覆面バーの飲み比べで負かした美女は隣国の姫様でした。策略に嵌められて虐げられていたので敵だけど助けます。

サイトウ純蒼

文字の大きさ
上 下
61 / 89
第四章「姫様の盾になる男」

61.変態ロリコン

しおりを挟む
(僕は間違っていない!! 僕は騙されたんだ!! 僕は被害者。だから何も悪くない!!!)

 そのくせっ毛の若き貴族は、夜の王城内をぶつぶつと独り言を話しながら歩いていた。


(ミセルに騙されたんだ。利用されたんだ。くそっ!!!)

 甘い言葉と誘惑に負け、王家の姫であるアンナとの婚約を解消したカイト。『剣遊会』も仮病を使って辞退し、姫を守る名誉職である『護衛職』をもはく奪された。有力貴族とは名ばかりで、世間ではキャスタール家やジャスター家に見捨てられた凋落貴族として嘲笑されている。

 そして残念ながら彼にこの事態を打開できる力はなかった。
 家の者からは『無能』扱いされ、父親からは勘当されそうになった。そんな元婚約者のカイトだが、彼には他者にはない才能があった。


『勘違い』

 ポジティブと言えば聞こえのいい能力。
 アンナに非情な婚約破棄を突き付けたにもかかわらず、『自分は被害者だ』と思い込み再び彼女とよりを戻そうとしている。まだアンナは自分に惚れている、そんな根拠のない自信が彼の能力であった。


 コンコン……

 夜、その元婚約者のドアをカイトは軽く叩いた。

(きっとひとりで寂しい夜を過ごしているのだろう……、僕が傍にいてあげるよ)

 カイトはアンナの美しい金色の長髪を思い出しひとり興奮する。


「どなた?」

 ドアの向こうから聞こえる懐かしい声。すぐに返事をする。


「アンナ、僕だよ。カイトだよ!!」


「……」

 沈黙。
 驚き、もしくは照れているのだろうと思ったカイトが声をかける。


「君に大切な話があるんだ。ここを開けてくれないか?」

 しばらくの沈黙を経てアンナが答える。


「あなたに用はないわ。帰って」

 予想外の言葉に驚くカイト。くせっ毛をかき上げながら答える。


「アンナ、君は勘違いをしているんだ!! 僕の話を聞けばきっと……」


「帰って!! もう二度と来ないで!!!」


「ひゃっ!!」

 アンナの大きな声を聞いて思わず後ろに後退するカイト。言うことを聞かない元婚約者に苛立ちながら言う。


「僕はに騙されたんだ!! 酷い女だ!! 君も知っているだろ? あの女のずる賢さ!!!」

 アンナはこれ以上くだらない話に付き合いきれないとドアから離れようとしたのだが、ふとカイトが言ったその言葉を聞き体が固まった。

「ミセルは今、君のところの『護衛職』と仲良くやってるよ。この間、真夜中に彼女が彼の部屋に入って行くのを見かけたけど、そう言う関係になってるんだ。なあ、酷いだろ? 信じられるかい?」


(ロレンツが、ミセルと……、ですって!?)

 アンナは呆然とする。
 言われてみれば最近のミセルのロレンツに対する態度、あれは当初の敵意むき出しのものとは違いを感じさせるもの。無意識のうちに感じていた彼女に対する『苛立ち』の理由が今はっきりと分かった気がする。
 先ほどまで一緒に居たロレンツ。陰でそんなことをしていたのだろうか。アンナが大きな声で言う。


「そ、それは本当なの?」

「ああ、僕は嘘はつかないよ」


 アンナの頭の中に部屋でふたりっきりでいるミセルとロレンツの姿が浮かぶ。

(なによ、それ!? 私に『可愛い』とか『愛してる』とか、『生涯を共に歩もう』とか言っておきながら、女なら誰でもいいわけっ!?)


「ねえ、アンナ……」


「うるさーーーーいっ!!!」

 ドン!!!

「ぎゃっ!!」

 アンナはカイトの声に罵声で答え、更にドアを思い切り蹴飛ばすとひとりズカズカと部屋へ戻って行った。驚いたカイトは半泣きになりながら逃げるようにその場を去り行く。
 アンナはすぐに服を着替え、先ほど別れたばかりのロレンツの部屋へと向かった。





 その少し前、アンナの公務に付き合って少し帰りが遅くなったロレンツが自分の部屋へと戻って来た。

「今戻った」

 家政婦をしてくれているミンファがドアを開け、そう言って戻って来たロレンツに頭を下げて言う。


「お帰りなさいませ。ご主人様っ!!」

 少しずつ慣れたメイド服。
 ただちょっと動くだけで短いスカートから下着が見えそうな点には正直困っている。ミンファに連れられて部屋の中に戻ると、まったく同じメイド服を着たイコが笑顔で立ってロレンツを迎えた。


「お帰りなさいませ。パパぁ」


「なっ!?」

 ロレンツはふたりのメイド嬢を見て体が固まる。


「お、おい、嬢ちゃん。一体何をやって……」

 そう焦りながら言うロレンツにミンファが答える。


「はい、これは『メイドカフェ』でございます」


「メ、メイド……、カフェ……??」

 ロレンツが聞いたこともないその名前を繰り返す。ミンファがにっこり笑って言う。


「はい。今、王都で流行っているんですが、この様なメイドの可愛い服を着てお客さんをもてなすんです。えっちなことはありませんので、女性のお客様でもご利用頂けるんですよ」

