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二話 救いたい
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「ね、二人で抜けちゃおうか?」
有村が俺の手を握った。触れた手は冷たくて、柔らかい。胸がドキドキした。
そのまま店を出ていって、二人で歩いた。駅に向かいたかったけど、有村の行く先に俺もついていった。
「そのピアス……なんで着けてるの?」
恐る恐る聞いてみる。俺から誰かに話しかけるなんて久々だな。
「んーと、頼まれたから、かな」
「有村は、頼まれたらピアス着けるの?」
「そんな事ないよ! その人に言われたら、やらなくちゃいけなくて。あのさ、ニップルピアスの事、誰にも言わないでくれる?
実は朝宮に見せたのも、その人にやるように言われたからなんだ」
「言わないけど……。有村はイジメを受けてるの?」
「恥ずかしいけど、そうなんだ。でも、朝宮だってイジメられてるでしょ? 山根にさ」
「あれはイジメなんかじゃないよ」
俺が知ってるイジメはもっと陰湿だ。山根はちょっと調子に乗ってるだけ。あれはイジメじゃない。
「そっか。朝宮がイジメだって感じてないなら違うんだね」
「うん。有村は山根の友達?」
「違うよ。俺の友達の友達が山根だったの。前回の合コンで知り合って、また合コンする事があったら声掛けて欲しいって頼まれてね」
「アイツ、どんだけ彼女欲しいんだよ」
「あはは、本当だよね。飢えてますって顔してる人に女の子が寄り付くわけないのにね。
あ、俺、ここで失礼するね。迎えが来ててさ。じゃあまたね」
近くに路上駐車をしている白い車があり、有村はその車に走っていった。
運転席に乗っている男は、暗くてよく見えないがくすんだ金髪に、頭上から二センチ程髪が黒い。
全体的に薄暗い雰囲気で、世界の全てに対して睨みつけているような、見ていて気分の悪くなるような二十代半ばくらいに見える男だ。
有村はその車の助手席に乗り、俺に手を振ると車が発進した。俺はしばらくその車が去っていくのを眺めていた。
帰ってからも有村の乳首が頭から離れない。
本当は嫌なんだろう。目に浮かんでいた涙が「俺の意思じゃない」と言っているように感じられた。
二年前──。
理々栖にラインで呼び出されて校舎裏に俺は向かった。
いつも理々栖をいじめているグループの女子三人が、俺をバカにしたような笑みを浮かべて立っており、その三人の前に理々栖が下着姿で膝をついていた。
俺に身体を隠すように身を丸めた可哀想な理々栖は、涙を浮かべながら、俺に迷惑をかけまいと笑顔を作っていた。
「つばさ、私はつばさの事呼んでないの。スマホ取られちゃって……」
「余計な事言うんじゃねぇよ!」
イジメグループのリーダー格の女子が理々栖の頭に足を乗せた。
「ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
理々栖は目から涙をポタポタと流し、地面に伏した。
「やめろよ!! 理々栖から離れろ!!」
俺だって男だ。体格的に女に負けるとは思ってないし、最愛の彼女を守るのは当然の事だ。
だが、リーダーの女は理々栖を羽交い締めにして、俺に命令した。
「おい、朝宮。これからされる事に少しでも抵抗したら、理々栖の身体を汚ぇオッサンに売ってやるよ」
「なっ!?」
「二人とも、ソイツをボコれ」
手下の女二人は、命令通り俺を痛めつけた。蹴ったり殴ったりは当たり前で、金玉を蹴られたり、口の中に砂を入れられたりもした。
俺はただ耐えた。理々栖を助けたかった。
「つばさ、もうやめて。私の事なんて、置いて逃げてよぉっ」
「嫌だ。俺は、死んだって君を守りたい」
俺は必死だった。結局折れたのはイジメグループの方だ。
この事がきっかけで、その後更に理々栖が酷い目に遭うなんて、この時の俺は知らなかったけど……。
「ごめん、理々栖。俺がもっと強ければ、君を守ってあげられるのに」
