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14 これって、恋愛運の問題ですか?

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 この文化交流祭では、一度に二十四組全ての参加者たちが踊るわけではない。
 一曲で、八組ずつの男女が、この広いホール内の中央で、優雅にダンスを披露する。
 ルジェク王子と、クレアの出番は、二曲目と五曲目だ。
 
 そして今は、丁度、二曲目が終わり、2人は、出場者の控室に戻ったところだ。

「想像以上に、素晴らしいダンスだったな」

 隣で見ていた兄が、感嘆したように言った。

「ええ、視線が2人に釘付けになりましたわ」

 これは、もはや、ルジェク王子が推しだからとか、そういう理由ではなく、本当に王子と、クレアのダンスは素晴らしいダンスだったのだ。周りの招待客もルジェク王子と、クレアのダンスに魅かれていたようだった。
 クレアが、ヒラリと優雅に回る度に、周囲から「はぁ~~」とか「ほう」という感嘆の声が漏れてた。

 ああ~~、私が出なくてよかったぁ~~!!

 ここまでのダンスなど、どれほど練習しても難しい。
 私は、出場を辞退したことに、心底ほっとしていると、フォルトナパパの秘書が近付いて来た。

「フォルトナ様、コルネリウス様、ご鑑賞中に失礼致します。コルネリウス様、公爵が紹介したい方がいらっしゃるので、顔を見せて欲しいとのことです」

 それを聞いた兄が顔を曇らせながら言った。

「公爵が……だが、フォルトナを一人には……」

 兄は、私のエスコート役をしなければ、フォルトナの両親の側にいて、次期公爵として皆に紹介されるはずだったのかもしれない。
 私は、心配している兄を安心させるためにフォルトナの記憶を引っ張り出して、笑顔で言った。

「兄上、大丈夫です。私は元々、学園ではいつも一人でしたし、夜会に来ても、すぐにルジェク王子殿下から離れて、一人であいさつ周りをしておりましたので」

 そうなのだ。
 基本的に、フォルトナは、ずっと一人だったのだ。
 今更、兄があいさつに行くぐらい、なんということもない。

「そ……そうか……」
 
 兄は、酷く悩んでいたが、養子の兄が公爵であるフォルトナパパの呼び出しを断ることなど、出来るはずがない。

「わかった……では、すぐに戻る」

「どうぞ、私のことはお気遣いなく……」

 私は、兄のために、明るく言ったのだが、兄は、ますます、しょんぼりと肩を落とした。

「(そんな……楽しそうに……引き留めてくれたら、側にいたのに……)」

 兄は、何かをぶつぶつと呟いているが、よく聞こえなかった。

「……? いってらっしゃい」

 私が手を振ると、兄は「ああ、行って来る」と肩を落として、歩いて行った。
 私は、兄の後ろ姿を見送ると、ホールに視線を移した。
 すでに、三曲目が始まっている。
 どの出場者も皆、とても洗練されていて、美しいダンスが披露されていた。

 本当にここは幻想的で、異空間のようだ。
 ホール内の至るところで、女性がターンをするたびに、美しいドレスがフワリと広がって、色とりどりの花が咲き誇っているように見える。

 ああ、いつかルジェク王子に貰った花束のようだわ。

 私は、ダンスを見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
 そう、その時の私は、完全に油断していたのだ。


「婚約者に捨てられたというのに、案外、冷静だな。それとも、元々、婚約する意思はなかったのか?」

 いきなり、至近距離で声が聞こえたが、あまりに親しそうに、無神経な言葉だったので、まさか公爵令嬢である自分にをかけられたと思わなかったので、そのままダンスを見ていた。

「私を無視か? いい身分だな」

 そう言われて、私はようやく顔を上げた。そして、私は、ギョッとしてしまった。

 は?
 リオン王子?!
 な、なんでここに??

 私のすぐ隣に、ガカール国のリオン王子が立っていたのだ。

 私は、意味がわからなくて、キョロキョロと周りを見渡したが、近くには、私しかいない。
 すると、リオン王子が片眉を上げながら言った。

「君以外、誰に話しかけているというのだ」

 どうやら、この失礼な王子は、私に話しかけていたようだった。
 リオン王子は、顔はとてもよかったが、初対面なのに、馴れ馴れしいし、失礼だし、なかなか最低な男だ。
 
 実は、この文化交流祭に来る時に、密かに『イケメンに声をかけられるといいな』とは思っていたが……。
 まさか、こんな空気を読まない性格破綻してるっぽい男性に声をかけられるなんて……。
 今度からは『イケメンで優しくて、性格のいい男性に声をかけられますように』と願いを変更する必要がある。
 こんなことなら、兄と離れるんじゃなかった……。
 
 兄よ、早く戻って来てくれ……。

 私は、隣の失礼極まりない王子を撃退すべく、それはそれは丁寧に淑女の礼を取った。

「これは、リオン王子殿下、お初にお目にかかります。私は、セルーン公爵家の、フォルトナ・セルーンと申します。まさか王族であられますリオン王子殿下から、どなたのご紹介もなく、お声がけ下さるとは、夢にも思わず……」

 私が、完璧な敬語を使って、突然、馴れ馴れしく話かけて来るんじゃねぇ~よと、教育的な指導をしていると、リオン王子がめんどくさそうに言った。

「そう言うのは、よい。やはり、嬢は、この国の王子の婚約者のフォルトナだったな」

 勘で声かけたの?!
 しかも、そんな失礼極まりない内容を?!
 本当に無神経な男だった!!
 
 こんなに素敵な男性が多いというのに、私は、なぜかよりにもよって、こんなにも無神経な男性に声をかけられてしまったのだった。

 私の恋愛運よ……どこ行った?!

 私は心の中で泣きながら、この失礼な男と話をすることになってしまったのだった。



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