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真相究明
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流石に見慣れた真っ白な天井を捉えた俺は思わず叫ぶ。
「もう1人いた……!」
メイラともう1人、少し若く見えた俺は泣いていて、情緒不安定そうで冷徹に話すメイラと違い感情が剥き出しだった。あれだ、と俺の勘が言っている。何せどれも俺なのだからその確信は外れていない筈だ。
「あいつが俺の頭痛くしたり泣き喚いてたやつだ……」
つまりだ、俺の中にはメイラともう1人いるのだ。それはつまり今この体は現状3人の人格で成り立っているって事なのか。
「え、英羅……?」
あまりの衝撃的な事実に周りのことなど全く見えていなかった。弱々しい声の先には来夏が目を見開いてベッドの横にいた。なんだか随分と顔色が悪い気がする。
「わ、悪い気づかなかった。俺どんくらい寝て……」
「英羅!!!」
言い終わる前に来夏が飛びついて来た。身体を起こそうとしていた俺はまたベッドへ押し倒される。
「ら、来夏?」
「心配した……!」
「え?あ、そうか俺突然倒れたしな」
「それだけじゃ無いよ!英羅それから4日も眠ったままで……!!」
「……4日ああ?」
そう言えばやけに体が重たい気がする。あんな一瞬の会話が4日だと?なんて燃費の悪さだ。しかも強制的に目覚めさせられたし全てが不完全燃焼。震える来夏の頭を撫でながらさてどうするかと考える。
自分の中でメイラと会って何となくでも状況を知ったおかげか、この前までぐるぐる悩んで落ち込みそうな気持ちは今は感じ無い。どんどん病みがヒートアップしそうになるのはあの泣いていた高校生くらいの俺のせいなのだ。
メイラはマジで冷たいしくよくよ泣くようなやつとは思えなかった。ちなみに若い俺の事はメイラジュニアと呼ぼう。
「ごめんな来夏、心配かけて」
「…………うん」
ぽん、ぽん、と一定のリズムで頭を撫で続けるとようやく来夏も落ち着いて来たのか顔を上げた。涙で目を潤ませながら心細くて不安そうな子供みたいな顔。せっかく綺麗な顔なのにクマまである。
「飯食ってないだろ、顔色悪いぞ」
「……君が居なきゃ食べる意味なんて」
「そう言うこと言うなよ、美味しいって笑う来夏が好きなのに」
言った瞬間来夏の身体が一気に硬直した気がした。同時に俺も固まる。てゆか俺いまなんて言った?
「……好き?」
「あ、いや、癒されるなあって」
むやみやたらに好きを言わないようにしていたのだがなんだかスルッと出てきた好きの言葉に俺の方が驚いている。来夏は俺の答えに少し驚いた顔をしながらもそっかとようやく小さな笑顔を見せた。
「珍しい、英羅がそう言うふうに言うの」
「んー……そう、かもな」
多分、見たからだ。
泣き腫らした目をする俺を。
「知秋は?」
「……リビングにいるよ。あいつ英羅が倒れてから1度も様子も見にこない」
怒りの滲んだ鋭い目つきは来夏にしては珍しい。確かにあそこまで俺を好きだと言う知秋が倒れた俺を見に来る様子が無いって言うのは不思議な気がした。ただでさえあいつもともと面倒見良いのに。
「さすがに愛想でもつかされたかね」
「そんな事があるなら僕はすぐにでもあいつを追い出すよ」
俺の茶化しに来夏が殺意すらこもっているような口調で返した。怖えって。
「ま、騒がせたし声かけるか」
「ダメ」
「え?」
「今は、だめ」
こんなにはっきりとノーを言う来夏なんて珍しい。様子を見にこなかった知秋に怒っているだけでは無さそうな雰囲気に首を傾げる。
「何で?」
「……今」
虫でも口に入れたくらい嫌悪に眉を顰めた来夏が一瞬リビングの方に視線を泳がせた。
「知秋が、アイツを呼んだから。英羅の事放っておいてあんなヤツ呼ぶなんて信じられない!!!」
「あ、アイツってだれ。とりあえず落ち着け来夏」
もはや切れてる来夏の腕を引っ張り落ち着かせる。アイツって誰だ。この家にこれる人なんて……。
「まさか、初早希か?!」
そう言って立ちあがろうとするが身体が言うことを聞かない。あれなんでこんな力入らないんだろう。
