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kick!
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しおりを挟む「……てことは!やったー!」
バンザイしてぴょんぴょん跳ねる唯に反比例するように那加さんがガクリとうなだれた。
「ずるじゃないですかねー?氷怜さーん」
「俺は向こうに言っただけだ。なぁ唯斗」
唯が嬉しそうにピースをすると氷怜先輩の口元が緩く上がった。サングラスしてなきゃ最高に良い笑顔が拝めたのにくそう。那加さんもむくれた声を出す。
「そんなナイスタイミングでアドバイスもらった事俺は無いですが……」
「必要もないだろ」
くくっと笑った氷怜先輩。
唯に甘いのは俺も思うけど唯も良く聞こえたよなあの状況で、地獄耳と言うか氷怜先輩センサー侮りがたし。
唯がニヤニヤしながら手招きする。
「那加さん、ほらほら結んであげますよ」
「あーはいはい。お好きにどうぞ男に二言はありませーん」
しゃがんで唯に頭を任せた那加さんにいつのまにか握られていたクシとゴムを手慣れた様子で使っていく唯。次第にその口角が上がっていく。
「か、可愛い、ぶふ」
「いや絶対嘘だろ」
「ブフッ増殖…ふっアハハ!!!!」
また爆笑しだす瑠衣先輩。階段でそんな笑い転げたらほんとに落ちますよ。大人っぽく色気もあってガタイも良いそんな男の人のツインテールの破壊力。瑠衣先輩も変わんないのに全く違う出来上がりになるのはあのポップさで丸め込んだ訳か。
紫苑さんも涙を溜めて笑いながら、なんとか治めた呼吸で優の方を叩く。
「あー笑った。次は優か……美嘉綺いくか?」
この騒ぎの中も笑っていなかった美嘉綺さんはこくんと頷いた。彼の戦いも想像できないけど、優もそこまで想像がたやすいわけでもないだろう。
「わりと見えてきたかも」
あ、優様も入ってんね。スイッチ。
涼しげな顔で意外とメラメラ燃やすんだからそう言うとこ好きだよ優さん。
「……優夜さんがこれに参加するのは意外でした」
珍しく美嘉綺さんから話が出た。全く話さないわけじゃ無いけど余計なことは話さないイメージだから。
「意外と楽しむタイプなので……あ、美嘉綺さんはやっぱり敬語の方がしっくりときます?」
「落ち着くのでこれでいきます」
それならばそのままで、とにっこりと笑う優。俺らも絶対にってわけじゃなくてそれぞれが話しやすいようにして欲しい。そもそもここじゃ何もかも新米だし、赤羽さんだっていまだに敬語だけど今では仲良しだ。
「では構えてください」
2人で頭を下げると俺たちと同じようにゆっくりの動きから始まる。優もなんだかんだ鍛えているし全然動けるんだけどやっぱりほっそいんだよなぁ。体があったまってきたくらいの時、美嘉綺さんが淡々という。
「優夜さんは体使うより頭を使う方が慣れてると思うのでまず何よりも相手を見て下さい。動きをイメージしてリアルと間違えるくらいに精度を引き上げられればある程度までいけますから」
話すときはしっかり話すのが美嘉綺さんだ。たまに俺たちが自由すぎて振り回しちゃうときはあるけどその時くらいだな、彼が崩れるのを見たことがあるのは。
「美嘉綺さん」
少し下がって優が後ろで手を合わせながら首を傾けた。普段クールな優はこういう時、悪戯っ子のように笑う。
「さっきちょうど観察していたところで、ちょっと実践してみたい事が」
その言葉に美嘉綺さんは少し黙って暮刃先輩に視線をずらした。それでもいつも通り微笑んでいるだけなので優の言葉に頷く。
「では少しスピード上げますね」
リズム良く緩急をつけて脚と腕を使って攻撃を繰り出す美嘉綺さん。黒髪が少し長くて目があまり見えないけどすっきりとした目鼻立ちは綺麗だ。落ち着いた雰囲気と同じように繰り出す技も乱れはない。
だけど優はそんな彼の動きを完全に流していた。上からの動きに腕の外側をつかって受け止める前に横へ流し、その隙に一歩間合いを取ると次の動きのための姿勢が既に取れている。
しばらくそれが続いてお互いが一歩下がると美嘉綺さんが静かに言う。
「すごい、この速さは大丈夫そうですね。流石です」
「うーん、でもわかりやすく動いてくれるから出来るんですけどね。しかも神経使うんでちょっともう暑いです」
手でぱたぱた風を送りながら笑う優。さすがってこういう事よ、頭使えばすぐに動けちゃうのは唯と俺とは真逆。俺たちは当たって砕けろ派。
「初めてでそれだけ動ければもう上出来ですよ」
「……なんだか甘やかされているような」
返事の代わりにふるふると首を振られて優は怪訝な顔をする。視線を向ければ笑みを深める暮刃先輩。
うーん、俺たちを見守ってるのがあの人達なのだから甘くなるのも仕方ないかも。だってなんか怖いし、すんごい命令とかきそうだもんな。
「アッキー今シツレイな事考えたでしょ」
「テレパシー……?」
いつのまにか後ろに来ていた瑠衣先輩にほっぺを横に伸ばされる。力加減は相変わらず地味に痛いやつ。
「優たんイイ動きするじゃん~」
「俺も褒められましたけど」
優には及ばないなんて分かりきってるけどあえてドヤ顔してみたら、瑠衣先輩の青い目がちかりと輝いた。うわしかもそんな可愛く笑ってくれるなよ、こっちが恥ずかしくなる。
くしゃくしゃと頭を撫でられたおかげでちょっと赤くなった顔を見られずに済んだ。
横でニヤついてる唯以外には。
「唯顔がうるさい」
「ひど!……ってあれ瑠衣先輩向こうは良いんですか?」
「んー、今はーシッキーと桃花ぴょん対戦中」
今日も榊さんは1人でみんなを相手に倒していた。あんなに綺麗で可愛い麗央さんを連れているのに不穏なほど強い。こんなに負け続けるチームの人たちもなかなか見れる物じゃないから、この盛り上がりも納得だ。
そんな中で式と桃花が榊さんと対峙する。
「てか2人はいつのまにかツインで戦うスタイルに変えたんですか?」
「お互いにプレイスタイルが真逆だからオベンキョウになるよーって暮ちん言ってからはあんな感じだネ」
「真面目だなぁ」
唯が涙ぐましいそうに言うその姿は椎名さんにそっくりだ。
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