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第28話 再外出①
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純の力により、警察の事情聴取を免れることに成功した智也。
これならば、リビングに残っているシミをなんとかできるだろう。そう考えた智也は、特殊清掃の業者に連絡を入れた。
数時間後、部屋にチャイムが鳴る。業者が来たのだ。智也は業者をリビングに案内した。
中には純がいたのだが、気づくものは誰もいなかった。智也を覗いて。
業者は黙々と清掃を進めていく。その目は虚ろに見える。
清掃は順調に終了した。さして汚れていなかったからか、一時間もかからなかった。リビングには、シミがひとつもない。これで健太の痕跡は、跡形もなくなった。
業者は作業終了を伝える。智也から感謝の言葉を貰うと、業者は撤収した。
「よしっ。ここは事故物件じゃなくなった、筈だ」
近頃、念を入れて掃除をしていなかったのもあり、むしろシミができる前よりも綺麗になったような気がする。智也は、業者の仕事ぶりに満足していた。
「これで、ここを出る時に何も言われない……よなぁ」
不安になってきたので、床のチェックをする。眼視の上では、シミは見つからない。
「よしっ。これで大丈夫だ。あとは、家を探すだけだ」
智也は、引越しをしたかった。バラバラ殺人事件の現場と化した部屋で過ごしたくないからである。
部屋から痕跡はなくなったとはいえ、健太の最後が――体が引き裂かれ、無惨な肉塊となった――今でも生々しく、呼び起こされるからだ。
「できれば、この近辺がいいけど……」
智也は正社員として、毎日出勤している。智也の仕事はリモートでも可能だろう。現に、切り替えている同僚も少なくない。
「距離に関しては、ある程度は妥協してもいいかもな。だったらいっその事……これは、おいおい考えるとするか。さて、と」
智也はスマホでメッセージアプリを立ち上げた。
『急にこんなメッセージ送って悪い。今度、ディナーとかどう?』
こんなメッセージを送信する。間もなく、返信が来た。
『気にしないで。智くんのお誘い、嬉しいな。今度っていつ頃?』
相手は美咲だ。智也は彼女にメッセージを送ったのである。
『できれば今すぐがいいんだけど……美咲はいつ会えるかな』
送信後、しばし間を置いたあと、メッセージが来た。
『今週の夕方なら、いつでも大丈夫かなぁ。急用がなければだけど。あとは、お店次第、かな?』
『分かった。予約が取れたら、再度連絡するね』
智也は一旦メッセージアプリを落とす。ブラウザを立ち上げ、ここの近辺にあるレストランを探した。
最初に見たのは、ハンバーグのお店である。写真では黒いプレートに置かれている。湯気が立っており、肉が焼ける音が聞こえてきそうだ。
「ハンバーグって、ミンチだよな……」
智也の頭に、こんな考えが過ぎる。次第に、吐き気を催してきた。
「ダメだ、これは。写真でもムカムカするのに、実物を見たら盛大にリバース可能性がある」
写真を閉じ、別の店を探す。次に見たのは、イタリア料理だ。写真にはパスタとスープが写っていた。湯気が立っており、いかにも出来たてを撮影しましたといったところか。
「ミートソース……うぅ」
ソースには、トマトがふんだんに使われているのか、鮮やかな赤色だ。ひき肉もふんだんに使われており、食べでがありそうに見える。
以前の智也なら、即決したであろうパスタだった。しかし、今は吐き気が増すばかりである。
「ちょっと待てよ。つい最近、パスタ食ったばかりじゃねぇか。なぜ気分が悪くなってんだ」
智也はレストランでパスタセットを注文した時のことを思い返す。その時のパスタはボンゴレビアンコだ。塩味で、アサリが入っていた。
「アサリから出汁が出ててうまかったな……いや、そうじゃなくて、肉が入ってなかったから食えたのか」
