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第1章

197話 エルヴィンとアルムの調査 Ⅱ

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自分たちと兵士はらはすぐにマーレル家の跡取りを探すことにした。ここまで横暴な行為を働けばまともでは無いのは明らかでユウキ様は容赦のないお方だ。下手をすれば公然と殺害するやもしれない。

正当な理由の無い貴族家への敵対行為は冒険者ギルドはあまり好んでないからである。相手側に非がある場合が多い、それが確認されれば徹底的に排除される決まりだ。

ユウキ様は特化戦士であり優れた知恵者だ、特に計略にかけては底知れない。いくらこの土地を解放した功績があるとはいえ他にも候補者はいたはずだ。それなのに統治して当たり前という返答が来ている。

それだけユウキ様への影響力が強いということ、冒険者ギルドも配慮せねばならない程に。そんな相手に噛みついてき手ただで済むはずがない。

一刻も早くどうにかする必要があった。

エルヴィンとアルムは主から渡されたモノを換金しそれを使い情報を集めマーレル家跡取り本人に会う手はずを整えていた。

「やぁやぁ、ぼくがマーレル家の跡取りのアレクだよ」

その本人はいやに自信たっぷりの表情をしていた。そばには厳つい男らが数人いる。

「はじめまして。エルヴィンと申します」

「アルムです。貴殿がご子息ですか」

「そうだよぉ」

自分らは本人であると確認したうえで質問する。

「貴殿が今何をされているかお分かりですか?」

「んんっ?何のこと?」

南との境界線の境目で通行税を取り交易を制限していること、それを一刻も早くやめるように伝える。

「なんでそんなことをしなくちゃならないの?」

この跡取りは疑問を浮かべた。

「貴族なら領地内で通行税を取る、これ、当たり前でしょ」

それは根本から違っている。あそこは冒険者ギルト管轄地域であり貴族家といえども勝手に介入してはならないはずだ。なのに、税を取って当然という態度。これが耳に入れば相当な罰を受けるだろう。何度となく言うが聞く耳を持ってない。

「このままでは貴殿は排除されますよ。無暗に敵を増やすのはよろしくないと思います」

「敵?敵だって?はははっ、そんなのがどこにいるのかな。ここから南部は新米職業貴族がお情けで統治してるだけじゃないか。こちらは他の貴族家とともに防衛線を固めている。勝てるわけがない」

そちらから金を出すなら見逃してやる、と。そんな発言さえ出てしまった。悪いことに周囲の者らもそれに同調する。

「(駄目だこれ。まったくもって相手の恐ろしさを理解してない)」

「(愚かだとは思っていたけどこれではどうしようもないよ)」

自分らではこの跡取りの説得が何の意味を持たないことを理解してしまう。ユウキ様から出来る限り自分らで話を進めろと命じられているがこの相手には「寝耳に水」である。

その後も話は平行線である。

「君らだって主を見限ったら。こっちの方が良い暮らしができるよ」

「「……」」

「職業貴族に使えるだなんて将来性がないし低収入だし、しかも世襲できない。これ以上迷惑な相手じゃないか」

この跡取りの言い分の根拠は「親の仕事を引き継げない」の一点。たしかに、子供らに能力が無ければ仕事場を容赦なく取られるのは職業貴族の習わしだ。あくまで仕事で貴族をしているのであって国などから任じられているわけではない。

だが、現在で実力があり信頼されているのは職業貴族のほうだ。世襲貴族らは無難に勤めればいいはずなのに欲をかくか馬鹿な行為に走り借金を増やす。それでも家が潰されないという問題はそこかしこで上がっている。

世の不条理の一つだ。

自分ら二人はいかにもお気楽で横暴をまかり通そうというこの人物を好きになれそうにない。結局そのまま帰ることになってしまった。

「ふ~ん。そういう態度なのね」

自分らからの報告を聞くユウキ様はいたって平然だった。

「「申し訳ございません!」」

自分らから発言し行動したのに成果を持ち帰れなかったので二人して頭を下げる。

「ま、貴族にも色々いるからね」

指にてお当てて何かを考え始めた。

「どういたしますか」

「通行税を取られると商人が通らなくなる、塩の安全な輸送という責任もあるし……」

もう一度交渉して来いと命じられる。

「「ですが…」」

取り付く島が無いのだ。

「跡取りの発言からすると他にも貴族家が関わっている。でも、それを良く思わない人達だっているはず」

通行税を取るのに反対している貴族家や商人らだって存在しているはず。それらと交渉して牽制してもらうように話してこいと。妥当な内容だった。

「後は…そうだなぁ」

相手の所有している倉庫などの場所も調べて来い。そんな命令だった。

「「?」」

何故相手の所有している倉庫の場所を調べる必要があるのだろうか?自分らにはその命令の意味が分からないが調べてこいというのならば従うだけである。

自分たちはそうしてまた交渉に向かった。

「ヤレヤレ、貴族の傲慢さはどこでも同じか」

ユウキは二人では今回の問題は解決不可能であることを見越していた。年若く経験も知識も浅い二人ではあしらわれるだけ。でも、二人には今後のことを考えて手柄を手に入れて欲しい。

なら、自分が二人に気づかれないように状況を動かしてしまうに限る。あとで気づくだろうが今はとにかく経験を積んでもらわないと。
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