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一章

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 あまりの事態に、状況を飲み込むのに一拍ほど遅れた。
 殿下は、どうやらお父様に蹴り飛ばされたらしい。

「気安く私の娘に触るんじゃない、この若造が!!」

 わたくしをぎゅっとしながらお父様が叫ぶ。
 それを気にも留めずにすぐさま復活すると、彼はシュンと音がしたかのように飛ばされた先からこちらにやってきて、お父様のその言葉に応戦した。

「なっ! 心を貰えたら結婚しても良いと言ったではないか父上!!」
「五月蝿い五月蝿い五月蝿~い!! 触って良いとは言っとらん!! 大体最初っから気に食わなかったのだ、自分の方がメルティをいっとう好きだという顔をしてっ!!」
「それは、だなっ……ずっとずっと前から好きだったのだ、それ位良いではないか父上!!」
「ええいっ鬱陶うっとうしい!! まだ貴様の父親になどなっておらぬ!! 結婚なんてさせん!!!!」
「そんな……! ずるいぞ父上!! 俺だってメルティを愛でたいのに!!」

 言い合ううちにお互い興奮してきたのと腹が立ってきたらしく、お父様がわたくしを離して殿下に詰め寄る。
 彼の方も迎え撃つ気満々で、至近距離でお父様をにらみ返した。

「ふん! お前が私のメルティの何を知っている? ハイハイもよちよち歩きも見た事のない新参者が!! 私なんか『ぜったい、と~たまとけっこんしゅるの~!』って言われたんだぞ?!!」

 そう言うとお父様が殿下の胸ぐらを掴む。
 負けず彼もお父様の胸ぐらを掴み返しながら喧嘩を売り出した。

「……ふっ。言葉を返すようだが、やっつで心を決めてからのメルティのおはようからおやすみまで、着替えと用達しと入浴は駄目絶対! の下に日常のやや全て! 俺の手中にあるといっても過言ではない!!」
「ず、ずるいぞお前!! 親の私も我慢していたのに!!」
「それほど俺の愛は重い! 甘く見ないでもらおうか父上!!」
「……こんのっ、ど変態!!!!」
「見くびるなよ父上……今の俺にはもう、変態は褒め言葉だ!!!!」

 二人ともいよいよ殴りかかるかといったその時。

 スパァァァァン! スパァァァァン!

 収拾がつかなくなりそうなのを、すかさずお母様が両成敗とばかりに扇子で殴った。
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