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第一章 転生令嬢、王都にて
54 一難去って……(4)
しおりを挟む――『知恵熱』それが私の病名だった。
ここで、この数ヶ月間の私の行動を振り返ってみることにする。
まず、もう遥か昔のことのようだが、卒業式があった。卒業式と言えば、人生でもかなり大きなイベントだ。
そして、すぐに結婚式があった。これもまた、人生の一大イベントだと言える。
さらに、不正を調査するために『お飾りの王太子妃』という汚名を武器に見事、黒幕を表に引きずり出すことに成功した。その時に人生初の円卓会議への出席を果たした。こんな特殊なこと、普通は体験しないので来世まで含めた大イベントだ。
ここで終わり……だと思っていたのだが、なんと私は暗殺者に狙われているという新事実まで発覚した。
ダイジェストにこれまでを振り返って、何が言いたかったのかというと……。
――私はよくやった!!! ……ということを言いたかったのだ。
怒涛の勢いで押し寄せて来た人生の一大イベントの数々に、不正調査、円卓会議への出席。挙句の果てには刺客に狙われているなんて……。
私の脳では処理しきれない事が立て続けに起こり混乱していた時に、フィルガルド殿下から夕食に誘われるという怪事まで起こり、私の脳は文字通りオーバーヒートつまり、熱暴走してしまったのだ。
――無理もない。もう、その一言に尽きる。
これほど酷使したにも関わらず、私の熱は次の朝にはすっかり下がっていた。
正直、倒れた時のことは全く覚えていないので、自分では熱が出たという感覚さえもなかった。だから次の日もいつものように執務室に行くために準備をしていた。
ところが、私が支度を整えるとすぐに部屋を尋ねて来たブラッドから、5日間の強制監禁という名の休暇が言い渡されたのだ。
ブラッドが無表情に『5日間は部屋で大人しくしていろ。栄養のある物を摂って休め。部屋から出たら……休みをその分延長する』というとても優しいセリフを、鬼の形相で言い放ったのだ。あれは絶対に、お見舞いに来る人間の表情ではない。なんだか普段よりブラッドの鬼度が上がり怖かったので、素直に言うことを聞いている。
付け加えると、一応フィルガルド殿下からも『お見舞いに来たい』という社交辞令の手紙を貰ったが、秒で断ったら凄い花束が届いた。おかげで部屋が天然のフローラル系の香りで満たされていて癒される。フィルガルド殿下からは、毎日『お見舞いに行きたい、顔が見たい』という直筆メッセージと共にプレゼントが届けられる。毎日届くプレゼントに驚きながらも、私は今日もフィルガルド殿下の面会を断った。
でも、たくさんプレゼントも貰ったし、何より……忙しいのに毎日直筆のメッセージを書いて届けてくれたのは素直に嬉しかったので、回復したらお礼を言いに行こうと思っている。
そんなわけで、部屋の中で特にすることもなく退屈極まりなかった私は、リリアに図書館で本を借りてきて貰った。リリアに『クローディア様。どのような本をご所望ですか?』と、そう聞かれた私は『そうね~~よくわからないから、リリアのおすすめの本を借りてきて』と頼んだ。
――結果。
「へぇ~~ブラッドの身長くらいの剣があるのかぁ~~凄いわね」
私は自室でイラスト付きで剣の説明があるぺージを眺めながら呟いた。
「そうなのです!! しかも破壊力は折り紙つきです。この国では騎士団の第二部隊の隊長や、第三部隊の隊長や副隊長が持っていますよ。特に第三部隊の副隊長の剣はブラッド様とさらにブラッド様の頭一つ分くらい長くて、一振りが大迫力ですよ!!」
先ほどからリリアが後ろから親切丁寧に解説してくれる。私は武器のことは全く詳しくないので、興味深い。
「へぇ……そんな大きな剣を……今度の騎士団の視察の時に見せてもらえるかな……?」
「見せてもらますよ!! ぜひ、ぜひ!!」
ちなみに私は今、興奮気味のリリアと『武器を極める』という本を読んでいた。他にも『体術読本』『新説戦略書釈義』『剣術上達の極意』など随分と偏ったセレクトの本ばかりだった。
確かに知らない事ばかりだから興味深い。戦術書も読めばそれなりに面白いと思えた。
だが……この世界に男女の恋愛を書いた本や、冒険小説のような本はないのだろうか?!