つまり、現在の智也は肉料理、特にミンチされているものが食べられなくなったということか。
それ程までに、健太の最後がトラウマになっていたのである。
「にしても、なんで急にこんなことに……」
今までは、なんの問題もなく食べられていたというのに。自らの急な変化に、戸惑いを禁じ得ない智也だった。
「美咲とディナーの約束したのに……」
仮に自分が食べられるものを注文したとしよう。だが、美咲が食べられないものを注文する可能性が高い。
自分が食べられないからと言って、それを注文するのをやめさせるというのはおかしな話ではないか。そこまで気を使わせたくないし、わがままに付き合わせるのもよくないことだ。
自分からディナーの約束したのに、それを反故にする。今後の付き合いに支障をきたしかねない。最悪「別れましょう」と言われるだろう。
この局面をどう切り抜ければいいのか。智也は頭を悩ませた――。
「そうだ。確か会社の近くにヴィーガンレストランがオープンしたって話題になってたな」
肉が食べられなくなったと言うなら、元から肉が出ないところで食事をすればいいのだ。智也は閃いた。
早速、美咲に『ヴィーガンレストランがオープンしたけど、そこにしない』というメッセージを送る。
『そんなレストランがあるんだね。行ってみたい』
程なくして、返事が来た。字面を見るに、概ね好反応か。智也は安堵する。
「よし、これでなんとかなりそうだ」
店のホームページを出すと、そこから予約を入れた。日付は明日になっている。
予約を済ませたあと、純に話しかけた。
「明日、俺と一緒に来い。俺から離れるなよ」
智也がこう言うと、純は「わかった」と返す。
「こういう無茶なことを言っても、言うことだけは素直に聞くんだよな。そこは助かってるけど」
智也はひとりごちる。
「特殊清掃業者には、認識阻害が効いてたから大丈夫だとは思うけど。念には念を入れた方がいいからな。美咲は殺したくないし」
純をあえて連れていったのは、美咲に認識阻害が通じるか試すためである。
こうして、純を久しぶりに外に連れ出すことにした智也だった。
これならば、リビングに残っているシミをなんとかできるだろう。そう考えた智也は、特殊清掃の業者に連絡を入れた。
数時間後、部屋にチャイムが鳴る。業者が来たのだ。智也は業者をリビングに案内した。
中には純がいたのだが、気づくものは誰もいなかった。智也を覗いて。
業者は黙々と清掃を進めていく。その目は虚ろに見える。
清掃は順調に終了した。さして汚れていなかったからか、一時間もかからなかった。リビングには、シミがひとつもない。これで健太の痕跡は、跡形もなくなった。
業者は作業終了を伝える。智也から感謝の言葉を貰うと、業者は撤収した。
「よしっ。ここは事故物件じゃなくなった、筈だ」
近頃、念を入れて掃除をしていなかったのもあり、むしろシミができる前よりも綺麗になったような気がする。智也は、業者の仕事ぶりに満足していた。
「これで、ここを出る時に何も言われない……よなぁ」
不安になってきたので、床のチェックをする。眼視の上では、シミは見つからない。
「よしっ。これで大丈夫だ。あとは、家を探すだけだ」
智也は、引越しをしたかった。バラバラ殺人事件の現場と化した部屋で過ごしたくないからである。
部屋から痕跡はなくなったとはいえ、健太の最後が――体が引き裂かれ、無惨な肉塊となった――今でも生々しく、呼び起こされるからだ。
「できれば、この近辺がいいけど……」
智也は正社員として、毎日出勤している。智也の仕事はリモートでも可能だろう。現に、切り替えている同僚も少なくない。
「距離に関しては、ある程度は妥協してもいいかもな。だったらいっその事……これは、おいおい考えるとするか。さて、と」
智也はスマホでメッセージアプリを立ち上げた。
『急にこんなメッセージ送って悪い。今度、ディナーとかどう?』
こんなメッセージを送信する。間もなく、返信が来た。
