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第一章 転生令嬢、王都にて

8 過酷な王妃教育(1)

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 兄に『王家に嫁いでくれ!!』と懇願された翌日。
 どうやら兄は見事に、父の説得に成功したらしい。
 父は、渋々フィルガルド殿下が側妃を迎える件を承諾するために登城した。
 
 さらに驚くことに父が陛下に返事をすると、すぐに私たちの結婚式の日取りが陛下から伝えられたらしい。
 王家のこの尋常ない対応の早さ……絶対に殿下と私を結婚させるという強い執念を感じる……。

 しかも、私たちの結婚式は卒業式の数日後だ。
 通常は卒業式の後に1年は結婚式の準備をするので、卒業式の後すぐに結婚式というのはあまり例のないことだった。
 側妃を王宮に迎えて結婚式の準備を始めるまでに、正妃と結婚して最低でも半年間は期間を開ける必要がある。きっと殿下は愛する主人公エリスと早く結婚したくて焦っているのだろう。
 私としても早めに結婚した方が早く離婚できるので、異論はない。卒業式と結婚式まではあと半年もある。私は残された時間、のんびりと学園生活を送ろうと思っていた。

 ――ところが、現実はそんなに甘くはなかったのだ。

 私の結婚式が卒業後すぐだと父から伝えられた翌日。
 私が学園に行く用意をしていると、王宮の王妃教育担当の女官と、私の城での護衛騎士が焦った様子で侯爵邸に乗り込んで来た。

「クローディア様。半年後に結婚式が決まりました!!」
「ええ。……そのようですね?」

 私は、驚きながらも頷いた。
 これまで学園を休んで王妃教育を行う時には、遅くとも前日には連絡が来ていた。
 昨日は連絡が来なかったので、てっきり今日は学園に行ってもいいのかと思っていたのだが……。
 突然の訪問に私が困惑していると、王妃教育を担当している女官が息を切らせながら青い顔で言った。

「クローディア様。落ち着いて聞いて下さい。通常は卒業式から1年後に結婚式を行うので、私たちも卒業されて1年は準備できると思っていたのですが……とにかく時間がありません!! 陛下やイゼレル侯爵の許可は取ってありますので、今日から半年間。学園には行かずに王妃教育を受けて下さい!!」
「え……それって、卒業できるの?」

 半年も学園に一日も通わない??
 私としては、久しぶりの学生生活を楽しもうと思っていたし、なにより卒業はできるのだろうか?!

 私の問いかけに女官が大きく頷きながら答えてくれた。

「できます!! 卒業資格は問題ありませんが、結婚式が大問題です!! どうか、お早く!! 申し訳ございませんが、逃げられても今日からは騎士が常にクローディアにお付きいたします」

 なるほど、いつも城にいる騎士がここにいることにかなり違和感があったが……私がもし逃げようとしたら騎士が捕まえるという意味か……。

 この年になって逃げるのを心配されて、護衛騎士まで同行してるって……。

 もう! 何してたの、今までの私!!

 王妃教育から逃げる心配をされていることに、申し訳なくて思わず項垂れながら答えた。

「わかりました……参りましょう」
「クローディア様が、そんなにも素直に!! 感激です。さぁ、気の変わらないうちに行きましょう!!」

 私は何気に失礼な女官にがっしりと腕を掴まれて、馬車で城に向かった。
 だが、私はそこで彼女がどうしてこれほどまでに必死だったのかを悟ったのだった。





「え……こんなにも覚えることが多いのですか?」

 私は、城に着いて、王妃教育を担当する女官から結婚式まで覚えることのリストを見せられて軽く眩暈がした。

「はい!! これでも厳選して最低限のことだけです」
「これで、最低限…………」

 私は長々と書かれたリストを見ながら気絶しそうになった。
 王妃教育が大変だというのはなんとなくわかるが……それにしてもこれは多すぎる。これを半年でなんて、スパルタ過ぎないだろうか? 私がぎっしりと予定の詰まった予定表を見ながら尋ねると、女官が何かの書類を見せながら言った。

「これが、陛下にご報告させて頂いた、クローディアがこれまでに終えた内容を報告した書類です」
「ありがとう……え? たったこれだけ? 3年もやって?」

 私は、クローディアがこれまでクリアした内容の報告書を見せてもらった。
 殿下と一緒に出るために覚えたと思われる夜会のマナーや、基本的なあいさつなど、表面的な物ばかりで、大変そうな王家の歴史とか、しきたりなどは全く手を付けていなかった。
 私が青い顔をして女官を見ると、女官も不安と焦りを全面に出しながら言った。

「はい。ですので、半年で覚えて頂きます!!」
「え……無理……」

 私はフルフルと首を振りながら答えると、私を担当する女官、総勢5人ほどが一斉に私に涙ながらに訴えて来た。

「クローディア様。これでも、随分と削ってあります。表面的な物だけです。これくらい知らないと来賓の方もいらっしゃいますので対応できません!! ここに書いてあることは最低限ですので、絶対に覚えて下さいませ~~~!!」
「ひぇ~~~!!」

 これまでほとんど王妃教育に手を付けていなかった私は、半年で結婚式に間に合うように、残りの学園生活を全て失い、付け焼刃で王妃教育を理解することになったのだった。
 自業自得……まぁ正確には私ではないのだが、これまでサボりまくったクローディアのおかげで、私は半年間をほぼ休みなく王妃教育に費やすことが決定したのだった。
 クローディアめ……説教してやる!! ……私なのだが……。
 私はクローディアを恨めしく思いながら、王妃教育に励んだのだった。




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