龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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引越し

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結婚式が終わり次の日には、
ショウの森の家の前には立派な馬車がずらりと並んでいた。

使用人は朝から大忙してショウとスーの荷物を後方の馬車に積み込んでいた。

「絶対、絶対、帝国へ会いに行くからね。

私達の事忘れないでね。

それと……」

マグノリアはスーのお腹を見て、

“楽しみは自分たちで見つけて貰おう……”

そう思い、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

精霊達がスーの妊娠を告げてくれたのに、
スーもショウも全く気付いて無さそうだ。

「帝国へいらした際には是非私の龍達にもお会いになって下さい。

是非ナナをご紹介致しましょう!」

ショウが得意げにそう挨拶をすると、

「私もナナに会うのは楽しみなんですよ!」

そう言ってスーが微笑んだ。

“ねえ、ねえ、龍に似てるって言われて腹立たない?”

マグノリアがスーに囁いた。

スーはマグノリアの表情が可笑しくてクスッと小さく笑うと、

“いえ、そのおかげでショウとご縁があったから”

そう言ってスーはショウを見つめた。

「貴方って本当に天使ね」

マグノリアがそう言いながらスーの肩を抱き寄せると、

「マグノリア様、スーからお手をお離し下さい」

そう言ってショウがスーを抱き寄せた。

「イヤ~ 男の嫉妬って醜いわね。

貴方、結婚してから独占欲強くなってな~い?」

マグノリアは最後までショウに辛口だった。

「ショウ様、馬車のご用意が出来ました。

スー様もどうぞご乗車下さい」

そう言って御者が馬車のドアを開いた。

この御者はわざわざ帝国のショウの邸宅から彼らを迎えに来たものだ。

御者の他にスーの専属お付きになるメイドが1名と、ショウの専属執事、
邸宅のメイド達と従者達が10名、
又護衛の騎士達も10名やって来て居た。

マグノリアはスーに抱きつくと、

「スー、貴方はもう、立派な侯爵夫人ね。

しっかり領地の者達を支えて立派な領主夫人になるのよ」

そう言ってスーの頬にキスをした。

スーはメイドによって持ち込まれた帝国の洗練された最新デザインのドレスを身につけ、
王女の品格もあり人の貴族そのものだった。

スーがレイクスに会い記憶が目覚めたのかと思えば、
そうでも無かった。

でもその記憶は魂の奥深い所で働いている様だった。

マグノリア達は最後の挨拶と抱擁を交わすと、
スーはショウに差し出された手を取り、馬車に乗り込んだ。

ショウは見えないデューデューに向かって

「デューデュー様も是非いらして下さい。

いつでもお待ちしております」

そう言って丁寧にお辞儀した。

御者や護衛達は一体ショウは誰に話をしているのだろうと疑問に思い
辺りをキョロキョロと見回して居たけど、
ショウが馬車に乗り込むと、皆姿勢を正しそれぞれの位置についた。

スーは馬車の小さな窓を開けると、

「お姉さん、絶対、絶対帝国に来てね。

赤ちゃんに会えるのも楽しみにしてるから!

きっとお姉さんに似た逞しい子が生まれるわね!」

そう言うとスーは涙ながらに微笑んだ。

マグノリアは窓に顔を寄せると、

「ショウ、スーを泣かせたら承知しないからね!」

そう言って滲んだ涙を拭くと、

「ハイヤー!」

御者の掛け声と共に馬車がゆっくりと動き出した。

「お姉さん! 手紙を書くからね!

お返事絶対頂戴ね!

私の事、絶対、絶対忘れないでね!」

スーが窓から顔を出して叫び終わると、
馬車はドンドンそのスピードを上げて見えなくなってしまった。

スー達が見えなくなると、マグノリアは暫くアーウィンの胸で泣いた。



スー達が去り少し経った頃、夜更けにドアを静かにコンコンと叩く音がした。

マグノリアもアーウィンも訪問者の予定が無かったので、
ギクッとしてドアの方を見た。

「アーウィン~ あなたが出てよ~

いざとなったら私がフライパンで!」

そう言ってマグノリアが台所からフライパンを持ってきた。

「僕は平気だからマグノリアは寝室のクローゼットに隠れてて」

アーウィンがそう言うと、マグノリアは首を振った。

「お願いだから! 僕に何かあったら、君はお腹の赤ちゃんを守らなきゃいけないんだよ」

アーウィンがそう言うと、マグノリアは何も言えず大人しく寝室へ移動した。

「デューデュー、君は僕の後ろに居てね……」

少し震えた声で言うと、

「この気配は心配いらないはずだ」

とデューデューは返したけど、

「念には念だよ」

アーウィンはそう言い呼吸を整えると、

「どちら様ですか?」

そうドア越しに尋ねた。

「私はショウ様の御者の者で急ぎアーウィン様とマグノリア様に
ショウ様からのお手紙をお届けに参りました」

そう答えが返ってくると、デューデューは

「だから言っただろ」

そう言って翼でアーウィンの頭をぺシペシと叩いた。

「もう、デューデューは早く姿を消して」

そう言って手で払うと、

”ショウの御者? 本物? 信じられる?

あ~ ショウとも何か合言葉的なものを作っておけばよかった”

その時アーウィンはそう後悔した。

”でもデューデューは大丈夫と言った!

うん、僕はデューデューを信じる!”

