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18お宅訪問その2
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晴れた空の下で、東京湾の向こうにビル群がはっきりと見える。夜はどんな眺めに変わるんだろう、と見てもいないのに心が躍る。
窓に張り付くようにして景色を堪能しているうちに、香ばしい香りが鼻先に届いた。
キッチンを振り返ると、今まさに炒めている最中のようだ。キッチンカウンターの向こうに、真剣な表情の友紀くんが見える。
時々ジャッジャッという小気味いい音がして、出来上がりが近いことを教えてくれる。
程なくして、彼はチャーハンを盛ったお皿をカウンターに仮置きした。さっきよりもはっきりと美味しい匂いを感じる。急に胃の辺りがきゅっと縮まるのがわかった。
「できた。食べようか」
その言葉を合図に、窓辺から離れてダイニングテーブルに近づいた。
「美味しそう……!」
ほかほかと湯気を立てるお皿を覗き込むと、友紀くんがスプーンを添えてくれる。
「あり合わせで作ったから大した物じゃないけど。インスタントのスープあるから良かったら好きなのどうぞ」
選び終えたスープにコーヒーマシンからお湯を注がせてもらった後、いただきます、と手を合わせる。
チャーハンはお店みたいにパラっとしていて、ちょっと濃い目の味付けだった。でも家庭的で、安心する味。
「冷蔵庫の中にある物でささっと作れるって本当に料理できる人って感じだよね」
レシピを見ていたような気配もなかったし、普段から自炊をしているのだと推測できた。私なんて、常にレシピがないと不安だというのに。
その上実家暮らしだから手伝いの他は、料理らしい料理を作ることもない。
「私より女子力ありそう……」
ぽつりと呟くと、友紀くんが軽く首を傾げる。
「料理って女子力なのかな。別に料理するのは女子に限らないし、どちらかと言うと生活力じゃない?」
「言われてみれば、確かにそうかも」
女子なら当然料理ができるはずだと期待される瞬間は幾度もあった。面と向かって料理しないんだね、なんて言われた時は、肩身の狭い思いをしたものだ。
けれど、友紀くんの考え方は、少し救われるような気がする。いや、生活力がないのも問題だろうけど。
「俺も平日は総菜とか缶詰食べて終わりにすることも多いし、ちゃんと火を使うのは休みの日くらい」
「それでも偉いよ。他にも洗濯や掃除も全部やらなきゃでしょ」
「そっちはほとんど家電使うかな」
食器洗い乾燥機にロボット掃除機に乾燥機能付きのドラム式洗濯機があれば、ほとんど手間なく済んでしまうらしい。
「いいなあ、うちは母親がなんとなく信用できないって言って食洗器もロボット掃除機もないよ」
「時短にもなるし、便利だよ」
うちはみんな機械のことには疎くて、何でも新しい物を導入することに腰が重いのだ。私も休日に家事をするからあったら便利だろうな、と気になりはしても、メーカーや機能など選びきれる気がしない。
「どこのがいいとかある? あ、その前にどの家電が一番便利?」
尋ねると、チャーハンをかき込む手が止まる。
「ライフスタイルにも寄るけど、俺は洗濯機かな。掃除とか料理はやりたくなかったらやらなくてもいいけど、服は数が限られてるから」
乾燥機付きなら外に干す手間もないし、皺が付きにくい機能もあるとか。話がお勧めのメーカーに移ると、彼はいつになく饒舌になる。
製品名とメーカーの名前はどこかで耳にしたことがある物だった。その後、予算、機能の二本柱で他社と徹底的に比較して、いかにしてそのメーカー製品が優れているかを力説される。
最高の一台を導き出してくれた時には、つい小さく拍手をしてしまうくらいの熱の入れようだった。
それだけでは終わらず、バージョン違いの廉価版についても教えてくれる所が至れり尽くせりだ。とにかく家電量販店の店員ではないかと思うくらい詳しくて、圧倒されてしまう。
「と、こんな感じかな。後は買う時期だけど、直近なら春まで待った方が良いよ。新作モデルが出る前後は旧製品が値引きされるから」
「ありがとう。家族に相談してみるね」
話している間にチャーハンもスープも食べ終わっていた。キッチンに使い終えた食器を持っていくと、例の食洗器に投入する。
