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富樫先生のおうち
しおりを挟む光貴のマンションもそこそこ豪勢だったが、私が今いるその部屋もかなりゴージャスだ。まるで一流ホテルのスイートルームばりの広々としたベッドと、壁にはセンス良さげな絵画が飾られており。家具も絨毯も照明器具も、全て上質な物で取り揃えられている。
遮光カーテンから薄っすらと見える外の景色で、どうやらここは一軒家だと推測された。ポムッと左の手の平に右拳を乗せて私は納得ポーズを完成させる。
「そっか、たぶん富樫先生の家なんだな」
「おはよう、コトリちゃん」
若い女性が下着姿でベッドに座っているというのに、ノックすらせずズカズカ入ってきたのは、勿論この家の主である。
「ひいっ」
「昨夜は思いっきり燃えちゃったな、俺たち」
職務中のスーツ姿が幻であるかのように、目の前に現れた先生はだらしなかった。
襟元が伸びたTシャツと、ウエスト紐が埋もれたのか、縛れなくなってズリ落ちたスウェットパンツ。ポツポツと髭も生え、髪はボサボサだ。
「またまたご冗談を!さすがに私も分かります、自分の体が事後かどうかくらいは」
「そっか、いつの間にかコトリちゃんもオトナになっちまったんだなあ。先生、悲しいよ」
「コトリちゃんって呼ぶの止めてくださいよ」
「なんで?俺、そう呼ぶのが夢だったんだけど」
「随分と安い夢ですねえ」
「ああ、あの頃はなあ、手を出せなかったから。実はちょっとムラムラしてたんだぞ、あはは…」
そっか、先生も男だったんだな。……そんな事実、何だか知りたくなかったような、でも、女性と見られていたことが嬉しいような。
とっても複雑な心境でいると、肝心なことを確認していなかったことに気付く。
「ん?一軒家に住んでいるってことは、もしや先生って妻帯者ですか??」
「んあー、お前はどう思う?」
まさか質問に質問で返してくるとは。
心の中でそうではないようにと祈ったのは、私が奥さんの立場だったら、許せないだろうと思ったからである。いくら元教え子とは言え、深夜に夫が若い女性を連れて帰り、しかも泊めるだなんて。私だったら『実家に帰らせて貰います』案件だ。
「えっと、奥さんに逃げられたって感じですか」
「うわッ!なんだよお前、メッチャ鋭いな!!」
そんなこと褒められても全然嬉しく無いが、それでも先生は私の隣に座って話し続ける。
…いや、なんつうかその…私、スリップだけでブラ未着用なんですが…。真横に座られたら、見えちゃうんじゃないですか、えっと中身が…。
さり気なく胸元を隠す私を、まるで自意識過剰だとでも言わんばかりに。先生はテンションが高いまま、ひたすら話し続ける。
「結婚するにはしたんだぞ。これがまた、金を使いまくる女でなあ。この家も『どうしても』って騒ぐから買ったのに、住んで1年で離婚だ」
「うわっ、女を見る目が無さ過ぎですよー」
「しかも理由が、仕事仕事で忙しい高給取りの俺よりも、始終一緒にいてくれる薄給男の方が何千倍もイイんだとよ。あ、誤解すんな、夜の生活がって意味じゃないから。こう見えても俺、テクニックは相当凄いって評判だか…」
「わー、先生のそういう生々しい話は聞きたくありません。勘弁してくださいよ」
なぜそんな残念そうな顔をするんだ。
もしかして武勇伝を語りたかったのか??
「そういやお前のスマホ、鬼のように鳴ってた。ほら、持って来てやったぞ」
「有難うござい…わお…」
着信26件、全部ウラウラウラ…。
そっか、無断外泊しちゃったから心配したのか。とにかく一旦帰って着替えないと。そう先生に告げたところ、愛車で送ってくださることに。車酔いと闘いながら車中で浦くんにメッセージを送信すると、瞬殺で既読が付いて軽く震える。しかし、この後もっと震える事態に突入するのである。
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