「い、いや、だからって……」

 戸惑うロレンツにミンファが答える。


「この話をイコちゃんにしたら『じゃあ、メイドカフェでパパをもてなそう』と言う話になりまして」

「いや、だからってな……」

 渋い顔をするロレンツにイコが悲しそうな顔で言う。


「パパは嫌いなの? イコがもてなしてあげるの……」

 目に入れても痛くないほど可愛いイコ。
 そんな彼女がメイド服を着てもてなしてくれることが嫌なはずはない。


「いや、そんなことはない。嬉しい、嬉しいぞ、イコ……」

 娘のメイド服姿を見ながら顔を引きつらせてロレンツが答える。ミンファがイコに頷いて言う。


「じゃあ、ご主人様のお夕飯をお持ちしましょう!!」

「はーい!!」

 ふたりのメイド嬢はそう言うとキッチンの方へと走って行く。


(ど、どうすればいいんだ、俺は……)

 初めてのメイドカフェに戸惑うロレンツ。すぐにイコが水をトレーに乗せてやって来た。そしてロレンツが座ったテーブルに置きながらアクションを加えて言う。


「おまたせ~、パパぁ。イコのらぶらぶいっぱいの、らぶらぶドリンクですよ~、召し上がれ~、らぶぅ~!!」

 そう言って両手でハートの形を作りロレンツに向けて放つ仕草をする。


「ぶはっ!!」

 喉がカラカラで水を飲みかけていたロレンツが思わず吹き出しそうになる。


「な、なんだそれは一体!?」

 イコが笑って言う。


「えー、メイドカフェのおもてなしだよ~、可愛いでしょ??」

 可愛い。素直に思ったロレンツが聞く。


「そんなことやって、は、恥ずかしくないのか?」

 イコが少し考えてから言う。


「うーん、別に恥ずかしくないかな~。アレックス君も『可愛い』って言ってくれたし」


「ぶーっ!!!」

 今度は本当に吐いた。


「きゃっ!! パパ、何やってるのっ!!!」


(ア、アレックスにはもう見せたのか!? 今の、俺が最初じゃなかったのか……)

 ロレンツはなぜか敗北にも似た感覚を覚え涙が出そうになる。



「お待たせしました。ご主人様っ!!」

 そこへ夜食を作って持って来たミンファが現れる。そして笑顔で熱々のスパゲッティをロレンツのテーブルに置く。


「あ、ありがとう……」

 恐る恐るお礼を言うロレンツ。ミンファはそれに笑顔で応えながら粉チーズを持って言った。


「おいしくな~れ、おいしくな~れ、萌え萌え~、キュン!!」

 手でハートを作りながら同時にスバゲッティに粉チーズをかけていき、最後にイコ同様手のハートをロレンツに送る。ロレンツが頭を抱えながら思う。


(お、俺は一体どういった反応をすればいいのか!? 普通に食べればいいのか!!??)

 ロレンツがメイドカフェ流おもてなしに困惑していると、部屋のドアがノックされた。


 コンコン!!!


「は~い!!」

 それに反応してドアへ向かうミンファ。


「どちら様でしょうか~?」

「私よ、アンナ」

「あ、姫様っ!!」

 その名前を聞いたロレンツが一瞬焦る。


 ガチャ

 そして開かれるドア。ロレンツが立ち上がってドアの方へ走るが時すでに遅しであった。


「な、なにその格好!?」

 ミンファのメイド服姿を見たアンナが驚き大きな声で言う。ミンファが笑顔で答える。


「これは今王都で流行っているメイド服ってやつで~、私の故郷の衣装で~」

 可愛らしく説明し始めるミンファを見ながら額に青筋を立てるアンナ。ロレンツが近付いて声を掛ける。


「よ、よお。嬢ちゃん。どうしたんだ、こんな時間に……?」

 やや顔を引きつらせて声を掛けるロレンツ。アンナがそれを睨むようにして言う。


「ど、どういうことよ!! 何なのこの服!? 家政婦って聞いていたけど、何よこれ!!」

 アンナは可愛すぎるミンファを見て苛立ちを抑えられない。ただでさえ『ミセルと浮気をしている』と疑って来たアンナ。そこに元敵であるミンファのこの姿を見て平常心で居られるはずがない。


「これはだな、彼女の故郷の家政婦のフォーマルな衣装で……」


「あー、アンナお姉ちゃんだ!!」

 そこへ当然の如く同じメイド服を着たイコが現れる。


「な、なに!? イコちゃんまでこんな服着させて……」

 唖然とするアンナにロレンツが言う。

「違う! 違うんだ、これは!! イコが着たいって言うから嬢ちゃんが作って……」


「バッカじゃないの!!!」


「お、おい……」

 激怒したアンナの怒声が部屋に響く。


「馬鹿なの? やっぱり馬鹿でしょ!! いや馬鹿だけじゃないわ!! 変態でロリコン!! そう、変態ロリコンよ!!!」


「へ、変態ロリ……」

 ロレンツはもうどうにも止められない状況に言われるがまま耐えるしかなかった。そしてこの日を境にアンナのロレンツを罵る言葉に『変態』と『ロリコン』が新たに加わることとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

なんとなく歩いてたらダンジョンらしき場所に居た俺の話

TB
ファンタジー
岩崎理(いわさきおさむ)40歳バツ2派遣社員。とっても巻き込まれ体質な主人公のチーレムストーリーです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

処理中です...