『気にしないで。智くんのお誘い、嬉しいな。今度っていつ頃?』
相手は美咲だ。智也は彼女にメッセージを送ったのである。
『できれば今すぐがいいんだけど……美咲はいつ会えるかな』
送信後、しばし間を置いたあと、メッセージが来た。
『今週の夕方なら、いつでも大丈夫かなぁ。急用がなければだけど。あとは、お店次第、かな?』
『分かった。予約が取れたら、再度連絡するね』
智也は一旦メッセージアプリを落とす。ブラウザを立ち上げ、ここの近辺にあるレストランを探した。
最初に見たのは、ハンバーグのお店である。写真では黒いプレートに置かれている。湯気が立っており、肉が焼ける音が聞こえてきそうだ。
「ハンバーグって、ミンチだよな……」
智也の頭に、こんな考えが過ぎる。次第に、吐き気を催してきた。
「ダメだ、これは。写真でもムカムカするのに、実物を見たら盛大にリバース可能性がある」
写真を閉じ、別の店を探す。次に見たのは、イタリア料理だ。写真にはパスタとスープが写っていた。湯気が立っており、いかにも出来たてを撮影しましたといったところか。
「ミートソース……うぅ」
ソースには、トマトがふんだんに使われているのか、鮮やかな赤色だ。ひき肉もふんだんに使われており、食べでがありそうに見える。
以前の智也なら、即決したであろうパスタだった。しかし、今は吐き気が増すばかりである。
「ちょっと待てよ。つい最近、パスタ食ったばかりじゃねぇか。なぜ気分が悪くなってんだ」
智也はレストランでパスタセットを注文した時のことを思い返す。その時のパスタはボンゴレビアンコだ。塩味で、アサリが入っていた。
「アサリから出汁が出ててうまかったな……いや、そうじゃなくて、肉が入ってなかったから食えたのか」
つまり、現在の智也は肉料理、特にミンチされているものが食べられなくなったということか。
それ程までに、健太の最後がトラウマになっていたのである。
「にしても、なんで急にこんなことに……」
今までは、なんの問題もなく食べられていたというのに。自らの急な変化に、戸惑いを禁じ得ない智也だった。
「美咲とディナーの約束したのに……」
仮に自分が食べられるものを注文したとしよう。だが、美咲が食べられないものを注文する可能性が高い。
自分が食べられないからと言って、それを注文するのをやめさせるというのはおかしな話ではないか。そこまで気を使わせたくないし、わがままに付き合わせるのもよくないことだ。
自分からディナーの約束したのに、それを反故にする。今後の付き合いに支障をきたしかねない。最悪「別れましょう」と言われるだろう。
この局面をどう切り抜ければいいのか。智也は頭を悩ませた――。
「そうだ。確か会社の近くにヴィーガンレストランがオープンしたって話題になってたな」
肉が食べられなくなったと言うなら、元から肉が出ないところで食事をすればいいのだ。智也は閃いた。
早速、美咲に『ヴィーガンレストランがオープンしたけど、そこにしない』というメッセージを送る。
『そんなレストランがあるんだね。行ってみたい』
程なくして、返事が来た。字面を見るに、概ね好反応か。智也は安堵する。
「よし、これでなんとかなりそうだ」
店のホームページを出すと、そこから予約を入れた。日付は明日になっている。
予約を済ませたあと、純に話しかけた。
「明日、俺と一緒に来い。俺から離れるなよ」
智也がこう言うと、純は「わかった」と返す。
「こういう無茶なことを言っても、言うことだけは素直に聞くんだよな。そこは助かってるけど」
智也はひとりごちる。
「特殊清掃業者には、認識阻害が効いてたから大丈夫だとは思うけど。念には念を入れた方がいいからな。美咲は殺したくないし」
純をあえて連れていったのは、美咲に認識阻害が通じるか試すためである。
こうして、純を久しぶりに外に連れ出すことにした智也だった。
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