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恋愛初心者のためのお付き合い講座5

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食べ物、好き嫌いがなさそうで良かった。

佐竹さんの食の好みを知らないので、お惣菜を色々買ってしまったのだが、どれも美味しそうに摘んでくれている。

美味しそうな顔だなあ。

「どうした?」

「な、なんでもないです!僕もいただきますね。」

顔を直視しているところで目が合ってしまった。
慌てて視線を外し、照れ隠しで近場のお弁当を手にした。

「この店のお弁当は美味しいな。私もこれから利用するようにしよう。」

「美味しいですよね。僕も自炊できないときはよく利用してます。」

「西村くんは自炊するんだね。」

「そうですね、ここのお弁当よりは美味しくないですけど…」

他愛のない話をしながら、食事の時間を過ごした。

食事を終えた佐竹さんは満足そうにため息をつき、ぼんやりと眠そうにしていた。

僕はコーヒーを淹れに席を立つ。

「お仕事の進捗はいかがですか?」

「あぁ、研究発表テーマの資料をまとめているんだ。あと数時間で揃うと思う。」

「なにか手伝えることあります?」

「いや、大丈夫だよ。…あ、手持ち無沙汰かな?」

「ああ、いえ、僕のことは気にしないでください。」

淹れたてのコーヒーが入ったマグカップを手渡すと、佐竹さんは少しだけ目尻を優しく下げて「ありがとう」と受け取った。

僕も釣られて微笑んでしまう。

…これは、みんなが勘違いしてしまうのが分かる。

仕事中の変わらない表情とのギャップが心を揺らしてくる。

多分佐竹さんは気付いてないんだろうなぁ…

これまでに撃沈していった男性陣に同情を感じた。




佐竹さんが仕事に戻ったので、僕は邪魔にならないよう目が届く離れた場所で待機して、本を読んで時間を潰すことにした。

今ハマっている小説で、本を開いて1行読んだ瞬間から世界観に引きずられ、集中してしまった。





小説の章がひと段落したところで、ハッと気付いて壁にかかっている時計を見た。

時刻は25時に差し掛かるところだった。

もうこんな時間か…と、佐竹さんのデスクの方を見ると、席に姿が無かった。

どこに行ったんだろう?と思い立ち上がると、肩や腰に軽い痺れを感じて、長い時間本を読んでしまっていたことが分かる。

伸びをして体をほぐしていると、ガチャっと扉が開いて佐竹さんが入ってきた。

「お疲れ様で、す、…!」

視界に捉えた佐竹さんは、先程までの黒い服と白衣ではなく、ゆったりとした、Tシャツタイプのワンピースを着ていた。タオルを首にかけて髪を拭いている。

「あの、どちらに行かれて…」
「あぁ、研究室のシャワールームだよ。眠気覚ましに浴びてきた。声をかけずにすまないね、君は本に集中しているようだったから。」

「いえ」

シャワールームがあることに驚きつつ、動揺を悟られないよう必死に装う。

彼女の髪は濡らしたせいかボリュームが落ち着き、しっとりと首筋に張り付いていて、

視線を落とすと、Tシャツワンピの裾から伸びる生足が目に入り、更に目を逸らした。

「…っくしゅん!」

「だ、大丈夫ですか?」

その小さなくしゃみでハッと我に返る。
室温の低さとその格好は明らかにミスマッチだった。

「これしか置いている服が無いんだ。着ていた服は洗濯してしまった。」


洗濯機があることにも驚きつつ、何か着るものやブランケットなどがないか辺りを見回すが、見当たらない。

あ…
自分の着ているカーディガンは、ある…
これを貸す…?
いや、匂いとか、大丈夫か?


迷うほど彼女の身体は冷えるばかりだ。

普段の自分の洗濯スキルを信じて、意を決してカーディガンを脱いだ。

「これ羽織ってください。僕ので申し訳ないですが…」

「え、いいのか?君が寒いだろう」

「いや、僕は大丈夫です(むしろ今熱い…)」

「ありがとう」

よく見るとカーディガンを受け取る彼女の、髪の毛先が、まだ乾ききっていないことにも気づいてしまう。

彼女が体調不良になれば、この研究所の、どれだけの人が困るだろうか。

佐竹さんが風邪を引いてしまったら、僕は自分を恨みそうだ。

「あの、ドライヤーはありますか?」

「?、シャワールームにあるが。」

「乾かしましょう」


僕は責任と義務感の暗示を、強く強く自分にかけた。
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