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コトリさんについて
しおりを挟む中林琴梨 28歳。
帯刀榮太郎の秘書を務め、清楚で可憐なお嬢様に見えるが実際は全然違う。
兄と弟が1人ずつおり、母親を早くに亡くしたことから家族に溺愛されて育ったもののコトリ15歳の時に父が再婚。その相手が実母が生きていた頃からの愛人だと知った彼女は憤り、悪い仲間とつるむように。現在は既に更生済みで、真面目に働いている。
父は中林建設社長、兄は同社専務。
「ってコレ、なかなかのお嬢様じゃないですか。そんなお嬢様がどうして店長と…」
「でも一度グレちゃってるからねえ~。いいとこの坊ちゃんとの結婚は難しいんだなあ。ほら、親が必ず相手の身辺調査をしちゃうから、コトリさんなんて叩けば埃しか出ないし」
「えッ帯刀氏が初来店した時のお連れ様でしょ。その数日後には茉莉子さんを怒鳴ってたけど…。でもあれほど可愛い女性がそんなにスゴイの?」
「うん、スゴイ」
そう即答した茉莉子さんは一例として別荘での出来事を話し出す。…派手な外見と、手あたり次第に誰とでも寝てしまうという乱れた性生活。
その過去は、かなり衝撃的だった。
「わ、わあ…」
「でも性格はすごくいいの。だから店長にどうかと榮太郎は考えたみたい。あ、店長が戻って来た。今の話、内緒にしておいてね」
小さく手を振りながら、茉莉子さんは自席へと戻って行く。あまりの内容に私の脳みそは爆発しそうで、取り敢えず考えることを放棄した。
「あ、アヤ。3番テーブルのお客様がドリンクメニューを持って来て欲しいってさ。悪いけど頼めるか?」
「はい」
きっともう帯刀氏からコトリさんの話を聞いているはずだよね?いったい何と答えたのだろう。そんな疑問を口に出せず、店長を凝視する。
「ん?アヤ??いったいどうした」
「え、あっ、はい。ドリンクメニューですよね」
なんだろう、このモヤモヤは。
私にはもう浦くんという彼氏が出来たし、店長からの復縁の誘いも断ったというのにどうしてこんなに心が乱れるのだろうか?
本当に店長なんてどうでもいいのに。
これからはもう関わらないと決めたのに。
そう決めた途端、店長のことばかり考えてしまうだなんて。まったく自分でも自分のことが分からない。悪い男やダメな男に惹かれてしまうのは、いったいどんな理屈なのだろうか。
いや、惹かれていない。
店長になんて惹かれてないぞ!!
たぶんココが踏ん張りどころだと感じながら、私はひたすら仕事に打ち込んだ。
………………
>俺、アヤと付き合ってた時が
>一番上手くいってたと思うんだよ。
数日後の土曜日。
ランチタイムで忙しく動きつつも、私の頭は雑念だらけだった。
>結婚するならアヤ一択なんだ。
残念ながらこの2フレーズは永久保存版だ。きっと店長は適当に言ったに違いないのに、何度も脳内で繰り返してしまうのである。
女性関係の華やかなあの男が私を一番だと讃え、一生を共にしても良いとまで言ってくれたのだ。そんなの嬉しいに決まっているではないか。
>俺の中でアヤさんは誰よりも綺麗です。
>だってアナタは特別な人だから…。
浦くんの心からの言葉よりも、店長の適当な言葉の方が胸に響くだなんて。私ってヤツは本当にダメな女だ。こんな思いは絶対、誰にもバレないようにしなくては。何故なら私は、浦くんのことだけを考えていなければならないのだから。
「パスタランチ2つ、アマトリチャーナとペペロンチーニ各1でーす」
厨房に向かってオーダーを伝えていると、作り漏れが無いか伝票の確認をするため浦くんがこちらにやって来て。
小さな声で私に言う。
「アヤさん、今晩も送って行くんで。30分ほど待って貰っていいですか?」
「あ、うん。分かったよ」
浦くんとの交際は順調だ。私が不安にならないようマメに連絡して来るし、こうして終業後には自宅まで送ってくれて。父へ交際報告までしてくれたのだから。
…ウチの両親は私が小学生の頃に離婚しており。母の新しい恋人が転勤の多い男性だったせいで親権を放棄し、私は父に育てられたのだが。
その辺りの事情を知っているせいか、とにかく浦くんは父を懐柔しようと思っているらしく。毎晩ウチに上がり込み、父と語り明かすのだ。
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もっと私と打ち解けなさいよッ。
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そんな疑念も湧いてきた頃に彼女がやって来た。
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