたね!」
山から1人の女性が出てくる。見たことある感じだ。
「あれ?花子さん?」
「…!姉とは会っていたのか。残念ながら私は花子ではないよ、この隊の隊長を務めてる葉子と言う者だ。これからよろしくな新人」
「ええ!葉子ってええ!?電話の?!」
驚いたのも束の間、違和感に気付いた。人が何人か倒れてる。
「あのこの方々は…」
「あぁ、君の先輩達だよ。今は疲れて眠ってるだけさ」
あぁ、そうなのか。じゃないでしょうに!
「新人か…ここは駄目だ…にげ、ろ…」
駄目ってなんすか?!え?逃げろって言われたけど!
葉子さんの方に目をやると不気味な笑みをしていた。新しいおもちゃを手に入れた子供の様な。得体の知れない恐怖を感じる。
あぁ、第二小隊の皆さん。俺、そっちの方が良かったかも知れないです。ここ、色々と怖すぎます。うまくやっていけるでしょうか。
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