「つばさは強いよ。ありがとう……。でも、もう疲れちゃったな。ねぇ、いつ死のうか?」
「いつでもいいよ。俺は理々栖と一緒なら、いつでもどこでも、死ぬのは怖くないから」
俺と理々栖は「死」という目標を持って繋がっていた。二人で死ねたら幸せだろう、本気でそう考えていたんだ。この時は。
そして有村を思い出す。もし有村がイジメられているなら。
理々栖と同じように辛い目に遭っているなら、俺が──。
※
翌朝、今日は一限目から必修科目だ。憂鬱になりながら、キャンパスを歩いていると、後ろからガシッと肩を掴まれた。
「いっ!?」
顔を顰めつつ後ろを振り向くと、怒りで顔面崩壊している山根が立っていた。
「お前ぇっ!! 昨日は有村と消えやがって!! ざっけんな!! 俺が一人で六人分の代金払ったんだぞ!! せめてテメェの分くらい返しやがれ!!」
そう捲したてる山根に、やはりイジメじゃないなぁと再確認する。
「嫌だよ。今まで俺は君の分を何度も払ってきてる。昨日は今まで俺に払わせてた分を払ったと思えば安い方じゃないかな?」
「テメェ……朝宮のクセに」
「もう君のお願いに構ってる暇ないんだ。あ、有村!!」
俺は視界の端に有村を見つけて走った。有村は俺の顔を見ると、一度驚いてから優しく微笑みかけてくれた。
「朝宮! おはよう」
「おはよう。ねぇ、有村、俺決めたよ」
「えっ!?」
俺は心に決めた決意を有村に話そうと、必死に有村の両手を掴み、ぎゅっと握った。
「俺が有村を守りたいと思う。君に酷い事をする人を許さないよ」
有村は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
まるで、理々栖が俺に「一緒に死んで欲しい」と打ち明けて、俺が同意した時に見せてくれた笑顔みたいに。
嬉しさが込み上げる。
「本当?」
「勿論!! 絶対に守るから!! だから、俺の彼氏になってください!!」
何故か有村は断らないだろうっていう確信があった。雰囲気が理々栖に似てるからかな。
俺の予想通り有村は頷いてくれる。
「うん、いいよ。よろしくね」
「よろしく」
もう理々栖の時みたいな間違いは犯さないよ。次こそは救ってみせるから。
有村が俺の手を握った。触れた手は冷たくて、柔らかい。胸がドキドキした。
そのまま店を出ていって、二人で歩いた。駅に向かいたかったけど、有村の行く先に俺もついていった。
「そのピアス……なんで着けてるの?」
恐る恐る聞いてみる。俺から誰かに話しかけるなんて久々だな。
「んーと、頼まれたから、かな」
「有村は、頼まれたらピアス着けるの?」
「そんな事ないよ! その人に言われたら、やらなくちゃいけなくて。あのさ、ニップルピアスの事、誰にも言わないでくれる?
実は朝宮に見せたのも、その人にやるように言われたからなんだ」
「言わないけど……。有村はイジメを受けてるの?」
「恥ずかしいけど、そうなんだ。でも、朝宮だってイジメられてるでしょ? 山根にさ」
「あれはイジメなんかじゃないよ」
俺が知ってるイジメはもっと陰湿だ。山根はちょっと調子に乗ってるだけ。あれはイジメじゃない。
「そっか。朝宮がイジメだって感じてないなら違うんだね」
「うん。有村は山根の友達?」
「違うよ。俺の友達の友達が山根だったの。前回の合コンで知り合って、また合コンする事があったら声掛けて欲しいって頼まれてね」
「アイツ、どんだけ彼女欲しいんだよ」
「あはは、本当だよね。飢えてますって顔してる人に女の子が寄り付くわけないのにね。
あ、俺、ここで失礼するね。迎えが来ててさ。じゃあまたね」
近くに路上駐車をしている白い車があり、有村はその車に走っていった。
運転席に乗っている男は、暗くてよく見えないがくすんだ金髪に、頭上から二センチ程髪が黒い。
全体的に薄暗い雰囲気で、世界の全てに対して睨みつけているような、見ていて気分の悪くなるような二十代半ばくらいに見える男だ。
有村はその車の助手席に乗り、俺に手を振ると車が発進した。俺はしばらくその車が去っていくのを眺めていた。
