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ハーピオンの略奪者編
第83話 闇に使われし者 ザビーネ・レムス
しおりを挟む——魔王国。玉座の間。
玉座のデモニカは、表情を変えず俺のことを見つめた。
「報告は聞いた。ハーピオンを手中に入れたことは評価しよう。ただし、ザビーネという者を血族にした行為……我の納得のいくよう説明せよ」
デモニカの鋭い眼が俺を射抜く。
今回の俺の行いは咎められても仕方ない。冷静さを持って行動していたつもりだが、彼女の許しを貰うというプロセスを欠いてしまっていたこともまた事実。
デモニカの優しさに甘えてしまっているな……。
「ザビーネは聖大剣グラムを扱える存在として引き入れた。今後の戦力として有用だと考える」
「己の欲望の為、弱き者を殺戮した者と聞く。そのような者は其方の忌み嫌う存在だと思っていたが?」
「確かに、デモニカの言う通り。しかし『才能ある者を引き入れる』ことも魔王軍知将の務め……己の行動理念に偽りは無い」
彼女の眼の鋭さがほんの少しだけ和らいだ気がした。
「ふむ……では、其方がザビーネを評価する理由を述べよ」
「ザビーネはハーピオン女王バアルを破った。俺はその戦闘技術を評価したい。ハーピオンの序列1位クラスの人材を引き入れる機会はこの機会以外に無いだろうからな」
「それならば血族にせずとも良いであろう?」
「この儀にはもう一つ『罰』としての側面がある」
「罰だと?」
「再生の火によって彼女の精神を徹底的に変換し、埋め込んだ……『罪悪感』を」
「奪うことではなく、与えることを代償としたか」
「ああ。そして、俺の精神拘束で血族の者の許可が無い場合は全てに恐怖するよう命令した。彼女はこれから死ぬまでの半生を罪の意識と恐怖の狭間で生きて貰う」
「……其方なりの怒りの具現化という訳か」
デモニカが天を仰ぎ、瞳を閉じる。
「ザビーネを呼べ。我の眼でも見定めよう」
兵士へザビーネを連れてくるよう伝える。
しばらく待つと、玉座の間から青いショートヘアのハーピーが顔を覗かせた。
「し、失礼致します……」
オドオドとした様子で女が入って来る。そこに欲望に取り憑かれた女王の姿は微塵も残っておらず、背中に背負われた高貴な大剣だけが異様さを際立たせていた。
「お、及びでしょうかヴィダル様」
「ザビーネ。我らが主人、デモニカ様の御前だ。まずは魔王デモニカ様に挨拶を」
「ふええぇぇぇ!? 失礼しました! デモニカ様ぁ!!」
ザビーネが恐怖に引き攣った顔で跪く。
その様子にデモニカは怪訝な顔をした。
「ヴィダル。抱いていた印象と違うのだが?」
「精神の書き換えを強く施した影響だ。我らの指示で元の人格に戻る。記憶は共有しているが」
「……そういうものか? まぁいい。ザビーネよ」
「はひぃ!? な、何でしょう!?」
「貴様は己の罪についてどのように考える?」
「つ、罪……」
「答えよ」
ザビーネの目が徐々に潤んでいく。そして、突然彼女は大声で泣き出した。
「うえええぇぇぇんっ!! 酷いことしちゃったのは自覚してますぅ~! どうしたら許して貰えるんですかぁ~!」
ザビーネが俺の袖に顔を埋める。彼女の涙で俺の袖はぐっしょりと濡れてしまう。
「ヴィダル様ぁ……デモニカ様ぁ……ザビーネをお許し下さいぃぃ……」
「泣くな。デモニカ様はその罪の償い方を教えて下さる」
「ふぃっく……そ、そうなんですか? ザビーネはどうしたら……」
デモニカは深くため息を吐いた後、ザビーネを見据えた。
「……今この場で貴様を殺しても良いのだが」
「ひいぃぃ!?」
「だが生憎の所、我は血族となった者には情が沸くようだ。我が知将に計られたな」
デモニカが俺を見つめる。
「そんなこと、俺は……」
「良い。ヴィダルの狙いは分かっておる」
デモニカがニヤリと笑い、泣きじゃくるハーピーへと向き直る。
「ザビーネよ。貴様の罪の償いは、我らの命を聞くことで果たされるだろう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。貴様は今日よりザビーネ・レムスを名乗るが良い。その名は『贖罪』。命尽きるその時まで、その罪と向き合うのだ」
「そ、それってぇ……死ぬまで許されないってことじゃないですか~」
「情けを下さったデモニカ様へ感謝しろ。必死に贖《つぐな》えば残りの生の中に喜びを見出すこともできるかもな」
「ふえぇ~ん!! がんばりますぅ!!」
ザビーネはやる気になったのか悲しんでいるのか分からない様子で泣き続けた。
……。
歪んだ形だが新たな才能がまた1人。
ハーピオンとの関係も良好になる。
残る大国は立て直しを図るメリーコーブとヒューメニア。
動き次第では大きな戦が起こるかもしれない。
そろそろ考えなければならないな。
大国……ヒューメニアを落とす方法を。
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