23 / 75
軌道修正
9
しおりを挟む「まあ、いろいろあって……正直に言うと、わたしが大きな不祥事をやらかしちゃって……家出……っていうか、姉さんともどもクリューガー家を追放されちゃったの」
ミクが悲しそうに語る。
「本当にやむをえない理由だったの。でも、実家が世間体を気にして……それぐらい大変な出来事が起きたのよ。両親も、本音ではそうしたくなかったみたい。それに、工房としても優秀な技術者であるミクを失ったのは、凄く痛手だったの。そこで、こっそりだけどこのイフカの街で、ミクはクリューガー家から秘密裏に支援を受けて、研究・開発を続けているわ。この街の魔導アイテムショップなら、クリューガー家関連の商人が出入りしてもおかしくないでしょう? 実際、クリューガーブランドの商品を扱う店は他にもいくつもあるわけだし、隠れ蓑としても最適……これ、ライナス君だから話せる秘密だからね。絶対に他の人に言っちゃダメよ」
メルが詳細を説明し、その内容をライナスは素直に信じた。
「なるほど……いろいろ事情があるんですね……僕も、実家を飛び出して来たっていうのは同じですし」
「……ライ君も? どうして?」
ミクが意外そうに聞いてきた。
「一つは、行方不明になった父を捜すこと。もう一つは、それが原因で収入源が途絶えているので、僕も強くなって、このイフカのような場所を拠点として、ハンターとして稼ぎたいっていう思いがあったこと……祖父からは、『おまえにまでもしものことがあったら、アインハルト家は潰れてしまう』ってたしなめられましたが」
「……なるほど、お互い複雑な事情があるのね……うん? アインハルトって、なんか聞いたことがあるような気がする……」
ミクはなにかを思い出そうとしていたが、
「いや、一騎士の家系だから、そんなに名が知られたものではないよ……それより、その『黒蜥蜴』、本当に僕が使わせてもらってもいいのかな?」
本音では、試作品と言うことで少し不安はあったのだが、クリューガーの製品、しかも「+3」レベルならば、無料で貸してもらえるのは本来あり得ないぐらいの幸運だ。
まあ、実際はそこまでの性能ではなく、まがい物かもしれないが、普通にインナーとして使えれば問題は無い。
「もちろん! ……あ、でも、残り一つしか無いから、大事に使ってね」
「えっ、一つ?」
「そっ、私が着てる分だけ。後で渡すから、着てみてね!」
「いや、でも……サイズとか、かなり違うんじゃ……」
身長で言えば、1.5メールそこそこのミクに対し、ライナスは1.8メール以上ある。
体重ならば、倍……下手をすれば2.5倍ぐらいの差がありそうだ。
しかし、そんな小柄なミクの体格に、「黒蜥蜴」は適合していた。
「あ、これは充魔石の魔力が発動したら、収縮してピタッと体型に合うようになっているだけ。本当はブカブカなの。ライくんだと、ちょっと小さいかもしれないけど、すごく伸縮性があって丈夫だから、全然平気よ……じゃあ、早速着替えてくるね!」
ミクはそう言うと、また店の奥に引っ込んだ。
「……ミクがあんなにはしゃいで、嬉しそうにしているのは久しぶり。よっぽど貴方のこと、気に入ったのね」
メルが目を細めて、ライナスに語りかけた。
「いえ、そんな……」
「……ミクのこと、どう思う?」
「えっ、どういうって……その、元気で明るい店員さんだなって思います。あと、話が上手だな、とも。本当に、あの『黒蜥蜴』、凄そうに聞こえましたから」
「ああ、そっちね。『黒蜥蜴』の性能が高いのは本当だけど、もっと凄いのはミクの才能なんだけどね……今のクリューガーでも随一の技術者。そうは見えないと思うけど……あの子、私のせいで、大変な目に遭っちゃったから、幸せになって欲しいな、とは思っているの。このお店に来るのは、厳ついハンターか、一癖も二癖もある冒険者が多くて、ライナス君みたいな爽やかな青年はいなかったから、喜んでいるのかも。だから、仲良くしてあげてね」
「あ、はい、また時々お邪魔しようとは思っています」
メルの茶化しに、ライナスは当たり障りのない言葉を返した……つもりだったが、顔が熱かったので、赤くなっていたかもしれないな、と思っていた。
「おまたせーっ!」
作業服に着替えてきたミクは、今まで着込んでいた「黒蜥蜴」を、カウンターの上に置いた。
「じゃあ、早速説明するね……このベルトのバックル部分に充魔石『ウルグラ』と、複合魔水晶が入ってるの。なんと、バックルの上から魔石を当てるだけで充魔石にチャージできます! それで、この下部のつまみをスライドすることで、魔力による保護の解除、有効化が切り替えられます! あと、充魔残量はバックルのこの黄色い水晶で確認できて、これが灰色になってきたらかなり消耗していて、真っ黒になったら魔力切れで機能が果たせなくなります。あ、それとオプションの手袋とソックスも、上下のインナーに一部でも触れていれば同様の保護が有効になるの。手袋の内側にも、充魔残量を示す小さな水晶がついています。魔力発動中はインナーの脱ぎ着も、オプションの脱着もできないから気をつけてね。あと、フード部分があるんだけど、この肩口の紐を引っ張ればすぐに頭部を保護できて、口元も首元から引っ張って装着すれば……」
楽しそうに説明するミクと、それを真剣に聞き入るライナスの様子を、メルは、笑顔で見つめていた。