「そんなすぐに立てるわけないよ、ずっと点滴だったんだ。君はここにいて部屋から出なくて良い……本当に何であんなやつ」
嫌がる来夏には申し訳無いが俺はもうこの機会を逃す訳にはいかない。今俺はメイラの存在を知ってから1番客観的に物事を考えられている。焦ってもいないし、どうするかを冷静に考えられる。その上で今キーとなる存在は初早希なのだ。
第三者であり、数少ないメイラの思惑を知っている人間。
「来夏、初早希と話したい」
「嫌だ」
「頼む。初早希は俺にとって、と言うかメイラにとって結構重要なんだよ」
「……どう言う、意味?」
来夏がどう捉えたのか分からないが、良く無い方向に向いているらしい。不機嫌丸出しと言うか前に俺に足枷つけて出て行った時に近いくらい綺麗な顔で怒りを表している。だが俺もそれで怯んでいる場合では無い。
「お前ら2人のために、初早希と話したい」
両手で来夏の頬を包んでしっかりと瞳を見つめる。すると途端に来夏の表情から力が抜けた。眉を下げ泣きそうな顔でずるいと呟く。
「ごめん、来夏の嫌がる事したくないけど、お前らのために俺のお願い聞いてくれよ。初早希と話したって俺はお前らから逃げたり離れたりしないから」
メイラは好きにしろと言った。好きにするさ、俺なりに2人と向き合った上でメイラを引き摺り出してやるさ。そしてもう1人の俺も。
「……歩けないと思うから、捕まって」
渋々、それでも来夏は優しく俺を持ち上げた。細身だと思ってもこんなに綺麗でも来夏もちゃんと男なんだなとぼんやり思う。首に巻き付いた俺を支えながら背中をゆっくりとさすってくれる。来夏はこう言う優しさを持っていた。この寄り添うような優しさが好きだったんだろうか。
なぁメイラジュニア。
いや、聞こえてるんだろメイラも。本当は分かってるんだろ。だってお前らその部屋に居たんだから全部俺だろ、たとえ分裂していたって元はひとつの俺だろ。
だから本当はさ、好きだったんだろ。
泣くほど来夏と知秋の事、本当は好きだったんだろ。
「もう1人いた……!」
メイラともう1人、少し若く見えた俺は泣いていて、情緒不安定そうで冷徹に話すメイラと違い感情が剥き出しだった。あれだ、と俺の勘が言っている。何せどれも俺なのだからその確信は外れていない筈だ。
「あいつが俺の頭痛くしたり泣き喚いてたやつだ……」
つまりだ、俺の中にはメイラともう1人いるのだ。それはつまり今この体は現状3人の人格で成り立っているって事なのか。
「え、英羅……?」
あまりの衝撃的な事実に周りのことなど全く見えていなかった。弱々しい声の先には来夏が目を見開いてベッドの横にいた。なんだか随分と顔色が悪い気がする。
「わ、悪い気づかなかった。俺どんくらい寝て……」
「英羅!!!」
言い終わる前に来夏が飛びついて来た。身体を起こそうとしていた俺はまたベッドへ押し倒される。
「ら、来夏?」
「心配した……!」
「え?あ、そうか俺突然倒れたしな」
「それだけじゃ無いよ!英羅それから4日も眠ったままで……!!」
「……4日ああ?」
そう言えばやけに体が重たい気がする。あんな一瞬の会話が4日だと?なんて燃費の悪さだ。しかも強制的に目覚めさせられたし全てが不完全燃焼。震える来夏の頭を撫でながらさてどうするかと考える。
自分の中でメイラと会って何となくでも状況を知ったおかげか、この前までぐるぐる悩んで落ち込みそうな気持ちは今は感じ無い。どんどん病みがヒートアップしそうになるのはあの泣いていた高校生くらいの俺のせいなのだ。
メイラはマジで冷たいしくよくよ泣くようなやつとは思えなかった。ちなみに若い俺の事はメイラジュニアと呼ぼう。
「ごめんな来夏、心配かけて」
「…………うん」
ぽん、ぽん、と一定のリズムで頭を撫で続けるとようやく来夏も落ち着いて来たのか顔を上げた。涙で目を潤ませながら心細くて不安そうな子供みたいな顔。せっかく綺麗な顔なのにクマまである。
「飯食ってないだろ、顔色悪いぞ」
「……君が居なきゃ食べる意味なんて」
「そう言うこと言うなよ、美味しいって笑う来夏が好きなのに」
言った瞬間来夏の身体が一気に硬直した気がした。同時に俺も固まる。てゆか俺いまなんて言った?
