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抱いてください……
しおりを挟む「美緒、気分はどうだ?」
「誠一さん…私はもう大丈夫です。」
誠二さんが帰ってきてから、私は二日間ベッドの上で過ごしていた。
大丈夫だというのに誠一さんが寝ておきなさいと……
私の体を気遣って言ってくれているのはわかる。
だけどこのベッドで一人で寝ていると誠二さんのことばかり考えてしまう。
誠二さんと抱き合ったこと、共に流した涙、そして誠二さんの結婚
誠二さんが結婚するなら……ちゃんと笑顔でおめでとうって言わなきゃって
何度も頭の中では言い聞かせているのに――
中々整理がつかずにいた。
「お母様。」
「永一…」
「もう大丈夫だからね。心配しないでね。」
「……お手紙書いてきました。」
「手紙?ありがとう永一。」
「じゃあ行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
「じゃあ永一を送ってくる。まだ寝ておきなさい。家事は人を雇ったから。」
「あ……はい、わかりました。行ってらっしゃい。」
元気なのに家事もせずにベッドの上で寝ている私って
誠一さんにとって、永一にとってどんな存在なのだろう
ベッドの上に寝ている人形になった気分――
そんな風に考えてはダメと気持ちを切り替えるためにも
永一にもらった手紙を開けてみた。
【お母様。お母様の笑った顔が見たいです。】
「永一……」
私はこうやってベッドの上で寝ているから
永一はこういう風に手紙に書いてきたと思っていた。
子供がくれるパワーってすごい。
こんなにも愛おしく可愛い存在を手放したくはない。
きっと今家を出て行っても永一はどんな手を使われても奪われてしまう。
誠二さんだって大切だけど永一だって私にとっては大切な人。
ベッドから起き上がって誠二さんの部屋へまた行ってみた。
窓の淵の土汚れはそのまま――
誠二さん、どうして結婚するのに私にキスしたの?
どういう意味のキスだったの……?
あんな、優しいキスをされたら
またあなたを考えては胸が苦しくなる。
「奥様!」
「え?」
「ダメですよ。起き上がっては……寝ておかないと。」
誠一さんが雇ったお世話係の人にベッドへ連れて行こうとする。
「あら?ここ汚れていますね。」
お世話係が窓の淵の土を取ろうとした瞬間
「大丈夫です!」
自分でも何でこんなことを言ってしまったんだろう……
言った自分にも驚いてしまった。
「あの……もう気分がいいので私がやりますから。せっかく来ていただいて申し訳ないのですが帰っていただいても大丈夫です。」
「それでは誠一様が……」
「大丈夫です。ちゃんと私から主人に伝えますから。」
人にとっては汚いものだと思う。
だけど私にとっては――
誠二さんと私の関係は
誰にも消されたくない記憶なんだ。
「美緒…お手伝いさんを返したって本当なのか?」
「はい。もう大丈夫ですから。ご飯作って待っています。」
電話の主は誠一さんで誠二さんが帰ってきてからは
誠一さんはさらに心配性になった。
きっとお手伝いさんを用意したのは誠二さんが近づいてこないようにするためもあると思う。
もう、誠二さんはほかの人と結婚するというのに――
“ピンポーン”
「誰…?あ……」
「すごーい!豪邸みたいに綺麗!」
「円花さん……」
「急にごめんなさい。でも連絡先知らなくて…」
「そうよね。お茶いれるわね。」
「いいんです。私急いでて…あの誠二の部屋ってどこですか?」
「え…誠二さんの部屋ですか?」
「誠二がこの家に置いてある私物を取りに行ってほしいって言われて……」
「あ……それならこっちです。」
もう、この家に来ることはないってことだ。
そうだよね、それが正しい。
私の我儘だけど誠二さんが家にいなくても
誠二さんの絵に囲まれているあの部屋は私の癒しの空間だった。
「絵ばっかり…これじゃ家に置くとこないな~」
円花さんは誠二さんの服だけをボストンバックに詰め始めた。
もともと少ない枚数しかない服はすぐに詰め終わる。
「じゃあ、ここの部屋にある絵は捨てちゃってください。」
「……え?」
こんなにも素敵な絵ばかりなのに……あっさりと捨ててしまってもいいの?
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