上 下
91 / 145
【エリック】(真相ルート)

2 緊急指名手配!兄の理性が行方不明?!

しおりを挟む



「ん……」

(温かい……)

頭を誰かに優しく撫でられるような温かさを感じて私は思わず身体をすり寄せた。

「ベル?起きたのか?」

・・・・?


近くから兄の声が聞こえて私は急いで目を明けた。
すると兄がベットサイドに座り私の髪を優しく撫でているところだった。

「え? お兄様? どうしてこちらに?」

すると兄が見たこともないような甘い笑顔を見せた。

「朝一番にベルの顔が見たかった」

「ひっ!!」

私は思わず布団を頭から被ってしまった。

「これは夢よ!! お兄様がこんなに甘いことをおしゃるはずはないわ!! 夢なら覚めて!! 現実が怖いわ!!」

「ふ・・聞こえている」

すると突然布団の上から兄に抱きしめられた。
布団越しとはいえ、兄に抱きしめられる感触に私は思わず声を上げた。

「ひぇ~~~~~」

そして、布団から抜け出した。

「おはよう、ベル」

兄がどこまでも甘い笑顔を向けてきて、私の心臓は逆流しそうなほど高鳴っていた。

「お、おはようございます」

私がベットの端で小さくあいさつをすると、兄が私に近づいてくる気配を感じた。

ーーチュッ!!

(キスされた?!)

兄は私の顔を覗き込み軽く触れるだけのキスをした。

ボン!!

私はその瞬間顔から湯気を出しながらベットに沈み込んだ。

「顔が赤い、私のことをしっかり伴侶だと思っているようだな」

兄は嬉しくてたまらないといった顔をしていた。

「・・・・まさか、お兄様、それでこんなことを?」

「それもあるが、私がずっとしたかったというのが一番の理由だ」

「そうですか・・心臓に負担がかかるので、手加減をお願いします」

私は兄の豹変ぶりに身(心臓)の危険を感じて兄に懇願した。
すると兄は悪びれることもなく言った。

「断る。私はこれでも十分手加減している。
だからこそ、夜は別々のベットで寝ただろう? それにキスだってまだ赤子も同然のキスしかしていない。だからベルが早く慣れろ!! 私はこれまで散々我慢に我慢を重ねてきた。だから、これからもっとお前を甘やかすつもりだ」

「え、ええ~~?」

「……早く慣れるために、もう1度キスするか?」

兄の顔が近くまで迫ってきてた。
昨日の夜何度もされたキスの感触を思い出してしまって私は恥ずかしく思わず両手を兄の前に突き出した。

「遠慮します!! 絶対に1度じゃすみません!!」

だが、私の出した両手は兄にあっさり捕まれてしまった。
兄は私の手を自分の頬につけながら手の甲にキスをしてこちらを見た。

「では……指の数にする」

「増えてます!! 今、あ・さ・で・す!!」

「ああ。いい朝だな」

(いや、いや、無理だから!! 朝だから!! いい朝って言ってる場合じゃないから~~~~)


ーーゴホン!!


すると侍女のマリーが顔を赤くして、咳払いをした。

「大変申し訳ございませんが、お客様がもうすぐお見えです」

気が付くと、部屋には侍女のマリーを含め3人の侍女が私の準備をするために待っていた。

「え? あの、みんなずっといたの?」

侍女たちは困った顔で頷いた。

「そうだ。今日は本来なら絶対に会わせたくはないが、会わなけらばならない人物との面会予定があるからな。皆を呼んだ方がすぐに準備できるだろう?」

私は信じられないという顔をして兄を見たが、兄は平然としていた。
むしろ『何か問題でもあるのか?』といったふてぶてしい態度だ。

(はぁ~?? みんなの前でこれしてたの?? お兄様一体どうしてしまったのかしら?
お兄様の理性さん。行方不明です!!
理性さ~~~ん帰って来て~~カム・バック!!)

兄の理性を指名手配したところで、私は兄に向かって言った。

「みんなの前で髪など撫でていないで早く起こして下さい!!」

「起こそうと思ったら可愛すぎて無理だったのだ」

「……」

(理性・・どこに行ったのかしら。本当に)

私は兄の豹変ぶりに溜息つくことしかできなかった。

+++

それから私は支度を整えて、お兄様のお客様を待つことにした。

「はじめまして!! ベルナデット様!! 嗚呼、近くで見るとますます美しく可憐だ!!」

(どちら様ですか~~~~?!)

サロンで待っていると、急にまるでオペラから抜け出してきたような華やかな男性が入って来た。
男性は私の手を取ろうとしたが、私は兄に後ろから抱きしめられていた。

「ベルに触るな!」

「エリック・・手の甲へのあいさつくらい、いいではないですか」

男性が髪をかきあげると、両手の手のひらを上にして大げさに溜息をついた。

「ダメだ。絶対にダメだ!! お前は例え、手の甲へのあいさつといえど、いかがわしい可能性がある。とにかくお前は一切ベルに触るな」

兄は私を後ろから抱きかかえたまま、両手を私の手に重ねて手の甲を必死に守っていた。

「ふ~。エリック・・君はまだまだですね・・・」

そう言うと男性は、私の頬にチュッ!!と口付けた。

(え?!)

「な!!! 何をする!!」

私も驚いていたが、兄はまるで般若の如き顔になった。

「ふふふ。私から友人への親切な忠告ですよ。ダメと言われれば言われるほどそれに逆らいたくなる人間もいるのですよ?私みたいに。手の甲を解放した方が被害が少ないのでは?」

男性が悪びれることもなくニヤリと笑った。すると兄が項垂れた。

「覚えておこう」

兄と男性はかなり親しいようだったが、私は初めてお会いした。
ただ、お姿は見たことがある気がした。

(絶対見たことあるのよね~~?)

私は悩んでいると、兄が疲れた顔をして男性を紹介してくれた。

「ベル。リトア公爵家のルーカスだ。フルートのトップだったからパーティーの時に何度か演奏してもらっている」

ルーカス様が紳士の礼をとり、美しく微笑んだ。

「あらためまして、私はベルナデット様のヴァイオリンを心から愛しておりますので、あなたの出演する演奏会にはよくお邪魔させて頂いております」

そう言われてようやく思い出した。

「ああ!! 教会のチャリティーコンサートや、宮廷での隣国の大使の歓迎パーティーの時や、王宮での庭園パーティー、学院で定期コンサートの際に演奏を聞きに来て下さっていた方ですね!!」

「覚えていて下さっていたのですか!! 光栄です」

ルーカス様が感極まって私の手を取った。

「ルーカス・・・お前、そんなにベルを追いかけていたのか・・・」

兄が呆れたような顔を見せた。

「まぁ、それだけではありませんが・・・」

「まだあるのか」

「ふふふ。言ったでしょ?私にとってベルナデット様の音楽は至福だと。
だから、今回の件も協力したのです。
王宮に入られてしまっては、彼は絶対にベルナデット様を外に出しはしないでしょうから」

ルーカス様はそう言うとニヤリと笑った。
なんだか怖い予感がして私は少しだけ震えたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...