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※ 楽しい時間を過ごしていたのに

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「ありがとうございます! メリザンさんのおかげで良いものが買えましたよ」

 ニコニコ顔のロードリックの小脇には、リボンがついた大きな包みがひとつ。小間物屋を巡って、ああでもないこうでもないと二人で話し合って、最終的に買ったのは高級メリノを使ったブランケットだ。そこそこに値が張って、自分では買わないが、貰って嬉しい物の定番である。きっとマルファの姉も喜んでくれるはずだ。

「良かったわ」

 少し休憩しようと入ったカフェ。少し重たいマグに入った紅茶を啜る。香りの良い熱い液体が喉を通り、歩き疲れた身体に沁みていく。
 二人だけの穏やかな時間が心地良い。
 キスすらしていない間柄なのに、他愛のない話をして笑顔を向け合うだけで心が満たされていく。
 ずっとこんな時間が続けばいいのにと願う気持ちと、若い彼を繋ぎ止めているのは良くないという相反する気持ちがせめぎ合う。

 ロードリックは穏やかな笑顔を浮かべていたが、突然何かを思い出したかのように「あっ」と声をあげた。

「そうだ……。メリザンさん、知っていますか?」
「何?」
「フィランダー補佐官です。どうも軍部に異動されるようですよ」

 久しぶりに耳にした元恋人の名前に、ドキリとする。
 
「軍部に異動? どういうことなの?」
「私も詳しい事情は分からないのですが……」

 てっきり、フィランダーは三回目の結婚が決まったのだと思っていた。彼はバツ二とは言え、まだ三十三歳だ。近衛師団長の補佐官という社会的地位の高い仕事に就いている。縁談があってもおかしくないと思っていたのに。
 しかし軍部へ異動となると話は違ってくる。縁談が決まったのにわざわざ軍部へ異動しようとする人間はいないだろう。

「てっきり、あの人はどこぞのご令嬢と再婚するのだと思っていたわ」
「それは無いでしょう。ご実家から見合い話を受けるようにと要請があったみたいですけど、全部断っていると仰っていましたし」
「もう結婚はしないって、本気だったのね」

 (今更軍部だなんて……。あの人は何を考えているのかしら)

 近衛師団長の補佐官のままでいれば、四十の定年を迎えても騎士団に居られる。何より、近衛の補佐官は危険の少ない仕事だ。城の外へ出て行くことがほとんどないのだから。
 その安全で安定した地位を捨ててまで、わざわざ軍部へ行くなんて。軍部は戦場から戦場へ渡り歩き、その場で兵の編成と作戦を考える戦術のプロだ。危険が伴う役割なのに。
 フィランダーが何を考えているのかちっとも理解出来ない。

 琥珀色の湯に映った、自分の表情は浮かない。さっきまで美味しいと思って飲んでいた紅茶の味が分からなくなった。


 ◆


「フィランダー!」
「おっ、メリザンじゃないか」
「ねえ、どういうことなの? 軍部へ行くって」
「さすが侍女は情報通だな」
「ロードリックさんから聞いたのよ」

 ロードリックの名を出すと、フィランダーの片眉がくっと上がった。
 私はロードリックと別れた後、その足で騎士団の寮に来ていた。フィランダーとは何だかんだで二年も付き合っていた。彼の予定はほぼ把握している。

 フィランダーは自分の部屋の扉を開けると、「まぁ、入れや」と手を差し出す。
 私が玄関に入ると、すぐに扉は閉じられた。

「……なるほど。アイツとはもう寝たのか?」
「そんな関係じゃないわ」
「ふーん、じゃあまだ俺がお前に手出ししても問題はなさそうだな?」
「ちょっと、……!」

 ここは騎士団の寮の部屋。私はまだフィランダーの部屋の鍵を持っていた。鍵を返しがてら、何故軍部へ異動しようと思ったのか聞こうと思い、ここへやってきた。
 私は腰に腕を回そうとするフィランダーの手を振り払う。
 パシッと乾いた音がした。

「今日はそういうことをしようと思って来たわけじゃないわ。部屋の鍵を返しに来たのよ」
「男の部屋に一人でのこのこ来ておいて、何もする気はないってか? 悪いが俺は紳士じゃない。お前だって知ってるだろ?」
「やめ……っ! きゃあっっ‼︎」

 肩を荒々しく掴まれて、幅の広いソファの上にドンッと押し倒される。見上げると、フィランダーは騎士服の首元を緩めていて、卑下た顔をしてこちらを見下ろしていた。




「うっ、……うぅっ、あっっ、はぁっ」
「あ~~……やっぱり久しぶりのメリザンのここは最高だな。締め付け最高!」

 腰を掴まれて、身体ががくがくと揺れるほど、後ろから激しく突き上げられている。
 リビングにはお互いの服が散乱していた。
 私はシュミーズを腹に巻きつけ、ショーツを履いたままフィランダーに犯されていた。フィランダーはショーツに指を引っ掛けてずらし、その隙間から隘路に剛直を突っ込んでいる。

 久しぶりのセックスなのに、全然気持ち良くない。陰茎を膣に入れられて、こんなに擦れて痛いと思ったのは、経験が浅かった十代の頃以来だ。

「ちょっと抱かない間に濡れなくなったな? お前」
「あなたが無理やり押し倒したからでしょう‼︎」
「お前、無理やりされるのが好きだったじゃねえか」
「昔の話よ……! 早く出しなさいよ、痛いのよ! この下手くそ‼︎」
「下手くそぉ~?」

