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【1】ハグレモノ案件
1-10 チコリ
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「ボクはシロガネ。王宮戦士だよ」
「おーきゅーせんし……」
妹ちゃんは少し考えていたが、突然ハッと気付くと、夢中になって話し出した。
「チコリ、しってるのです! おーきゅーせんしは、わるものをやっつけるせいぎのみかただって、チコリのにぃにがおはなししてくれたのです!」
「そ、そうか。そうだね。そうだよ。ヨロシクね、チコリちゃん」
すると妹ちゃんは、目を丸くして驚く。
「ど、どうしてチコリのおなまえ、わかったですかっ!」
話が長くなりそうだ。シロガネは本題に入る事にする。
「それより、チコリちゃんのにぃにはどこ?」
途端に妹ちゃんはうつむいてしまう。
「チコリ、わかんないです。にぃにはトカイにいくって、おうちから…。チコリはおいてけぼりなのです」
兄くんは都会に行った? 都会の生活に憧れて家出したって事だろうか?
王国の首都"ノイバラ"を目指して南下したなら、雑木林とは方角が逆だ。
帝国の絶対防衛都市"コンゴウ"を目指して、西の国境を目指したとしても、道は雑木林から離れている。
消息は分からないが、少なくとも兄くんは"掃除屋"には捕まってない?
「チコリ、いっぱい、いっぱい、はしったのです。でも、つかれちゃって……。おじちゃんがまいごのチコリをたすけてくれたです」
「おじちゃん?」
側に横たわってる、このおっさんの事か。
「ねえおじちゃん、おきて! おきて!」
妹ちゃんはおっさんの身体を揺さぶるが、当然ながら動く気配はない。
何故だか判らないが妹ちゃんは無事だ。兄くんも捕まっていない可能性が高い。
おっさんの正体は直接本人に聞くしか無さそうだ。
どうする? 使うか?
でも"御神酒(ソーマ)"ってメッチャ高いって話なんだよな。やっぱり止めとくか?
いいや。使っちゃえ。
シロガネはアンプルを取り出すと、先を折り、中身の液体をおっさんの口に流し込む。
おっさんの身体が一瞬、ボンヤリとだが光った気がした。すると突然、おっさんはガバッと跳ね起きる。
「あ? あれ? あれれ? 身体が動く♪ 動くよ♪ 動いちゃってるよ♪」
「おじちゃん、おはようございます♪」
「お? お~♪ チコリちゃんか~♪ おはよ~♪」
やけに陽気なおっさんだが、妙にテンションが高いのは"御神酒(ソーマ)"の後遺症のようなものだ。
ある種の酒なので、軽く酔っぱらうのは仕方ない。
「それで? こっちのお兄ちゃんは誰? もしかして、チコリちゃんのにぃに君だったりする?」
「ボクはシロガネ。王宮戦士だよ」
「おーきゅーせんし……」
おっさんは少し考えていたが、突然ハッと気付くと、顔が引きつった。
「げぇ! 王宮戦士ぃっ!? あの正義の味方気取りのぉっ!?」
シロガネはちょっとばかりカチンと来たが、気にしない。
王宮戦士が執行する正義が、必ずしも他国の正義と同一とは限らないのだから。
もっとも、普通に悪人である可能性も普通にありそうだが。
「話を聞かせてくれるかな? オ・ジ・サ・ン」
「はっ! はひぃ!!」
ちなみにシロガネは素直な性格なので、顔は素直にムカついてたりするが、気にしない気にしない。
「わたくし、セ・レナーデと申します。旅の吟遊詩人をしておりまして……」
「あー、時間無いから自己紹介はいいや。何が起きたか話してよ」
「そうですか……では本題を。
西の関所を通って"野薔薇ノ王国"に入ったのですが、王都に向かう途中、道の途中で座り込んでいるチコリちゃんを見かけます。気になって話を聞きますと、家出したにぃに君を追い掛けているうちに、迷子になったと言うじゃあ~りませんか。日も暮れましたし、女の子一人では危ないと思いまして、村に送っていく事にしたのですが、何せ"野薔薇ノ王国"に来たのは初めてでして……。恥ずかしながら、わたくしも迷子になってしまいました。仕方なく林で野宿していたのですが、夜中に突然"掃除屋"に襲われてですね。眠っているチコリちゃんを抱きかかえて逃げようとしたんですが、あっさり囲まれて、毒針を刺されて動けなくなりまして。シロガネさんに助けられるまで固まってたと。まあ、そう言うわけです。はい」
「そ、そう」
つまり、眠っている妹ちゃんをしっかり抱きかかえた状態で固まっていたため、"掃除屋"は妹ちゃんに気付かなかった。だから妹ちゃんには毒針を刺さなかったって事だ。
兄くんの消息に繋がる情報は無しか。ま、しょうがない。
どうしよう。シロガネは悩んだ。
兄くんの消息が分からない以上、シロガネは下に行くしかない。それは良いとして、二人はどうする?
