怪談レポート

久世空気

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№133 夫婦仲

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 私たちは結婚して5年経ちましたが、子供も出来ず共働きですれ違い気味で、夫婦仲は完全に冷え切っていました。そんなときに妻が交通事故に遭い、しばらく家で養生することになりました。
 妻は体が思うように動かずいらいらし、私は2人で行っていた家事をほぼ1人ですることになり気持ちに余裕がなくなり、衝突することが増えました。妻は回復したら離婚しようと考えていたようです。私ももう限界だと思っていました。家に帰るのもおっくうになっていました。そんなとき、家に異変が起こりました。

 その日、私が家に帰ると、すでに妻は怒り狂っていました。
「なんで帰宅してから何度も外出するんだ」
 と。もちろんそんなことはしていません。いきなり怒鳴られ私も怒鳴り返し帰宅早々大げんかになりかけた、その時

「ただいまー」

 と声がしました。振り返りましたが誰も玄関から入ってくる気配はありません。そしてそれは家の中で響いていたようでした。それまで目をつり上げていた妻も顔を真っ青にして
「今、あなたの声よね?」
 と震える声で言いました。妻が言うには1時間くらい前から何度も
「ただいまー」
 と聞こえるので、私が妻に会いたくないから顔も合わさず外に行っているのだと思ったそうです。その夜はおびえきった妻をなだめながら2人で就寝しました。
 次の日は仕事中に妻から連絡が来ました。
「『いただきます』って聞こえた、朝から5回も」
 妻だけが聞いたのなら精神的なストレスで幻聴を聞いたと思うのですが、私もあれから何度も自分の声を聞きました。
「おはよう」「いってきます」「ただいま」「いただきます」「ごちそうさま」「おやすみ」
 そんな日常的な台詞ばかりです。誰かが侵入して小さなスピーカーか何かでいたずらしているのかと、業者に頼んで調べてもらいましたが何も見つかりません。声は家の至る所から聞こえますし、そもそも妻が一日中家にいるのにそんないたずらできるものでしょうか?
 私は仕事中も何度も妻に連絡しました。妻も私と会話をすると怖さが紛れるようでした。ただ勤務態度が悪いと周りから言われてしまい、私は思いきって部署を変えてもらうことにしました。収入は変わりませんがあまり伸びしろのない部署です。でもその部署の方が勤務時間に融通が利きました。
 それからしばらくして妻は復職しました。家に帰れば例の声が聞こえるので、出勤時間と帰宅時間を夫婦で合わせました。休日も一緒に出かけたり、別々に出かけても待ち合わせして一緒に帰ったりしたので、いつの間にか夫婦の時間が増えていました。
 声はいまだ聞こえますが、もう怖くありません。一応今度、引っ越す予定です。でもたとえ声が付いてきたとしても、もう大丈夫だと思います。

――話し終わると、陸野夫婦は見つめ合って微笑んだ。
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