龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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デューデューの道筋

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デューデューがジェイドの父王を探しに出掛けて一月が経った。

“デューデュー今頃どうしてるのかしら?”

コポコポコポとお茶を淹れながらマグノリアがそう呟いた。

マグノリアはお盆に二人分のお茶を乗せると、
アーウィンのいるテーブルへと運んだ。

「はい、お茶をどうぞ」

そう言ってカップをアーウィンの前に置くと、
自分の分もテーブルに置き、椅子に腰掛け窓から外を眺めた。

「ねえアーウィン、デューデューは無事かしら?

アーレンハイム公に捕まったりしてないかしら?

音沙汰がないのって心配だわ」

マグノリアがお茶を啜りながらそう言うと、

「そうだね、もう1ヶ月になるしね。

どこまで探しにいったんだろう?

ジェイドの父王の事、何か掴めたのかな?」

テーブルの向かい側に座ったアーウィンが
お茶を飲みながら読んでいた本を閉じた。

「まあ、デューデューのことは気にはなるけど、
赤ちゃんが産まれるまでは戻ってくるって言ったから
もうそろそろ帰ってくるとは思うけど……」

そう言うとアーウィンも外を眺めた。

「此処は緑が多いけど町までは割と離れてるから不便だよね。

でもショウが馬車を置いていってくれたから助かったよ。

明るいうちに町へ行って帰ってこないとね」

そう言うとアーウィンは立ち上がった。

今日はマーケットで赤ちゃんに必要なものを買い揃える予定だ。

「マグノリア、お腹の調子はどう?」

未だ外を眺めたままのマグノリアに尋ねると、

「ん~、赤ちゃんは未だ来そうな気配はないわね。

私のお腹の中が心地良いのかも?」

そう言ってクスッと微笑むと、持って居たティーカップをテーブルに置いた。



その頃デューデューは、

“やはり此処も結界が貼られているな”

そう呟いて海の上に浮かぶ岩の一角に降り立った。

デューデューはマグノリアとアーウィンの元を去り、
まず自分の隠れ家へと足を運んだ。

隠れ家はデューデューがそこを離れた当時のまま残っており、
誰かがやって来た様な感じでは無かった。

“この場所はまだバレては居ない様だな”

デューデューはそう呟くと、ジャングルの入り口へと向かった。

空中から下を見下ろすと、盛り上がった土と、
そこに置いてある石碑が見えた。

“此処だな”

そう思って降り立つと、
石碑にはジェイド、ダリルと彫られていた。

誰も来なくなったその場所は、
少し植物の丈が高くなっては居たが、
小動物が常時通る為、獣道は辛うじて残って居た。

墓の上には草が生え放題になって居たけど、
石碑があった為その場がすぐにわかった。

デューデューは墓の前に降り立つと
二人の墓の上に頬を寄せて少しその上に佇むと、
昔を懐かしんでいる様な顔をした。

暫くそうした後、
優しい風を頬に感じスクッと起き上がると、

「お前達とも、もうすぐ会えそうだな。

私はマグノリアと約束をしたから先を急がなくてはいけない。

又此処に帰ってくる事があるかは分からないが、又会おう」

そう言うと、スーッと姿を消し、
サンクホルムに向かって飛び立った。



デューデューはサンクホルムに降り立つと、
先ずは城跡に行った。

辺りを見回すと、あの日デューデューが忍び込んだままの形で城は残って居た。

“あの日のままか……“

デューデューはそう呟き暫く城の中をウロウロとしていると、
裏庭へ続く通りに人影を見つけた。

デューデューは城の瓦礫の間を通り抜け裏庭へ続く通りに出ると、
その人影を追って行った。

ある場所に来た時、その人影は立ち止まった。

”あれは……ランカス……

今はアーレンハイムに仕えているはずだが……何をしているんだ?“

デューデューがランカスに近づくと、
彼の向こうには、壊されずそのままの姿で残っている
テラスとバラ園がデューデューの目に入った。

”此処はそのまま残って居たのか……

ん? あれは……”

ランカスはどうやら誰かに会いに来て居た様で、
近づいてみると、
ランカスが会って居たのは庭師のボノだった。

「王の行方は未だ分からんのかい?」

ボノがそうランカスに尋ねて居た。

ランカスは首を振ると、

「アーレンハイム公の探知にも掛からない……

一体どこに行ってしまわれたのか……」

そう言って唇を噛み締めた。

「お前さんにも連絡がないと言うことはやっぱり王は……」

ボノがそう言うとランカスはいきり立って

「滅多な事を言わないでください。

王は絶対生きています!」

そう大声を出した。

「ランカスよ、そう大声を出すもんじゃない。

誰かが聞いていたらどうする?」

ボノはそう言うと、そこにかがみ込みバラの花をいじり始めた。

「ボノ殿、どうぞ王都へおいで下さい。

王を見つけるには貴方の知恵と魔力が必要です!

