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階段、と気づいた時にはもう遅い。バランスを崩した身体が前のめりになる。
お酒が入っているせいかうまく身体が動かない。
落ちる──と思って身を硬くしたけれど、予測した痛みは訪れない。
「足元見てって言おうとしたのに」
低い声が耳元をかすめてゆっくりと瞼を上げると、友紀くんが私の身体に腕を回して支えてくれていた。
「ぎゃっ、ごめん!」
悲鳴というにはかわいくない声をあげて飛びずさる。
「やっぱり酔ってる」
「いや、……はい」
しらふのつもりだったけれど、こんな失態をしてしまったからには反論もできない。
「危なっかしいから掴まって」
差し出された手を大人しく取って、まるで介護だなあ、なんて頭の片隅で考えながらゆっくりと階段を降りていく。
少し先にいるみんなの輪に入ろうとしたら、腕をぐっと引き戻された。
「ゆきさん、ちょっと具合悪いみたい」
「ウソ、大丈夫?」
「ちょっと休めば平気だって。俺がついてるから先に行っててもらっていいかな」
「それはいいけど……優樹、ほんとにいいの?」
「うん、全然平気」
反射的に答えるけれど、具合はまったく悪くない。
「顔、真っ赤じゃん」
「飲み過ぎたかな……」
辻褄合わせのために額に手を当てて、具合が悪そうなアピールをする。頭の中は疑問符でいっぱいだ。
「足もふらついているし、水でも飲ませて落ち着かせてから合流するよ」
「わかった。何かあったら呼び出してね」
友紀くんが後を引き取ると、振り返りながらも次のお店に足を向けた。
後には私と友紀くんが残される。
「えーと……」
隣を見上げると、友紀くんがこちらに身をかがめる。
「私、そんなに具合悪そうに見えた?」
実際は意識もはっきりしているし、そんなに心配させてしまったんだろうかと思うと気後れする。
「そうでもないけど、念のため」
私と一緒にいるよりもみんなと仲良くなるべきなのに。これは機会損失というやつではないだろうか。
「なんかゴメンね。お世話かけて」
「いや、好きでしてることだし」
ただひたすらに優しい。感動すら覚えながら感謝の気持ちを告げると、友紀くんは唇の端を軽く持ち上げた。
「それにゆきさんのためだけじゃないから」
では、何のために。そんな疑問が頭をよぎる。
「もしかして、悩み事でもある?」
「あるといえばある、かな」
「私で良ければ何でも言って」
「うん。でもまず、移動しようか」
確かにこんな人通りの多い往来で悩み相談というのもおかしな話だ。人に聞かれたくない話かもしれない。
「ちなみに私、酔ってないからね」
酔っぱらいを相談相手にはしたくないだろうと思って念を押す。
「わかってるよ。さっきのはただの口実」
いや、何の口実。思わせぶりな言葉に、焦れてしまう。
二次会のことも気になるものの、さっきまでの感じならあっちはあっちでうまくやってそうだ。とりあえず後でフォローするとして、友紀くんの悩みを解決するのが先だと結論する。
「どこか入る? それとも、飲み物買ってちょっと歩く?」
「ゆきさんが平気なら、駅の反対側に行ってみない?」
提案に頷くと、いまだに取られたままの腕を引かれた。
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