連れて行くのは危険だが、ここに置き去りも考え物だ。
一度地上に戻り、救援隊に二人を任せるのが一番か? 来てくれるだろうか、救助隊。
「おじちゃん……」
「お? チコリちゃん、どうしたんだい?」
「チコリ……あたまいたいのです……」
「チコリちゃん? チコリちゃん!?」
具合の悪くなった妹ちゃんは、頭を歩さえながらその場にしゃがみ込んだ。
さっきまで元気だったのに、一体どうしたんだ? いや、まて?
シロガネは周囲を見渡す。ここは生き餌の貯蔵室。形は直系20メートルくらいの球体を横に引っ張って楕円にしたような感じだ。シロガネが長居するには、ここは狭すぎる。
シロガネは「しまった!」と思わず叫んだ。
触れる事で命を奪う死神腕。シロガネは人や物をうっかり触らないよう、細心の注意を払っているが、それでも常に触れ続けているものがある。それは空気だ。
シロガネが密閉された部屋に留まると、右腕に触れた空気から生命エネルギーをどんどん吸い取り、空気を殺してしまう。呼吸できないものへと変えてしまう。だから非番のシロガネは、誰にも迷惑をかけないよう屋根の上にいるのだ。
まずい。このままでは妹ちゃんが危ない。よりによってシロガネの死神腕が、妹ちゃんの命を刈り取ってしまう!
早く! 一刻も早くここから出なくては!!
「おーきゅーせんし……」
妹ちゃんは少し考えていたが、突然ハッと気付くと、夢中になって話し出した。
「チコリ、しってるのです! おーきゅーせんしは、わるものをやっつけるせいぎのみかただって、チコリのにぃにがおはなししてくれたのです!」
「そ、そうか。そうだね。そうだよ。ヨロシクね、チコリちゃん」
すると妹ちゃんは、目を丸くして驚く。
「ど、どうしてチコリのおなまえ、わかったですかっ!」
話が長くなりそうだ。シロガネは本題に入る事にする。
「それより、チコリちゃんのにぃにはどこ?」
途端に妹ちゃんはうつむいてしまう。
「チコリ、わかんないです。にぃにはトカイにいくって、おうちから…。チコリはおいてけぼりなのです」
兄くんは都会に行った? 都会の生活に憧れて家出したって事だろうか?
王国の首都"ノイバラ"を目指して南下したなら、雑木林とは方角が逆だ。
帝国の絶対防衛都市"コンゴウ"を目指して、西の国境を目指したとしても、道は雑木林から離れている。
消息は分からないが、少なくとも兄くんは"掃除屋"には捕まってない?
「チコリ、いっぱい、いっぱい、はしったのです。でも、つかれちゃって……。おじちゃんがまいごのチコリをたすけてくれたです」
「おじちゃん?」
側に横たわってる、このおっさんの事か。
「ねえおじちゃん、おきて! おきて!」
妹ちゃんはおっさんの身体を揺さぶるが、当然ながら動く気配はない。
何故だか判らないが妹ちゃんは無事だ。兄くんも捕まっていない可能性が高い。
おっさんの正体は直接本人に聞くしか無さそうだ。
どうする? 使うか?
でも"御神酒(ソーマ)"ってメッチャ高いって話なんだよな。やっぱり止めとくか?