「……好き?」
「あ、いや、癒されるなあって」
むやみやたらに好きを言わないようにしていたのだがなんだかスルッと出てきた好きの言葉に俺の方が驚いている。来夏は俺の答えに少し驚いた顔をしながらもそっかとようやく小さな笑顔を見せた。
「珍しい、英羅がそう言うふうに言うの」
「んー……そう、かもな」
多分、見たからだ。
泣き腫らした目をする俺を。
「知秋は?」
「……リビングにいるよ。あいつ英羅が倒れてから1度も様子も見にこない」
怒りの滲んだ鋭い目つきは来夏にしては珍しい。確かにあそこまで俺を好きだと言う知秋が倒れた俺を見に来る様子が無いって言うのは不思議な気がした。ただでさえあいつもともと面倒見良いのに。
「さすがに愛想でもつかされたかね」
「そんな事があるなら僕はすぐにでもあいつを追い出すよ」
俺の茶化しに来夏が殺意すらこもっているような口調で返した。怖えって。
「ま、騒がせたし声かけるか」
「ダメ」
「え?」
「今は、だめ」
こんなにはっきりとノーを言う来夏なんて珍しい。様子を見にこなかった知秋に怒っているだけでは無さそうな雰囲気に首を傾げる。
「何で?」
「……今」
虫でも口に入れたくらい嫌悪に眉を顰めた来夏が一瞬リビングの方に視線を泳がせた。
「知秋が、アイツを呼んだから。英羅の事放っておいてあんなヤツ呼ぶなんて信じられない!!!」
「あ、アイツってだれ。とりあえず落ち着け来夏」
もはや切れてる来夏の腕を引っ張り落ち着かせる。アイツって誰だ。この家にこれる人なんて……。
「まさか、初早希か?!」
そう言って立ちあがろうとするが身体が言うことを聞かない。あれなんでこんな力入らないんだろう。
「そんなすぐに立てるわけないよ、ずっと点滴だったんだ。君はここにいて部屋から出なくて良い……本当に何であんなやつ」
嫌がる来夏には申し訳無いが俺はもうこの機会を逃す訳にはいかない。今俺はメイラの存在を知ってから1番客観的に物事を考えられている。焦ってもいないし、どうするかを冷静に考えられる。その上で今キーとなる存在は初早希なのだ。
第三者であり、数少ないメイラの思惑を知っている人間。
「来夏、初早希と話したい」
「嫌だ」
「頼む。初早希は俺にとって、と言うかメイラにとって結構重要なんだよ」
「……どう言う、意味?」
来夏がどう捉えたのか分からないが、良く無い方向に向いているらしい。不機嫌丸出しと言うか前に俺に足枷つけて出て行った時に近いくらい綺麗な顔で怒りを表している。だが俺もそれで怯んでいる場合では無い。
「お前ら2人のために、初早希と話したい」
両手で来夏の頬を包んでしっかりと瞳を見つめる。すると途端に来夏の表情から力が抜けた。眉を下げ泣きそうな顔でずるいと呟く。
「ごめん、来夏の嫌がる事したくないけど、お前らのために俺のお願い聞いてくれよ。初早希と話したって俺はお前らから逃げたり離れたりしないから」
メイラは好きにしろと言った。好きにするさ、俺なりに2人と向き合った上でメイラを引き摺り出してやるさ。そしてもう1人の俺も。
「……歩けないと思うから、捕まって」
渋々、それでも来夏は優しく俺を持ち上げた。細身だと思ってもこんなに綺麗でも来夏もちゃんと男なんだなとぼんやり思う。首に巻き付いた俺を支えながら背中をゆっくりとさすってくれる。来夏はこう言う優しさを持っていた。この寄り添うような優しさが好きだったんだろうか。
なぁメイラジュニア。
いや、聞こえてるんだろメイラも。本当は分かってるんだろ。だってお前らその部屋に居たんだから全部俺だろ、たとえ分裂していたって元はひとつの俺だろ。
だから本当はさ、好きだったんだろ。
泣くほど来夏と知秋の事、本当は好きだったんだろ。
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