29 / 32
第1章 Come in the Rain
28. 寂れた医院
しおりを挟む
「へぇー。すごいね、霊媒って」
「いお天才だし。こんぐらいよゆー」
少女と青年の声が聞こえて、目を開いた。
「レヴィくんも、記憶見せてくれてありがとう」
「礼には及ばん。事態の解明のために必要と判断したまでだ」
レヴィがいる……って、ことは、少なくともわかりやすく危ない奴はいなさそう……かな。
何か、見慣れない夢を見ていた気がする。
いつの間に連れて来られたのかわからないけど、気付けば病院……? みたいなところにいた。
ツンとした、薬品の匂いが漂っている。
部屋はそこまで広くなく、掃除されてはいるけれど、家具や小物の置き方のせいか雑然とした雰囲気が否めない。
「ローランドくん。僕ら、しばらくここにいたら首とか胴体とか落ちるから、早めに要件済まそうね」
亜麻色の髪の人が、なんか言ってる。
突然、首や胴体が落ちるとか、怖いことを言われても困るんだけど……。
「……首が……? 大変だね」
「いや、君もだからね???」
「や、やめろよ。俺、幽霊苦手なんだって……」
「待ってどこから突っ込めばいいの!? えーと、明るい方のイオリちゃん、こういう幽霊への接し方わかる?」
「そっとしといたらいいと思うよ。距離感保ってたら安全なタイプじゃん。ちょー楽」
イオリ……って、さっきも名前を聞いた気がする、けど……。
さっきの子とは、なんだろう。違う気がする。喋り方というか、雰囲気というか……。
「僕は? 安全?」
「カミーユさんは……たまにキモいだけ?」
「キモい」
「うん、顔めっちゃいいから許すけど、時々めっちゃキモい」
素直すぎる言葉に、絶句するカミーユ。
その沈黙を打ち破り、誰かが爆笑した。男性の声……だけど、俺の知り合いではなさそう。
「うっっっわ、キモいとか言われてやがんの。ざまあ~~~~」
「ごめんイオリちゃん、ちょっとグリゴリー殴ってくる」
「やんのかコラ。俺とお前の喧嘩なんて底辺同士の泥仕合にしかならないけどね!! チクショウ!!」
白衣の男が奥から姿を現す。グリゴリー……って、言うのか。
卑屈そうな感じが、ロッドにどこか似ているかもしれない。……ロッドはもっと優しいけど。
「いお、顔的にはカミーユさんが勝つ方に一票入れたいけど、オッサンのがまだ強そう」
「オッサンって呼ぶのやめよ? 俺、そこの変態より年下だからね?」
「別に勝ち負けとかどうでもいいんだよね。むしろ負けた方がイイ時もあるし」
「そういうとこだぞお前」
「僕もそう思った」
喧騒をよそに、目の前の机に置かれたメモを見る。
上の方に「Levi」と書いて……あれ……霞んでよく読めない……?
目の前で自分の指を立ててみる。見えるけど、何本立ててるのかちょっとわからない。……なるほどな、じゃあ、読めないのも仕方ないか。
「あっ、そろそろ首落ちそう」
「ぎゃあああああああ帰れ!!!!」
「ローランドくん回収しないとだから手伝って! その子、自分の限界わからないから!!」
「あー、魂が消耗してる系? それ、本人しんどいだけだから、早めに成仏っといた方が良くね?」
「後で聞く!! レヴィくーん!! あれどこ行ったのあの子!?」
「お前がイオリと話してる隙に、殺人鬼みたいな顔で出てったぞ。胸が痛くてイライラするって」
「あ~~~~あの子、イライラしたら窓ガラスとか割りたくなっちゃうらしいし、仕方ないね」
「つかレヴィさん、ぶっちゃけ怨霊系だし。尾崎さんよりちょい理性強めなだけっぽい」
周りがやたらうるさい。誰が誰だかわかんないけど、楽しそうなのはわかる。
……っていうか、このメモ……持って行った方がいいのかな。
「待っ、もう無理! 落ちる!」
「ここで落とすなボケぇええ!!! もっと頑張れよ!! お前やればできるだろイケメンなんだしよぉ!!!」
「それ顔関係なくない?」
「ここでグロ画像見せんな!! 窓の外放り投げんぞ!!」
「えっ何それ最高。やって」
「もうやだこの人ーーーー!!!」
とりあえず、メモを手に取って、近くで文字を追ってみる。
その瞬間、指先から伝わった感覚が、静電気のようにばちりと弾けた。
「それ、あんま触んない方がいーよ。つか、カミーユさんが持ってた方が良さげ」
少女の声が、やけに響いて聞こえる。
「……あー。……『それ』じゃ、成仏も無理かぁ」
続けて、少女が語る。
ジョウブツ……って、なんだろう?