貴方は現世にただ一人残った賢者なのですよ!」

ランカスがそう叫ぶとデューデューの耳がピクピクと動いた。

“ほう、奴は賢者だったのか……

さすが賢者だな……上手く隠れたものだな”

そう思いながらデューデューがボノを見た時、
デューデューはボノと目があった様な気がした。

“奴は私に気付いてるのか?

まあ、本当に奴が賢者だとすると、
私が此処に姿を消して居るのも分かってるかもしれないな。

う~ん、もしかしたら、あの時私がアーレンハイムから逃げられたのも、
こ奴のお陰かもしれない……”

ボノは視線をバラに移すと、

「可哀想に……アーレンハイム公に殺されたのは分かっているのに、
ワシはあの子の遺体も見つける事ができませなんだ……

ワシは此処に一人でも残り、
ずっと此処であの子のお弔いをするつもりじゃ。

それにきっと、陛下もここに戻ってこられるはずじゃ」

そう言うと又、黙々と薔薇の手入れを始めた。

“すまない。 ジェイドの遺体は私が持ち出したのだ。

だが心配するでない。ちゃんとダリルと墓を作ってあげたぞ”

デューデューが心の中でそう呟くと、
ボノがピクッと反応した手を止めて、
薔薇を見つめたまま、

「そうか、そうか、ありがとうな」

そう言って目を閉じた。

ランカスは一瞬怪訝な顔つきをしたけど直ぐに向きを変えると、

「私は長く城を離れている事が出来ません。

また参ります」

そう言うと、スタスタとその場を去った。

ランカスがその場をさると、

「お主があの時の灰色の子龍か?」

ボノは急にデューデューに向かって話しかけた。

デューデューは姿を現すと、

「矢張りお前は私が見えて居たのだな。

お前はあの時、私を助けたのか?」

そうボノに尋ねた。

ボノはバラを見つめると、首を振り、

「ワシには何もできんかった。

お主が禁断の間に囚われていることは直ぐに気付いたが
アーレンハイム公の魔術師の結界があそこを守って居た。

誰か近づこうものなら直ぐにバレて捉えられて居たさ……

お前さんが抜け出せたのは、まさに奇跡だ」

ボノが薔薇をいじりながらそう言うと、

「お前は賢者なのか?」

デューデューはそう尋ねた。

「そう呼ばれて居たこともあったな……

今ではただの老ぼれの庭師だ。

ジェイド殿下とダリル殿の墓はどこに作ったのだ?」

ボノがデューデューを見上げてそう尋ねると、

「人が簡単には行けない所だ」

とデューデューは答えた。

「そうか」

ボノはそう言って視線を落とすと、又薔薇をいじり始めた。

「お前が賢者なのなら私が言わんとする事がわかるはずだ。

ジェイドは大賢者に会い授かった術を死ぬ間際に発動させた。

奴等は戻ってくるぞ。 

大賢者を取り戻すために、
きっとお前が必要になるはずだ」

デューデューがそう言うとボノは目を輝かせて、

「何と! その様な事が!

こうしちゃおれん、それでは私はひとまず賢者の塔を目指そう」

そう言って立ち上がった。

「賢者の塔?」

「ああ、賢者達の間で受け継がれて来た
知恵と魔力の塔がこの世のどこかにあるはずだ。

私はそれを探しに行こう。

こうしてはおれん、ランカスに連絡して直ぐに出立をしなければ」

ボノはそう言うと、デューデューに深く頭を下げ、
パタパタと駆け出して行った。

ボノを見送ったデューデューは次は街へ向かって飛び立った。

”まさか賢者の塔があったとは……

思いがけない事が明るみに出て来たな……

情報は集めてみるものだな。

では、次は神殿へ行ってみよう。

確か王の御付きのラルフがいたな?

