死神腕の少年剣士

風炉の丘

文字の大きさ
上 下
11 / 27
【1】ハグレモノ案件

1-11 死神

しおりを挟む
 このままではチコリちゃんが死ぬ。シロガネの右腕が殺してしまう。
 シロガネにはチコリちゃんを運べない。近づくだけでも体調が悪化しかねないからだ。
 かと言って、兄くんの消息が分からないい今、残った"御神酒(ソーマ)"を今、チコリちゃんに使うわけにもいかない。
 となると、残る方法はただひとつ…
「おじさん! ここから脱出する! チコリちゃんを頼んでいい?」
「ええ? あ、はい! もちろんですとも!」
 セ・レナーデ氏は慌てて、苦しむチコリちゃんを抱きかかえる。よかった。これだけでもこのおじさんに"御神酒(ソーマ)"を使った意味がある。
「じゃあ、ボクについて来て!」
「は、はひぃ!」
 とにかく上だ! 上を目指そう!
 先行したシロガネは、貯蔵室からトンネルに入る。すると、途中で道が左右に枝分かれしていた。恐らく片方は地上。もう片方はより地下へと続いている。そして枝分かれした通路の中心に、そいつがいた。
 シロガネはその場にしゃがむと、そっと様子をうかがう。
 紛う事なき巨大アリ。だが、"掃除屋"ではない。
 より大きく、より強く、より凶暴な、戦闘特化個体。巣や女王を守護する"親衛隊"だ。
 どうやら見張りのようだ。こちらに気付いていないのか、まったく動く気配がない。
「ど、どうするんです? 王宮戦士のお兄さん」
「もちろんやっつける」
「え! いや、でも…、兄さんのその装備では、分が悪いのではないですかい?」
 分が悪い? シロガネは訝しむ。
 シロガネが持ち込んだ自慢の装備は、長くて肉厚なで切れ味抜群なグレートソードだ。むしろ"掃除屋"よりでかい"親衛隊"のようなデカブツにこそ、役立つ剣じゃないか。
「大丈夫だよっ」
「そう…でしたら……いいんですが…」
 あからさまに心配されてるっ! ボクは王宮戦士なのに、よりによって一般人にっ!?
 シロガネは無性に悔しかったが、理由を確かめている余裕が無い。急いでチコリちゃんに、外の新鮮な空気を吸わせなければいけないのだ。作戦なんか立ててられるか! ごり押しで行く!
 シロガネは全速力で"親衛隊"に接近。反応される前に、射程距離に捕らえた。あとは剣を全力で振り下ろしてっ……

 ゴリュッ!!

 何かの鈍い音と共に、切っ先が引っかかる。力任せに大剣を振り回した反動で、シロガネの身体が一回転してしまう。一瞬だが、セ・レナーデ氏の顔が見えた。あちゃーっと、哀れむような顔をしていた。
 ドチクショー!!
 目の前でひっくり返った得物を逃すはずはない。振り返った"親衛隊"はシロガネの足首に噛みついた。
 何かが砕ける感触と共に、激しい痛みがシロガネを襲う。
 "親衛隊"の容赦ない攻撃は続く。足首に噛みついたままシロガネを振り回し、壁のあちこちに叩きつける。
 それでも抵抗を続けるシロガネは、剣を必死に持ち続けていたが、それも長くは続かない。
 やがて、剣も誇りも意識も手放し、その身を委ねてしまうのだった。

 死神に

 間もなく意識を取り戻したシロガネは、剣を手放している事に気付く。代わりに右手が掴んでいたのは、"親衛隊"の頭だった。
 右腕から命が流れ込んでくる。"親衛隊"から吸い取っているのだ。シロガネは慌てて頭から手を離す。
 くそ! またやっちまった!
 死神から解放されたその巨体は、ズシンとひっくり返ると二度三度けいれんを起こし、二度と動かなくなった。
 死神腕が吸い取った命は、傷ついたシロガネの身体をたちどころに修復してゆく。千切れかけた足首も程なくして完治した。
 落とした剣を拾い、通路の奧に隠れているおじさんを見ると、震えていた。
「い、い、い、今のはっ! なん、なん、なん、何なんですかっ!」
「それは……ナイショだよ」
 危なく忘れるところだったが、自分の秘密を安易に話すなと、ラズ老師から堅く口止めされている。ただの一般人ならなおのことだ。
「それより、チコリちゃんは大丈夫?」
「え? あ、そうでしたそうでした! ……先ほどと変わりません。体調は良くないです」
「急ごうおじさん! もうじき外に出られるよ」
 "親衛隊"は右を向いていた。きっと右が外に続く道なのだ。
 外がどうなっているのか分からない。でも、今は進むしかない。チコリちゃんだけは何が何でも助けなきゃ!
 シロガネは、決意を新たに歩き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...