帰ってからも有村の乳首が頭から離れない。
本当は嫌なんだろう。目に浮かんでいた涙が「俺の意思じゃない」と言っているように感じられた。
二年前──。
理々栖にラインで呼び出されて校舎裏に俺は向かった。
いつも理々栖をいじめているグループの女子三人が、俺をバカにしたような笑みを浮かべて立っており、その三人の前に理々栖が下着姿で膝をついていた。
俺に身体を隠すように身を丸めた可哀想な理々栖は、涙を浮かべながら、俺に迷惑をかけまいと笑顔を作っていた。
「つばさ、私はつばさの事呼んでないの。スマホ取られちゃって……」
「余計な事言うんじゃねぇよ!」
イジメグループのリーダー格の女子が理々栖の頭に足を乗せた。
「ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
理々栖は目から涙をポタポタと流し、地面に伏した。
「やめろよ!! 理々栖から離れろ!!」
俺だって男だ。体格的に女に負けるとは思ってないし、最愛の彼女を守るのは当然の事だ。
だが、リーダーの女は理々栖を羽交い締めにして、俺に命令した。
「おい、朝宮。これからされる事に少しでも抵抗したら、理々栖の身体を汚ぇオッサンに売ってやるよ」
「なっ!?」
「二人とも、ソイツをボコれ」
手下の女二人は、命令通り俺を痛めつけた。蹴ったり殴ったりは当たり前で、金玉を蹴られたり、口の中に砂を入れられたりもした。
俺はただ耐えた。理々栖を助けたかった。
「つばさ、もうやめて。私の事なんて、置いて逃げてよぉっ」
「嫌だ。俺は、死んだって君を守りたい」
俺は必死だった。結局折れたのはイジメグループの方だ。
この事がきっかけで、その後更に理々栖が酷い目に遭うなんて、この時の俺は知らなかったけど……。
「ごめん、理々栖。俺がもっと強ければ、君を守ってあげられるのに」
「つばさは強いよ。ありがとう……。でも、もう疲れちゃったな。ねぇ、いつ死のうか?」
「いつでもいいよ。俺は理々栖と一緒なら、いつでもどこでも、死ぬのは怖くないから」
俺と理々栖は「死」という目標を持って繋がっていた。二人で死ねたら幸せだろう、本気でそう考えていたんだ。この時は。
そして有村を思い出す。もし有村がイジメられているなら。
理々栖と同じように辛い目に遭っているなら、俺が──。
※
翌朝、今日は一限目から必修科目だ。憂鬱になりながら、キャンパスを歩いていると、後ろからガシッと肩を掴まれた。
「いっ!?」
顔を顰めつつ後ろを振り向くと、怒りで顔面崩壊している山根が立っていた。
「お前ぇっ!! 昨日は有村と消えやがって!! ざっけんな!! 俺が一人で六人分の代金払ったんだぞ!! せめてテメェの分くらい返しやがれ!!」
そう捲したてる山根に、やはりイジメじゃないなぁと再確認する。
「嫌だよ。今まで俺は君の分を何度も払ってきてる。昨日は今まで俺に払わせてた分を払ったと思えば安い方じゃないかな?」
「テメェ……朝宮のクセに」
「もう君のお願いに構ってる暇ないんだ。あ、有村!!」
俺は視界の端に有村を見つけて走った。有村は俺の顔を見ると、一度驚いてから優しく微笑みかけてくれた。
「朝宮! おはよう」
「おはよう。ねぇ、有村、俺決めたよ」
「えっ!?」
俺は心に決めた決意を有村に話そうと、必死に有村の両手を掴み、ぎゅっと握った。
「俺が有村を守りたいと思う。君に酷い事をする人を許さないよ」
有村は嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
まるで、理々栖が俺に「一緒に死んで欲しい」と打ち明けて、俺が同意した時に見せてくれた笑顔みたいに。
嬉しさが込み上げる。
「本当?」
「勿論!! 絶対に守るから!! だから、俺の彼氏になってください!!」
何故か有村は断らないだろうっていう確信があった。雰囲気が理々栖に似てるからかな。
俺の予想通り有村は頷いてくれる。
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