解体の勇者の成り上がり冒険譚

無謀突撃娘

文字の大きさ
上 下
144 / 154
第1章

198話 エルヴィンとアルムの調査 Ⅲ

しおりを挟む
ふたたび主君から調査と交渉を継続するように言い渡されたエルヴィンとアルムは先の相手とは違い商人らと話をすることにした

商人らの働きにより経済が回っているのでそれから反感を持たれれば美味い話など来ないはず。ユウキ様はそこを狙って商人らからの突き上げを狙えと言った。

僕たち二人はすぐさま商人らが集まる場所を人伝に聞いて会う約束を取り付けた。

「始めまして。アドラーヌス商会の者です」

「はじめまして。トヨクニ男爵の家臣のエルヴィンです」

「同じくアルムです。少し事情をお聞きしたいのですが」

今現在領地の境目辺りで貴族が通行税を勝手に取っていることについて、その話が出途端相手の顔がゆがむ。

「ええ、実に迷惑な話ですよ…。『貴族だから税を取って当然』という身勝手な建前だけで少なくない金を取るんです」

なぜあのような連中が幅を利かしているのか、一刻も早くどうにかしてほしいと。商人らの反応は最悪だった。

「(この分ならば商人らの協力を取り付ければいいだろうけどどう返答したものか)」

「(商人達からすると排除してほしいけど貴族家に目を付けられて因縁を持たれるのはマズいというところだね)」

承認と貴族の取引は結構多いからだ。貴族の因縁ほど面倒な代物は無い、酷い妨害もあり得る。協力したいが貴族らに睨まれると商売がやりづらいということだ。

ここら辺をどうにかできないと問題解決にはならない。

貴族との話し合いは駄目、商人らも商売があるので協力は難しい、行き詰ってしまった。

「またまた上手くいかない。どうしたものだろうか」

「そうだなぁ」

商人らの反応を見れば貴族の迷惑な行為には頭を抱えていることは確認できた、しかし、それだけではこちらに強力はしてくれない。協力するならば迷惑な貴族たちを抑え込める何かが必要である。

「「う~ん…」」

やはり自分らだけではどうしようもない。まだ成人したばかりの若造などでは信用が無いのだ。新興貴族家の家臣というのもあるだろうし。南の山賊を討伐したというだけではまだ不十分なのだろう。北側ではまだまだ名が知れていないのだ。

そういえば、ユウキ様は貴族家が所有している倉庫の場所なども調べてこいと言っていたね。何をする気なのか分からないが命令は命令。他にやるべきことなどないので急ぎ調べて戻ることしよう。分散して地図を描いて戻った。

「これが倉庫の場所か。ごくろうごくろう」

主君ユウキ様の顔はかなり気楽そうだ、なぜだろうか?

「自分らでは貴族らをどうにかできない、商人らからも反応は悪かった。そうだね?」

「「え、ええっ。そうです」」

「ま、最初はそんなものだよ」

ウンウン頷かれるが自分達では完全に力不足なのを思い知らされた命令だった。貴族からも商人らからも侮られてしまいまともに相手をされない。いくら職業貴族とはいえ男爵なのだ。それなりの対応をしてくれるはず、そんな期待はどこにもなかった。

「不平不満、いっぱい覚えたよね。でも、これが新米貴族では当たり前。貴族などただ見栄えだけしか見ない、他も同様。上にはへりくだり下には見下す。追従する者も同じ」

「「それはそうですがっ!!」」

自分らや兵士たちは不満がいっぱいあった。あれだけ辛い思いをして山賊を排除したのに北部では一言お礼すら言われない。

悔しくて悔しくて仕方ない気持ち、これをどうすればいいのかすら分からない。そんな僕たちを見て笑顔でユウキ様は断言した。

「じゃ、見直させに行こうか?」

「「???」」

見直させる?どうやって?自分らの頭に疑問符がいくつも浮かんだ。

「君たちを行かせたのか一応顔見世で『これからここで活躍しますから顔覚えておいて下さい』ってだけなの。君らを相手にして対応した連中には悪いけど貴族も商人も関係なく痛い目に遭ってもらおうか」

だからどうやって?

「な~んてことはない。金を貸すだけ」

「「はい?」」

「金貸し。聞こえは悪いけど儲かるんだよね」

「「はぁ」」

「じゃ、行こうか」

ユウキ様は僕らの言葉を程々に聞きながら皆を連れて北部の町へと向かった。いったい何をするのだろうか。

「初めまして。北部商人ギルドの担当です」

「ユウキと申します。ここで商売を始めたくて」

「それはよろしい。職種はいかがされますか」

「金貸し。登録名はトヨクニ商事ということで」

すぐさま書類審査をされる。

「ふむ。冒険者ギルドの評価は問題有りませんな。いつ仕事を始めますか」

「明日から始めたいのですぐにでも許可を頂けますか」

そうして担当から営業許可をもらう。

「これで準備は完了っと」

「ユウキ様、どうなさるおつもりなのでしょうか?」

「ここで金貸しの仕事を立てても誰も借りないと思うのですが?」

「今は、ね」

「「???」」

僕たちには何を考えてるのかまるで理解できなかった。

「宿屋にいって休もう」

そうして宿屋で休みを取る。

「ここで何もせずにいて」

ユウキ様は魔法のバッグから何かを取り出す。それはネズミ色をした外套だった。

「何をするおつもりですか?」

「放火」

「はい?」

「倉庫に放火する」

ユウキ様はシーっと、静かにするよう促す。

「どどどどうしてそのような」

「世の中には手を汚さずにいる連中もいるらしいけど僕は違う。必要ならば悪となる。高みの見物を決める連中の目の前が大火事になれば逃げだすしかないと思うはず」

どうも本気のようだ。

「君たちがやれることはここでじっと待つだけ。後のことは何も心配しなくていい」

「そ、それならばお」

お供する、そう言おうとして何か甘い香りがしてきた。よく見るとユウキ様が煙を放つ何を持っていた、強烈な睡魔がやってきて抵抗できない。

そのまま全員倒れてしまう。

「ごめんね。君たちの力で解決出来たら最高だったんだけど状況が悪すぎる」

やはり荷が重かった任務であることを僕は詫びる。まだ自分の名が信頼できるものではないことが問題だった。僕は手を汚すことを躊躇わない、策謀で人を殺すこともいとわない、陰謀を平然と描いても咎めを受けないようにもできる。それがこの世界での僕だ。

さて、夜の時間は限られているので手早く終わらせますか。
しおりを挟む
感想 675

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。