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第一章 転生令嬢、王都にて

21 騎士団へ(1)

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「ようこそ、クローディア殿下。私が副団長のラウル・シーズルスです」

 クローディア殿下?!

 私は『殿下』と呼ばれることにとても違和感を持った。だが、私はフィルガルド殿下の妻なので、すでに王族なのだ。殿下と呼ばれてもおかしくないことに今更ながらに気付いた。
 シーズルスということは伯爵家だ。確かシーズルス家は嫡男のライナスが領主の仕事を引き継いでいるはずだ。騎士団幹部はほとんどが貴族出身なので、伯爵家なのも特におかしなことはない。だからこそ、不正のような秩序の乱れることを結束してされてしまうと厄介なのだ。

「お初にお目にかかります。ラウル様」

 一応私はここには、王太子妃として視察という名目できているので、慣例通りに役職名ではなく名前で呼ぶ。ちなみに、元の侯爵家の令嬢だったら『シーズルス様』か、『副団長様』と呼ぶ必要があるのだが……。そもそもただの侯爵令嬢だったら騎士にでもならない限り、闘技場の観覧席以外、一生ここに足を踏み入れることなどできない。

「団長のカイルは現在遠征中のため、私が案内致します」

 副団長自ら、案内してくれるの?!
 
 ブラッドの話では、隊長や副隊長クラスの人物が私の案内をするはずなので、もしかしたらバクエラ領の領主で騎士団の隊長ベイルや、ロシェ領の領主で副隊長のレガードが案内してくれるかもしれないと期待していたが、意外なことに騎士団のナンバー2の副団長のラウルが案内してくれるようだった。

「ラウル様、案内、感謝いたします」
「ではクローディア殿下、どちらを見学されますか?」

 本心では砦内の執務室などに行きたいが、初日に警戒されるわけにはいかない。私は、ラウルを見ながら言った。

「騎士の練習風景を観覧席ではなく、同じ目線で見たいわ」

 執務室に行けないのなら、私は実際に騎士が剣を使っているところが見たい。これはすでに潜入捜査というより、ただの好奇心だ。私の提案が意外だったのか、ラウルが少し驚きながら言った。

「練習風景を同じ目線で……ですか? ……わかりました。こちらです」

 私は小躍りするようにラウルについて行ったのだった。
 
 カシャン、ガシャン。

 剣の混じり合う音が聞こえてくる。ここは、闘技場内にある試合中に医師などが待機する塀の中だ。野球場のダッグアウトのような場所を想像して貰えばいいかもしれない。半地下にはなっていないが……。比較的安全ということで、近くで騎士たちの練習風景を見せて貰えた。
 映画などで殺陣を見て興奮していたが、実際にスクリーンではなく本物は迫力がすごい。剣のぶつかり合う音がお腹に響き、剣同士がぶつかり合う音が身体中を振動させ、じっとしていられないような感覚になる。

「すごいわ……」
 
 騎士があまりにも簡単そうに剣を振っているので、なんだか自分も剣を握ってみたくなった。

 私……悪役令嬢だし、もしかして剣の才能があるかも? 剣を振ってみたい……。

 私はいつの間にか練習風景を夢中で見ていた。

 あの人の剣……すごくキレイ……。

 多くの騎士が剣を振るう中で、一際動きがキレイな人がいた。流れるような剣に、相手になる騎士が翻弄されている。まるで踊っているような戦闘で釘付けになってしまった。

「気になる騎士でもいましたか?」

 私が食い入るように一人の騎士を見ていることに気付いたのか、ラウルが声をかけてくれた。

「はい、あの右奥で剣を練習している方はどなたでしょうか? 今、剣を振り上げた……あの方です!! 動きが洗練されていてとてもキレイです」
「ああ。あれはレガードです。最年少で騎士団の役職についた若き天才騎士ですよ」

 ラウルの言葉に私は驚いてしまった。

 レガード?!
 あんなにもキレイな動きの騎士が不正疑惑のあるレガード?!
 
 私は信じられなくて、じっとレガードを見つめていると、丁度休憩になったようだった。するとラウルが声を上げた。

「集合!!」
「はっ」

 ラウルの声で、休憩中の騎士が集まってきた。
 私は、申し訳なく思いながらも王族として胸を張った。

「此度、フィルガルド王太子殿下とご成婚されたクローディア王太子妃殿下である。礼」

 ラウルの掛け声で皆、一糸乱れぬ礼をした。
 あまりにも乱れのない礼をされた私は身体中に鳥肌が立った。

「クローディア王太子妃殿下は王国騎士団の視察を懇請して下さり、しばらく砦に通われる。以上、解散!!」

 穏やかだと思ったラウルだったが、副団長の顔になった途端、冷や汗が流れるほどの威圧感があった。私がラウルを見ていると、ラウルが一人の騎士を呼び止めた。

「レガード、少しいいか?」
「はっ!」

 ラウルはなんとレガードに声をかけてくれた。

「クローディア殿下が、お前の剣を褒めて下さったぞ」

 レガードは、少しはにかみながらも爽やかな笑顔を向けながら言った。

「王太子妃殿下が私の剣を?! 光栄です。ありがとうございます」

 ああ、すっごい爽やかな笑顔。
 眩しい!!
 こっちの世界に来てから、こんなに無邪気で爽やかな笑顔初めて見たかも!!
 癒される~~~!!

