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【サミュエル】(学院発展ルート)
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しおりを挟む「ふふふ。お父様、父上。ご相談に乗って頂き、ありがとうございます。
今は、目の前の卒業公演のことだけを考えたいと思います。
しかし、可能ならこれからも学院に尽力したいです。」
「そうか。学院に・・。」
「わかった。王立音楽芸術学院の一期生として頑張りなさい。」
「はい。」
私は部屋に戻った。
(そうだ。)
私は今するべきことは、卒業公演を素晴らしいものにすることだ。
学院の最高責任者であるサミュエル先生のためにも私は絶対に失敗するわけにはいかなかった。
そして私たちは卒業公演に全てを注いだ。
「クリス様。今のテンポどうでしょう?」
「うん。問題ない。そっちはどう?」
クリスが兄を見た。
「私も問題ない。だが・・。ヴァイオリンのパートはつらいのではないか?」
「いえ。皆様がいいなら今のテンポで。」
「ああ。確かに今のテンポなら終盤の変調部分を充分に聴かせられる。」
「じゃあ、もう一度やってみるか。」
「はい。お願いします。」
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そして卒業公演が数日と迫った頃、最終的な卒業順位が発表された。
ヴァイオリン科の主席は私だった。
ちなみに、クリスはピアノ科の3位。
兄はチェロ科の次席。
私は全ての科を通しての実技・学科試験共に満点だったらしく、卒業式の代表演奏奏者に選ばれた。
そのために昼食休憩中の職員室に呼ばれた私は、先生方に囲まれていた。
「ベルナデット様。主席卒業おめでとうございます。」
「ありがとうございます。先生方のご指導のおかげです。」
私がお礼を言うと、ヴァイオリン科の先生が質問してきた。
「卒業式の代表演奏者は、自らが指名して、2人で弾くことになります。」
「え?」
卒業式で演奏することは聞いていたが、誰かと一緒に演奏するとは聞いていなかった。
「ヴァイオリン科の生徒に関わらず、学院内の人物から指名することが出来ます。」
「学院内の・・」
私は奥に座っている人物に視線を移した。
「誰と演奏しますか?」
先生に聞かれたので、私は勇気を出して、先生方に尋ねた。
「相手の方はこの学院の生徒でないとダメなのでしょうか?」
私の質問にザワザワとしだした。
「ちなみにどなたと一緒に弾きたいのですかな?」
私はしっかりと前を向いて、奥に座っている人物を見据えた。
「もし、願いが叶うのならば、学長であるサミュエル先生と弾きたいです。」
周りの喧騒を気にせず、私はずっとサミュエル先生に視線を向けていた。
サミュエル先生は、驚いた後、とても嬉しそうに笑った。
「いかがですか?」
ヴァイオリン科の先生がサミュエル先生に尋ねた。
サミュエル先生が凛とした表情を見せた。
「最初に『主席卒業の生徒が指名した人物』と決めました。
生徒と限定したわけではない。」
「確かに・・。」
「はい。資料にもそう明記してあります。」
他の先生方が頷いた。
「よって今回は、『主席卒業の生徒が指名した人物』である私が、彼女のパートナーを務めます。」
「学長自ら演奏を。」
「ベルナデット様と学長の演奏・・。
それは話題になりますな。」
すると、ピアノ科の先生が皆に号令をかけた。
「それでは代表演奏者も決まったので、各自ご自分の仕事にお戻り下さい。」
そしてサミュエル先生の方を向いた。
「卒業代表演奏の件は学長にお任せしてもよろしいでしょうか?」
「はい。他はお願いします。」
「わかりました。それでは、私はこれで。」
ヴァイオリン科の先生に、小声で「いい機会だ。しっかりと学んできなさい。」と言われた。
私は笑顔で「はい。」と言った。
するとサミュエル先生が近づいて来て、「ベルナデット様。放課後に学長室に来てくれませんか?」と聞かれたので、「はい」と答えた。
それから午後は卒業公演までアンサンブル練習だった。
今日は兄もクリスも用があるため、授業が終わったらすぐに帰るそうだ。
私は帰り支度をすると、サミュエル先生が待つ学長室に向かった。
「ああ。ベルナデット様。お待ちしてました。」
学長室に入ると、笑顔のサミュエル先生が迎えてくれた。
私は職員室でのことを思い出して、頭を下げた。
「こんにちは。先程は失礼しました。
あの・・今さらですが、卒業演奏のこと、ご迷惑ではありませんでしたか?」
すると、サミュエル先生が小さく笑った。
「5年前、この規定を作った時、私はもしかしたらこうなることを期待していたのかもしれません。」
「え?」
サミュエル先生が懐かしむように私に微笑んでくれた。
そして、苦しそうな顔をした。
「あの時の私は、あなたの音と離されて、寂しくて寂しくてしょうがなかった。
自分で決めたこととはいえ、あなたと離れたことを後悔してました。」
「サミュエル先生・・。」
「だから、願いを込めてこの規定を作ったのです。
あなたは私の課題曲を期限内に完璧に仕上げました。
そのあなたならもしかして、この卒業演奏奏者に選ばれるのではないかと・・。」
先生がじっと私を見つめた。
「そして、そのパートナーに私を選んでもらえないかと・・。」
そしてサミュエル先生が真っ赤な顔をして、手を口元に当てた。
「まさか願いが叶うとは・・。」
そうして先生はとても嬉しそうに笑った。
その顔を見た私も自然と笑っていた。
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