血よりも赤い瞳

奈々野圭

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第2話 邂逅②

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 こんな奴、放っておけばいい。そう考えた矢先、ふと青年と目が合った。青年の赤い目が光を放つ。その光から智也は目を逸らせなかった。
 はぁ。智也はため息をつく。

「その様子じゃ、どこにも行くあてがなさそうだな……俺ん家来ます?」

 何を言ってるんだ俺。智也の胸中にそんな思いが去来する。だが、発した言葉を取り消すことはできない。なにより「放っておけない」そんな気持ちがこみ上げてくるのだ。

「そうか。わかった」

「『そうか。わかった』ってなんだよ」
 智也はタメ口で突っ込んだが、青年はそれを意に返さなかった。

「『俺ん家来ます』は命令ではないのか」

「命令ってなんだよ。嫌なら来なくていいんだぞ」
 智也の眉間にはシワが寄っていた。それにも関わらず青年は相変わらず無表情である。

「もういいよ!」
 智也は青年を残し、出口の方へ歩いていく。そんな智也の後ろ姿を、青年は無言で凝視していた。
 青年の視線を受けながらも、智也は我関せずといった態度で突き進んでいく。

 公園の出口に差し掛かる。ここにきて、智也は後ろを振り返った。
青年は、智也のことを凝視していた。赤い目を爛々らんらんとさせながら。

「あー!」
 智也は思わず大声を発した。


***

「――よかったな、お前。俺みたいなお人好しに拾われて」

 公園から歩いて五分ほどのところにあるマンション。智也の自宅は五階にある。
 玄関を開けると、智也は呆れるようにぼやく。青年は智也の後ろにいた。

「とにかく、家に上がれ」
 智也は脱いだ靴を揃えながら、青年に声をかける。
 青年は靴を履いたまま家に上がろうとした。

「ストーップ! 日本では家に上がるとき靴を脱がないといけないの! お前のいたところではどうなのか知らないけど!」
 智也は静止した。

「なんで靴を脱がないといけないんだ」
 青年は聞き返した。相も変わらずの無表情だ。青年が何を思ってこんなことを言ったのか。その顔つきからはまるで検討がつかない。
 智也は、顔を右手で覆うと、大きくため息をついた。

「『なんで靴を脱がないといけないんだ』と申されましても。『そういうものだから』としか言いようがないんですが。あと、床が汚れるし」

「そうなのか。だが、『脱げ』と言われても脱げないぞ」
 青年の答えに、智也は「はあ?」という声が出た。

「何言ってんだお前。さっきから変なことしか言ってないけど、いい加減にしろよお前」
 智也は平静を保とうとしていたが、ここで限界がきていた。

「そもそも、脱げないってどういうことだよ」

「文字通りだ。『脱ぐ』という行為ができないと言っている。これは変身能力を応用して靴を履いているように見せているだけだ。要するに、体の一部なんだ」

 智也は頭を抱えた。青年の言っていることが理解できないからである。いや、青年は日本語で話している。だから何を言っているのかはわかる。青年が「何を言いたいのか」がわからないのである。

「同じ言語で会話をしてるにも関わらず、何故か意思の疎通ができない」という状況に陥っているのであった。

「……とにかく、外出したその足で上がるのはやめてくれ。今、拭くもの持ってくるから……」
 智也は肩を落としながら、玄関を上がった。

「足の形状を変えればいいのか。わかった」
 青年がそう言った途端、足元にコウモリが現れた。

「おわわわぁ!?」
 突如現れたコウモリに、智也は悲鳴をあげる。青年は無表情のままである。

 コウモリは、青年の足に吸い込まれるようにして消滅した。すると、履いていた靴も消滅し、素足になっていた。

「……変身能力云々はともかく、言いたいことはわかった。確かに、素足になってるけど……」
 智也は眼前に起こっている状況を処理するので精一杯だった。

「何が問題なんだ」
 青年は智也の心境を知ってか知らずかそう言った。

「もうわかったよ! 上がってください!」
 智也は投げやり気味に青年を家に上げた。

「ああ、そうだ」
 部屋に通す前に、智也は青年に足の裏を見せるように促す。青年はそれに従った。

 上がる前に靴を消した――正確に言うと、足を「靴を履いている状態」から「素足」に変化させた――からか、土らしきものが少しついていたが、さほど汚れていなかった。
 これならば、「靴を脱いだ」と言えるだろう。

「このくらいならいいか。めんどくさいし」
 智也は青年を中に入れ、リビングに案内した。

 リビングはフローリングで、カーペットが敷いてある。
 カーペットの上にはソファとガラスのローテーブルがあり、ソファの上にはクッションが置かれている。

 それらと向かい合うように、壁際には黒のテレビボードが設置されていた。そこにはテレビはもちろんのこと、録画用のHDDやゲーム機といったものが所狭しと並んでいる。

 照明はやや明るめで、日光を好む観葉植物などはない。
 テレビ周りはやや物が多いものの、基本的には必要最低限のものしか置かれていないシンプルな部屋、という印象を与えた。

「そこに座ってくれ」
 先にリビングに入った智也は、後から来た青年に示すようにソファを指す。
 青年は智也の発言を受け、ソファに腰掛けた。
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