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2章ローゼンベルト王国

よく分からない人〈ヨハン視点〉

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「あつっ!」

「大丈夫か!! 治癒を使いなさい」

 焚き火の前で火傷した、綾人に心配そうに駆け寄るアレク。



「あ、そうだった」

 綾人はそそくさと自分に治癒魔法をかける。



「アヤトが無事で良かった。さぁ、もうこっちにおいで。火の調整はこちらでするから」

「う、うん」



 アレクは治癒魔法をかけ終えた綾人を抱き抱え、火のそばを離れたものの、そのまま自分の膝に乗せて綾人を離さない。



「火を保つのって難しいんだね。アレク凄いね」

「騎士団でも野営はするからな」



 綾人に褒められてまんざらでもないアレク。

 そして、膝に抱えられてるのに恥ずかしそうにしつつもアレクに何も言わない綾人。





 ――俺は何を見せつけられてるんだ?



 完全に2人の世界となっているが、目の前には俺ことヨハンがいるのだ。



 最初は綾人も人前でのイチャイチャに、恥ずかしがってやめるように言っていたが、アレクが"恋人同士がイチャイチャするのは普通だ"と言い切り、何故か綾人はそれで納得してしまって以来、今では恥ずかしそうにしつつもアレクからの愛情表現に身を任せている。



 ……いや。2人の時にイチャイチャするのは構わないが、人前でのイチャイチャは常識的に言えばあまりしないのが普通なのだが。







 アレクと綾人が結ばれ、3人で睨み合った後、綿密に話し合い王太子を助けるべく、ローゼンベルト王国へ向かうことが決まった。



 ヨハンとしては、綾人を探すという寄り道をしている為、少しでも早く国に戻りたかった。

 それに、第三王子派で味方陣営とは言え、アレクの元婚約者のエリーメイルがこちらと接触を果たしている以上、アレクが存命である事をどの陣営も既に知っていると思った方が良いだろう。

 ヨハンとしては、どの陣営がどう動くか分からない以上、情報が広がる前に敵も居るが味方も居る国内に戻りたかった。



 だが、王太子の体の様子を分かる範囲で綾人に伝えた所、"今のままではレベルが足りないかもしれない"という事で、この国内に留まるよりも、ローゼンベルト王国でレベル上げするよりも、道中でレベル上げをしながら戻る方が、時間短縮と追手対策を兼ねられるという結論に至り、あれから必要なものを準備し、直ぐに街を出て魔獣が多く人通りが少ない道を行く事にしたのだった。



 が、3人で移動を開始し、早3日。



 ヨハンは綾人と接すれば接するほど、綾人が"よく分からない人物"だということが分かった。



 綾人は毒にもならないような凡庸な外国人の男で、アレクの執着具合には大変驚いたものだが、確かにこのような平凡の域を出ない小柄で華奢で素朴な青年がアレクの周りには居なかった為、そういう趣味だと言われれば無理矢理納得したので、(アレクの趣味嗜好についてヨハンは全く理解出来ないが、個人の自由なので置いておく)それはもう良い。



 アレクに近付く者という事で、簡単には綾人の事を調べたのだが、ドネステラの街以外での情報が全く手に入らなかった。

 アレクは気にしていないようだが、出身国も未だ分からず、家族構成や平民か貴族かも分からない。

 この周辺国では見ない顔立ちから外国人という事だけは分かるが、言葉は驚く程流暢で、立ち居振る舞いも平民のような雑さはないものの、貴族のようなオーラもない。

 そして、旅をしてきたなら知っていそうな、"火を保つ"ことも出来ないばかりか、野営をする為の天幕も自分で張れず、移動の為の馬にも1人で乗れず、狩りも出来ず、ウサギを捌いていたヨハンを見て体調を崩す……何処の深窓の令嬢だ? と問いたい。

 これが、この間見た"聖女"と呼ばれるレベルの治癒魔法持ち故に、神殿に大事に匿われていたのかと思いきや、現在神殿から聖女の捜索願いが出ていることもないし、綾人がいた街で聖女レベルの治癒魔法を持つ人の噂すら無かった。



 それに、外国人だとしてもあまりにも常識を知らなさ過ぎる気がするのだ。

 ただ、頭が悪いだけなら良かったが、ヨハンの探りを入れた質問を当たり障りの無いように、話をすり替えたり、そらしたり、曖昧に誤魔化す事が1回や2回たまたまではなく、意図して行なっているようで、決して頭は悪くなくむしろ賢い方だと今では確信している。



 知れば知るほど分からなくなる綾人。

 ヨハンとしては本当にこのままアレクの側に居させても良いものか迷っている。



 そんな綾人に想像以上に執着していたアレク。

 アレクに男同士の営みの方法を教えた際、媚薬を大量に揃えはじめた時から、"おや?"と思っていたが、自分の培ってきた地位や名誉よりも、王子として育った責務よりも、奴隷に落とされた復讐心よりも、それこそ洗脳でもしたかのように綾人への執着心が凄い。



 アレクが愛を知る事は良い事だが、その存在は弱みにも繋がるのだ。

ましてやこれだけの執着具合であれば、綾人の存在は諸刃の剣になりかねない。



 綾人がただの一般人であるならまだしも、綾人側に事情があるなら、それを開示してもらわないと、対処のしようが無いのに、綾人との会話からは驚く程情報が得られない。



 "不明な過去に経歴"、"何も掴ませない言動"、それにアレクに言われなければ滅多な事で"使わない治癒魔法"。



 神殿関係で何かあるのだろうか……。



 ここまでくれば綾人が何かを隠している事は分かるが、何もかも分からない事が多すぎて、何を隠しているのか尻尾を掴ませない。

 綾人がアレクにとって害にならない存在ならば良いが、命を脅かすような害になる存在であればアレクに憎まれてでも引き離すつもりだ。





 そんな内心を態度に出した覚えは無いが、勘が鋭いアレクと、その辺りの空気に聡い綾人にバレているようで、2人に警戒されていてあまり居心地は良くない。





 ――2人はヨハンの目の前で一通りイチャイチャした後、2人のテントに入って行った。

 ここはダンジョンとは違って安全地帯等ない為、野宿の際はアレクとヨハンで交代で夜の見張りをしている。

 アレクの風魔法の結界があれば魔獣対策としては問題はないが、暗殺などの対人の場合は少々異なるので、念の為だ。





 それに……



 暫くするとテントが揺れ始める。



 器用な事で、アレクは野営地に風魔法の結界を張って更にテントの中に防音結界を張っているようでテントの中の音は何も聞こえない。



 音は聞こえないが、テントはあくまで持ち運びが可能なテントなわけで、丈夫とはいえ壁代わりの物は布で出来ている……



 つまり、愛し合う行為をするとテント自体が揺れるのだ。



 綾人とアレクの関係性を知っている今、外から見れば何をやっているか容易に想像が付くのだが、それに未だ気がついていない綾人はやはり、賢いと思ったのは気のせいだったかもしれないと思い、ため息を吐きつつ、周りの警戒に勤める事にした。





 ――あのアレクセイ殿下がここまで執着されるとは……。



 ヨハンは周りを警戒しながら過去に思いを馳せた。
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