「……って、あれ? そういえば、なんで言葉通じてるの?」
床に転がった「何か」が喋る。
……あれは生首じゃない。生首に見えるけど、絶対違う何かだ。生首が喋るわけがないし、生首であっていいはずがない。
「ブライアンが頑張ってくれてる~。才能すごくね? そのうち何語喋っても通じるよーになるかも」
「……えっと……なんの才能?」
「呪術?」
会話が遠くなっていく。
意識が「どこか」へと引っ張られていく。
身体の感覚が、遠ざかっていく。
あれ、ここは……
「どうも、アドルフ・グルーべです」
隻腕の男が目の前にいる。
病院……には、見えない。薬品の匂いがどこからもしない。
無機質なエントランスが広がっている。状況も立ち位置もよくわからないけど、「警察署だ」ということだけは、わかる。
「初めまして、辞令は聞いていると思います。僕が、キース・サリンジャーです」
……ん? これ、喋ってるの……俺、か……?
意識が「キース」のものと混ざり合い、「俺」が分からなくなる。
受け入れるな。抗え。救いを求めろ。
……そう、誰かの言葉が蘇る。
俺の感情をよそに、「キース」は語り続ける。
それでも、「俺」の意識までは失われなかった。
身体の自由が効かないまま、わずかな思考だけは「俺」のものとして存在している。
ふわふわと現実感のない、夢のような感覚が続く。
時間の流れがあるような、ないような、中途半端な空間にいる。
書庫に辿り着いた時、また、思考が働いた。
……そう、だ。これ……もしかしたら……
大事な情報だけでも、抜き出しておければ……
ぎこちない動きで、指先を伸ばす。上手く、指が動かない。自分の身体として動かせない。
ああ……そうだ。そもそも、これ、俺の身体じゃなかった、はず。
兄さんの身体を借りてて、そこに、また別のものが混ざってて……だった、ような、気がする。だから……今は、ダメ、なの……かも、しれない。
「巡回」と、聞こえた……気が、する。警察署、の……外に、踏み出す。たむろ……して、いた、赤毛の男に、声、を、かける。
「だから、なんでオレがここいたら困るんだよ。特に何もしねーのによ……」
ああ、今は、もう……限界、か……な……
「いお天才だし。こんぐらいよゆー」
少女と青年の声が聞こえて、目を開いた。
「レヴィくんも、記憶見せてくれてありがとう」
「礼には及ばん。事態の解明のために必要と判断したまでだ」
レヴィがいる……って、ことは、少なくともわかりやすく危ない奴はいなさそう……かな。
何か、見慣れない夢を見ていた気がする。
いつの間に連れて来られたのかわからないけど、気付けば病院……? みたいなところにいた。
ツンとした、薬品の匂いが漂っている。
部屋はそこまで広くなく、掃除されてはいるけれど、家具や小物の置き方のせいか雑然とした雰囲気が否めない。
「ローランドくん。僕ら、しばらくここにいたら首とか胴体とか落ちるから、早めに要件済まそうね」
亜麻色の髪の人が、なんか言ってる。
突然、首や胴体が落ちるとか、怖いことを言われても困るんだけど……。
「……首が……? 大変だね」
「いや、君もだからね???」
「や、やめろよ。俺、幽霊苦手なんだって……」
「待ってどこから突っ込めばいいの!? えーと、明るい方のイオリちゃん、こういう幽霊への接し方わかる?」
「そっとしといたらいいと思うよ。距離感保ってたら安全なタイプじゃん。ちょー楽」
イオリ……って、さっきも名前を聞いた気がする、けど……。
さっきの子とは、なんだろう。違う気がする。喋り方というか、雰囲気というか……。
「僕は? 安全?」
「カミーユさんは……たまにキモいだけ?」
「キモい」
「うん、顔めっちゃいいから許すけど、時々めっちゃキモい」
素直すぎる言葉に、絶句するカミーユ。
その沈黙を打ち破り、誰かが爆笑した。男性の声……だけど、俺の知り合いではなさそう。
「うっっっわ、キモいとか言われてやがんの。ざまあ~~~~」
「ごめんイオリちゃん、ちょっとグリゴリー殴ってくる」
「やんのかコラ。俺とお前の喧嘩なんて底辺同士の泥仕合にしかならないけどね!! チクショウ!!」
白衣の男が奥から姿を現す。グリゴリー……って、言うのか。
卑屈そうな感じが、ロッドにどこか似ているかもしれない。……ロッドはもっと優しいけど。
「いお、顔的にはカミーユさんが勝つ方に一票入れたいけど、オッサンのがまだ強そう」
「オッサンって呼ぶのやめよ? 俺、そこの変態より年下だからね?」
「別に勝ち負けとかどうでもいいんだよね。むしろ負けた方がイイ時もあるし」
「そういうとこだぞお前」
「僕もそう思った」
喧騒をよそに、目の前の机に置かれたメモを見る。
上の方に「Levi」と書いて……あれ……霞んでよく読めない……?