 この状況でフィランダーを煽るのは悪手だと分かっているのに。ヤラれっぱなしの状況が悔しくて、つい憎まれ口を叩いてしまった。
 フィランダーはショーツを剥ぎ取ると、すっかり脚が立たなくなった私を後ろから抱き抱え、カーテンが半分開いた二重窓の前に立った。

「ちょっと、やだ……! 外の人に見えちゃうじゃない!」
「お前、窓に身体をくっつけてするのが好きだったろ?」

 将校用の寮の中庭には滅多に人が入らない。せいぜい朝から昼にかけて庭師が入るぐらいだ。セックスを見られてしまうかもしれないという適度なスリルが味わえたので、確かに窓側でするのは好きだったが、今は嫌だ。
 私が抵抗すると、フィランダーは声を荒げた。

「おらっ、とっとと窓に手をつけよ」
「ちょっと⁉︎」

 両膝の下に腕を入れられて、幼児の用足しのようなポーズを無理やり取らされた。シュミーズの肩紐は両方とも落ちていて、乳房は丸出しになっている。

 言われた通り、しぶしぶガラス窓に手をつく。
 なんで今日、この人のところへ来てしまったのだろう。
 せっかくロードリックと出かけていて、良い気分だったのに。

 はぁ、とため息を吐いたその時だった。
 日が落ちかけた中庭、緑の垣根がある辺りに、人影らしきものがあるのに気がついた。

 (えっ……)

 私が人影に気がついた時、ちょうど肉のあわいに肉棒が入れられるところだった。膣口がぐっと押し広げられる。

「フィランダー、やめて!」
「あぁ? 何でだよ? いつもみたいに窓ガラスにおっぱい押し付けてアンアン言えよ」
「やだ! やめなさいよ! ちょっ、外に人がいるの!」
「そんなん、気のせいだろ? この時間の中庭に人がいるわけねえ。彫像だろ?」

 人影はぴくりとも動かない。木の影に隠れていて顔はよく見えない。気のせいだと私だって思いたいが、中庭のあんなところに彫像は無かったはずだ。

 無常にも、私の思考を遮るように突き上げが始まった。
 
「うぅっ……あっ、あ」

 自重で深いところまで亀頭が入ってくる。陰核の裏がごしごし擦られて声が止まらない。この人の一物で気持ちよくなんてなりたくないのに、嫌でも下腹にぐっと力が入る。
 嫌、嫌なのに。感じたくない。

 嫌でも分泌液が滲み出てきて、結合部から飛沫が飛ぶ。窓ガラスに点々と水滴がついた。

 涙で目の前が霞む。鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった私の顔が窓ガラスに映る。さらに上半身を窓ガラスに強く押し付けられた。乳房が潰れて、硬くなった乳頭がぐにぐに捏ねられる。窓ガラスの冷たい感触にまた涙が出た。

 さらに日が暮れて、外灯に光が点く。
 人影らしき物も照らされた。

 (うそっ……、うそでしょ……)

 人影は、呆然とこちらを見つめていた。
 人影の正体は、先ほどまで一緒にいた────ロードリックだった。


「きゃあああぁぁぁ‼︎‼︎‼︎」
「お、おい、何だよ⁉︎」
「嫌ああぁぁぁ‼︎ あああ‼︎ あああーーっっ‼︎」

 絹を引き裂くような私の悲鳴に、流石のフィランダーも驚いたのか、その場に私の身体を下ろした。
 震える手でシュミーズを掴み、胸を隠すために背を丸めた。
 信じられない。信じられない。最悪。最悪だ。

「おい、どうしたんだよ?」
「ロードリックがいた‼︎ 中庭にいたの‼︎」
「はぁぁ?? 見間違えじゃないのか? この寮は将校専用の寮だぞ? 門番のロードリックがここまで来るはずないだろ」

 ここへ来る際、私はロードリックにフィランダーの部屋へ行くと言ったのだ。ロードリックは私を心配して、将校らが住まう寮まで来たのだろう。

「別に中庭に人なんか居ねぇけどな」

 フィランダーは股間にあるものを緩やかに勃ちあがらせたまま、窓の外を見ていたが、誰もいないと判断するとにへらと笑って覆い被さってきた。

「なによ……!」
「ほら、人なんか居ねぇよ。続きしようぜ! 続き!」
「もう、いい加減にして! いやぁ!」

 相手は現役の騎士。逃れられるわけが無かった。手首を掴まれ、フローリングの床に縫い止められる。無理やり脚を広げられると、すぐに膣に剛直を捩じ込まれて、乱暴な抽送が始まった。結合部からぐちゅぐちゅと容赦のない水音が漏れる。
 濡れたくないのに。締め付けたくないのに、膣肉が勝手にフィランダーのものに吸い付く。自分の意思とは反対に、膣は吐精をねだる動きを繰り返している。

「あっあっ、いやっ、いやあぁっ!」
「濡れ濡れで吸い付いてくるくせに、何言ってんだよ!」
「いやっ、抜いて! 出ていってよぉっ!」
「ああ、お前で抜いてやるよ! あぁぁーー、出る、出そう……ううぅっ」

 もうこんな人に精を吐き出されたくない。必死になって身を捩ったけど駄目だった。膣の中で陰茎がびくびく蠢いている。奥でじわりと生温かいものが広がった、その時だった。

 ガッッ‼︎

 乾いた大きな音が響き、のしかかっていたものが吹っ飛ぶ。
 何が起こったのか、一瞬分からなかった。
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