ミクが悲しそうに語る。
「本当にやむをえない理由だったの。でも、実家が世間体を気にして……それぐらい大変な出来事が起きたのよ。両親も、本音ではそうしたくなかったみたい。それに、工房としても優秀な技術者であるミクを失ったのは、凄く痛手だったの。そこで、こっそりだけどこのイフカの街で、ミクはクリューガー家から秘密裏に支援を受けて、研究・開発を続けているわ。この街の魔導アイテムショップなら、クリューガー家関連の商人が出入りしてもおかしくないでしょう? 実際、クリューガーブランドの商品を扱う店は他にもいくつもあるわけだし、隠れ蓑としても最適……これ、ライナス君だから話せる秘密だからね。絶対に他の人に言っちゃダメよ」
メルが詳細を説明し、その内容をライナスは素直に信じた。
「なるほど……いろいろ事情があるんですね……僕も、実家を飛び出して来たっていうのは同じですし」
「……ライ君も? どうして?」
ミクが意外そうに聞いてきた。
「一つは、行方不明になった父を捜すこと。もう一つは、それが原因で収入源が途絶えているので、僕も強くなって、このイフカのような場所を拠点として、ハンターとして稼ぎたいっていう思いがあったこと……祖父からは、『おまえにまでもしものことがあったら、アインハルト家は潰れてしまう』ってたしなめられましたが」
「……なるほど、お互い複雑な事情があるのね……うん? アインハルトって、なんか聞いたことがあるような気がする……」
ミクはなにかを思い出そうとしていたが、
「いや、一騎士の家系だから、そんなに名が知られたものではないよ……それより、その『黒蜥蜴』、本当に僕が使わせてもらってもいいのかな?」
本音では、試作品と言うことで少し不安はあったのだが、クリューガーの製品、しかも「+3」レベルならば、無料で貸してもらえるのは本来あり得ないぐらいの幸運だ。
まあ、実際はそこまでの性能ではなく、まがい物かもしれないが、普通にインナーとして使えれば問題は無い。
「もちろん! ……あ、でも、残り一つしか無いから、大事に使ってね」
「えっ、一つ?」
「そっ、私が着てる分だけ。後で渡すから、着てみてね!」
「いや、でも……サイズとか、かなり違うんじゃ……」
身長で言えば、1.5メールそこそこのミクに対し、ライナスは1.8メール以上ある。
体重ならば、倍……下手をすれば2.5倍ぐらいの差がありそうだ。
しかし、そんな小柄なミクの体格に、「黒蜥蜴」は適合していた。
「あ、これは充魔石の魔力が発動したら、収縮してピタッと体型に合うようになっているだけ。本当はブカブカなの。ライくんだと、ちょっと小さいかもしれないけど、すごく伸縮性があって丈夫だから、全然平気よ……じゃあ、早速着替えてくるね!」
ミクはそう言うと、また店の奥に引っ込んだ。
「……ミクがあんなにはしゃいで、嬉しそうにしているのは久しぶり。よっぽど貴方のこと、気に入ったのね」
メルが目を細めて、ライナスに語りかけた。
「いえ、そんな……」
「……ミクのこと、どう思う?」
「えっ、どういうって……その、元気で明るい店員さんだなって思います。あと、話が上手だな、とも。本当に、あの『黒蜥蜴』、凄そうに聞こえましたから」
「ああ、そっちね。『黒蜥蜴』の性能が高いのは本当だけど、もっと凄いのはミクの才能なんだけどね……今のクリューガーでも随一の技術者。そうは見えないと思うけど……あの子、私のせいで、大変な目に遭っちゃったから、幸せになって欲しいな、とは思っているの。このお店に来るのは、厳ついハンターか、一癖も二癖もある冒険者が多くて、ライナス君みたいな爽やかな青年はいなかったから、喜んでいるのかも。だから、仲良くしてあげてね」
「あ、はい、また時々お邪魔しようとは思っています」
メルの茶化しに、ライナスは当たり障りのない言葉を返した……つもりだったが、顔が熱かったので、赤くなっていたかもしれないな、と思っていた。
「おまたせーっ!」
作業服に着替えてきたミクは、今まで着込んでいた「黒蜥蜴」を、カウンターの上に置いた。
「じゃあ、早速説明するね……このベルトのバックル部分に充魔石『ウルグラ』と、複合魔水晶が入ってるの。なんと、バックルの上から魔石を当てるだけで充魔石にチャージできます! それで、この下部のつまみをスライドすることで、魔力による保護の解除、有効化が切り替えられます! あと、充魔残量はバックルのこの黄色い水晶で確認できて、これが灰色になってきたらかなり消耗していて、真っ黒になったら魔力切れで機能が果たせなくなります。あ、それとオプションの手袋とソックスも、上下のインナーに一部でも触れていれば同様の保護が有効になるの。手袋の内側にも、充魔残量を示す小さな水晶がついています。魔力発動中はインナーの脱ぎ着も、オプションの脱着もできないから気をつけてね。あと、フード部分があるんだけど、この肩口の紐を引っ張ればすぐに頭部を保護できて、口元も首元から引っ張って装着すれば……」
楽しそうに説明するミクと、それを真剣に聞き入るライナスの様子を、メルは、笑顔で見つめていた。
0
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる