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kick!
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唯と優の頭を同時に後ろから小突くのはいつも俺たちに美味しい料理を作ってくれる料理長さんだ。勝手にそう呼んでいるけど本名は荒々木那加さん。
「そんな呑気にしてていいのかー、次唯斗。ほら立つ!」
「はーい!」
さん付けが取れてぴょんと跳ねるように立ち上がったご機嫌な唯。俺とバトンタッチでフロアの真ん中に降りていくとどこからともなく頑張れよと声援の声に唯が嬉しそうに手を振る。
「まずは秋もそうだったけど徹底的に避けること、見てたからなんとなく分かるだろ」
「ばっちりです」
Vピースをした唯に那加さんが同じくピースを返す。だけど笑った顔はそのまま横に向き、遠くに向けて声を出した。
「氷怜さーん唯斗まじで壊れそうで怖いんですけど、ちっこすぎんですけど!」
「な、ちょっとずつ伸びてるのに……」
唯がピースのままわかりやすいくらい落ち込むと階段に腰掛けていた氷怜先輩がこちらを向く。今日は色の薄いサングラスをかけていてここからだと光の反射で目が合っているかは判断できない。その隣で座る瑠衣先輩と2人の後ろで立つ暮刃先輩がゆるく手を振ってくれた。
ちなみに向こう側では榊さんがいる。この前の試合の続きが行われていて、ガヤガヤといつもより熱気を帯びているのは観戦するものが俺たちの稽古と向こうの試合の2つあるせいだ。ガチ試合の横で俺たちの稽古なんて高低差がありすぎて小さい子のお遊戯くらいに見えてそうだけどそこは気にしたら負け。
氷怜先輩はグラスを片手に口端をあげた。
「だから、力つけてやれよ」
「やー分かってはいるんですけど、なんかガタイがもう女に近いし……あ、ちなみに、もしも、もしもですよ?傷付けたらどんなペナルティが……」
「あ?自分で考えろ」
「ああー……そこの答え投げるとかずるいわー」
那加さんは作り出す多彩な料理と同じくコロコロといろんな表情を見せる人だ。
長めの黒髪をいつも後ろで括っている。料理人さんなのに髪長いの珍しいですねと唯が聞いていたが、あくまで趣味の独学だから仕事ではやった事がないと言う。趣味でコース料理作れちゃうレベルって凄すぎる。ちなみに洋食が多いけどたまに出てくる和食だってどれもこれも逸品で箸が止まらない。
「さすがに女の子より力ありますよ那加さんー」
「はは、悪い悪い。教えるなんてした事ないからさー」
くしゃりと唯の頭を撫でる那加さん。
那加さんは繊細な料理からは想像できない先輩達と同じ180センチ超えらしい。唯と並ぶとそりゃ女の子に見えても仕方がない。
その身長に合わせたムキムキというよりは筋肉と肉付きのバランスが程よい体格。厚めの唇には左端にホクロが一つ。そこがまた異様に色気を感じるところだ。
「でもいい動きしてくれるらしいから楽しみではあるけど」
「お!いつでもどうぞ~」
「……でも気合入んねえー」
「唯うさはすばしっこいゾー、ブフー!」
瑠衣先輩が楽しそうに言う。実はさっきまで例のごとく爆笑していて、ふざけて唯の髪を高い位置で二つ結びにしたからだ。笑っている理由は似合わないではなく似合いすぎているからツボった、との事。ちなみに瑠衣先輩も唯のせいでツインテールなんだけど、オレはなんでも似合うから笑えないと真顔で言われて俺はそれにツボった。
唯のあの髪型中学の時思い出すわ。女の子と間違えたあの日、今も身長は伸びたけどやっぱ女の子に間違えられるとこあんま変わってない。
そんな彼は特に気にする様子もなく、自分のぴょこんと結ばれたツインテールをつまむとニヤリと笑った。
「じゃあじゃあ。ツインテール、那加さんもお揃いにするってかけます?」
「ほお言うねぇ、ちゃんと俺の攻撃避けれたら良いよ。まあでも最初は肩慣らしな」
合図して動きが始まる。最初はゆっくりと動きを合わせて教え込み、だんだん早くすることで身体を慣れさせていく。
「那加のツインテとか見たくないわ……あの図体で可愛いをプラスしてなんの得があるんだよ」
優と俺がしゃがんで観戦していればいつのまにか紫苑さんが後ろにいた。優がちょいちょいと手を振ると蹲み込んで視線を合わせてくれる。
「紫苑さん、幹部の人って誰が1番ここ長いんですか?みんな仲良しだけど案外年齢はバラバラですよね」
「えーと、たしか1番古いのは那加と赤羽?次に俺と亜蘭と美嘉綺が同じくらいで最後にあの双子かな、式と桃花は知っての通り最近」
あっちにいると親指で刺された場所ではペコリと頭を下げた美嘉綺さんと、ゆるゆると手を振る全く同じ容姿の2人が。
双子にはものすごく親近感がある俺。俺の妹と弟も双子だからだ。でもここのチームにいる双子の神さんと才さんは二卵性のウチとは違って一卵性。まじでそっくりでさらに絶対に同じ格好をするので見分けが難解なのだ。最近ようやくすこしだけ当たる時があるけどまあ間違えるよね。
そして美嘉綺さんはいつも口元まで隠れるハイネックの服を着ていてここの人にしては珍しく口数が少ない。でも俺たちを見つけては車に乗せてくれたり、なにかと気にかけてくれる優しいお兄さんだ。
どちらかといえば元ネロのチーム寄りのイメージで戦いとか攻撃とか無縁の存在に感じていたから今回教えてくれると聞いて少し驚いた。
隣で優が首をかしげる。
「たしか幹部の人ってまだいますよね。最初に挨拶した時他にも……ただそれ以来あまり会えてないですけど」
「ああそうか、会ったことあんだよな。ここに定期的にくる奴もいれば各々動いてるやつもいる。ウチはわりと自由だからあの人たちに特にこき使われたいやつがここにいる感じだな」
「つまり紫苑さんも使われたい側と……」
「手駒にされたい人間がいるってのもいいもんだよ」
「……共感は出来ないけど理解はできました」
優が眉間にシワを寄せて頷くので紫苑さんが吹き出した。
なんだかチームって面白い。
一言では表せないけど、いろんな人がいてそれぞれがやりたいことをやれている環境なんだな。楽しさとかがしっかり伝わってくるからここの居心地が良いわけだ。
それにしてもなんでこうも最強に絡みたくなる人柄ばかりなのか、顔面レベルは相変わらず高いし唯がいつか幹部の人でアイドルしてほしいなんて言ってたのを思い出し改めて納得。
「ほい、正拳突き」
「は!」
わざわざ技名まで言ってくれる那加さんの声で視線を2人に戻せば、唯が両手で那加さんの拳をパシッとパーで挟んでいる。もちろん受け止められるってのは良いことだけど今の練習ではだめなやつ。
「だから避けるんだって……」
「あ、そうでした」
「可愛い顔でおっとこらしい性格はギャップでいいけど、痛い目見るぞ」
「それはすでに何度か経験が……」
あははーと乾いた笑いの唯。たしかによく怪我してんのは男らしく体当たりな性格のせいもある。ただそのトラブル吸引力は桁違いの要因だ。
那加さんが訝しげな表情で唯からさらに奥へと視線を投げた。
「こりゃ桃花と式があんな顔するわけだ……」
「へ?」
唯が振り返ると榊さんエリアの場所から桃花と式がこちらを見ていた。心配と不満そうな顔で。唯が手を振ってもふいっと視線を戻されてしまう。
「うーん、めちゃくちゃ反対されたので」
俺たちも同じく反対された。
想像はしてたけど予想よりも断固反対の感じで最終的には好きにしろ!と言われ今に至る。
「そりゃそうだろ。お友達に下手に危ない目にあって欲しく無いだろうし、桃花に至ってはお前を守るために日々努力してんだから」
「それはそうなんですが、怪我減ったら桃花も式も安心するとおもって……」
「……いいね、青春に涙が出るね。くっ」
「那加オヤジくさーい」
双子の神さん才さんの声が綺麗に重なると周りがどっと笑い出す。本当いい場所だ。
「那加、話してばかりいないでちゃんと教えてあげて」
暮刃先輩が言うとはいはいと那加さんが頷く。
「まあでも基本はちゃんと避けれてるしちょっと早くしてくか」
「はーい!あ、ツインテール忘れないでくださいね」
「分かったよ。新作のフルコースもつけてやる」
「やった!っと、わ!」
一気に早くなった動きに一歩下がった唯がよろめく。避けられるギリギリの速さを繰り出してくれてるんだろうけどあれがなかなか難しい。
「そんな適当に避けてんじゃ意味ないからな。ほらせめて三手先まで読めよ」
「ええ三手って、わ、よっと!」
とにかく避けるのに必死になってしまうのは良くわかる。次の一手がどうとか考えられないんだよな。
「ああなるほど」
「え」
突然隣で優が頷くから驚いた。
俺の視線に気づくとほらみてと細い指で示してくれる。
「必ず同じ3手が組み込まれてるから、それのことを言ってるんだよ」
そう言われてもピンとこずよくよく注意して見ているとたしかに右手が二回きたら左手がくる場面が目についた。これの事か。
「よく気付いたな優。意外と人間って癖が出るからそれを実践中に気づけるかは大事なわけ。それを分かりやすく今やってるよ、あいつはね」
それでも見てるだけと目の前で繰り出されるのは見え方が違う。唯はなんとか避けているけれどまだ動きが鈍い。
「ビシッと、バシッと決めたいのに、力入り、すぎちゃ、う!」
「そうだな、そこも大事。そんな力んでたら体力も減るぞ」
「ですよ、ね!」
一旦間合いを大きくとった唯が呼吸を整える。身軽なのにそれが活かしきれないのだ。俺もさっきその歯痒さ体験したから余計に共感。
袖をまくりながら悔しそうな顔の唯。お、流石に男の子が強くなってきた。
「もう一回行くぞー」
「はーーーい、よし!」
でも気合い入れ直すのに頭のリボン結び直すとこが唯だよ。また間合いに入ると今度は一手を確実に見切って避けた。でも次でよろけた。だけどその次は腕を使って流せている。
那加さんがヒュウと口笛を吹く。
「良い勘してるな」
「んーあと少しかも……」
ポツリと聞こえる唯の声はゆるいけど目がスイッチ入ってんなあれは。丸い目がぎらついてる。そう言うとこお兄ちゃんは心配だけど、俺もスイッチ入ってんだわこれが。はやくもう一回やりたいとか思っちゃってんだわこれが。
何度か繰り返してだいぶ形になってきた唯だけど3回連続では綺麗に避けきれず、那加さんに攻撃を寸止めされ、したり顔までされてしまうと悔しそうに汗を拭った。
それでもまっすぐ目の前にきた拳を腕を使って流し、お腹にくる腕は一歩下がる。あと一つだ。
「しゃがめ」
その低い声が唯には聞こえたらしい。頭にくる攻撃をしゃがみ避け、さらにそのまま左にずれると次の攻撃も綺麗に避けていた。
「あれ」
「な……」
「避けれた?おれ」
きょとんと首をかしげる唯。紫苑さんが嬉しそうに大きな声で叫ぶ。
「那加、ツインテール!」
「そんな呑気にしてていいのかー、次唯斗。ほら立つ!」
「はーい!」
さん付けが取れてぴょんと跳ねるように立ち上がったご機嫌な唯。俺とバトンタッチでフロアの真ん中に降りていくとどこからともなく頑張れよと声援の声に唯が嬉しそうに手を振る。
「まずは秋もそうだったけど徹底的に避けること、見てたからなんとなく分かるだろ」
「ばっちりです」
Vピースをした唯に那加さんが同じくピースを返す。だけど笑った顔はそのまま横に向き、遠くに向けて声を出した。
「氷怜さーん唯斗まじで壊れそうで怖いんですけど、ちっこすぎんですけど!」
「な、ちょっとずつ伸びてるのに……」
唯がピースのままわかりやすいくらい落ち込むと階段に腰掛けていた氷怜先輩がこちらを向く。今日は色の薄いサングラスをかけていてここからだと光の反射で目が合っているかは判断できない。その隣で座る瑠衣先輩と2人の後ろで立つ暮刃先輩がゆるく手を振ってくれた。
ちなみに向こう側では榊さんがいる。この前の試合の続きが行われていて、ガヤガヤといつもより熱気を帯びているのは観戦するものが俺たちの稽古と向こうの試合の2つあるせいだ。ガチ試合の横で俺たちの稽古なんて高低差がありすぎて小さい子のお遊戯くらいに見えてそうだけどそこは気にしたら負け。
氷怜先輩はグラスを片手に口端をあげた。
「だから、力つけてやれよ」
「やー分かってはいるんですけど、なんかガタイがもう女に近いし……あ、ちなみに、もしも、もしもですよ?傷付けたらどんなペナルティが……」
「あ?自分で考えろ」
「ああー……そこの答え投げるとかずるいわー」
那加さんは作り出す多彩な料理と同じくコロコロといろんな表情を見せる人だ。
長めの黒髪をいつも後ろで括っている。料理人さんなのに髪長いの珍しいですねと唯が聞いていたが、あくまで趣味の独学だから仕事ではやった事がないと言う。趣味でコース料理作れちゃうレベルって凄すぎる。ちなみに洋食が多いけどたまに出てくる和食だってどれもこれも逸品で箸が止まらない。
「さすがに女の子より力ありますよ那加さんー」
「はは、悪い悪い。教えるなんてした事ないからさー」
くしゃりと唯の頭を撫でる那加さん。
那加さんは繊細な料理からは想像できない先輩達と同じ180センチ超えらしい。唯と並ぶとそりゃ女の子に見えても仕方がない。
その身長に合わせたムキムキというよりは筋肉と肉付きのバランスが程よい体格。厚めの唇には左端にホクロが一つ。そこがまた異様に色気を感じるところだ。
「でもいい動きしてくれるらしいから楽しみではあるけど」
「お!いつでもどうぞ~」
「……でも気合入んねえー」
「唯うさはすばしっこいゾー、ブフー!」
瑠衣先輩が楽しそうに言う。実はさっきまで例のごとく爆笑していて、ふざけて唯の髪を高い位置で二つ結びにしたからだ。笑っている理由は似合わないではなく似合いすぎているからツボった、との事。ちなみに瑠衣先輩も唯のせいでツインテールなんだけど、オレはなんでも似合うから笑えないと真顔で言われて俺はそれにツボった。
唯のあの髪型中学の時思い出すわ。女の子と間違えたあの日、今も身長は伸びたけどやっぱ女の子に間違えられるとこあんま変わってない。
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「じゃあじゃあ。ツインテール、那加さんもお揃いにするってかけます?」
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優と俺がしゃがんで観戦していればいつのまにか紫苑さんが後ろにいた。優がちょいちょいと手を振ると蹲み込んで視線を合わせてくれる。
「紫苑さん、幹部の人って誰が1番ここ長いんですか?みんな仲良しだけど案外年齢はバラバラですよね」
「えーと、たしか1番古いのは那加と赤羽?次に俺と亜蘭と美嘉綺が同じくらいで最後にあの双子かな、式と桃花は知っての通り最近」
あっちにいると親指で刺された場所ではペコリと頭を下げた美嘉綺さんと、ゆるゆると手を振る全く同じ容姿の2人が。
双子にはものすごく親近感がある俺。俺の妹と弟も双子だからだ。でもここのチームにいる双子の神さんと才さんは二卵性のウチとは違って一卵性。まじでそっくりでさらに絶対に同じ格好をするので見分けが難解なのだ。最近ようやくすこしだけ当たる時があるけどまあ間違えるよね。
そして美嘉綺さんはいつも口元まで隠れるハイネックの服を着ていてここの人にしては珍しく口数が少ない。でも俺たちを見つけては車に乗せてくれたり、なにかと気にかけてくれる優しいお兄さんだ。
どちらかといえば元ネロのチーム寄りのイメージで戦いとか攻撃とか無縁の存在に感じていたから今回教えてくれると聞いて少し驚いた。
隣で優が首をかしげる。
「たしか幹部の人ってまだいますよね。最初に挨拶した時他にも……ただそれ以来あまり会えてないですけど」
「ああそうか、会ったことあんだよな。ここに定期的にくる奴もいれば各々動いてるやつもいる。ウチはわりと自由だからあの人たちに特にこき使われたいやつがここにいる感じだな」
「つまり紫苑さんも使われたい側と……」
「手駒にされたい人間がいるってのもいいもんだよ」
「……共感は出来ないけど理解はできました」
優が眉間にシワを寄せて頷くので紫苑さんが吹き出した。
なんだかチームって面白い。
一言では表せないけど、いろんな人がいてそれぞれがやりたいことをやれている環境なんだな。楽しさとかがしっかり伝わってくるからここの居心地が良いわけだ。
それにしてもなんでこうも最強に絡みたくなる人柄ばかりなのか、顔面レベルは相変わらず高いし唯がいつか幹部の人でアイドルしてほしいなんて言ってたのを思い出し改めて納得。
「ほい、正拳突き」
「は!」
わざわざ技名まで言ってくれる那加さんの声で視線を2人に戻せば、唯が両手で那加さんの拳をパシッとパーで挟んでいる。もちろん受け止められるってのは良いことだけど今の練習ではだめなやつ。
「だから避けるんだって……」
「あ、そうでした」
「可愛い顔でおっとこらしい性格はギャップでいいけど、痛い目見るぞ」
「それはすでに何度か経験が……」
あははーと乾いた笑いの唯。たしかによく怪我してんのは男らしく体当たりな性格のせいもある。ただそのトラブル吸引力は桁違いの要因だ。
那加さんが訝しげな表情で唯からさらに奥へと視線を投げた。
「こりゃ桃花と式があんな顔するわけだ……」
「へ?」
唯が振り返ると榊さんエリアの場所から桃花と式がこちらを見ていた。心配と不満そうな顔で。唯が手を振ってもふいっと視線を戻されてしまう。
「うーん、めちゃくちゃ反対されたので」
俺たちも同じく反対された。
想像はしてたけど予想よりも断固反対の感じで最終的には好きにしろ!と言われ今に至る。
「そりゃそうだろ。お友達に下手に危ない目にあって欲しく無いだろうし、桃花に至ってはお前を守るために日々努力してんだから」
「それはそうなんですが、怪我減ったら桃花も式も安心するとおもって……」
「……いいね、青春に涙が出るね。くっ」
「那加オヤジくさーい」
双子の神さん才さんの声が綺麗に重なると周りがどっと笑い出す。本当いい場所だ。
「那加、話してばかりいないでちゃんと教えてあげて」
暮刃先輩が言うとはいはいと那加さんが頷く。
「まあでも基本はちゃんと避けれてるしちょっと早くしてくか」
「はーい!あ、ツインテール忘れないでくださいね」
「分かったよ。新作のフルコースもつけてやる」
「やった!っと、わ!」
一気に早くなった動きに一歩下がった唯がよろめく。避けられるギリギリの速さを繰り出してくれてるんだろうけどあれがなかなか難しい。
「そんな適当に避けてんじゃ意味ないからな。ほらせめて三手先まで読めよ」
「ええ三手って、わ、よっと!」
とにかく避けるのに必死になってしまうのは良くわかる。次の一手がどうとか考えられないんだよな。
「ああなるほど」
「え」
突然隣で優が頷くから驚いた。
俺の視線に気づくとほらみてと細い指で示してくれる。
「必ず同じ3手が組み込まれてるから、それのことを言ってるんだよ」
そう言われてもピンとこずよくよく注意して見ているとたしかに右手が二回きたら左手がくる場面が目についた。これの事か。
「よく気付いたな優。意外と人間って癖が出るからそれを実践中に気づけるかは大事なわけ。それを分かりやすく今やってるよ、あいつはね」
それでも見てるだけと目の前で繰り出されるのは見え方が違う。唯はなんとか避けているけれどまだ動きが鈍い。
「ビシッと、バシッと決めたいのに、力入り、すぎちゃ、う!」
「そうだな、そこも大事。そんな力んでたら体力も減るぞ」
「ですよ、ね!」
一旦間合いを大きくとった唯が呼吸を整える。身軽なのにそれが活かしきれないのだ。俺もさっきその歯痒さ体験したから余計に共感。
袖をまくりながら悔しそうな顔の唯。お、流石に男の子が強くなってきた。
「もう一回行くぞー」
「はーーーい、よし!」
でも気合い入れ直すのに頭のリボン結び直すとこが唯だよ。また間合いに入ると今度は一手を確実に見切って避けた。でも次でよろけた。だけどその次は腕を使って流せている。
那加さんがヒュウと口笛を吹く。
「良い勘してるな」
「んーあと少しかも……」
ポツリと聞こえる唯の声はゆるいけど目がスイッチ入ってんなあれは。丸い目がぎらついてる。そう言うとこお兄ちゃんは心配だけど、俺もスイッチ入ってんだわこれが。はやくもう一回やりたいとか思っちゃってんだわこれが。
何度か繰り返してだいぶ形になってきた唯だけど3回連続では綺麗に避けきれず、那加さんに攻撃を寸止めされ、したり顔までされてしまうと悔しそうに汗を拭った。
それでもまっすぐ目の前にきた拳を腕を使って流し、お腹にくる腕は一歩下がる。あと一つだ。
「しゃがめ」
その低い声が唯には聞こえたらしい。頭にくる攻撃をしゃがみ避け、さらにそのまま左にずれると次の攻撃も綺麗に避けていた。
「あれ」
「な……」
「避けれた?おれ」
きょとんと首をかしげる唯。紫苑さんが嬉しそうに大きな声で叫ぶ。
「那加、ツインテール!」
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