 フィルガルド殿下の笑顔は隙がない。
 ブラッドはそもそも笑わない。
 
 久しぶりの笑顔に心が癒されるのを感じる。
 
 こんな爽やか好青年が不正とかする?
 いや……ないな。
 よし、私が無実を証明しよう。

 爽やかさに飢えていた私は、レガードの純真な笑顔に一瞬で絆されてしまった。
 私はこの機会にレガードと話をしてみることにした。

「レガード様、お話出来て光栄ですわ。まるで舞でも見ているかのように剣をお使いになるのね。あまりにも優美に剣をお使いになるので、私も剣を振ってみたいと思いましたわ」

 レガードが私を見ながら楽しそうに言った。

「舞ですか? 初めて言われました。でも、嬉しいです。あ、そうだ。クローディア殿下、よろしければ私の剣を持ってみますか?」
「私が持ってもいいのですか?」
「ええ」

 レガードは腰から鞘のまま私に剣を差し出した。

「どうぞ、クローディア殿下」
「ありがとう」

 私はレガードに借りた剣を持って驚いた。

 何これ……想像以上に重い!!

 みんなが軽々と剣を振っていたので、私もできるかと思ったが、無理だと持った瞬間悟った。どうやら私は戦闘力のある悪役令嬢ではないようだ。

「随分と重いですね。このような剣を軽々と……すごいですわ」

 私は剣をレガードに返しながら言った。

「光栄です」

 レガードは大型犬のような明るい笑顔を向けながら笑った。私はレガードの明るい笑顔にすっかり癒されてしまった。すると、私の隣でずっと見ていたラウルが声を上げた。

「第三部隊集合。しばらくこちらでクローディア殿下の護衛を!!」
「はっ!!」

 すると騎士が数十人私の側までやってきた。あっと言う間に私は騎士に取り囲まれてしまった。
 
 え?
 なに、なに? 何が始まるの??

 突然騎士に取り囲まれて内心混乱しているとラウルがレガードに向かって声を上げた。

「レガード、これから私と模擬戦を行う」
「副団長と模擬戦! 光栄です!! 胸をお借りします!!」

 レガードは私から受け取った剣を腰に差すと、私たちのいる場所から離れて行った。どうやらこれから、騎士団長ラウルとレガードの模擬戦が始まるようだった。副団長は歴代、騎士団の中で実力がトップの者が選ばれるという知識はある。だが実際にどのくらい強いのかを間近で見れるというのは楽しみだった。先程のレガードもかなり強かったのだ。
 好奇心いっぱいでラウルを見ていると、私の視線に気づいたラウルが私に向かって片目を閉じながら言った。

「クローディア殿下に勝利を捧げます」

 私は一瞬ぼんやりしてしまったが、すぐに笑顔で言った。

「栄光あれ」

 騎士に『勝利を捧げます』と言われたら『栄光あれ』と返す必要があるのだ。
 正直、このやり取りを王妃教育で学んだ時から、やってみたいと思っていた。私はお飾りの正妃なので、言う機会はないだろうとあきらめていた。だが、まさかこんな風に想いが実現するとは思わなかった。
 
 あ~~本物の騎士とこのセリフのやり取りが出来るなんて~~照れるけど、嬉しい~~!!

 私が胸キュンイベントにすっかり陶酔していると、隣でガルドが小声で呟いた。

「珍しいですね……ラウル殿がこんな風に剣技を披露してくれるのは……」
「そうなの?」
「はい。ちなみにブラッド様たち高位貴族の方々の視察の時だけではなく、フィルガルド殿下が視察される時も、彼は絶対に模擬戦など見せてくれませんよ。騎士団以外の部外者が彼の戦いを見ることができるのは、公式な試合だけです」
「じゃあ、これは貴重な機会なのね」

 私は、なぜブラッドたちには絶対に試合を見せないラウルが私には試合を見せてくれるのか不思議に思いながらも、闘技場に歩いて行くラウルの背中を興奮しながら見つめたのだった。
 


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