物珍しさにその場でセットする様子を眺めていると、こちらも使い方を教えてくれた。
お腹も満たされた所で、また練習に戻る。
窓に張り付くようにして景色を堪能しているうちに、香ばしい香りが鼻先に届いた。
キッチンを振り返ると、今まさに炒めている最中のようだ。キッチンカウンターの向こうに、真剣な表情の友紀くんが見える。
時々ジャッジャッという小気味いい音がして、出来上がりが近いことを教えてくれる。
程なくして、彼はチャーハンを盛ったお皿をカウンターに仮置きした。さっきよりもはっきりと美味しい匂いを感じる。急に胃の辺りがきゅっと縮まるのがわかった。
「できた。食べようか」
その言葉を合図に、窓辺から離れてダイニングテーブルに近づいた。
「美味しそう……!」
ほかほかと湯気を立てるお皿を覗き込むと、友紀くんがスプーンを添えてくれる。
「あり合わせで作ったから大した物じゃないけど。インスタントのスープあるから良かったら好きなのどうぞ」
選び終えたスープにコーヒーマシンからお湯を注がせてもらった後、いただきます、と手を合わせる。
チャーハンはお店みたいにパラっとしていて、ちょっと濃い目の味付けだった。でも家庭的で、安心する味。
「冷蔵庫の中にある物でささっと作れるって本当に料理できる人って感じだよね」
レシピを見ていたような気配もなかったし、普段から自炊をしているのだと推測できた。私なんて、常にレシピがないと不安だというのに。
その上実家暮らしだから手伝いの他は、料理らしい料理を作ることもない。
「私より女子力ありそう……」
ぽつりと呟くと、友紀くんが軽く首を傾げる。
「料理って女子力なのかな。別に料理するのは女子に限らないし、どちらかと言うと生活力じゃない?」
「言われてみれば、確かにそうかも」
女子なら当然料理ができるはずだと期待される瞬間は幾度もあった。面と向かって料理しないんだね、なんて言われた時は、肩身の狭い思いをしたものだ。
けれど、友紀くんの考え方は、少し救われるような気がする。いや、生活力がないのも問題だろうけど。
「俺も平日は総菜とか缶詰食べて終わりにすることも多いし、ちゃんと火を使うのは休みの日くらい」
「それでも偉いよ。他にも洗濯や掃除も全部やらなきゃでしょ」
「そっちはほとんど家電使うかな」
食器洗い乾燥機にロボット掃除機に乾燥機能付きのドラム式洗濯機があれば、ほとんど手間なく済んでしまうらしい。
「いいなあ、うちは母親がなんとなく信用できないって言って食洗器もロボット掃除機もないよ」
「時短にもなるし、便利だよ」
うちはみんな機械のことには疎くて、何でも新しい物を導入することに腰が重いのだ。私も休日に家事をするからあったら便利だろうな、と気になりはしても、メーカーや機能など選びきれる気がしない。
「どこのがいいとかある? あ、その前にどの家電が一番便利?」
尋ねると、チャーハンをかき込む手が止まる。
「ライフスタイルにも寄るけど、俺は洗濯機かな。掃除とか料理はやりたくなかったらやらなくてもいいけど、服は数が限られてるから」
乾燥機付きなら外に干す手間もないし、皺が付きにくい機能もあるとか。話がお勧めのメーカーに移ると、彼はいつになく饒舌になる。
製品名とメーカーの名前はどこかで耳にしたことがある物だった。その後、予算、機能の二本柱で他社と徹底的に比較して、いかにしてそのメーカー製品が優れているかを力説される。
最高の一台を導き出してくれた時には、つい小さく拍手をしてしまうくらいの熱の入れようだった。
それだけでは終わらず、バージョン違いの廉価版についても教えてくれる所が至れり尽くせりだ。とにかく家電量販店の店員ではないかと思うくらい詳しくて、圧倒されてしまう。
「と、こんな感じかな。後は買う時期だけど、直近なら春まで待った方が良いよ。新作モデルが出る前後は旧製品が値引きされるから」
「ありがとう。家族に相談してみるね」
話している間にチャーハンもスープも食べ終わっていた。キッチンに使い終えた食器を持っていくと、例の食洗器に投入する。
物珍しさにその場でセットする様子を眺めていると、こちらも使い方を教えてくれた。
お腹も満たされた所で、また練習に戻る。
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