血よりも赤い瞳

奈々野圭

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第15話 豹変②

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 純は智也が離れたと見るや、目を見開いた。顔は仏頂面に戻っている。

「なんだよ」
 何かを言いたそうにしている純を見て、冷ややかに言う。

「なんでこんなことをする」

 そう問う純の顔は、いつもの無表情である。そこには、恥じらいも、怒りも感じられない。先程までのあられもない姿は、すっかり消え失せていた。

「なんでって……したくなったからしただけだ。別にいいだろ。お前も気持ちよさそうにしてたし」
 純の問いかけに対し、智也はとぼけるように言った。

「『気持ちよさそうにしてた』とはなんだ」
 智也は睨まれているような気がした。純の表情に変化はなかったが。

「そんなこと、俺に聞くなって。そんなことより、中に出したものはきちんと処理しとけよ。腹壊しても知らないぞ」
 智也は話題を変えた。どこか他人事ひとごとのような言い様である。

「体内に異物が入っても、それで体調を崩すことはない」

「あっそう。ならいいけど。ところで、いつまで俺のベッドで寝てるの。まさか立てないなんてことはないよな」

「どういう意味だ」

「どういう意味って……」

 智也が言わんとしてることは「とっととこの部屋から出てけ」ということだ。

 純に遠回しな言い方は伝わらない。そのことは智也にはわかっている。いつもならば、ストレートに言う。

 いつもより冷静になっているからか、それとも、申し訳ないという気持ちが芽生えたのか。とにかく、今の智也はストレートな物言いができなくなっていた。

「立てるなら、立ってくれ」
 考えた末、智也はそう口にした。

「わかった」
 純は体を起こし、ベッドから降りた。
 何事もなかったかのように、ベッドを脇にすくっと立っている。

 その弾みか、尻から精液が出てきた。出てきたものは、純の股を伝って下に垂れていく。

「……尻から出てるものを拭いてくれないか。今、用意するから」

 己の欲望の残滓ざんしが垂れ流されてるのを見るに忍びなくなったのか。智也は、純にティッシュの箱を手渡した。純はそれを受け取ると、尻から出てくる精液を拭いた。

「拭き終わったら、ここに捨てて」
 智也はゴミ箱を用意する。純は「わかった」と言うと、使用済みのティッシュをゴミ箱に捨てた。

「あと、服は着て……じゃなくて、裸になる前の状態に戻ってくれ」
 裸のまま寝室を出ていこうとする純に声をかける。

「裸になれ」と命令したのは智也だ。純は愚直なまでに命令を守る。ゆえに、このまま放置すれば、全裸のままである可能性が高い。

 純が「わかった」と言うと、体からコウモリが出現した。コウモリは体をまとうように飛び回る。次々と布に変化していき、元のパーカーとジーンズ姿に戻った。

「最後に、もうひとつ」
 ドアノブに手をかけた純を、智也が呼び止めた。純は手を止める。

「まさか、妊娠しないよな」

「この体に子宮はないぞ。射精されても妊娠はしない」
 純は振り返ることなく、淡々と返す。

「わかった。もう出ていい」
 智也の言葉に、純はドアを開けて出ていった。ドアが閉まったのを見届けると、智也は天井を仰ぐ。

「『わかった』って。あいつの口癖がうつっちまったじゃんかよ。いや、普通のセリフなんだけど……シャワー浴びよ」
 服を整えたあと、着替えを用意する。準備が済むと、浴室に向かった。


「はぁ……」
 蛇口をひねり、シャワーを浴びる。湯は体の汚れを洗い流すが、心の重苦しいものは流してくれなかった。

「夕飯の片付け、しないといけないんだけど……」

 後片付けと言っても、空の弁当箱を流しでササッと洗えばいいだけの事だ。ただそれだけの事なのに、智也は億劫に感じていた。

「はぁ……」
 再度、ため息をつく。億劫になっているのは、疲れているからだけではない。リビングは、純の部屋と化しているからである。

「純に後片付け頼めばよかったかな……流石にそれはちょっと……今日はもう寝よっ」
 蛇口をひねり、浴室から出た。
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