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第1章

191話 養鶏業の下準備

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ミーティアとシャルティエの強引な説得により今後勇者らの対応は他の人間に任せることになった。奴らは「丁重に扱わぬと身内に災いが起きる」そう脅しているが僕からすれば手を出せば災いが来るのはそっちの方だと考えるしかない。

なので、最優先に取り組むべきことはこの領地の発展と開発ということになる。

「初めましてユウキ男爵様。冒険者ギルドから派遣されたアーニー・ベッケラーと申します」「スフィア夫人より派遣されたユーリカ・アウファストと申します」

「初めまして」

冒険者ギルドとスフィア夫人の元に宝石の原石をあらかた箱詰めして送って数日後の彼女らはやってきた。その後ろには大量の労働者と共に。

「先に状況を説明しようか」

「「はい!」」

今現在の状況を二人に説明しだす。

「原石が取れるのは川辺で土を水でさらうと出てくるような土地だね。とにかく、やればやるほど出てくるような場所だから」

場所の取り合いでいさかいは起こさないようにと、念を押す。二人はすぐさま連れてきた人達に命じて原石掘りの仕事を始める。

「彼女らは何者なの」

送られてきたけど僕は彼女らのことはよく知らない。なので、ミーティアに聞くことにした。

「アーニー・ベッケラーはベッケラー準男爵家の娘です。実家は石細工を製造販売してます。近年は石細工の需要が少なくなりその技術を生かした新たな商売に着手しようともっぱらの噂です。まぁ、明らかにここで産出される莫大な原石が目当てでしょうね。石細工より宝石細工の方が利幅が大きいので」

なるほど、もともと持ってる技術を生かした新たな分野の開拓か。

「もう一人は」

「ユーリカ・アウファストは主君の分家筋に当たりますね。彼らはファミリーを運営している一族で富裕層をメインとした高級品の仕入れ及び販売を委任されています。絵画彫刻食器などなど。とはいえ、ここ近年は売り上げは徐々に右肩下がりであり確固たる支援者を探しておりました」

こっちもその手の方面に顔が広いということか。タイミングがいいな。

「ふぅん」

「以前からここは交易の要所として知られてましたしそこから近辺では手に入らない良質な原石を大量に送ってきたことで商売の中心地になると判断したのでしょう。彼女らは肝いりでここに来たのは間違いありません」

「つまり優秀ってこと」

「はい」

労働者はまだまだ圧倒的に足りない。人手を送ってもらえるのはありがたいが、何か作為を感じるな。

「なんでトップが女ばかりなの?」

ここに来る人間の多くが女性であることが疑問だった。きつい労働なのだから女性より男性の方が良いのだが。

「ああ、そのことですか。彼女らの多くが働き手を無くした未亡人や子供を抱えて困っている家政婦なのですよ。冒険者ギルドや我が主君も援助しておりますが数が結構多くて、なにがしかの仕事を与えないと帳簿が大赤字なのです」

「そうなの」

「付近では働き先がないので困っていたところに都合よくこの土地が解放されましたので」

子供らは信頼できる人らに預けてきて身一つで働きに来たそうだ。労働者に配給する食事や服の繕いなどをするには女性の方が良いだろう。

「それはそれとして」

「なに?」

ミーティアは顔色をピシリと、真面目になる。

「現在は原石の販売で資金は事足りますがいずれはそれも陰りを見せるでしょう。今後を考えて新たな産業を立てる必要性がございます」

確かに、埋蔵量が不明のままなので確固たる収入とは言い難いのは確かだ。資金があるうちに調達する手段を考えておくべきだと彼女は言っているのだ。

「どんなのを考えてるの」

「農業や林業が主体ですね。でも、開発には時間がかかります」

農地を開拓したり木を伐採するのは結構重労働なんだよね。ここで思いつくのには時間と人手が必要だ。ここは外部に行って確認をすることにしようか。

「今ここにある手持ちでは上手くいかなさそうだね」

「そうですねぇ」

「じゃ、一度北の商業都市に行ってみて何か商売になる種がないか見に行ってみない」

「何かお考えがあるのですか」

上手く手に入るか分からないけど確認のために行くことにする。どうせ北とは一度話し合う必要があったからだ。そうして、ミーティアと護衛を連れて北の商業都市まで向かうことにした。

「へー、ここがそうなのか」

「商業都市<モークル>です。湾岸に接していて塩製造が非常に盛んな場所ですよ。観光地や船の中継地としても機能しております」

外見は商業都市なので防壁は低め、でも露店がすごく豊富だなぁ。早速見て回ることにした。

「玉石混合、だねぇ」

お目当ての品は決まっているが都合よくあるとは限らない。なので、注意を払い店の品物を見ていく。やがて、一軒の店に目が留まる。

「(あった)」

それは食用の鳥を扱っている店だった。前の世界なら鶏、こっちの世界では一括りに「オルドゥ」と呼ばれていた。その鶏を一羽ずつ確かめていく。ミーティアらは変な顔をしていた。

僕が目を付けたのはやや灰色がかった体毛とやや赤い体毛をもったのを入念に確認する。状態は大丈夫なようだ。

「ねえ、ちょっと」

店の店長を呼ぶ。

「なんだい」

「この二羽を買いたいけど」

在庫はいくらあるのか確認をする。

「ああ、そのクズ鳥かい。灰色なのは三百、赤いのは五百あるよ」

「全部買う」

即座に代金を出そうとして、

「ち、ちょっとお!」

ミーティアが止めに入る。

二人だけでヒソヒソ話を始める。

「(何を考えているのですか?この二羽はクズ鳥として知られている「ヘイファ」「ラクレ」ですよ。そんなのを買い込むよりも他に良い買い物をすべきです!)」

彼女はこんなものを買うよりも他に重要なことがあると抗議するが、

「(僕の決定には逆らわない、そういう約束のはずだけど?)」

「(それはそうですが、こんなのを買わなくても…)」

彼女はこの二羽の商品価値を知っていたようだ、だけども、それは彼女の価値観と常識の中だけの判断だとも理解している。

これ以上金の卵を産む出すものは他にない、強引に押し通して二羽を買った。
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