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【サミュエル】(学院発展ルート)
2 運命の歯車が回り始める
しおりを挟む「そうじゃありません。こうです。もう一度。」
「いえ。もう一度。」
「まだです。もう一度。」
私とサミュエル先生の練習を見ていた先生や生徒、誰もが表情を強張らせていた。
サミュエル先生は女子生徒に大変人気がある。
だが、サミュエル先生は滅多に練習室に来ることはないし、誰かを個人的に指導することもない。
なので、みんなサミュエル先生を見ようと練習室に集まったのだ。
初めは、みんなハートの目をして私が羨ましいという視線を隠しもせずに練習を見つめていた。
しかし、時間が経つにつれてみんなの表情がみるみるうちに変わっていった。
「ベルナデット様。こうです。」
「もう少し早く。」
「もう一度。」
「いえ。まだです。もう一度。」
サミュエル先生の地獄のような特訓にみんなそそくさと練習室を去って行った。
「もう一度。」
「まだです。もう一度。」
「もう一度。」
・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
「はい。お疲れ様でした。」
「ふふふ。ありがとうございました。あら?」
気が付くとあんなに大勢いた見学の生徒が一人もいなくなっていた。
2時間程経っていたので、みんな疲れたのだろうか?
サミュエル先生が楽しそうに笑った。
「ああ。ベルナデット様と練習するのは久しぶりですね。
どんどん上達するあなたの音を聞くのは本当にこの上もない幸せです。」
「ありがとうございます。
私も昔を思い出しました。
昔は泣き虫でよく泣いて先生を困らせてしまいましたね。」
サミュエル先生が優しく髪の毛を撫でると、私の手に口付けをした。
「ベルナデット様。また明日もよろしいですか?」
「はい。ぜひ!!」
私は嬉しくて、上機嫌に家に帰った。
次の日、学院に行くと、女子学生に囲まれた。
(何?何?もしかして、サミュエル先生と練習するなんて狡い!!
とか言って、体育館裏に呼び出されるのかしら?!)
「ベルナデット様。よくあの鬼のような練習に耐えていらっしゃいましたね。」
「・・・え?」
私はあまりのことに目が点になった。
「ええ。私なら泣いてしまいますわ。」
「わたくしもですわ!!それなのに・・。
さすがベルナデット様ですわ!」
すると、今度は男子学生も近くにやってきた。
「あれは酷いですよね・・。学長、鬼ですね。」
「しかし、ベルナデット様は悠然と耐えていらした。
やはりあのような練習に耐えてこその主席なのだと感心致しました。」
いつの間にか教室は、私を慰める会になっていた。
昨日まで、『サミュエル先生との練習など羨ましいです。』と言っていた女の子が手のひらを返すように『私には無理です。』と言っていた。
私は昔からこうだったので、懐かしいという感じだったが、普通はそうではないらしい。
(ああ・・。サミュエル先生って厳しい先生だったんだ・・。)
卒業間際に気付いた新事実に私は目を細めた。
その日の放課後。
昨日はあれだけいた練習の見学生が誰一人としていなかった。
そればかりか、練習室周辺には人影さえもなかった。
「ふふふ。こんにちは。ベルナデット様。
今日は誰もいませんね~。」
「そうですね。」
サミュエル先生が困ったように言った。
「実は昨日練習を見ていたヴァイオリン科先生に心配されました。
あのような練習をして大丈夫なのか、と。
ベルナデット様は練習の後泣いていたのではないかと。
しっかりとフォローするように念を押されました。」
「そうですか・・。」
(サミュエル先生も言われたのね・・。)
すると、サミュエル先生が申し訳なさそうに見つめてきた。
「あの・・もしかして、ベルナデット様はいつも私との練習の後に泣いていたのでしょうか?