目の前で自分の指を立ててみる。見えるけど、何本立ててるのかちょっとわからない。……なるほどな、じゃあ、読めないのも仕方ないか。
「あっ、そろそろ首落ちそう」
「ぎゃあああああああ帰れ!!!!」
「ローランドくん回収しないとだから手伝って! その子、自分の限界わからないから!!」
「あー、魂が消耗してる系? それ、本人しんどいだけだから、早めに成仏っといた方が良くね?」
「後で聞く!! レヴィくーん!! あれどこ行ったのあの子!?」
「お前がイオリと話してる隙に、殺人鬼みたいな顔で出てったぞ。胸が痛くてイライラするって」
「あ~~~~あの子、イライラしたら窓ガラスとか割りたくなっちゃうらしいし、仕方ないね」
「つかレヴィさん、ぶっちゃけ怨霊系だし。尾崎さんよりちょい理性強めなだけっぽい」
周りがやたらうるさい。誰が誰だかわかんないけど、楽しそうなのはわかる。
……っていうか、このメモ……持って行った方がいいのかな。
「待っ、もう無理! 落ちる!」
「ここで落とすなボケぇええ!!! もっと頑張れよ!! お前やればできるだろイケメンなんだしよぉ!!!」
「それ顔関係なくない?」
「ここでグロ画像見せんな!! 窓の外放り投げんぞ!!」
「えっ何それ最高。やって」
「もうやだこの人ーーーー!!!」
とりあえず、メモを手に取って、近くで文字を追ってみる。
その瞬間、指先から伝わった感覚が、静電気のようにばちりと弾けた。
「それ、あんま触んない方がいーよ。つか、カミーユさんが持ってた方が良さげ」
少女の声が、やけに響いて聞こえる。
「……あー。……『それ』じゃ、成仏も無理かぁ」
続けて、少女が語る。
ジョウブツ……って、なんだろう?
「……って、あれ? そういえば、なんで言葉通じてるの?」
床に転がった「何か」が喋る。
……あれは生首じゃない。生首に見えるけど、絶対違う何かだ。生首が喋るわけがないし、生首であっていいはずがない。
「ブライアンが頑張ってくれてる~。才能すごくね? そのうち何語喋っても通じるよーになるかも」
「……えっと……なんの才能?」
「呪術?」
会話が遠くなっていく。
意識が「どこか」へと引っ張られていく。
身体の感覚が、遠ざかっていく。
あれ、ここは……
「どうも、アドルフ・グルーべです」
隻腕の男が目の前にいる。
病院……には、見えない。薬品の匂いがどこからもしない。
無機質なエントランスが広がっている。状況も立ち位置もよくわからないけど、「警察署だ」ということだけは、わかる。
「初めまして、辞令は聞いていると思います。僕が、キース・サリンジャーです」
……ん? これ、喋ってるの……俺、か……?
意識が「キース」のものと混ざり合い、「俺」が分からなくなる。
受け入れるな。抗え。救いを求めろ。
……そう、誰かの言葉が蘇る。
俺の感情をよそに、「キース」は語り続ける。
それでも、「俺」の意識までは失われなかった。
身体の自由が効かないまま、わずかな思考だけは「俺」のものとして存在している。
ふわふわと現実感のない、夢のような感覚が続く。
時間の流れがあるような、ないような、中途半端な空間にいる。
書庫に辿り着いた時、また、思考が働いた。
……そう、だ。これ……もしかしたら……
大事な情報だけでも、抜き出しておければ……
ぎこちない動きで、指先を伸ばす。上手く、指が動かない。自分の身体として動かせない。
ああ……そうだ。そもそも、これ、俺の身体じゃなかった、はず。
兄さんの身体を借りてて、そこに、また別のものが混ざってて……だった、ような、気がする。だから……今は、ダメ、なの……かも、しれない。
「巡回」と、聞こえた……気が、する。警察署、の……外に、踏み出す。たむろ……して、いた、赤毛の男に、声、を、かける。
「だから、なんでオレがここいたら困るんだよ。特に何もしねーのによ……」
ああ、今は、もう……限界、か……な……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる