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【1】ハグレモノ案件
1-11 死神
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このままではチコリちゃんが死ぬ。シロガネの右腕が殺してしまう。
シロガネにはチコリちゃんを運べない。近づくだけでも体調が悪化しかねないからだ。
かと言って、兄くんの消息が分からないい今、残った"御神酒(ソーマ)"を今、チコリちゃんに使うわけにもいかない。
となると、残る方法はただひとつ…
「おじさん! ここから脱出する! チコリちゃんを頼んでいい?」
「ええ? あ、はい! もちろんですとも!」
セ・レナーデ氏は慌てて、苦しむチコリちゃんを抱きかかえる。よかった。これだけでもこのおじさんに"御神酒(ソーマ)"を使った意味がある。
「じゃあ、ボクについて来て!」
「は、はひぃ!」
とにかく上だ! 上を目指そう!
先行したシロガネは、貯蔵室からトンネルに入る。すると、途中で道が左右に枝分かれしていた。恐らく片方は地上。もう片方はより地下へと続いている。そして枝分かれした通路の中心に、そいつがいた。
シロガネはその場にしゃがむと、そっと様子をうかがう。
紛う事なき巨大アリ。だが、"掃除屋"ではない。
より大きく、より強く、より凶暴な、戦闘特化個体。巣や女王を守護する"親衛隊"だ。
どうやら見張りのようだ。こちらに気付いていないのか、まったく動く気配がない。
「ど、どうするんです? 王宮戦士のお兄さん」
「もちろんやっつける」
「え! いや、でも…、兄さんのその装備では、分が悪いのではないですかい?」
分が悪い? シロガネは訝しむ。
シロガネが持ち込んだ自慢の装備は、長くて肉厚なで切れ味抜群なグレートソードだ。むしろ"掃除屋"よりでかい"親衛隊"のようなデカブツにこそ、役立つ剣じゃないか。
「大丈夫だよっ」
「そう…でしたら……いいんですが…」
あからさまに心配されてるっ! ボクは王宮戦士なのに、よりによって一般人にっ!?
シロガネは無性に悔しかったが、理由を確かめている余裕が無い。急いでチコリちゃんに、外の新鮮な空気を吸わせなければいけないのだ。作戦なんか立ててられるか! ごり押しで行く!
シロガネは全速力で"親衛隊"に接近。反応される前に、射程距離に捕らえた。あとは剣を全力で振り下ろしてっ……
ゴリュッ!!
何かの鈍い音と共に、切っ先が引っかかる。力任せに大剣を振り回した反動で、シロガネの身体が一回転してしまう。一瞬だが、セ・レナーデ氏の顔が見えた。あちゃーっと、哀れむような顔をしていた。
ドチクショー!!
目の前でひっくり返った得物を逃すはずはない。振り返った"親衛隊"はシロガネの足首に噛みついた。
何かが砕ける感触と共に、激しい痛みがシロガネを襲う。
"親衛隊"の容赦ない攻撃は続く。足首に噛みついたままシロガネを振り回し、壁のあちこちに叩きつける。
それでも抵抗を続けるシロガネは、剣を必死に持ち続けていたが、それも長くは続かない。
やがて、剣も誇りも意識も手放し、その身を委ねてしまうのだった。
死神に
間もなく意識を取り戻したシロガネは、剣を手放している事に気付く。代わりに右手が掴んでいたのは、"親衛隊"の頭だった。
右腕から命が流れ込んでくる。"親衛隊"から吸い取っているのだ。シロガネは慌てて頭から手を離す。
くそ! またやっちまった!
死神から解放されたその巨体は、ズシンとひっくり返ると二度三度けいれんを起こし、二度と動かなくなった。
死神腕が吸い取った命は、傷ついたシロガネの身体をたちどころに修復してゆく。千切れかけた足首も程なくして完治した。
落とした剣を拾い、通路の奧に隠れているおじさんを見ると、震えていた。
「い、い、い、今のはっ! なん、なん、なん、何なんですかっ!」
「それは……ナイショだよ」
危なく忘れるところだったが、自分の秘密を安易に話すなと、ラズ老師から堅く口止めされている。ただの一般人ならなおのことだ。
「それより、チコリちゃんは大丈夫?」
「え? あ、そうでしたそうでした! ……先ほどと変わりません。体調は良くないです」
「急ごうおじさん! もうじき外に出られるよ」
"親衛隊"は右を向いていた。きっと右が外に続く道なのだ。
外がどうなっているのか分からない。でも、今は進むしかない。チコリちゃんだけは何が何でも助けなきゃ!
