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第2章 フィクションでは大抵、親切に「見返り」が支払われるけど
2-3 いじめのターゲットは日南田、君に変わったみたいだよ
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翌日、日南田の机の上にはいくつもの落書きがあった。
「クソ」「ヘンタイ」「モラハラ」といった心無い罵倒とともに、昨日影李の机の上に置かれていた花瓶があった。
ご丁寧に、今度は中に水ではなく墨汁がなみなみと入っている。捨てようとしたら、たぶん袖かどこかに付けてしまうことになるだろう。
「ま、想定内だったな……」
流石の日南田も自分がこんな目に遭うことを想定もしていなかったわけではない。
そう思いながらも、クラスメイトの『とっくん』に声をかけようとした。
「おはよ、とっくん!」
「…………」
だが彼は、申し訳なさそうに顔をそむけた。
そしてスマホにメッセージが届いた。
当然差出人はとっくん。
『おはよ、日南田! ……けど悪い、今のお前に挨拶を返せないんだ』
そう書かれていた。
(やっぱり……。けど、僕は彼に連絡先なんて教えてたかなあ……)
そう思っていると、後ろからドン! と突き押される感触があった。
「うわあ!」
「あれ? ここになんか、見えない壁があるなあ……」
そういってもう一度日南田の方を押してくる。
押してくる男子生徒の名は聖正(せいじ)。
先日影李にハンカチを貸していた生徒だ。
大人しくて『優しそうな』顔立ちもあいまって、クラスで一番の人気ものである。
文化祭の出し物なども彼の鶴の一声で決まるような、クラス内でのキャスティングボードを握っているのも彼だ。
だが、日南田は思い切って彼に抗議した。
「やめてって言ってるよね?」
「あれ? なんか幻聴が聞こえるな? ここからか?」
そういいながら、もう一度突き飛ばしてくる聖正。
証拠になるような、明確にあざになるような暴力を振るわないところが、彼らしい。
「いた!」
思わずひるみながらも、その様子をニヤニヤと周りが笑ってくる。
(そんな……。思い切って声を上げても……誰も味方してくれない……。いじめって、こんなものなの?)
それを見て、日南田は信じられないという表情をした。
……そして、自分の鞄の中を調べて更に気づいたことがある。
(あ……)
今朝、父が早起きして作ってくれた弁当箱が、入っていないのだ(日南田の家では、たまに父親が弁当を作る)。
「あれ、嘘?」
そう驚いていると、昨日影李をいじめていた女子生徒たちがニヤニヤと笑っていることに気がついた。
その視線はゴミ箱に向いている。
「やっぱり……捨てられてる……」
そう言いながら、日南田は少し泣きそうな表情で弁当箱を取り出していると、
「あれ、チー牛が泣いてるよね?」
「ほんとほんと。ちぎゅちぎゅうるさいっての」
そうニヤニヤ彼女たちが、こちらにギリギリ聞こえる声でつぶやきながら笑ってきた。
……恐らく、昨日の意趣返しのつもりなのだろう。
不幸中の幸いは、弁当の中身は無事だったことだ。
日南田は弁当箱を開いて食べ始めながら影李の机の方を見た。
すると、先ほど自分を突き飛ばしてきていた聖正と、同じくカースト上位のギャル風の女子生徒が、
「影李ちゃん、今まで助けて上げられなくてごめんね?」
「お昼、一緒にあっちで食べよ?」
そんな風に誘っていた。
(よかった……影李さんは僕とは逆に……友達が出来たんだな……)
そう日南田が思っていると、影李は日南田のほうに一瞬笑顔を向けてきた。
……だが、その笑顔は感謝の笑顔でも、同情を思わせるような苦笑いでもない。
そのことを少し気にしながらも、日南田は彼女に対して心の中で手を振った。
「クソ」「ヘンタイ」「モラハラ」といった心無い罵倒とともに、昨日影李の机の上に置かれていた花瓶があった。
ご丁寧に、今度は中に水ではなく墨汁がなみなみと入っている。捨てようとしたら、たぶん袖かどこかに付けてしまうことになるだろう。
「ま、想定内だったな……」
流石の日南田も自分がこんな目に遭うことを想定もしていなかったわけではない。
そう思いながらも、クラスメイトの『とっくん』に声をかけようとした。
「おはよ、とっくん!」
「…………」
だが彼は、申し訳なさそうに顔をそむけた。
そしてスマホにメッセージが届いた。
当然差出人はとっくん。
『おはよ、日南田! ……けど悪い、今のお前に挨拶を返せないんだ』
そう書かれていた。
(やっぱり……。けど、僕は彼に連絡先なんて教えてたかなあ……)
そう思っていると、後ろからドン! と突き押される感触があった。
「うわあ!」
「あれ? ここになんか、見えない壁があるなあ……」
そういってもう一度日南田の方を押してくる。
押してくる男子生徒の名は聖正(せいじ)。
先日影李にハンカチを貸していた生徒だ。
大人しくて『優しそうな』顔立ちもあいまって、クラスで一番の人気ものである。
文化祭の出し物なども彼の鶴の一声で決まるような、クラス内でのキャスティングボードを握っているのも彼だ。
だが、日南田は思い切って彼に抗議した。
「やめてって言ってるよね?」
「あれ? なんか幻聴が聞こえるな? ここからか?」
そういいながら、もう一度突き飛ばしてくる聖正。
証拠になるような、明確にあざになるような暴力を振るわないところが、彼らしい。
「いた!」
思わずひるみながらも、その様子をニヤニヤと周りが笑ってくる。
(そんな……。思い切って声を上げても……誰も味方してくれない……。いじめって、こんなものなの?)
それを見て、日南田は信じられないという表情をした。
……そして、自分の鞄の中を調べて更に気づいたことがある。
(あ……)
今朝、父が早起きして作ってくれた弁当箱が、入っていないのだ(日南田の家では、たまに父親が弁当を作る)。
「あれ、嘘?」
そう驚いていると、昨日影李をいじめていた女子生徒たちがニヤニヤと笑っていることに気がついた。
その視線はゴミ箱に向いている。
「やっぱり……捨てられてる……」
そう言いながら、日南田は少し泣きそうな表情で弁当箱を取り出していると、
「あれ、チー牛が泣いてるよね?」
「ほんとほんと。ちぎゅちぎゅうるさいっての」
そうニヤニヤ彼女たちが、こちらにギリギリ聞こえる声でつぶやきながら笑ってきた。
……恐らく、昨日の意趣返しのつもりなのだろう。
不幸中の幸いは、弁当の中身は無事だったことだ。
日南田は弁当箱を開いて食べ始めながら影李の机の方を見た。
すると、先ほど自分を突き飛ばしてきていた聖正と、同じくカースト上位のギャル風の女子生徒が、
「影李ちゃん、今まで助けて上げられなくてごめんね?」
「お昼、一緒にあっちで食べよ?」
そんな風に誘っていた。
(よかった……影李さんは僕とは逆に……友達が出来たんだな……)
そう日南田が思っていると、影李は日南田のほうに一瞬笑顔を向けてきた。
……だが、その笑顔は感謝の笑顔でも、同情を思わせるような苦笑いでもない。
そのことを少し気にしながらも、日南田は彼女に対して心の中で手を振った。
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