血よりも赤い瞳

奈々野圭

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第33話 新居①

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 後日。美咲と会う約束を取り付けた智也。二人はカフェでお茶をしていた。

「とにかく、智くんはお引越ししたいんだね。ここがいいっていう場所はあるの」

「それなんだけど。せっかくだから、美咲と一緒に暮らしたいなって」

「一緒に……って、えぇ」
 美咲は驚きのあまりか、素っ頓狂な声を出す。

「今の生活だと、たまにしか会えないじゃない。俺としては、もっと顔が見たいなって……」
 智也は俯く。耳まで真っ赤になっているような感覚がする。

「智くん……」
 言葉を詰まらせている智也を、美咲は待つように見つめる。

「俺はさ、健太のことがあってから、ずっとこんなことを考えてたんだ。もしかしたら、ある日突然、会えなくなっちまうかもしれない。だから、美咲にはそばにいて欲しいな、って。

 でも、それは俺のわがままだ。美咲の気持ちを聞かせて欲しい」

 美咲はうーんと唸ったあと、しばし沈思する。

「……智くん、そんなこと考えてたんだね。そうだよね。何が起こるのかわからないもんね。私も、智くんに会えなくなるのは嫌だよ」

 美咲がそう口にしたあと、智也の顔に期待の念が生じる。

「引っ越したいって言うなら、せっかくだし、一緒に暮らそうか」

「ありがとう!」
 智也の目に、希望の光が灯った。

 二人は「場所はどこがいいか」「一緒に住むなら何が必要か」など、これからのことを話し合った。楽しげに語り合う様から、喜びと期待が溢れている。

 二人はカフェを出て、それぞれの家についたあとでも、スマホを通して話し合いを続けた。

 熟考と話し合いを重ねた末、新居は美咲の家から少し離れたところに決まった。

「智くんは、ここでいいの。職場からは遠くなっちゃうでしょ」

 美咲は心配そうな表情を浮かべている。

「そんな顔すんなって。確かに遠くはなったけど、まだ通勤できるし。それと、週三回はリモートワークでもOKだって。ただ、家賃が二十万かぁ。俺としては、そっちの方が気になるよ」

 選んだのは、マンションの五階にある二LDKの部屋だ。相場としては、妥当だと言えば妥当である。

「それは二人でなんとかしよう」
 美咲は溌剌はつらつとした顔で答える。

「妙に自信満々だなぁ」

 智也は笑う。同時に、頼りになるなとも感じる。
 こうして二人は、同棲の準備を着実に進めていった。

 新居を決めた翌日、智也はリビングにて引っ越し作業に取りかかる。
 家具や日用品を箱に詰めるなどして、作業に勤しんだ。

 純は智也の傍らにいる。立った状態で、作業しているさまを眺めている。

「お前も荷造り手伝え……と言いたいところだが、そうしたら今度はこっちがいちいち指図しないといけなくなるからな。全く、こういう時にはほんと使えねぇな」

 悪態をつきながら、智也は手際よく作業を進めていく。

「荷造りはこれでいいかな。あとは……」

 あらかた荷造りを終えると、智也はソファーを見る。それは、純の定位置と化していたソファーである。

 ソファーは処分するつもりだ。というのも、ここを引っ越さざるを得なくなったあの事件――健太が純の手によりバラバラになったあの惨劇――を思い起こさせるアイテムとなってしまったからである。

「ソファーは、まぁ、おいおい美咲と一緒に見に行けばいいだろう」

 智也はスマホから、ソファーの処分を回収業者に依頼した。

 ――一週間後。引越しの日がやってきた。

 業者がトラックに、次々と荷物を積んでいく。荷物に紛れ、純がトラックの荷台に上がる。智也がそう命じたからだ。

 例に漏れず、純には認識阻害がかかっている。案の定、業者も気が付かなかった。

 こうして荷物を積み終えたトラックは、新居へ向かうべく走り出したのだった。
 トラックは、何事もなく新居にたどり着く。

 辺りは閑静な住宅街で、ほどほどに綺麗な街並みだ。そのうちに、マンションが見えてきた。エレベーターで五階に上がる。

「智くーん」

 先に引越しを終えた美咲が、智也を迎えた。同じ日に引っ越すとごたつきそうなので、分散した方がいいだろう。
 なので、近いところに住んでいる美咲が先に越した方がよい、となる。

 そういうわけで、美咲が新居にいたのであった。

「美咲」
 智也は、そのまま抱きついた。

「ちょ、智くん……」
 突然のことに驚きながらも、満更でもないようだ。そのまま、智也の腰に手を回す。

「やっと一緒に暮らせるんだな。そう思ったら、なんか嬉しくなっちゃって」
 智也がしみじみとした声で言う。

 二人はしばらく抱き合っていたが、美咲と業者の目が合った。業者は見ないふりをする。

「智くん、今は荷物を中に入れないと。あと、業者さんもいるし」

 美咲が耳元でささやいた。智也は、慌てて体を離す。顔は、真っ赤になっていた。

「そ、そうだな」

 咳払いをしたあと、業者とともに荷物を中に運び込む。

 作業中、いつの間にか、純が智也の隣にいた。知らぬ間に荷台から降りていたようだ。
 美咲がいる手前、純に話しかける訳にもいかない。智也は無視して、荷物運びを続行した。

 部屋に荷物を置きながら、部屋の間取りやベランダからの景色を確認する。

「ここ、本当に明るいね」
 リビングには暖かな日差しが入る。

「美咲は日差しにこだわってたからな」
「だって、やっぱり日差しは大事だよ。冬は暖かいしね」

「夏は暑いけどなー」
「智くんったら、もー」

 智也は笑いながら「ごめんごめん」という。美咲も笑顔になっている。

 荷物を全て運び終え、業者が帰る。智也は業者に礼を言う。部屋は、二人と純だけになった。美咲は純の存在に気がついていないが。

 荷物の搬入は終わった。今度は荷ほどきだ。二人は協力して、作業を進める。そんな二人を、純は無言で見ていた。

「俺は今から仕事に使う部屋を片付けるけど……ほんとに丸々一部屋使ってよかったの?」
 智也が不安そうに尋ねる。

「仕事で使うんでしょ。リビングだと気が散っちゃうじゃない。まぁ、いつも綺麗にしないと、っていうプレッシャーが発生するからっていうのもあるけど」

 美咲はにこやかな顔で、舌先を出した。
 きっと美咲なりの気遣いなのだろう。一緒に暮らすことにして正解だった。智也は、そう深く感じ入った。

「ありがとな」
 笑いかけると、美咲はニッコリと笑い返した。

「でも、ゲームばっかりやっちゃダメだよ。ちゃんとお仕事しなさい」
 智也のことを、軽く小突く。

「やったなー」
「さっきのお返しだよ」
 しばらくの間、二人は笑いあっていた。差し込む日差しと相まって、和やかな空気になる。

「じゃ、今から片付けに行ってきます」
 隣で棒立ちしている純の手を引きながら、智也はリビングを出た。
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