今回は、『なんでもいい』と言ってしまった手前、この本を読むが……。
次からはせめてジャンルくらいは指定しようと思ったのだった。
◆
リリアと武器の本を読み終わると、そろそろお昼だった。
「アドラーの領主代理試験、そろそろ終わる頃ね……」
今日は、もう一度領主代理試験が行われたのだ。
試験と言っても問題を解くというテスト形式ではなく、今回だけの特例で、口頭による質疑応答での試験だ。試験官の出題する問いかけに答えられたら合格だ。その場で合格不合格がわかる。
ちなみにゴードンを含めこれまでの合格者も全てこの試験を受けることになっている。さらに、領主代理を辞めたニックたちもこの試験を受けて、領主代理として復帰するらしい。
試験を行うのはテール侯爵子息と、兄イゼレル侯爵子息、ラヴァン侯爵子息。そしてテール侯爵家の選出した今後領主代理を実際に監督するタルイア伯爵の4人だ。彼らで手分けして試験を行うそうだ。
「終わったら報告に来るように伝えましたので、そろそろ来る頃だとは思います」
リリアも時計を見ながら言った。
「ふふふ。受かるとはわかってはいても、やっぱり結果を聞くまでは心配よね~~」
前回の試験で満点を取ったアドラーの合格を信じてはいたが、やはり知らせを聞くまでは少しだけ不安だった。
私たちがそわそわしながら待っていると、ほどなくしてノックの音と共にアドラーが私の部屋にやって来た。
「アドラー、どうだったの?!」
私は、アドラーの顔を見るなり叫んだ。するとアドラーは美しく微笑みながら言った。
「無事に合格致しました」
そう言って、手に持っていた領主代理認定書を見せてくれた。
「おめでとう!! アドラー!!」
私は思わずアドラーに抱きついた。するとアドラーが私の顔を見て優しく言った。
「全てはクローディア様のおかげです。本当にありがとうござました」
するとリリアも嬉しそうに言った。
「クローディア様。兄のこと、助けて頂いて本当にありがとうございました」
私は二人に向かって慌てて声を上げた。
「やめて!! アドラーが頑張っていたから領主代理試験に受かったのよ。アドラーの実力よ。あ~~本当によかったわ。おめでとう」
もう一度笑顔で言うと、アドラーも再び「ありがとうございます」と言ったのだった。
こうして、このハイマ国にまた一人優秀な領主代理が生まれたのだった。
◆
クローディアたちが、アドラーの合格を喜んでいた頃。
ハイマ国とダラパイス国の国境付近の砦では、騎士団長のカイル・フォン・フル―ヴが、砦の見張り台の衛兵に話かけながら眉を寄せていた。この場所は遠くまで見渡せる見張り台としては絶好の場所だ。
「まだか?」
「カイル団長!! はい。まだ何も見えません」
見張りの衛兵が首を振りながら答えた。
「そうか……スカーピリナ国の国王の到着は随分と遅れているな……本来であればもう到着していてもいいのだが……」
騎士団長のカイルは、王妃並びに王太子妃暗殺の件で隣国ダラパイスに出向いていた。丁度ダラパイス国から、この砦に戻った時にスカーピリナ国の王の訪問の知らせを聞き、出迎えるべくこの砦で待機していた。
本来ならスカーピリナ国の国王はすでにこの砦には着いているはずだ。それなのに、まだスカーピリナ国の一団は姿が見えない。
カイルは、ダラパイス国の王と話をした時に耳にしたあることが気にかかっていた。
「何もなければいいが……」
カイルは眼前に広がる雄大な景色を見ながら、そう呟いたのだった。
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