解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

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第1章

198話 エルヴィンとアルムの調査 Ⅲ

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ふたたび主君から調査と交渉を継続するように言い渡されたエルヴィンとアルムは先の相手とは違い商人らと話をすることにした

商人らの働きにより経済が回っているのでそれから反感を持たれれば美味い話など来ないはず。ユウキ様はそこを狙って商人らからの突き上げを狙えと言った。

僕たち二人はすぐさま商人らが集まる場所を人伝に聞いて会う約束を取り付けた。

「始めまして。アドラーヌス商会の者です」

「はじめまして。トヨクニ男爵の家臣のエルヴィンです」

「同じくアルムです。少し事情をお聞きしたいのですが」

今現在領地の境目辺りで貴族が通行税を勝手に取っていることについて、その話が出途端相手の顔がゆがむ。

「ええ、実に迷惑な話ですよ…。『貴族だから税を取って当然』という身勝手な建前だけで少なくない金を取るんです」

なぜあのような連中が幅を利かしているのか、一刻も早くどうにかしてほしいと。商人らの反応は最悪だった。

「(この分ならば商人らの協力を取り付ければいいだろうけどどう返答したものか)」

「(商人達からすると排除してほしいけど貴族家に目を付けられて因縁を持たれるのはマズいというところだね)」

承認と貴族の取引は結構多いからだ。貴族の因縁ほど面倒な代物は無い、酷い妨害もあり得る。協力したいが貴族らに睨まれると商売がやりづらいということだ。

ここら辺をどうにかできないと問題解決にはならない。

貴族との話し合いは駄目、商人らも商売があるので協力は難しい、行き詰ってしまった。

「またまた上手くいかない。どうしたものだろうか」

「そうだなぁ」

商人らの反応を見れば貴族の迷惑な行為には頭を抱えていることは確認できた、しかし、それだけではこちらに強力はしてくれない。協力するならば迷惑な貴族たちを抑え込める何かが必要である。

「「う~ん…」」

やはり自分らだけではどうしようもない。まだ成人したばかりの若造などでは信用が無いのだ。新興貴族家の家臣というのもあるだろうし。南の山賊を討伐したというだけではまだ不十分なのだろう。北側ではまだまだ名が知れていないのだ。

そういえば、ユウキ様は貴族家が所有している倉庫の場所なども調べてこいと言っていたね。何をする気なのか分からないが命令は命令。他にやるべきことなどないので急ぎ調べて戻ることしよう。分散して地図を描いて戻った。

「これが倉庫の場所か。ごくろうごくろう」

主君ユウキ様の顔はかなり気楽そうだ、なぜだろうか?

「自分らでは貴族らをどうにかできない、商人らからも反応は悪かった。そうだね?」

「「え、ええっ。そうです」」

「ま、最初はそんなものだよ」

ウンウン頷かれるが自分達では完全に力不足なのを思い知らされた命令だった。貴族からも商人らからも侮られてしまいまともに相手をされない。いくら職業貴族とはいえ男爵なのだ。それなりの対応をしてくれるはず、そんな期待はどこにもなかった。

「不平不満、いっぱい覚えたよね。でも、これが新米貴族では当たり前。貴族などただ見栄えだけしか見ない、他も同様。上にはへりくだり下には見下す。追従する者も同じ」

「「それはそうですがっ!!」」

自分らや兵士たちは不満がいっぱいあった。あれだけ辛い思いをして山賊を排除したのに北部では一言お礼すら言われない。

悔しくて悔しくて仕方ない気持ち、これをどうすればいいのかすら分からない。そんな僕たちを見て笑顔でユウキ様は断言した。

「じゃ、見直させに行こうか?」

「「???」」

見直させる?どうやって?自分らの頭に疑問符がいくつも浮かんだ。

「君たちを行かせたのか一応顔見世で『これからここで活躍しますから顔覚えておいて下さい』ってだけなの。君らを相手にして対応した連中には悪いけど貴族も商人も関係なく痛い目に遭ってもらおうか」

だからどうやって?

「な~んてことはない。金を貸すだけ」

「「はい?」」

「金貸し。聞こえは悪いけど儲かるんだよね」

「「はぁ」」

「じゃ、行こうか」

ユウキ様は僕らの言葉を程々に聞きながら皆を連れて北部の町へと向かった。いったい何をするのだろうか。

「初めまして。北部商人ギルドの担当です」

「ユウキと申します。ここで商売を始めたくて」

「それはよろしい。職種はいかがされますか」

「金貸し。登録名はトヨクニ商事ということで」

すぐさま書類審査をされる。

「ふむ。冒険者ギルドの評価は問題有りませんな。いつ仕事を始めますか」

「明日から始めたいのですぐにでも許可を頂けますか」

そうして担当から営業許可をもらう。

「これで準備は完了っと」

「ユウキ様、どうなさるおつもりなのでしょうか?」

「ここで金貸しの仕事を立てても誰も借りないと思うのですが?」

「今は、ね」

「「???」」

僕たちには何を考えてるのかまるで理解できなかった。

「宿屋にいって休もう」

そうして宿屋で休みを取る。

「ここで何もせずにいて」

ユウキ様は魔法のバッグから何かを取り出す。それはネズミ色をした外套だった。

「何をするおつもりですか?」

「放火」

「はい?」

「倉庫に放火する」

ユウキ様はシーっと、静かにするよう促す。

「どどどどうしてそのような」

「世の中には手を汚さずにいる連中もいるらしいけど僕は違う。必要ならば悪となる。高みの見物を決める連中の目の前が大火事になれば逃げだすしかないと思うはず」

どうも本気のようだ。

「君たちがやれることはここでじっと待つだけ。後のことは何も心配しなくていい」

「そ、それならばお」

お供する、そう言おうとして何か甘い香りがしてきた。よく見るとユウキ様が煙を放つ何を持っていた、強烈な睡魔がやってきて抵抗できない。

そのまま全員倒れてしまう。

「ごめんね。君たちの力で解決出来たら最高だったんだけど状況が悪すぎる」

やはり荷が重かった任務であることを僕は詫びる。まだ自分の名が信頼できるものではないことが問題だった。僕は手を汚すことを躊躇わない、策謀で人を殺すこともいとわない、陰謀を平然と描いても咎めを受けないようにもできる。それがこの世界での僕だ。

さて、夜の時間は限られているので手早く終わらせますか。
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