キミを救いたかっただけなのに

眠りん

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三話 彼氏として

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 有村と付き合うようになってから、俺は有村を和泉と呼ぶようになった。
 和泉も俺をつばさと呼んでくれる。
 少しずつ距離が縮まっていく感覚は、俺に満足感と安心感を与えてくれる。

 和泉と俺は年が一歳違いだ。和泉が先輩。
 学年が違うから受ける授業も違うから、昼休みに学食で待ち合わせをして昼食を一緒に過ごす。
 ガヤガヤと混雑した学食では、落ち着いた雰囲気は全くないが、一緒にいられることが嬉しかった。

「そういえばさ、つばさってサークル入ってないんだよね?」

 和泉がそう言いながら学食のハンバーグを頬張った。小さい顔なのに大きく切ったハンバーグを大きく口を開けて食べるから、ハムスターみたいに頬が膨らんでいる。

「うん。今まで俺には生きてる価値はないって思ってたからね。何もやる気なかったからサークルなんて考えた事なかったよ。
 でも、和泉が生きる理由をくれた」

「俺の存在感強過ぎじゃん。じゃあ一緒にランニングサークル入ろうよ! 折角のキャンパスライフがもったいないよ!」

「……えぇ。それは、ちょっと。俺、走るの苦手だし」

「遅くてもいいんだよ。自分のペースで走ればいいの。俺、毎朝ランニングするのが趣味なんだけど、サークルでも走ってるんだ」

「あのさ、走る時乳首のそれ……見えちゃわない?」

「ご心配なく。走る時は外してるからね」

「その……和泉に意地悪してる人は怒らないんだね」

「うん。俺の趣味にまで干渉してくる奴だったら、本気で逃げてるよ」

「じゃあ、命令されるのは和泉も同意の上って事?」

「まさか。仕方なくだよ。でも遠くに逃げるには経済力もないし。大学卒業まであと二年と数ヶ月だから、我慢するしかないよね。
 それより! ランニングサークル入る?」

「話から聞くに、ランニング中は嫌な事されないんだよね?
 それなら守る必要ないから入らないよ。サークル終わったら一緒に帰ろうよ」

「ちぇー。つばさも一緒なら楽しいと思ったのにな」

「和泉に合わせられると思えないし」

「俺が合わせるよ」

「和泉のペースがあるんだろ? 負担になりたくない」

「分かった。無理強いはしないよ。今日、サークルの日だから、先帰ってていいよ。終わるの七時くらいになるし」

「いいよ、待ってる。図書館にいるから終わったら連絡ちょうだい」

 和泉の趣味はさすがに一緒にやろうとは思えないや。こんな時、理々栖なら無理矢理にでも俺を巻き込んだんだろうな。


 和泉が言っていた通り、七時を過ぎてから「サークル活動が終わった」と連絡がきた。
 迎えに行くと、和泉はスッキリした顔をしていて楽しそうだ。

「和泉、お疲れ様」

「つばさ! お疲れ様~。サークル楽しかったよ。つばさも一緒に出来るといいのにな」

「ごめんね」

 和泉と手を繋ぐ。指を重ね合った恋人繋だ。和泉の小さい手が好き。離したくなくなる。

「あ、ごめん。コンビニ寄っていい?」

 和泉がコンビニを指さした。断る理由はない。

「いいよ」

 コンビニに入ると、和泉は真っ先に雑貨コーナーへと行き……。

「えっ!?」

 俺は驚愕した。和泉はコンドームを手に取ったのだ。
 いずれはそういう関係にもなると思っていたけれど、さすがに早いような気がする。
 理々栖とした時も、付き合って半年経ってからだったし。いや、男と女じゃ感覚が違うのか?

 コンドームだけ買ってきた和泉が「お待たせ」とニコニコした顔で俺に走りよってきた。

「あの、和泉は俺とそういう事したい?」

「……あはは! 違うよ、つばさとしたくて買ったんじゃないよ。兄に頼まれてね」

「ええっ!?」

 俺の顔は多分青くなってると思う。だって兄弟間でコンドーム買ってあげたりとかってないだろ? 俺が一人っ子だから知らないだけ?
 いや、でももし父親に「コンドーム買ってきて」なんて言われたら気持ち悪くて鳥肌立ちそう。

「いや、その……兄って言ってもね、いとこでさ」

 和泉の歯切れの悪い言い様に俺はすぐに気付いた。

「もしかして。和泉をイジメてんの、そのお兄さんか?」

 和泉は気まずそうな顔をしたと思うと、俺から視線を外して俯いた。
 あぁそうなんだ。和泉を苦しめてる奴はソイツなんだ。
 腹の奥底から怒りが湧きだす。俺がなんとかしないと──。


 一緒に駅へと向かいながら和泉の話を聞いた。

「俺、両親が事故で亡くなってから、父のお兄さんに引き取られたんだ。伯父さんは早くに奥さんを亡くしててね、一人息子がいるんだけど。
 それが今一緒に住んでる俺の兄にあたる人」

 合コンで迎えにきていた人だろうな。性格悪そうな顔してた。

「ソイツに意地悪されてんだ? そのピアスも?」

「うん。逆らえなくてね。俺の見られたくない写真とか動画とか撮られてるから、言う事聞くしかないんだ」

「そんな! それは証拠になるよ。訴えようよ、ソイツが有罪になるに決まってるんだから!」

 理々栖もそうだった。裸の写真を撮られて泣いていた。何度も訴えようと説得した時期もあったけれど、彼女は頑として拒んだんだ。
 和泉にはその一歩を踏み出して欲しい。

「やめて。本当に見られたくない写真なの」

「もしかして、何か犯罪をしてる写真とか……?」

「そんなわけないじゃん! 低俗で卑猥な写真だよ。絶対誰にも見られたくない。
 お願い。勇気が出るまでつばさも黙ってて欲しい」

 涙目で懇願されるとダメだ。理々栖の時も、そのせいで俺は強く出れなかった。
 和泉の涙は綺麗だけど、これ以上泣かせたくない。

 今度こそ和泉が傷付かないように解決する方法を探さないとな。

「分かったよ」

「でも、兄の命令ってほんと単純なものなんだよ。合コンで、気の弱そうな奴にピアス見せろ、とか」

「俺、気が弱そうに見えたんだ?」

「うん。俺と似てるって思ったよ。人生に絶望してそうな感じとかね」

「和泉も人生に絶望を感じてるなら、俺が救いたい。きっと幸せにしてみせるから」

「ありがと」

 駅に着く。和泉は嬉しそうに笑うと、俺の頬にキスをして去っていった。

「和泉……。俺がなんとしてもそのお兄さんから救うよ」

 俺は理々栖と和泉を重ねて見てる。理解した上でそう決意を改めた。
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