そう思っていると、

「あの……私はショウ様とスー様を迎えに来た御者でございます。

あの時アーウィン様は黒のタキシードに蝶ネクタイ、
マグノリア様は濃いブルーのマタニティー イブニングドレスをお召しになられていました」

そう御者が言った途端アーウィンがそっとドアを開けその隙間から御者を確認した。

「アーウィン様、お久しぶりでございます」

そう言ってお辞儀をすると、
御者は顔を上げた。

”間違いない。 あの時の御者だ”

アーウィンは尋ね人がショウの御者であることを確認すると、
ドアを開いた。

「信じて下さりありがとうございます。

不審がられた時はこうするようにショウ様より仰せつかっておりました」

御者はそう言って挨拶をすると、

「実はショウ様からお手紙をお預かりいたしております」

そう言って懐から封筒を一枚取り出した。

蜜蝋を見ると、
恐らくショウの侯爵家の家紋であろう印が押されてあった。

寝室から聞き耳を立てて聞いていたマグノリアも、
その頃になると安全であることを確信し寝室から出てきた。

「ショウからの手紙ですって?

御者の方直々にお届けに?」

そう言ってリビングへやってくると、
アーウィンが持っていた封筒を覗き込んだ。

「この家紋は見たことがあるわ。

ショウって本当に貴族だったのね」

そう言うマグノリアに御者は、

「ショウ様は手紙の内容が漏れる事を恐れ
直に私に此処へ来るよう仰せつかりました」

そう言うと、

「それではお手紙はお渡しいたしましたので私はこれで」

そう言うと、又深く頭を下げた。

「今日はもう遅いので泊まって行かれませんか?」

マグノリアがそう勧めたけど、

「お気持ち感謝いたしますが、
私は大急ぎで帝国へ戻らねばなりません。

護衛の騎士たちもおりますし、
ご心配は無用です」

そう言うと、アーウィンとマグノリアの家を後にした。

御者が去った後、アーウィンとマグノリアは顔を見合わせると、

「直に持ってくるって……一体何が書かれているのかしら……

ねえ、早く読んでみましょうよ」

マグノリアがそう言うと、アーウィンが封を切った。

手紙を取り出し開けてみると、そこにはこう書かれてあった。

”お二人の居場所が漏れるの避けるため、
取り急ぎ私の私用の御者を送ります。

と、言うのは、帝国へ戻る途中、
思うところありサンクホルムの現情報を得るべく、
少し立ち寄る事に致しましたところ、
アーウィン様の手配書があちらこちらに張られている事に気付きました。

マグノリア様の事については噂も何もありませんでした。

町での様子を伺いましたところ、
アーウィン様は新王への反逆罪として指名手配が上がった様です。

今のところ、指名手配が国外へ出た様子はございません。

それと町自体に荒れた様な様子はございませんでしたが、
旧城は攻撃があった日のまま今では城跡のようになっておりました。
そして王都自体が国の北方へと移行しておりました。

新城には何重にも防御魔法が掛けてあり、
中の様子を伺う事は気付かれる恐れもある為断念致しました。

それとサンクホルムは魔法の国ではないにもかかわらず、
おかしいくらいに国中で魔法使いを見かけました。

皆は気付いていませんが、
この国は今は異常なほどに異様な空気が漂っています。

それと、サンクホルムと帝国の中間にあるビーゲンタール王国で、
ボニックスらしきものが現れ国の1/3を焼き払い行方知れずとなった様です。

今ビーゲンタールは復興中ですが、
恐らく二つ目のカギも失ったと考えても良いでしょう。

私が推理するに、残りの二つのカギはおそらく
残り3つの大国、ビオスキュラー帝国と私の居る国、
ランドビゲン帝国、又はランタリア王国にあるものと思います。

お二人にはなにか事情があると思っていましたが、
私はお二人を信頼しております。

どうかお気を付けて”

読み終えた二人は呆然となった。

「そんな……もうそこまで公の侵略が進んでいたなんて……

ショウが推理するようにきっと公も残りのカギが何処にあるか気付いているはずよ……

どうする? ジェイドやダリル無しに私達はどうすれば良いの?!

ジェイドの父王だって安否が分からない!

私には戦い方なんて分からない! 聖龍も姿を隠してるし、黒龍だって行方不明!

私達は何て無力なの?!」

そう言ってマグノリアは泣き出した。

「ねえデューデュー、僕達はどうしたら良い?」

アーウィンも泣きそうになる気持ちを抑えてデューデューに助けを求めた。

「私は少しここを離れてランバートを探してみようと思う」

デューデューがそう言うと、

「え? ジェイドの父王を?」

アーウィンが尋ねた。

「ああ、私は彼もこの出来事のカギを握る一人だと思う。

それに彼はまだ生きていると思う」

デューデューがそう言うと、

「イヤ! イヤよ! デューデュー、私達のそばを離れないで!

デューデューまで居なくなったら!」

マグノリアがそう言ってデューデューを止めようとしたけど、

「心配するな。 長くは離れない。

お前達の子が生まれる頃には何も分からなくても戻ってくる。

お前達に今できる事はアーレンハイムから身を隠すことだけだ。

私は今ではどんなに離れていてもお前たちの気を追える。」

デューデューがそう言うと、マグノリアはデューデューに抱き着いて泣いた。

「でも……どうしてアーウィンだけ? どうしてアーウィンだけが謀反者になってるの?!

私の事は?! 公は私が一緒に居たことも知ってるのよ?!」

マグノリアが怒りに満ちたようにそう言うと、

「マグノリア落ち着いて。

取り敢えず、マグノリアはサンクホルムの人間じゃないから……

マグノリアは今でも正当なソレル王国の王女だから、
アーレンハイム公も今は手が出せないよ。

だからと言って安全って事はないからショウが言うように気を付けないと……

でもこれで分かったね。

アーレンハイム公は今でも僕達を探している!」

アーウィンはそう言うと、ギュッと握りしめた拳に力を入れ唇を噛んだ。

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