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第1章

199話 暗躍

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僕は魔術の香でエルヴィンとアルムらを睡魔に当てて行動不能にした。

「ごめんねぇ~、もうちょっと頑張ったらどうにかできたかもしれないけど。こういう手合いに下手に出たら舐められることは必然、速攻で押しつぶすに限るから」

エルヴィンとアルムに命じたことはただの二回答的なものであったが状況の進展を狙ったものだった、脅威と感じ兵を集めれば奇襲し残党狩りを得てから冒険者ギルトの処罰を待つ、放置しようとしたら偽情報を流して内部の分裂を狙うことを僕は考えていた。

しかし、この二人は額面通りにしか僕の言葉を判断できなかった。懐柔にしろ交戦にしろなにがしかの情報を得てくるものだとは考えていのだが…。肝心のことがスッポリ抜けていて、ご丁寧に顔を見せにいった程度しか命令を達成できなかった。

この二人が重用されたいという思いを持っていることは僕ももちろん知っている、知っているが。そこに至る絵図面の基礎が『子供のお絵かき」レベル程度、派風立てず命をこなせばいい程度しか考えていない。残念ながら現実には戦が目前まで迫っている。悠長に「和解しましょう」そんな話はどこにも存在しないのだ。

前に来た職業貴族の子息子女と今回を合わせるとそれなりに貴族家としての形は成り立っているが足元はガタガタである、立身出世を狙う者らからするとエルヴィンやアルムらは格好のターゲットなのだ。姉が嫁ぎ従士長となる、姉が信頼され重用されている、そんなのは下から見れば蹴落とすべき対象でしかない。

まだ形にもなってないから割り込むことは難しくない、僕が重用しても実績のある人物が後から入れば追い出されてしまう。彼らからすれば仕官するべき椅子は多い方が良いからだ。

今はまだ新しく立った職業貴族家という名目も時間が経過すれば人が増えてくる、椅子も少なくなる。そんな中で「身内だから」などと言えば僕の方が見放されてしまう。

そういう世界なのだここは、何しろそこらじゅうで権力争いが起こり最下級の騎士爵家ですらこのような無法を働くのだから。統治国家などどこにも存在しない。

重用して欲しいなら結果出せよ!それだけ、ようはそれだけ。そんな簡単なことなのに失敗ばかりする方が多い。それがこの二人の頭にはなかった。

今欲しいのは少人数だろうとも指揮統率できる軍人肌の人物だ、この二人には後でお説教行きだが現実に処理すべき仕事がある。

マーレル家を筆頭に賄賂や通行税を要求している者らはここで頭を冷やしてもらうことにする、その後の交渉も僕が出て文句一つでない程に封じ込める。

その結果通行税で儲けようと企んだ連中が決起するがそんなのは羽虫の群れである。害にも薬も成りゃしない、無駄に騒ぐ偶像として廃品にするだけだ。廃品にした後は適当なところで冒険者ギルドの耳元で囁いて「うちから跡取り紹介するから引っ込め」なだけ。

陰謀?策謀?略奪?うん、僕はこの言葉結構好きだよ!どんなに陰謀を企んでも前の世界では国家権力で握りつぶされるけどここにはそのような縛りは存在しない。証拠が無ければ問い詰められないし自白させるにしても思考を読む術師を頻繁には呼び出せない。一種の治外法権と一緒なのだ。

さて、情報は揃っているので放火しに行きますか!ん、犯罪ではないのか?言ったでしょ、証拠が無ければ問われない、って。奴らの居場所には証拠は山ほどあるみたいなので実に痛快なことになりそうですよ。

「ん?なんだぁ?」

『影縫いの自分』によって姿を消した自分を認識できず倉庫の番人は他愛も無く案内してくれる。

「はぁ…、ヤレヤレだなぁ」

何で主君自ら放火犯となってまで貴族家を蹴落とさなければならないのだろうか、異世界ってこんなもんか?あくびが出すぎて腹筋できそうだよ。

倉庫の中を見れば分かる人には分かるだろうが、ちょっと蓄えた財宝多くない?これ、明らかに超過申告してないよね!法とは守るべき人がいて成立する、つまり税を納める貴族らが堕落すると金を誤魔化して蓄財に走るのが常。そのためかいたるところに美術品調度品が飾られてた。

これを全部燃やすのは芸術の観念から考えると大損害なのでその中から高そうなものだけをチョイスして無事に確保できるようにしておこう。それでも放置したらなんて考えてはいけない、そんな事態を放置していることの方が大問題なのだから。

これを契機に貴族家や大商人が抑えている倉庫に容赦なく査察の手が入るだろう。その時言い逃れを出来るのはどれほどいるか…、うちも財産が出来ることになったら気を付けないとね!

放火とは言うが要は火の手が上がればそれで済むだけ。ただ、カンタンに消火されてしまうので火を消しづらいことにする必要がある。

僕は魔法のバッグから青銅でできた小さな筒を取り出す。コンコンと、地面に向かって穴を向けると鉄粉が固まって中心が燃えているかのような物が出てきた。それを手ごろな荷物で塞いでから外に出る。何度となくそれを行い相当な数の倉庫が同じようなことになった。

「あと二時間ほどで大火事の発生だ」

なお、その後僕はあろうことか「放火犯潜伏中!情報求!」の看板をいくつも立てていた。突然の看板に町の人は訝しんでいたけど、どうせ放火犯なんて捕まりゃしないんだしそれで貴族の不正を暴けるんだし市民から奪った財宝は返されるんだしそれでいいじゃん!お気楽に後の出来事を楽しむことにしたのだ。

「んっ…、あれ・ユウ…キ、様?」

「よく眠れたようで感心感心」

「あ、あれっ?たしか、何か甘い香りがして…それから?」

エルヴィンもアルムもまだ自意識が薄いようだった、二人に水の入ったコップを渡して飲ませる。

「ゴクゴク、って、たしか。ユウキ様が放火するとかなんだとか」

「そう言って記憶が朧げで…」

「気のせいじゃない?」

語尾に疑問符が付いているがこの二人にはそれが分かってないようだった。しばらくコップの入った水を飲んでいる二人と兵士達。しばらくすると宿屋の店主が血相を変えて部屋に入ってきた。

「か、かかか、火事だ!大火事だぞ!倉庫街で火の手が上がったんだ」

「「えええっ!?」」

二人は仰天しているがこれも予定どおりだ。

「ご安心ください。僕はここより南の職業貴族家の当主なのです。一刻も早く火事を鎮火するよう努めましょう」

貴族家が治める場所で大火事が起きて運よくそこに評判の冒険者がいましたとさ。めでたしめでたし、って。言うべきなんだけど中身を見て確認しているから消火作業という名目で貴族らを妨害してやるぞぉ。エイエイオー!

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