シロガネは、決意を新たに歩き始めた。
シロガネにはチコリちゃんを運べない。近づくだけでも体調が悪化しかねないからだ。
かと言って、兄くんの消息が分からないい今、残った"御神酒(ソーマ)"を今、チコリちゃんに使うわけにもいかない。
となると、残る方法はただひとつ…
「おじさん! ここから脱出する! チコリちゃんを頼んでいい?」
「ええ? あ、はい! もちろんですとも!」
セ・レナーデ氏は慌てて、苦しむチコリちゃんを抱きかかえる。よかった。これだけでもこのおじさんに"御神酒(ソーマ)"を使った意味がある。
「じゃあ、ボクについて来て!」
「は、はひぃ!」
とにかく上だ! 上を目指そう!
先行したシロガネは、貯蔵室からトンネルに入る。すると、途中で道が左右に枝分かれしていた。恐らく片方は地上。もう片方はより地下へと続いている。そして枝分かれした通路の中心に、そいつがいた。
シロガネはその場にしゃがむと、そっと様子をうかがう。
紛う事なき巨大アリ。だが、"掃除屋"ではない。
より大きく、より強く、より凶暴な、戦闘特化個体。巣や女王を守護する"親衛隊"だ。
どうやら見張りのようだ。こちらに気付いていないのか、まったく動く気配がない。
「ど、どうするんです? 王宮戦士のお兄さん」
「もちろんやっつける」
「え! いや、でも…、兄さんのその装備では、分が悪いのではないですかい?」
分が悪い? シロガネは訝しむ。
シロガネが持ち込んだ自慢の装備は、長くて肉厚なで切れ味抜群なグレートソードだ。むしろ"掃除屋"よりでかい"親衛隊"のようなデカブツにこそ、役立つ剣じゃないか。
「大丈夫だよっ」
「そう…でしたら……いいんですが…」
あからさまに心配されてるっ! ボクは王宮戦士なのに、よりによって一般人にっ!?
シロガネは無性に悔しかったが、理由を確かめている余裕が無い。急いでチコリちゃんに、外の新鮮な空気を吸わせなければいけないのだ。作戦なんか立ててられるか! ごり押しで行く!
シロガネは全速力で"親衛隊"に接近。反応される前に、射程距離に捕らえた。あとは剣を全力で振り下ろしてっ……
ゴリュッ!!
何かの鈍い音と共に、切っ先が引っかかる。力任せに大剣を振り回した反動で、シロガネの身体が一回転してしまう。一瞬だが、セ・レナーデ氏の顔が見えた。あちゃーっと、哀れむような顔をしていた。
ドチクショー!!
目の前でひっくり返った得物を逃すはずはない。振り返った"親衛隊"はシロガネの足首に噛みついた。
何かが砕ける感触と共に、激しい痛みがシロガネを襲う。
"親衛隊"の容赦ない攻撃は続く。足首に噛みついたままシロガネを振り回し、壁のあちこちに叩きつける。
それでも抵抗を続けるシロガネは、剣を必死に持ち続けていたが、それも長くは続かない。
やがて、剣も誇りも意識も手放し、その身を委ねてしまうのだった。
死神に
間もなく意識を取り戻したシロガネは、剣を手放している事に気付く。代わりに右手が掴んでいたのは、"親衛隊"の頭だった。
右腕から命が流れ込んでくる。"親衛隊"から吸い取っているのだ。シロガネは慌てて頭から手を離す。
くそ! またやっちまった!
死神から解放されたその巨体は、ズシンとひっくり返ると二度三度けいれんを起こし、二度と動かなくなった。
死神腕が吸い取った命は、傷ついたシロガネの身体をたちどころに修復してゆく。千切れかけた足首も程なくして完治した。
落とした剣を拾い、通路の奧に隠れているおじさんを見ると、震えていた。
「い、い、い、今のはっ! なん、なん、なん、何なんですかっ!」
「それは……ナイショだよ」
危なく忘れるところだったが、自分の秘密を安易に話すなと、ラズ老師から堅く口止めされている。ただの一般人ならなおのことだ。
「それより、チコリちゃんは大丈夫?」
「え? あ、そうでしたそうでした! ……先ほどと変わりません。体調は良くないです」
「急ごうおじさん! もうじき外に出られるよ」
"親衛隊"は右を向いていた。きっと右が外に続く道なのだ。
外がどうなっているのか分からない。でも、今は進むしかない。チコリちゃんだけは何が何でも助けなきゃ!
シロガネは、決意を新たに歩き始めた。
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