私はその・・・私にヴァイオリンを教えて下さった方の影響を受けているので・・。
他の先生はわからないのですが・・。」
「サミュエル先生の先生も、このような指導を?」
「ええ。そうです。私の先生は彼女だけですので。」
サミュエル先生の幸せそうな顔に胸が痛んだ。
(彼女・・・。)
「いいえ。それに私の先生はサミュエル先生だと思っています。
今更、サミュエル先生の指導に根を上げるほどの仲ではないと思っていますが?」
「!!ふふふ。ありがとうございます。
そうですね。あなたと出会って、10年にはなりますしね。」
「ええ。今更ですわ。」
それからいつも通りに練習した。
・
・
・
卒業公演会の日がやってきた。
今日はクリスと兄と一緒にステージに立つ。
ホールには周辺諸国からもお客様がお見えになっている。
もちろん、国王陛下や王妃様をはじめ、多くの貴族も列席している。
私たち第一期生の出来で、この王立音楽芸術学院の質が問われるのだ。
ステージに向かう途中で、サミュエル先生とすれ違った。
私達はお互いに視線を絡ませた。
それで充分だった。
「ベル準備はいいか?」
兄が真剣な顔で私を見た。
「はい。」
私が返事をすると、クリスが微笑んだ。
「よし!!みんなに極上の時間をプレゼントしに行こう!!」
兄がニヤリと笑った。
「そうですね。」
私も思いっきり頷いた。
「ふふふ。そうですね。
3人で演奏するのも最後かもしれませんもんね。
私も2人との音楽を楽しみます。」
クリスがくすくすと笑った。
「言ってくれるなぁ~。さて、ベルを酔わせるためにも頑張ろうかな。」
「ああ。」
そして、私たちはステージに向かった。
卒業公演は大成功に終わった。
卒業公演後、私たちはお客様をお見送りするために会場のエントランスに立っていた。
クリスと兄は大勢の女性に囲まれていた。
(さすがね~。)
私にはお父様の知り合いの方が挨拶に来られただけだった。
そろそろ挨拶も終わりという時に、一人の男性が笑顔で近づいてきた。
「ああ。ようやくあなたに話しかけられます。」
「ようやく?」
私は男性の言葉に疑問を持った。
「ふふふ。いえ。あなたに近づこうとすると誰かに邪魔される仕組みになっていまして、ようやく巻いてやりましたよ。」
「はぁ。」
すると、男性が優雅に私の手を取った。
「私はジーンと申します。一応おまけの公爵子息です。」
「一応、おまけの?」
「ふふふ。はい。
普段は内緒なのですが、あなたのような高貴な方に話しかける時は便利ですね。」
私が不思議に思っていると、ジーン様がにっこりと笑った。
「素晴らしい演奏でした。
なにより、魅せ方が最高でした。
あなたの公演と出会えてよかった。」
そして、ジーン様は手にキスをした。
(え?!)
すると、いつの間にか、サミュエル先生が私の前に来ていた。
「大変申し訳ありません。ここは社交の場ではなく学びの場ですの、このようなことはご遠慮ください。」
「そうですか・・・。」
ジーン様は周りを見渡した。
私だけではないく、他の方も手にキスをされるくらいの挨拶はされているようだった。
だが、ジーン様はにっこりと笑った。
「これは失礼しました。
それでは私はこれで。」
「はい。ありがとうございました。」
私がお礼を言うと、ジーン様が耳を右手で丸めるしぐさをした。
(あれ?赤羽円様のくせと一緒。ふふふ。
あんなことするの円様だけじゃなかったんだ。)
私が去り行く背中を見て笑っていると、サミュエル先生が心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「はい。演奏を褒めて頂きました。」
「そうですか。」
「はい。」
そう言って私は、サミュエル先生に笑いかけた。
卒業公演から数日後、私はお父様の書斎に呼ばれた。
「ベルナデット。落ち着いて聞いてね。
クリストフ殿下との婚約を解消してくれるかい?」
「え・・?婚約の解消?」
「先日、クリストフ殿下に大国ラルジュ国の王女様とのご婚約の打診が来たらしいんだ。」
「クリス様に婚約のお話が・・。」
「ああ。今回の婚約で我国は、大国ラルジュ国との繋がりができる。
これは大きな利益になる。
我が公爵家も領地への学校設立は、おまえが王家に入った場合同様の条件で良いとのことだ。
これは皆に利のある婚姻なんだ。
ベルナデットにはつらい話かもしれないが。」
「そうですか・・クリス様はなんと?」
「クリストフ殿下も納得している。」
「・・・・では、私がいうことはなにもありません。
お父様。婚約を解消して頂いて構いません。
クリス様、いえ。クリストフ殿下の結婚で、国が発展するのであれば、私ができることは、殿下の幸せを願うことだけですので。」
その日私は、クリスとの婚約を解消することになった。
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