上 下
41 / 124

第41話 マオスの正体

しおりを挟む
――大広間のメモ帳には、落果遺物を融解させる薬品の作り方とその使用方法が書いてあったんだ。
――で、シェロに落果遺物だと判定させて初めて気づくのね。
錠前が落ちた後、Jは再び憑依アイテムを使い今度はシェロと精神を入れ替える。
シェロを操作してJは鍵が開いたドアを開けると、マオスが背中を向けて何かの実験をテーブルの上で行っている。そしてその腰布からはちらりと鍵束が見える。
Jはシェロを操作して中腰のままマオスに近づいていき、鍵束をそっと気づかれないように取り外しそそくさと部屋から抜け出た。
――プレイヤーキャラのままやろうとすると隠密性が高くないから見つかってしまうけど、盗賊のシェロなら素早く鍵をかすめ取れる。
――適材適所ね。
Jはそのままゆっくりとドアを閉め、シェロとの憑依を解除する。
――ちなみにもし今の状態で見つかると、館全域を鬼ごっこしながらのマオスとの戦闘になる。非常に面倒だからここでマオスと戦闘しないほうがいい。
Jは踵を返しメイドゾンビが倒れている方向にまっすぐ進み、その遺体を乗り越えて先にある階段を下りる。階段を降りて振り向き、その先の通路を右手に曲がりまっすぐ進むと重厚な鉄でできた扉があり、その扉にも錠前が付いていた。扉の上部には『安置室』と書かれており、Jはマオスから盗んできた鍵をその錠前に挿し込む。ガチャリという音とともに、中に入ると、学校の教室程の広さの空間の中にでて、その中心の診療台と思わしき台の上にキャナリが仰向けで寝ている。そしてキャナリの上方には首から水晶顎部を下げた猿型のモンスターがとりかごに囚われ、キャナリをじっと見ている。
「誰だ!」
とその猿型のモンスターは人語を使いJたちを牽制する。そのモンスターの上部には「エンテ」とネームプレートに刻まれていた。
「エンテ?あなたキャナリの父親なの?私はキャナリと知り合いなの!旅人だよ!」
タラサ達はエンテに近づきながら話しかける。エンテは両手を鉄格子にかけJ達に話しかける。
「キャナリの知り合い……?頼む!キャナリを助けてやってくれ!私は御覧のありさまだ。もとに戻れるかも分からない。……それにもうそろそろマオスがここにやってくる!」
「キャナリからお父さんも助けてほしいって言われてるの!だから!アタシはあなたを助けるよ!」
「ありがとう……ありがとう……キャナリは良き友人を持った……」
エンテは壁にあるレバーを指さしJ達に指示する。
「そこのレバーを回すと私の入っている鳥かごが上下する。それで私を下ろしてくれ!キャナリは私が守る!急いでくれ!マオスがやってくる!」
Jはレバーまで行き時計回りにレバーを回す。すると天井からエンテが入っている鳥かごが下りてきて地面に着地する。すると鳥かごの蓋が開き、エンテが中から出てくる。エンテはキャナリを背負うと、Jたちに声をかける。
「よし!急いでここを脱出し」
「それはいけませんなぁ。」
突如、扉から大量の触手掌が伸びエンテとキャナリを突き飛ばす。エンテは身を挺してキャナリを壁への激突から守った。
「私の実験体が勝手にどこに逃げようと言うのか。あなた達には麻酔無しでの開頭実験に協力していただきましょう!」
「エンテさんはキャナリちゃんを守ってください!」
「アタシたちがこいつやっつけちゃうから!それでおしまいにする!」
「身の程知らずの人間どもめ!人を超越した私の力!味わうがいい!」
マオスは触手掌をねじり一つの巨大な腕のようにしJたちに叩きつける。
「きゃあ!」
「おっと!」
間一髪タラサは躱したがその衝撃で横に吹き飛び、シェロは難なく躱した。
Jはジャスト回避を行い、マオスの懐に潜り込みその肥大した頭部にハンマーを叩きこむ。
マオスは大きくのけぞり、自らの本物の手で頭を押さえる。Jはすかさずタラサに憑依し、『爆砕弾(伝)』を装填してマオスの背に回り込み触手の根元へグレネードを打ち込んだ。
バズンッという破裂音とともに触手が背中から引きちぎれ、のけぞったマオスは絶叫する。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ‼」
Jはすぐに憑依を解除し、のけ反ったマオスにハンマーを叩きつける。地面とハンマーでサンドイッチされたマオスの頭部は脳漿をまき散らし、あたりをぬめぬめとした液体でコーティングした。
「ぐぅるるるるるぉおおおおおおっ!よくもよくもよくもよくもぉおおおッ!」
断末魔のような雄たけびを上げながら、マオスは激昂し、新たな触手を背中から生やした。
「これは使いたくありませんでしたが……仕方がありません!」
 マオスは背中のイソギンチャクの口のような部分に残った触手掌を突っ込み、中から水晶髑髏を取り出し大きく口を開け噛み砕いた。
「あれなんかヤバそうなことしてるよ……!」
「J、身構えた方がよさそうだよ!」
タラサとシェロがJに注意を促す。マオスは雄たけびを上げ、体を変形させてゆく、触手掌がマオスの四肢に絡みつき、触手同士が癒着していく。触手同士が一つの筋繊維のように細く伸ばされ、マオスはブクブクと筋肉の塊のような肉体変貌し、体を巨大化させていった。頭頂部が天井を突き破り、触手掌が絡みついた巨大な両腕で壁を破壊し、廊下、大広間までぶち破り広い空間が生まれる。そして変態が終わったマオスの体は下半身が蜘蛛のように触手掌の塊が筋肉質な人間の足を形作っており、上半身の背中からは以前と同じく触手掌がイソギンチャクから生えたような見た目だが、触手一本一本が筋肉の塊のような繊維質で覆われており、その先から生えている手もごつごつとた巨人の手のような大きさになっている。頭部はより肥大化し、目の上部に新たな目が左右3つずつ出現していて、両目の中央から角が生えている。
「マオスのやつ……!人間やめてるよ!」
「エンテさんはキャナリちゃんを守っててください!こいつは僕たちが何とかします!」
「オオオオオオオッ!!我が改造肉体に老練な悪鬼の魂を入れ我は今究極の生命体となった!」
 マオスは咆哮を上げ、両腕を広げJたちに襲い掛かってくる。頭上の体力ゲージは完全回復がされている。Jはマオスの突進をローリングでタラサがいる方に回避する。シェロは回避するが、タラサが巻き込まれ壁に激突する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...