いいや。使っちゃえ。
シロガネはアンプルを取り出すと、先を折り、中身の液体をおっさんの口に流し込む。
おっさんの身体が一瞬、ボンヤリとだが光った気がした。すると突然、おっさんはガバッと跳ね起きる。
「あ? あれ? あれれ? 身体が動く♪ 動くよ♪ 動いちゃってるよ♪」
「おじちゃん、おはようございます♪」
「お? お~♪ チコリちゃんか~♪ おはよ~♪」
やけに陽気なおっさんだが、妙にテンションが高いのは"御神酒(ソーマ)"の後遺症のようなものだ。
ある種の酒なので、軽く酔っぱらうのは仕方ない。
「それで? こっちのお兄ちゃんは誰? もしかして、チコリちゃんのにぃに君だったりする?」
「ボクはシロガネ。王宮戦士だよ」
「おーきゅーせんし……」
おっさんは少し考えていたが、突然ハッと気付くと、顔が引きつった。
「げぇ! 王宮戦士ぃっ!? あの正義の味方気取りのぉっ!?」
シロガネはちょっとばかりカチンと来たが、気にしない。
王宮戦士が執行する正義が、必ずしも他国の正義と同一とは限らないのだから。
もっとも、普通に悪人である可能性も普通にありそうだが。
「話を聞かせてくれるかな? オ・ジ・サ・ン」
「はっ! はひぃ!!」
ちなみにシロガネは素直な性格なので、顔は素直にムカついてたりするが、気にしない気にしない。
「わたくし、セ・レナーデと申します。旅の吟遊詩人をしておりまして……」
「あー、時間無いから自己紹介はいいや。何が起きたか話してよ」
「そうですか……では本題を。
西の関所を通って"野薔薇ノ王国"に入ったのですが、王都に向かう途中、道の途中で座り込んでいるチコリちゃんを見かけます。気になって話を聞きますと、家出したにぃに君を追い掛けているうちに、迷子になったと言うじゃあ~りませんか。日も暮れましたし、女の子一人では危ないと思いまして、村に送っていく事にしたのですが、何せ"野薔薇ノ王国"に来たのは初めてでして……。恥ずかしながら、わたくしも迷子になってしまいました。仕方なく林で野宿していたのですが、夜中に突然"掃除屋"に襲われてですね。眠っているチコリちゃんを抱きかかえて逃げようとしたんですが、あっさり囲まれて、毒針を刺されて動けなくなりまして。シロガネさんに助けられるまで固まってたと。まあ、そう言うわけです。はい」
「そ、そう」
つまり、眠っている妹ちゃんをしっかり抱きかかえた状態で固まっていたため、"掃除屋"は妹ちゃんに気付かなかった。だから妹ちゃんには毒針を刺さなかったって事だ。
兄くんの消息に繋がる情報は無しか。ま、しょうがない。
どうしよう。シロガネは悩んだ。
兄くんの消息が分からない以上、シロガネは下に行くしかない。それは良いとして、二人はどうする?
連れて行くのは危険だが、ここに置き去りも考え物だ。
一度地上に戻り、救援隊に二人を任せるのが一番か? 来てくれるだろうか、救助隊。
「おじちゃん……」
「お? チコリちゃん、どうしたんだい?」
「チコリ……あたまいたいのです……」
「チコリちゃん? チコリちゃん!?」
具合の悪くなった妹ちゃんは、頭を歩さえながらその場にしゃがみ込んだ。
さっきまで元気だったのに、一体どうしたんだ? いや、まて?
シロガネは周囲を見渡す。ここは生き餌の貯蔵室。形は直系20メートルくらいの球体を横に引っ張って楕円にしたような感じだ。シロガネが長居するには、ここは狭すぎる。
シロガネは「しまった!」と思わず叫んだ。
触れる事で命を奪う死神腕。シロガネは人や物をうっかり触らないよう、細心の注意を払っているが、それでも常に触れ続けているものがある。それは空気だ。
シロガネが密閉された部屋に留まると、右腕に触れた空気から生命エネルギーをどんどん吸い取り、空気を殺してしまう。呼吸できないものへと変えてしまう。だから非番のシロガネは、誰にも迷惑をかけないよう屋根の上にいるのだ。
まずい。このままでは妹ちゃんが危ない。よりによってシロガネの死神腕が、妹ちゃんの命を刈り取ってしまう!
早く! 一刻も早くここから出なくては!!
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