その道掛け、ちょっと街を見て回ろう……“

デューデューはそう決めると、街中を飛び回り、
先ずはショウが手紙の中で言って居たことを確認して回った。

“これが奴が言って居たアーウィンの手配書だな…“

ショウが言った様に、町中にアーウィンの手配書が張り出されて居た。

”新王に対する反逆罪か……

全く虫も殺せない様なアイツが反逆だなんて世も末だな……

さて、神殿は今頃どうしているのだろう?“

手配書を確認すると、デューデューは神殿へ向かった。

神殿へ向かう途中、通った街中は少し異様な感じがした。

”確かに魔法使い達が多いな……

それに……あちこちで見える……あの黒いモヤは何だ?!”

デューデューには町中のあちこちで黒いモヤが立っているのが見えた。

“取り敢えずは神殿へ行ってみるか”

そう思って向かった神殿はガランとして誰一人いなかった。

“なんだ? あれだけ居た神官達は一体どこへ行ったんだ?”

デューデューは礼拝堂から奥の部屋へと続く廊下へと入って行った。

進んでいくと、突き当たりの部屋に人がいた。

“ん? あれはラルフではないか?”

奥の部屋にはラルフがただ一人机に腰掛け何かをしていた。

デューデューは姿を隠したまま、

「ラルフ、私の声が聞こえるか?」

そうラルフを呼んでみた。

ラルフは辺りをキョロキョロとすると、

「誰だ?」

そう言って机から立ち上がった。

「お前は一人で此処で何をしているのだ?」

デューデューがもう一度話しかけた。

ラルフは廊下に出たり、ドアの後ろをチェックしたりと、
声の主を探した。

「誰かいるのか?!」

ラルフがもう一度尋ねた。

「私は、”なぜお前が一人で此処にいるのか?” と尋ねているのだ」

デューデューがもう一度言うと、
ラルフは天井に向かい、

「お前は魔神に仕える者か?! 

私を唆しに来たのか?!」

そう叫んだ。

ラルフのその言葉でデューデューは咄嗟に
ラルフはアーレンハイム側ではないと察した。

「私は前王を探している者だ」

デューデューがそう言ってみると、

「お前は何故前王を探している?!

亡き者とする為か?!」

ラルフが続けて尋ねた。

デューデューは力強い声で、

「違う! アーレンハイムを止める為だ!」

そう言い切った。

「何故姿を現さない?」

ラルフの問いに、

「私もアーレンハイムに追われているからだ」

デューデューはそう答えた。

「お前は王が言って居た隠密と言うものか?」

デューデューは少し考えて、

「そうだ」

と答えた。

ラルフはデューデューを信頼したのか、
身の上を話し始めた。

「私は元王の専属護衛神官だった為、新王に此処に捨て置かれた。

本殿は新王都に移動してすべての神殿関係者はそちらに移った。

今では私一人でこの神殿を管理している」

という事だった。

「そうか、分かった。 感謝する」

デューデューがそう言うと、

「王は見つかりそうですか?」

ラルフが尋ねると、

「未だ分からない」

デューデューはそう答えた。

デューデューが去ろうとした時、

「一つ……」

ラルフがそう言うと、
デューデューは立ち止まった。

「何だ?」

デューディーがそう尋ねると、

「王は以前、しきりに東大陸の事を調べておいででした。

もしかしたら東大陸の方へ行かれた可能性がございます。

どうか、王を見つけ出してください」

そう言うと、直立不動に背筋を伸ばして立った。

「分かった。最善は尽くす」

デューデューがそう言うと、
ラルフは見えないデューデューに向かって深くお辞儀をした。

デューデューは神殿を出ると、

“東の大陸? まさか……”

そう呟いて東の空を見た。

“では最後に新城を調べて東へ向かおう”

そう呟き新しく城を建てたと言う北へ向けて飛び立った。

暫く行くと、遠くからでも城に張られた結界が見えてきた。

デューデューは近くまで飛んでいくと、
結界を張るために使われた魔力の分析をした。

デューデュは結界内に強行すれば直ぐにバレると察知し、
結界の中に入る事は断念した。

でも、城の中に何処かと繋がるポータルが開いている事を察知した。

“もしかしてあれは地の護神……メルデーナの次元へ繋がるポータルか?!

では大賢者はあの近くに?!

もしかしてあの黒いモヤは大賢者から漏れ出している呪いの呪詛なのか?!

もしそうであれば急がねば……大賢者の呪詛が国中に広がってしまう!“

そう思うとデューデューは東へ向けて飛び立った。
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