【R18】声のデカい門番さんに求婚されました

野地マルテ

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八つ当たり

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 今夜も私はロードリックと会っていた。

「メリザンさん、今日も元気がありませんね?」
「……若いあなたと会っていると、疲れるのよ」

 元気がない理由は、何となくごまかした。
 マルファとロードリックが二人きりで談笑をしているのを見て、気落ちしたとは言えない。そんなことを言えば彼に不要な期待をさせてしまうかもしれない。
 私はロードリックとどうにかなりたいとは思っていないのだ。どうにかなりたいと思っていないはずなのに、誘いは断れなかった。優柔不断な自分が嫌になってますます気が滅入ってしまう。

「えっ、たいして年齢は変わらないと思うんですけど」
「私、もう二十三よ? あなたは二十歳になったばかりでしょう」
「そんなの、誤差みたいなものですよ」

 ロードリックは目の端に皺を寄せて笑う。
 笑顔がまぶしすぎて胸が痛い。

「あー、でも、私はよく言われるんですよ。話してると疲れるって。先輩に」
「そうなの?」
「声、大きいですし、先輩や上官相手だとついつい声張っちゃうんですよね。だから、メリザンさん相手にも気がつかない内に声を張っていたかもしれません。疲れさせてしまって申し訳ありません」
「いいのよ。こちらこそ、ごめんなさい……。ちょっともやもやすることがあって、あなたに当たってしまったのよ。疲れるだなんて言って、ごめんなさい」

 会うたびに、ロードリックは良い人だなって思う。彼には私のような面倒くさい女より、素直で無垢な女性がふさわしい。
 マルファは癖のある子だが、少なくとも無垢ではあるはず。彼の隣にはマルファのほうが似合う。

「もやもやしたことですか……。私も最近ありましたよ。もやもやしたこと」
「何?」
「マルファさんってご存知ですか?」
「ぶふぅっ⁉︎」
「わっっ、大丈夫ですか⁉︎」

 ちょうど頭に思い描いていた子の名前が出て、つい呑んでいたものを吹き出してしまった。

「こほ、こほ……」
「すみません、また大きな声を出してしまいましたか」
「あ、あなたの声量に驚いたわけじゃないわ。で、マルファがどうかしたの?」
「ああ、ええ……」

 私がマルファの名を口にすると、ロードリックはあきらかに浮かない顔をした。この間は楽しそうな顔をしてマルファと話していたのに。私があの場を去ってから、何かあったのだろうか。

「マルファと私の実家は爵位が同じ伯爵家で、彼女とは子どもの頃から家族ぐるみの付き合いをしているんです」
「それは結構なことね」

 貴族家同士。それも格が似たようなところは深い付き合いをするとよく聞く。やはり二人は関係があったのだ。

「マルファは私と歳が近いので、顔を合わせると何かと面倒なことを言われるので参ってしまって」
「参る? あなた、この間はマルファと楽しそうにしていたじゃない」
「この間? ああ……そういえば、マルファに中庭に呼び出されましたね。見ていたのですか?」

 困ったような顔をして、ロードリックはこちらを見る。
 私は慌てて首を振った。

「別に覗いていたわけじゃないわよ」
「すみません。マルファも私も声が大きいですから、うるさかったですよね」

 彼はどこまでも謙虚だ。まず、自分に何か非がなかったか考える。中庭で誰かと話しているところを見られたと知ったら、普通ならば覗かれたと考えそうなものなのに。

「楽しそうにしていたのは、うちの兄の話題が出たからだと思います。私の二番目の兄とマルファの姉は結婚していて、ついこの間姪が産まれまして……。マルファはすでに姪と会って抱っこもしたみたいです」
「あら、そうだったの」
「マルファから、『あなたは何か出産祝いを渡したの?』と尋ねられて……お恥ずかしながら、まだ何もお祝いをしていなかったんですよね。マルファから『まあああ‼︎ これだから男は気が利きませんわあ‼︎』……と叱られてしまいました」
「男兄弟側の子なら、仕方ないわよ」

 別れた恋人フィランダーにも兄弟がいたが、妹の子には割と頻繁に会っても、弟の子と会う機会はあまり無いと言っていた。そういうものかもしれない。私にはまだ士官学校へ行っている弟しかいないから、ピンと来ない。

「良かったら、私がお祝いを見繕ってあげましょうか?」
「えっ⁉︎ いいんですか? 助かります! お祝いに何を渡したらいいか検討もつかなかったんですよね。マルファに聞いても『それぐらいご自分でお考えになられたら!』と突き放されてしまって」

 ああまた、彼と会う約束をしてしまった。
 距離を取らないといけないと思っていたのに。
 でも、また彼と会えると思うだけで胸が弾む。
 私はこの短期間でロードリックに落ちてしまったようだ。
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