死神腕の少年剣士

風炉の丘

文字の大きさ
上 下
10 / 27
【1】ハグレモノ案件

1-10 チコリ

しおりを挟む
「ボクはシロガネ。王宮戦士だよ」
「おーきゅーせんし……」
 妹ちゃんは少し考えていたが、突然ハッと気付くと、夢中になって話し出した。
「チコリ、しってるのです! おーきゅーせんしは、わるものをやっつけるせいぎのみかただって、チコリのにぃにがおはなししてくれたのです!」
「そ、そうか。そうだね。そうだよ。ヨロシクね、チコリちゃん」
 すると妹ちゃんは、目を丸くして驚く。
「ど、どうしてチコリのおなまえ、わかったですかっ!」
 話が長くなりそうだ。シロガネは本題に入る事にする。
「それより、チコリちゃんのにぃにはどこ?」
 途端に妹ちゃんはうつむいてしまう。
「チコリ、わかんないです。にぃにはトカイにいくって、おうちから…。チコリはおいてけぼりなのです」
 兄くんは都会に行った? 都会の生活に憧れて家出したって事だろうか?
 王国の首都"ノイバラ"を目指して南下したなら、雑木林とは方角が逆だ。
 帝国の絶対防衛都市"コンゴウ"を目指して、西の国境を目指したとしても、道は雑木林から離れている。
 消息は分からないが、少なくとも兄くんは"掃除屋"には捕まってない?
「チコリ、いっぱい、いっぱい、はしったのです。でも、つかれちゃって……。おじちゃんがまいごのチコリをたすけてくれたです」
「おじちゃん?」
 側に横たわってる、このおっさんの事か。
「ねえおじちゃん、おきて! おきて!」
 妹ちゃんはおっさんの身体を揺さぶるが、当然ながら動く気配はない。
 何故だか判らないが妹ちゃんは無事だ。兄くんも捕まっていない可能性が高い。
 おっさんの正体は直接本人に聞くしか無さそうだ。
 どうする? 使うか?
 でも"御神酒(ソーマ)"ってメッチャ高いって話なんだよな。やっぱり止めとくか?
 いいや。使っちゃえ。

 シロガネはアンプルを取り出すと、先を折り、中身の液体をおっさんの口に流し込む。
 おっさんの身体が一瞬、ボンヤリとだが光った気がした。すると突然、おっさんはガバッと跳ね起きる。
「あ? あれ? あれれ? 身体が動く♪ 動くよ♪ 動いちゃってるよ♪」
「おじちゃん、おはようございます♪」
「お? お~♪ チコリちゃんか~♪ おはよ~♪」
 やけに陽気なおっさんだが、妙にテンションが高いのは"御神酒(ソーマ)"の後遺症のようなものだ。
 ある種の酒なので、軽く酔っぱらうのは仕方ない。
「それで? こっちのお兄ちゃんは誰? もしかして、チコリちゃんのにぃに君だったりする?」
「ボクはシロガネ。王宮戦士だよ」
「おーきゅーせんし……」
 おっさんは少し考えていたが、突然ハッと気付くと、顔が引きつった。
「げぇ! 王宮戦士ぃっ!? あの正義の味方気取りのぉっ!?」
 シロガネはちょっとばかりカチンと来たが、気にしない。
 王宮戦士が執行する正義が、必ずしも他国の正義と同一とは限らないのだから。
 もっとも、普通に悪人である可能性も普通にありそうだが。
「話を聞かせてくれるかな? オ・ジ・サ・ン」
「はっ! はひぃ!!」
 ちなみにシロガネは素直な性格なので、顔は素直にムカついてたりするが、気にしない気にしない。

「わたくし、セ・レナーデと申します。旅の吟遊詩人をしておりまして……」
「あー、時間無いから自己紹介はいいや。何が起きたか話してよ」
「そうですか……では本題を。
 西の関所を通って"野薔薇ノ王国"に入ったのですが、王都に向かう途中、道の途中で座り込んでいるチコリちゃんを見かけます。気になって話を聞きますと、家出したにぃに君を追い掛けているうちに、迷子になったと言うじゃあ~りませんか。日も暮れましたし、女の子一人では危ないと思いまして、村に送っていく事にしたのですが、何せ"野薔薇ノ王国"に来たのは初めてでして……。恥ずかしながら、わたくしも迷子になってしまいました。仕方なく林で野宿していたのですが、夜中に突然"掃除屋"に襲われてですね。眠っているチコリちゃんを抱きかかえて逃げようとしたんですが、あっさり囲まれて、毒針を刺されて動けなくなりまして。シロガネさんに助けられるまで固まってたと。まあ、そう言うわけです。はい」
「そ、そう」
 つまり、眠っている妹ちゃんをしっかり抱きかかえた状態で固まっていたため、"掃除屋"は妹ちゃんに気付かなかった。だから妹ちゃんには毒針を刺さなかったって事だ。
 兄くんの消息に繋がる情報は無しか。ま、しょうがない。

 どうしよう。シロガネは悩んだ。
 兄くんの消息が分からない以上、シロガネは下に行くしかない。それは良いとして、二人はどうする?
 連れて行くのは危険だが、ここに置き去りも考え物だ。
 一度地上に戻り、救援隊に二人を任せるのが一番か? 来てくれるだろうか、救助隊。
「おじちゃん……」
「お? チコリちゃん、どうしたんだい?」
「チコリ……あたまいたいのです……」
「チコリちゃん? チコリちゃん!?」
 具合の悪くなった妹ちゃんは、頭を歩さえながらその場にしゃがみ込んだ。
 さっきまで元気だったのに、一体どうしたんだ? いや、まて?
 シロガネは周囲を見渡す。ここは生き餌の貯蔵室。形は直系20メートルくらいの球体を横に引っ張って楕円にしたような感じだ。シロガネが長居するには、ここは狭すぎる。
 シロガネは「しまった!」と思わず叫んだ。
 触れる事で命を奪う死神腕。シロガネは人や物をうっかり触らないよう、細心の注意を払っているが、それでも常に触れ続けているものがある。それは空気だ。
 シロガネが密閉された部屋に留まると、右腕に触れた空気から生命エネルギーをどんどん吸い取り、空気を殺してしまう。呼吸できないものへと変えてしまう。だから非番のシロガネは、誰にも迷惑をかけないよう屋根の上にいるのだ。
 まずい。このままでは妹ちゃんが危ない。よりによってシロガネの死神腕が、妹ちゃんの命を刈り取ってしまう!
 早く! 一刻も早くここから出なくては!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...