【Rー18】ヒッチハイカー

幻田恋人

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第11話「どうしても南へ行きたいんだ…」⑨『静香の危機! 吹雪の中、戦い開始のゴングは今にも…』

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 ここは、今回の『ヒッチハイカー捕獲作戦』のためにSITが借り受け、臨時の作戦指揮所を設置した事務所がある製材所の敷地内である。

 外には林業の現場や原木市場から購入し、運び入れられた木材が山と積まれている。数千本もあるだろうか。
 いかにも製材所という名前にふさわしい木の香りが吹雪の中でもただよっていた。

 この製材所の広い敷地の片隅かたすみに、商品の木材を使って組み立てられたログハウスが建っていた。このログハウス自体も系列会社が人気商品として扱っており、客の要望に応じて住居や別荘用として販売しているのだ。
 ここに建てられているログハウスは、注文に訪れた客に対しモデルハウスの様に全体の造りや内部が見られるように公開されている。
 住み心地を体験したいという客の希望があれば、予約にて宿泊する事も可能だった。中での生活が体験出来るように、オール電化のシステムが完備され上下水道も使えるようになっていた。

 ログハウスに興味のある家族連れやカップルなどが春夏秋と結構の人数が訪れるのだが、さすがに冬場には積雪の多い地帯の山中という事でもあり、訪れる客はさっぱりなのである。なので、春になるまでモデルハウスとして使用される事は無かった。

 今、そのログハウスに明かりがともり暖房も付けられ、中で人の気配がした。
 中にいた人とは誰あろう、SITが追跡中のヒッチハイカー自身と彼が拉致らちして連れ込んだ皆元静香みなもと しずかの姿だった。

 静香は乗っていた移動現場指揮車が2mを超える巨岩に衝突した際に意識を失ったままヒッチハイカーにかかえられ、ここまで運ばれて来たのだった。
 静香は今もまだ意識を失っていた。

 普段から、このログハウスを住みかとしているのか、あるいは拉致してきた静香を犯すための一時的な場所として使用するつもりなのかは、ヒッチハイカー本人しか知るよしは無かった。

 ログハウス内での暖房は火事を出さないために、オール電化対応の設備が整っていた。今もエアコンや電熱による暖房が使用され、あたためられた静香達のいる室内は快適で、吹雪の吹き荒れる屋外の気温とは雲泥うんでいの差だった。

 意識を失ったままの静香のそばに立つヒッチハイカーの姿は全裸だった。
 ここに来るまで彼が上半身にまとっていたのはSIT(Special Investigation Team:特殊事件捜査係)隊員達のSMG(サブマシンガン)の銃撃によりボロ切れと化した衣服だけだったが、比較的損傷がましだった下半身に身に着けていたズボンや下着も全て脱ぎ去っていた。

 自分が手にかけた犠牲者達の血とあぶらにまみれていたヒッチハイカーの身体は、ログハウスの浴室にあるシャワーで綺麗きれいに洗い流されていた。
 
 2mに達する身長をしたヒッチハイカーの全身は、無駄な贅肉ぜいにく一切いっさい無い鋼の様な筋肉におおわれたギリシャ彫刻の男性像を思わせる見事な肉体をしており、顔立ちも日本人離れした西洋の彫刻並みにりの深い男前だった。
 くせ毛でボサボサの荒れ放題の髪だった頭も綺麗に洗い流し、濡れた髪を後ろに撫で付けてある今は別人の様な印象だった。まるで外国のファッション雑誌から抜け出して来た様な男ぶりであった。

 強姦ごうかんと猟奇的な殺戮さつりくを繰り返す人間離れしたサイコパスであるという事実を知らなければ、女性から溜め息をきながらうっとりしたうるんだ目で見つめられるような、男伊達おとこだてなのである。

しかし、これは一体どういう事なのだろうか…?
 ヒッチハイカーの鋼の様な肉体のどこを見ても、あれだけSITの隊員達からSMG(サブマシンガン)で撃ちまくられた傷跡などが一つも見当たらなかった。至近距離からのSMGによる銃撃は彼の身体におびただしい数の弾痕だんこん穿うがっていたはずだ。集中して弾丸を浴びた部位などはズタズタになっていても不思議では無かったのだ。
 それが… 意外にも体毛の少ない彼の濡れた浅黒いなめらかなはだは、照明に照らされて美しく光り輝いていた。

 少なくとも、ヒッチハイカーは伸田を含めたAチームとの交戦時においては防弾チョッキや鎧の様な銃弾を防ぐための防具を身に着けていなかったではないか。いや、それどころか上半身には申し訳程度にボロ切れが纏わり付いていただけだった。その身体に数十発の9mmパラベラム弾を喰らって血しぶきを上げていたのを、交戦相手だったSITのAチーム全員が目撃したのだ。
 それが今、露わになったヒッチハイカーの裸体のどこにも傷痕きずあと一つ無いのだった…
 この男は異常なほどの治癒能力を持っているとでも言うのだろうか?

 眠っている静香を見下ろす一糸まとわぬヒッチハイカーの股間には、巨漢の彼に相応ふさわしいという以上に巨大で、硬く勃起ぼっきした男根だんこんが真上を向いてそそり立っていた。全体の長さは50㎝ほどもあり直径は8㎝ほどだろうか…静香の肘から握りこぶしまでを含めたよりも巨大で太かった。
 これから彼はその巨大なペニスを使って、すでに犠牲となって死んだ水木エリや山野ミチルの様に、静香もまた殺す前に犯し蹂躙じゅうりんし尽そうというのだろうか…?

 静香は自分の身に危険が迫っている事を知らずに、いまだ意識を失ったままだった。

 ヒッチハイカーは静香のそばにかがみ込むと、意識の無い静香の身体から衣服を一枚一枚脱がせていった。意外な事に乱暴に引きむしるというのではなく、優しくいたわる様な手つきでそっと脱がせていく。それはまるで、ハンターが獲物として狩った鳥の羽根をむしったり、獣の皮を剥いだりするのを楽しみながら丁寧に行うのに似ていた。
 その一方、彼の股間ではペニスが硬く屹立きつりつしたままで、巨大な亀頭の先端からは透明でネバネバした液体があふれ出していた。
 この男は、この行為もまた凌辱りょうじょくの前に行なう前戯ぜんぎとして楽しんでいるつもりなのだろうか…?

 静香の着ている衣服は、残すは若い彼女に似合う可愛らしい模様のブラジャーとショーツだけになった。
 静香の半裸となった姿に興奮したのか、鼻から熱く荒い息を吐き出しながらヒッチハイカーはM字の形に開いた静香の美しい脚の付け根に鼻を寄せていく。彫りが深く鼻筋の通った彼の高い鼻先が、ショーツの上から静香の大切な部分に触れる。
 彼の口から溢れ出したよだれが透明な糸を引いていた。

 ヒッチハイカーの股間にそそり立った巨大なペニスの亀頭と静香の股間との間隔は、もう20cmほどしか離れていなかった。それにしても、こんな長大なサイズのペニスが静香の膣に納まるのだろうか?
 こんな馬並みのペニスを挿入されて激しく責められては、彼女の女性自身である秘めた部分は壊れてしまうのではないか?
 静香は、これまでの人生で伸田伸也しか男を知らなかった。父親以外では恋人である伸田のペニスしか見た事も無かったし、彼の標準的なサイズの男性器しか自分自身に受け入れた事が無かったのだ。

 もう我慢がまん出来なくなったのか、ヒッチハイカーは静香のショーツに指をかけ、ゆっくりと引き下ろしにかかった。そして静香の尻を待ちあげると、片脚ずつショーツを足から抜き取った。

 あらわになった静香の股間はあわい陰毛におおわれていた。ヒッチハイカーは静香の尻を軽々と持ち上げて自分の顔に向けて引き寄せると、彼女の性器に鼻先を近付けていった。
 彼のかた屹立きつりつした巨大なペニスの先端が静香の腰に押し付けられている。その勃起ぼっきり返ったペニスは三本目の腕の様に静香の腰を左右の腕と一緒に下から持ち上げていた。

 右手の指を使い、優しいと言える手つきで静香の女性器の花弁をそっと押し広げると、ヒッチハイカーは鼻梁の通った自分の高い鼻先をヒクヒクうごめかしながら広げた花弁の中心にズブズブと沈めていった。その部分は人間のめすとしての濃厚のうこうにおいが強く充満し、静香が気を失っているにもかかわらず中からかすかにうるおっていた。
 ヒッチハイカーの白人の様に高い鼻が先からズブズブと静香の膣に半分ほど埋まったところで、何を感じ取ったのか彼の身体は一瞬ビクッと震えたかと思うと、それ以上の動きを止めた。
 そのまま少しの間ヒクヒクと動かしていた鼻先を、埋めていた膣口からゆっくりと抜き去ると、今度はキリンの様に異様に長く人間離れした舌をすぼめると、十分にうるおった静香の膣内にズブズブと侵入させていった。

「あっ! あああ… ううう、うっ…」
 目を覚ました訳では無かったが、静香は自分の身体に侵入してきたしたヒッチハイカーの舌先に性感が刺激されたのか、小さくあえぎ声を上げ始めた。
 ヒッチハイカーは人間離れした異様に長い舌を静香の膣奥深くまで挿入そうにゅうしていき、子宮の入り口を超えて彼女の子宮内部にまで舌先を到達させた。

 そこで挿入された舌先が中で動かされているのか、静香の腰がゆっくりとグラインドしながらヒッチハイカーの顔に自分の性器を押し付け始めた。意識の無いままに彼女の身体が自分からも快感を求めているのだろうか? 細く長い舌をし込まれた静香の膣からは、彼女の愛液か男の唾液か分からない透明な液体があふれ出し、透明な糸を引きながら床に垂れ落ちていた。

 どうしたと言うのだろう…? ヒッチハイカーの表情に変化が表れた。自分が静香に行っている行為に彼の欲望がさらに高まっていくのではなく、それよりも気になる事を発見したとでもいうのか彼の眉間みけんに深くしわが刻まれ、疑問に思う事でもあるかのように首をかしげているのだ。

 それに何よりも驚いた事は、それまで興奮を象徴する様にそそり立っていたヒッチハイカーの巨大なペニスの高ぶりが、徐々におさまりえ始めていたのだ。
 これはヒッチハイカーが静香の肉体に対して抱いていた性欲が去り始めた事を示しているのだろうか…?

 これまでのヒッチハイカーの女性に対するセックスの衝動から言うと信じられない事だと言えた。女性とのセックスを始めると、数時間は挿入したままで何度射精しても満足せず抜かずに腰を振り続けるのが彼の通常の性交スタイルだったはずなのだが…

にゅぽんっ!
「うっ! ああっ…」
 ヒッチハイカーが挿入していた自分の舌を静香の膣から抜き出すと、軽いあえぎ声と共に静香の白い裸身がビクンビクンと痙攣けいれんしながらのけぞった。彼女の膣の中から粘度の高いトロリとした透明の液体が流れ出す。抜き去ったヒッチハイカーの舌から彼女の股間まで、キラキラと輝く透明な糸を引いていた。

 ヒッチハイカーは静香の股間から顔を離すと、次に彼女の下腹部に自分の右耳を当てた。ちょうど静香のヘソと股間の中間部くらいだろうか…
 ただ単に彼女の下腹部にほほずりをしている訳でも無さそうで、ヒッチハイカーの態度はまるで、その部分から何かの音を聴き取ろうとしているかの様だった。
 いったい彼は何の音を…?

 その行動に移ってから、彼の股間の凶器ともいえるペニスは勃起は解け、だらんとして完全にえてしまっていた。それでも常人の勃起ぼっきしたペニスよりも二回り以上大きかったが…
 右耳を静香の下腹部に当てていたヒッチハイカーは次に右耳に代え、やはり目を閉じて何かの音を聞き取っているようだ。

 しばらくそうしていたヒッチハイカーは、床に膝をついて身体を起こして立ち上がると少しの間、静香を見下ろしていた。

その時だ。

「コツコツ…」
 
 ヒッチハイカーの頭上でかすかな物音がした。彼は何も気が付いていない風を装い、物音がした方を見もせず何気ない調子で部屋の中を歩くと、オール電化のため本物では無いが壁に作り付けの暖炉だんろの方へ近付いた。そして、暖炉の中に置いてあるまき(これは本物の木の薪だ)を一本つかみだしたかと思うと、いきなり吹き抜けとなっている二階の天井部にある明り取りの窓に向けて素早く投げつけた。

「バッリーンッ!」
 家中に響き渡る大きな音と共に明り取りの窓ガラスが外に向かって粉々に砕け散り、外を吹き荒れる吹雪が割れた窓から勢いよく屋内に流れ込んで来た。

「カアッ!カアーッ!」
 カラスの鳴き声がした。どうやら明り取りの窓の外にカラスがいたらしいが、ヒッチハイカーはそのカラスに向かって薪を投げつけたのだろうか?

「バサッ! バサッバサッ! カアァーッ!」
 命中こそしなかったが、いきなり自分に向かって飛来し、窓ガラスを割って飛び出して来た薪に驚いたカラスはあわてて夜空に飛び立った。



********



「ちっ! 気付かれたか…」
 先ほどから製材所へ向かう道中、ずっと黙ったまま歩いていた鳳 成治おおとり せいじが舌打ちしてつぶやいた。

 横に並んで歩いていた長谷川警部は、そんなおおとりの横顔をジッと見つめながら思った。

『この男… さっきから目をつむったままで危なげもなく歩いていたかと思ったら、いきなり舌打ちして悔しそうな表情をしている。一体、この男は何をしていたんだ。』

 目を開けたおおとりが全員に対して告げた。
「ヒッチハイカーは現在、製材所敷地内の南寄りの林に面して建てられた一軒のログハウスの中にひそんでいる。そこに人質の皆元さんも一緒だ。」

おおとり指揮官、どうしてそんな事が分かるのですか?」
 長谷川の後ろを歩いていた島警部補が、不審そうな顔でおおとりたずねた。島は新しく自分達の指揮官となったおおとりに対して不信感を持っていたのだ。

「さっき言っただろう。私がはなった追跡用デバイスがヤツを追って居場所を突き止めたんだ。中の様子を撮影した動画を私のスマホに送って来た。」
 そう言っておおとりは答えたが、横を歩きチラチラとおおとりの方を盗み見ていた長谷川は、おおとりが自分のスマホなどを見もしなかったのを知っている。つまり、おおとりは口から出まかせを言っているのだ。
 だが、長谷川はおおとりが何かの術で作り出した三本足の『八咫烏やたがらす』を空にはなつのを目撃したのだ。
 鳳の言う『追跡用デバイス』というのは、おそらくあの『八咫烏』の事だろう。
 『八咫烏』から鳳に対して何かを伝えて来たとでも言うのだろうか? そうでなければ、ヒッチハイカーや静香の居場所や居場所内の様子などが彼に分かる筈が無かった。

「シズちゃん… いや、静香は無事なんですか? 彼女は生きてるんでしょうか?」
 少し離れて後ろを歩いていた伸田が、鳳のそばまでに駆け寄り、心配そうにたずねた。

「ああ、生きてはいるようだ。だが、それ以上は私にも分からない…」
 表情と口調から答えにくそうにしている鳳の返事を聞いて伸田は不安になった。

「まあまあ、伸田君。皆元みなもとさんが生きていて、彼女の居場所も分かったんだ。だから、元気を出して。
 一刻も早く、我々で彼女を救出してあげようよ。そのために僕達はここに来たんじゃないか。そうだろ?」
 安田巡査が持ち前の明るさと気さくさを発揮して何とか伸田をはげまそうと、彼の肩を叩きながら優しい口調で言った。

 安田は静香に同行し徒歩で作戦指揮所まで送り届けたのだ。彼女の優しく素直な人柄ひとがらに触れて、他の隊員の誰よりも静香に対して好印象を持っていた。何としてでも静香を助け出したいと言う気持ちが強いのは、警察官と言う立場だけでは無かった。
 誰に対してでも優しい安田は、静香の婚約者フィアンセである伸田を不安な気持ちのままにしておきたく無かったのだ。そんな安田の性格を、同じAチームの面々は知り尽くしていた。安田の意気を感じた隊員達全員が伸田の肩をたたいたり、それぞれに何がしかのはげましの言葉を彼にかけてやった。

 SITの隊員達は市民を守る警察官として凶悪犯に対しては厳しく対応するが、根は優しい心を持った連中ばかりなのだ
 そんな自分の部下達を、隊長の長谷川は、ほこりに思った。

 その一方で、ひとりおおとりが首をかしげているのを長谷川は見逃さなかった。
「どうかされましたか、おおとり指揮官?」

「いや、何でもない…」
 おおとりは長谷川の方を見向きもせずに、ぶっきらぼうな口調で答えた。

「あの『八咫烏やたがらす』に関係があるのでは…?」
 皮肉とも取れるような言い方で自分に訊く長谷川を、鳳がジロリとにらみつけた。

「なぜ、君がそれを知っている?」
 痛い所をズバリと指摘した長谷川に対して、おおとりの目は驚きを通り越し疑惑に満ちていた。
 
「私は、あなたがカラスの形をした黒い折り紙から、あの『八咫烏やたがらす』を作り出して空にはなつのを後ろから見ていたのですよ。」
 鳳に対し、すぐに長谷川は種明かしをして聞かせた。

「ふっ、ふふふ… そうか。あの時は、逃がしたヒッチハイカーを追跡するのに夢中だったので気が付かなかった。まさか、警部に見られていたとはな。」
 疑問が解けたおおとりは安心したのか、少し緊張を解いたようだ。

「ですが、いったい…あのカラスは何なんですか?」
 隣りを歩きながら、長谷川が気になっていた事を鳳に尋ねた。

「ふっ… 現場を見られたのなら、今更いまさらとぼけてみても仕方がないな。あれは私が陰陽おんみょう術を使い、折り紙に念を込めて作り出した擬人式神ぎじんしきがみだよ。」

陰陽術おんみょうじゅつ式神しきがみ? 聞いた事はあるが、そんなモノが本当に存在するんですか…?
 しかも、どうしてあなたのような人が、そんな術を?」
 どうにも胡散臭うさんくさそうな表情をした長谷川が、さらに鳳にいた。

「現実に警部も自分の目で見たんだろう? 信じる信じないは君の勝手だ。そんな事より、もうすぐ到着のようだな…」
 おおとりは、それ以上説明する気は無いらしく、話を打ち切ると歩く速度を速めた。

 一行全員の前に目的地である製材所が見えて来た。彼らが今いる小高い丘から見渡すと、かなり広大な面積に渡って土地を所有している様だった。

「目標は、あのログハウスだ。ヒッチハイカーと皆元さんは、現在あそこにいる。」
 鳳がし示した先に、なるほど一軒のログハウスが建っていた。
 そこは、製材所に隣接する林の手前に建てられていた。

「目標まであと1kmという所ですね、よし、全員装備を確認しておけ!」
 島警部補がAチームの隊員達と伸田に対して命令した。

ガシャッ!
ガシャガシャ!
ガシャン!
 隊員達の自分の装備をチェックする音が響いた。

 伸田も自分が携帯する自動拳銃のベレッタを二丁とも点検した。
 亡くなった隊員が装備していたグローブを拝借はいしゃくして自分の手にはめていたのだが、寒さで指先がかじかんでいる。ヒッチハイカーとの戦闘になった時に指が動かなくてはシャレにならないので、伸田は利き手である右手をポケットに入れ、元々持っていた使い捨てカイロをにぎってあたためておくようにした。

 一行はログハウスまで後100mという地点まで近付いた所で、長谷川警部が全員に言った。
「よし、ここからは各員5mの距離を取りながら横隊で前進する。最終的にはログハウスを中心として、ゆるい扇方おうぎがたに展開したまま取り囲むぞ。これまでの他チームの例がある。互いが見通せなくなる林には入るな。林の中ではB、Cチーム例から見ても、こちらが不利になる。
 これでよろしいでしょうか?鳳指揮官。」

 本来のSITの隊長である長谷川が、現在の指揮官である鳳にうかがいを立てる。

「大変結構だ。賢明な判断だと思う。指揮官は私だが、実質的なチームへの戦い方の指示は君にまかせる。何といっても君はSITの隊長だからな…」
 話しかけられた鳳は長谷川の方を見ずに前方のログハウスを見つめながら答えた。

「了解しました。それでは各員、装備を構えつつ前進を開始する!」
 鳳を含めた全員が長谷川の命令通り、各員が5mの距離を取った横隊で今まで以上に慎重にログハウスに向けて行軍こうぐんを開始した。



********



 ログハウスの中ではヒッチハイカーがボロボロのズボンと登山靴を身に着け終わっていた。上半身に身に着けていた衣服はズタズタのボロ切れ同然だったので使い物にはならなかった。
 エアコンが効いているとはいえ、この寒い山中の部屋で上半身裸のヒッチハイカーは身震い一つしていなかった。

 ヒッチハイカーは腕組みをしたまま目をつぶっている。立ったままなので眠っている訳ではないだろう。
 全身が静止したままの彼の左右の耳だけが、ぴくぴくと動いている。

 静香はどうしたのか…?

 立っているヒッチハイカーの足元で、全裸に剥《む》かれた状態で意識を失ったまま床に横たわった静香の身体には、どこかから持ってきたらしい毛布が数枚掛けられてあった。
 これならば、暖房の程よく効いている事と言い、彼女が裸でも眠ったまま凍死する事は有り得ないだろう。

 しかし、なぜ…静香に対して、この様な配慮を見せるのか…?
 今までヒッチハイカーが捕獲した女性に対して行なって来た扱いと言えば、相手を死ぬまで強姦し死んだ後も自分が満足するまで遺体を死姦し続けていたはずだった。しかも、吹雪の野外で生きている全裸の女性を容赦なく犯していたのだ。

 静香だけが自分にとって特別な女性だとでも言うのか?
 それとも…自分に迫り来る敵を全滅させてから、あらためてゆっくりと彼女をなぶるつもりなのだろうか?

 閉じていた目を開き、組んでいた腕組みをいたヒッチハイカーは、床に突き刺してあった自分の唯一の武器である山刀マチェーテを抜き取り右手に握りしめた。
 そして、足元に横たわる静香を見下ろした。
 奇妙な事に静香を見つめるヒッチハイカーの目には、いつもの彼が見せる性欲や暴力に飢えてギラギラと輝く異様なほど狂暴で貪欲な光や色などは浮かんでいなかった。

 ヒッチハイカーは静香にかけた物とは別に持って来ていた、白い色の毛布を一枚取り上げるとマチェーテを器用に使って頭と腕を出すための穴を開けた。そして、それをポンチョを被る様に自分の身体に着用した彼は素早いが静かな足取りで階段を2階へと駆け上った。

 そして、先ほどカラスに対してまきを投げつけて壊した明り取りの窓に手をかけて開け放ち、外の陶器瓦とうきがわらいたログハウスの屋根へ足を踏み出した。
 ただでさえ傾斜があり雪の積もった屋根は簡単にすべりそうなものだったが、ヒッチハイカーは巨体であるにも拘らずほとんど音を立てる事無く猫の様にしなやかな動きで屋根の上に器用に降り立つと、少し離れた製材所の建物がともす照明から届くかすかな明かりだけに照らされた製材所の敷地から林へと続く真っ白な雪原を見渡した。

「9人か…」

 白い吐息を吐き出しながらヒッチハイカーがつぶやいた低い声は、すぐに吹雪の音にかき消された。

 ログハウスの上空に、吹雪をものともせずに旋回せんかいしながら飛行する一羽の黒い鳥の姿があった。
 それは、鳳 成治おおとり せいじはなった擬人式神の『八咫烏やたがらす』だった。今度はヒッチハイカーも、上空を音もなく飛行する『八咫烏』に気付く事は無かった。



********



「私の放った追跡用デバイスからの報告が入った。現在、ヒッチハイカーはログハウスの屋根の上にいる。どうやら、ヤツは我々の接近に気が付いているようだ。各員、油断するな。」
 展開してログハウスへと向かっている各隊員に鳳 成治おおとり せいじがヘッドセットで通達を下した。この通達は全隊員に無線で一斉に通信された。

「了解!」
「了解しました。」
「了解です。」

 長谷川警部をはじめとして、島警部補以下Aチーム全隊員からの了解の応答が次々に入る。

 SIT隊員の装備を身に着けている伸田も、Aチーム隊員の安田巡査から無線機の通信の仕方をレクチャーされていた。伸田も応答した。

「こちら伸田、了解しました。」

 伸田は通信を終えるとポケットに入れて温めていた右手を出し、やはりタクティカルベスト内に着用したショルダーホルスターに収納しておいた『ベレッタ90-Two』を抜き出して構えた。そして銃の安全装置を外す。

『シズちゃん… 君の事は、必ず僕が助けるからね』

 伸田はとらわれの静香をおもい、いとしい彼女の救出を心にちかった。
 そして彼は、無念の内に死んでいった親友達の顔を胸に思い描いた。

 SITの隊員達もまた、苦楽を共にしてきた仲間達に無残な死を与えた殺戮者に対する復讐の炎をメラメラと燃やしていた。
 
 それぞれの思いを胸に、山中の製材所を舞台にした戦闘のゴングは今にも鳴ろうとしていた。

 時刻は12時32分、クリスマスイブからクリスマスへと日は替わっても冬の夜明けは、まだまだ遠かった…




【次回に続く…】
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