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「とりあえず、飲んでやる」


知秋が偉そうにそう言った。
いや監禁されてんの俺なんだけど。でも養ってもらってるから五分五分とも言える。

ああもうよく分からんが、貞操の危機は回避したのでよしとしよう。


「あ、じゃあいつでも抱きついて良いって事だよね?」

「え?まあな、でも普通にだ!」


言った途端来夏が嬉しそうに抱きついてきた。ぎゅーって力を入れて子供みたいに喜んでる。
こういう時は普通に可愛いのに、何であんなに捻くれたのか。ああ、俺のせいか。

絶望していたら来夏の甘えた声が耳元からする。


「あのね、もう一つ僕のお願い聞いてほしい」

「……なんですかね」



思わず身構えたが、内容は割と普通だった。


「僕の洋服、たくさん着て欲しい」

「え?服?」

「英羅服着なくなっちゃって、少し残念だったけど今日も着てくれてるから嬉しくて」

「これ来夏の服なのか?」

「うん。僕が作った服」

「作った?!このオシャレースカーデを?!」

変な名前つけるなあとか言いながら来夏がくすくすと笑う。

「タンクトップもパンツも、昨日のセットアップも作った」

「ああ、そうかそれも記憶がないのか。そいつ今アパレルデザイナーやってんだ」

そう言えば昔から来夏はおしゃれが大好きで俺はよく買い物に付き合ってた。って言っても俺そんな金ないから見てるだけだけど、来夏が勝手に俺のも買ってくれてたりして……あれ俺その時からヒモ属性持ってたのか?


「ええ、すごいじゃん!自分のブランドとか持ってるのか?」

「あるよ、立ち上げたんだ。すごい?すごい?英羅が誉めてくれるの、嬉しい」


超嬉しそうにへにゃって笑うから思わず頭を撫でてしまった。そしたらさらに笑顔になる来夏。


「英羅が頭撫でた……!」

「いや高校の時もこんくらい……いっ」


来夏の方を向いてたから気が付かなかった。知秋が恐ろしい顔をしてるなんて。
掴まれた肩は痛いし振り向いた知秋の顔にまた青筋が立っている。


「そいつばっか構ってんじゃねぇよ……」

「いたいって、肩」

「……俺も撫でろ」

「え?」


そこ?って思ったけど撫でるだけでいいならもう何でもいいか。こっわい顔の知秋を撫でれば不貞腐れた表情に戻ってくれた。
これはちょっと、可愛いじゃんかよ。獰猛な大型犬が懐いた気分だ。


「……本当こう言うとこは変わんないのな。てゆか知秋は?何やってんの?」

こんなとこに住むくらいだからさぞかし良い仕事なのだろうと思ったけど、さらりと言った知秋の言葉に絶句する。

「社長」

「ん?」

「ソイツはIT系の社長……」

「まあ、親の継いだだけだけどな」

来夏が心底嫌そうに付け足した言葉に知秋は鼻で笑って返した。

「社長……通りでこんな家……待った。来夏も自分のブランド立ち上げって事はもしかして……」

「僕も一応社長だよ」


ああ、納得だ。夢の俺の数々の理不尽に耐え得るだけの財力もこいつらを可笑しくした要因かもしれない。そして俺も。

社長2人に引きこもりの家なんて嫌な響きだ。





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